市場・トレンド情報 日本アニメ映画の公開続く ‐快挙!アヌシー国際アニメーション映画祭受賞‐
2017年8月
分野:映画、アニメ
第41回アヌシー国際アニメーション映画祭 が6月17日、閉幕した。動員数は前年比9.3%増の1万人。同時期に開催されるMIFA(アニメーション国際マーケット)は550社の出展と3,000人を超えるビジネスパーソンで賑わった。日本からの参加者は43社112人に上り、過去最高を記録した。
今年の注目は、2つの大きな賞を日本作品が受賞したことである。審査員賞に片渕須直監督の「この世界の片隅に」が、そしてグランプリに相当するクリスタル賞に湯浅政明監督の「夜明け告げるルーのうた」が選ばれた。
フランス配給会社から見た日本映画ビジネス
主催者である 文化協力事業公社CITIA代表のパトリック・エヴノ氏はジェトロのインタビューの中で、「日本はアニメーション映画の分野において重要なプレーヤーであり、今回の2つの大賞受賞が確固とした証拠。2賞の同時受賞は特別なことで、日本のアニメーションの豊かさを世界に示したと言える」と述べた。
「この世界の片隅に」をフランスで配給するのは セプティエムファクトリー(本社:ストラスブール)。1991年に創業した同社が日本映画を扱うのは初めてだ。同社代表のナンシー・ドゥ・メリテンス氏によると、今後より多くの日本作品を配給しようと日本との関係強化を模索中だという。同氏は本作品について、「映像の美しさとストーリーの深さに魅了されて購入を決めた」。9月13日公開予定で、「今回の受賞で既に話題となっているので、いい決断をした」と満足気だ。
一方、グランプリを受賞した「夜明け告げるルーのうた」は、ユーロズームが配給する。同社はフランスにおける日本映画配給のエキスパートだ。公開は8月30日、50館で上映予定だ。 同社が初めて日本映画を配給したのは、2005年の荒牧伸志監督のSF映画「アップルシード」。日本のコンテンツに対する反発の歴史も持つフランスでは、当時日本映画配給には様々なリスクが生じたにも関わらず、翌2006年には細田守監督の「時をかける少女」を配給した。続いて2009年は同監督作品の「サマーウォーズ」、2012年は「おおかみこどもの雨と雪」と、日本アニメ映画の配給権を次々と購入した。同社のバイヤー、ロマン・ブロゾロ氏は、「日本映画を扱い始めた当時は、日本映画上映に消極的な映画館側との交渉も難航したが、『おおかみこどもの雨と雪』はフランスで22万5,000人を動員し、大成功を収めた。作品の成功は、その購入価格から上映館数などの契約条件、人件費や複写費用、すべてを差し引いて考える必要がある」と語る。その後、2015年に原恵一監督の「百日紅‐Miss. HOKUSAI‐」を公開、6万5,000人を動員した。本作品は、アヌシー映画祭で2015年に審査員賞を受賞したが、それ以前にも同社は原監督の2作品「カラフル(2011年・アヌシー映画祭では観客賞受賞)」「河童のクゥと夏休み(2008年)」を配給している。
同社は他にも、吉浦康裕監督の「サカサマのパテマ」、岩井俊二監督の「花とアリス殺人事件」、山本暎一監督の「哀しみのベラドンナ」に加え、「NARUTO‐ナルト‐」や「ワンピース フィルム ストロングワールド」「BORUTO‐ボルト‐」など日本で大ヒットした作品も配給している。近年最大のヒット作品は新海誠監督の「君の名は。」であり、フランスでは25万人の動員を記録し、フランス国民に対して日本アニメーションのストーリーの深さや世界観を示したといっていいだろう。
2017年に同社が配給する10作品のうち、5作品が日本映画である。冒頭の「夜明け告げるルーのうた」のほか、伊藤智彦監督「ソードアート・オンライン」、神山健治監督「エンシェンと魔法のタブレット‐もうひとつのひるね姫‐」の3アニメーション作品に加えて実写映画2本を手掛けた。 ユーロズームは配給会社として全権利を購入しており、公開に際して多くのリスクを背負っている。劇場公開で損失が生じた場合にはVODやDVDの販売によって、これを補う考えだ。2015年からDVD化権の取り扱いを始めたのもそのためだという。
同社の日本映画取扱い実績は述べ30作品にも上る。2016年3月東京で開催された日本最大級のアニメイベント「アニメジャパン」(東京ビッグサイト)内で行われたジェトロ主催の商談会にも前述のブロゾロ氏が参加している。同氏は、「メールなどを通じて既にコンタクトを持つ日本企業はあったものの、現場で顔を合わせることで日本企業との関係強化に繋がった」「『夜明け告げるルーのうた』もシナリオが気に入って即決できた」と胸を張る。
フランスにおける日本アニメの潜在需要は、TVアニメやマンガに端を発し以前より根強い。上述のとおり、近年のフランス映画配給会社の市場開拓努力もあり、ようやく供給が追いついてきたといえる。
統計で見る日本アニメ映画の実力
国立映画・動画センター(CNC、フランスの映画振興機関)が今年6月に発表した 統計によれば、2016年は、アニメーション映画に前年比14%増の3,400万人が動員され、過去最高となった。35作品が独占プレミア公開され、うち日本映画は、KMBO配給の「ONE PIECE FILM GOLD」、ゴーモン配給「バケモノの子」、そしてユーロズーム配給「花とアリス殺人事件」「君の名は。」の4作品であった。
同統計によると、2007~16年に301のアニメーション作品が64の配給会社によって公開され、上位10社が約60%の映画を扱い、約90%の興行収入を上げている。中でも、ゲベカフィルム、 20世紀フォックス、ウォルト・ディズニー・カンパニー、ユーロズームの4大アニメーション配給会社は、それぞれ20作品以上配給しており、この4社で全体の35.5%配給しているという。また、2007年以降、年平均で欧州域外と米国以外で製作され、フランスで公開された映画の約70%は日本映画である。
今年は日本アニメーション生誕100周年。フランスで更なる作品の公開を待ち望むファンは多い。
出所:各映画の観客動員数は、映画情報誌エクラン・トタル1145号(2017年6月14日)より
(梅村明歌音/キャロリーヌ・アルチュス)