EUの貿易と投資(世界貿易投資動向シリーズ)

要旨・ポイント

  • 2022年のEUのGDP成長率は3.4%と高成長を維持。
  • 貿易額の前年比伸び率は、輸出約2割増、輸入約3割増と過去10年で最大に。
  • 対内直接投資額が増加した国は、EU27カ国中10カ国と限定的。
  • 対日貿易は化学工業製品の輸出増などで約16億ユーロに黒字拡大。
  • 日本からの直接投資額は、輸送機械器具など製造業の大幅増で前年比75.6%増。

公開日:2023年10月27日

3分解説動画

動画再生のためのモーダルウィンドウを開く

マクロ経済 
2022年の実質GDP成長率は3.4%と堅実な伸び

EU統計局(ユーロスタット)によると、2022年の実質GDP成長率はEUで3.4%、ユーロ圏(注)で3.3%だった。新型コロナウイルス感染拡大から大きく回復した前年に比べ、それぞれ2.2ポイント、2.1ポイントの減少となった。ロシアのウクライナ侵攻に起因するエネルギー価格の高騰や原材料などの供給不足がEU経済の先行きに不確実性をもたらし、成長率は前年から鈍化したものの、EU、ユーロ圏ともに過去10年で2番目に高い成長率を記録した。

EUのGDP成長率を需要項目別にみると、GDPの52.3%を占める民間最終消費支出が前年比4.2%増と唯一、前年から0.1ポイント増加し、成長率への寄与度は2.2ポイントであった。財貨・サービスの輸出は7.3%増、輸入は8.0%増と、いずれも前年に引き続き堅調に推移したが、輸入が輸出を上回り、純輸出は成長率を0.1ポイント押し下げた。

EU加盟国のGDP成長率を比較すると、アイルランド(9.4%)、マルタ(7.1%)、ポルトガル(6.7%)などがけん引した一方、フランス(2.5%)、ドイツ(1.8%)などは低調だった。エストニアは唯一、マイナス成長(マイナス1.3%)を記録した。

2023年 EUのGDP成長率の予測は0.8%に下方修正

今後の経済見通しについて、欧州委員会は2023年9月11日に発表した夏季経済予測で2023年のEUとユーロ圏の実質GDP成長率をいずれも0.8%と予測した。前回5月の予測から、それぞれ0.2ポイント、0.3ポイント下方修正した。2023年上半期にはエネルギー価格が下落したほか、過去最低水準の失業率、雇用の継続的な拡大、賃金の上昇という労働市場に恵まれながらも、長引く高インフレにより個人消費が低迷し、EUの経済活動が減速したと分析した。また、EU経済の停滞は、2024年まで続くとし、2024年のGDP成長率はEUが1.4%、ユーロ圏が1.3%と予測した。

欧州委によると、成長の弱さには国際的な金融引き締め策が影響している。欧州中央銀行(ECB)は、インフレ抑制を図るべく、2022年7月から10会合連続(2023年9月時点)で主要政策金利を引き上げるという異例の対応を取っている。ユーロ圏の消費者物価指数上昇率(インフレ率)は2023年7月が5.3%で、2022年10月に記録したピーク時の10.6%の半分となった。欧州委は、インフレ抑制は実質所得の回復を加速させるとする一方、金融引き締めが想定以上に経済活動の重荷になる可能性もあると指摘した。ECBは引き続き難しいかじ取りを迫られるとみられる。

表1 EUの需要項目別実質GDP成長率(単位:%)(△はマイナス値)
項目 2021年 2022年 2023年
年間 Q1 Q2 Q3 Q4 Q1
EU 実質GDP成長率 5.6 3.4 0.7 0.6 0.4 △ 0.1 0.2
階層レベル2の項目民間最終消費支出 4.1 4.2 0.2 0.8 1.0 △ 0.9 △ 0.3
階層レベル2の項目政府最終消費支出 4.2 1.1 0.1 △ 0.1 0.0 0.3 △ 0.9
階層レベル2の項目国内総固定資本形成 3.8 3.1 △ 0.1 0.9 0.9 △ 0.2 0.2
階層レベル2の項目財貨・サービスの輸出 10.9 7.3 1.9 1.7 1.4 △ 0.3 0.3
階層レベル2の項目財貨・サービスの輸入 9.3 8.0 0.6 1.8 2.5 △ 1.5 △ 1.2
ユーロ圏 実質GDP成長率 5.4 3.3 0.6 0.8 0.4 △ 0.1 0.0
階層レベル2の項目民間最終消費支出 3.8 4.5 0.3 0.9 1.3 △ 1.0 △ 0.3
階層レベル2の項目政府最終消費支出 4.3 1.4 0.3 △ 0.1 0.0 0.6 △ 1.6
階層レベル2の項目国内総固定資本形成 3.8 2.9 △ 0.5 0.8 1.0 △ 0.6 0.6
階層レベル2の項目財貨・サービスの輸出 11.0 7.0 1.7 1.7 1.1 △ 0.3 0.2
階層レベル2の項目財貨・サービスの輸入 8.7 8.0 0.1 1.9 2.6 △ 1.5 △ 1.2

〔注〕(1)四半期の伸び率は前期比、季節調整値。
(2)民間最終消費支出には対家計非営利団体(NPISH)消費支出も含む。
(3)2023年1月にクロアチアがユーロ導入したことに伴い、ユーロ圏は2022年まで19カ国、2023年から20カ国のデータを採用した。
〔出所〕EU統計局(ユーロスタット)

貿易 
物価上昇により、貿易額は輸出入とも過去10年で最大の伸び率

ユーロスタット(2023年7月31日時点)によると、2022年のEUの貿易は、輸出が前年比21.0%増となる6兆8,020億8,900万ユーロ、輸入が29.0%増の7兆1,055億6,200万ユーロだった。物価上昇にけん引され、輸出入ともに過去10年で最も高い伸び率を記録した。EUの域内貿易と域外貿易の構成比は、輸出が域内62.2%、域外37.8%、輸入が域内57.7%、域外42.3%だった。

EUの2022年の域内貿易は、輸出が前年比22.9%増の4兆2,300億6,700万ユーロ、輸入が21.2%増の4兆1,023億4,100万ユーロと、輸出入ともに前年に続き約2割の伸びを示した。ユーロ圏内の貿易では、輸出が24.6%増、輸入が21.2%増となった。域内貿易を品目別にみると、輸出入ともに機械・輸送機器類が約3割を占めて最大品目となり、輸出は13.8%増、輸入は13.0%増とともに拡大した。

表2 EUの主要品目別輸出入(域内貿易)(単位:100万ユーロ、%)
品目 輸出(FOB) 輸入(CIF)
2021年 2022年 2021年 2022年
金額 金額 構成比 伸び率 金額 金額 構成比 伸び率
機械・輸送機器類 1,180,479 1,343,309 31.8 13.8 1,160,642 1,311,114 32.0 13.0
雑製品 957,852 1,121,705 26.5 17.1 904,077 1,057,450 25.8 17.0
化学工業製品 611,485 751,246 17.8 22.9 622,808 760,903 18.5 22.2
鉱物性燃料・潤滑油など 196,932 424,945 10.0 115.8 207,403 387,602 9.4 86.9
食料品、飲料およびたばこ 338,457 403,467 9.5 19.2 331,996 394,517 9.6 18.8
原料別半製品 133,196 156,749 3.7 17.7 137,891 162,536 4.0 17.9
合計(その他含む) 3,442,549 4,230,067 100.0 22.9 3,384,003 4,102,341 100.0 21.2

〔注〕(1)各企業のインボイス報告などに基づく。
(2)輸出がFOB、輸入がCIFのため、輸出入金額が一致しない。
〔出所〕EU統計局(ユーロスタット)

EUの2022年の域外貿易は、輸出が17.9%増の2兆5,720億2,200万ユーロ、輸入が41.3%増の3兆32億2,100万ユーロだった。前年に続き輸出入ともに拡大したが、輸入の大幅増によって、貿易収支は4,311億9,900万ユーロの赤字となり、過去10年間で初めて赤字に転じた。ユーロスタットによると、貿易収支は2002年の統計開始以来、最低水準となった。

域外貿易を品目別にみると、輸出では、最大品目の機械・輸送機器類(構成比37.0%)が前年比13.7%増の9,520億7,300万ユーロとなった。乗用車(9.8%)や電気機器(6.6%)が前年に引き続き伸びて、全体を押し上げた。2位の雑製品(22.2%)はその他の種々製品(3.4%)、光学・医療用・分析機器など(3.2%)がそれぞれ13.2%増、12.1%増となり、14.3%と堅調に増加した。化学工業製品(21.5%)は医薬品(11.1%)が約半分を占め、20.8%増となった。伸び率が最大だった鉱物性燃料・潤滑油など(7.0%)は、大半を占めた石油・石油製品(6.0%)が73.1%増と拡大したことが主因だった。国際的なエネルギー価格の高騰により、最大の輸出先である米国向けが41.3%増、次いで英国向けが65.2%増と伸びたものの、数量ベースではいずれも減少した。

輸入では、主要品目の全てで2桁以上の増加を記録し、鉱物性燃料・潤滑油など(構成比27.7%)が前年から2倍以上増加した。前年まで最大だった機械・輸送機器類(27.5%)を上回って最大輸入品目となり、輸入全体の伸びに大きく寄与した。前年に引き続き、石油・石油製品(14.7%)が前年比69.9%増、天然・製造ガス(8.7%)が2.7倍と大きく伸びた。エネルギー価格の上昇と、ユーロ安・ドル高が輸入額を押し上げた要因で、数量ベースでは、石油・石油製品は4.0%増にとどまり、天然・製造ガスは8.7%減となった。機械・輸送機器類は22.7%増、続く雑製品(22.0%)は25.5%増だった。

表3 EUの主要品目別輸出入(域外貿易)(単位:100万ユーロ、%)
品目 輸出(FOB) 輸入(CIF)
2021年 2022年 2021年 2022年
金額 金額 構成比 伸び率 金額 金額 構成比 伸び率
機械・輸送機器類 837,685 952,073 37.0 13.7 673,852 827,122 27.5 22.7
雑製品 499,557 571,074 22.2 14.3 527,566 662,160 22.0 25.5
化学工業製品 457,865 552,996 21.5 20.8 272,211 362,810 12.1 33.3
食料品、飲料およびたばこ 176,304 204,969 8.0 16.3 117,035 148,472 4.9 26.9
鉱物性燃料・潤滑油など 104,508 179,810 7.0 72.1 390,454 830,619 27.7 112.7
原料別半製品 71,248 76,197 3.0 6.9 106,958 125,253 4.2 17.1
合計(その他含む) 2,181,004 2,572,022 100.0 17.9 2,125,964 3,003,221 100.0 41.3

〔注〕通関ベース
〔出所〕EU統計局(ユーロスタット)

域外貿易を国・地域別にみると、輸出入ともに主要国・地域で軒並み増加した。輸出では、EU域外で最大の相手国の米国(構成比19.8%)が前年比27.5%増と前年に続き増加し、5,092億8,600万ユーロとなった。米国向けの輸出は、最大品目である医薬品(18.3%)が23.3%増となったほか、続く道路走行車両(9.7%)、一般産業機械・機器(5.8%)、電気機器(5.6%)もそれぞれ38.0%増、16.8%増、23.6%増と堅調に伸びた。米国に次ぐ輸出相手国である英国(12.8%)は、最大品目の道路走行車両(13.6%)が18.5%増、続く医薬品(6.3%)が26.4%増といずれも前年の縮小から拡大に転じ、全体で16.1%増となった。

輸入では、最大相手国の中国(20.9%)が32.2%増の6,265億2,500万ユーロと、前年に続き拡大した。主要品目のうち半導体装置などを含む電気機器(18.4%)が53.5%増と大きく伸び、輸入をけん引したほか、通信機器(11.7%)が7.0%増、事務用機器(9.6%)が8.9%増、雑製品(6.8%)が17.3%増と堅調だった。次いで米国(11.9%)は、53.6%増と大幅に伸びた。天然・製造ガス(15.0%)が5.7倍、石油・石油製品(12.4%)が2倍となり、エネルギー価格の高騰とユーロ安・ドル高の影響を受けて拡大した。前年まで最大品目だった医薬品(11.0%)は30.6%増だった。

表4 EUの主要国・地域別輸出入(単位:100万ユーロ、%)(△はマイナス値)
国・地域 輸出(FOB) 輸入(CIF)
2021年 2022年 2021年 2022年
金額 金額 構成比 伸び率 金額 金額 構成比 伸び率
EU域内 3,442,549 4,230,067 62.2 22.9 3,384,003 4,102,341 57.7 21.2
階層レベル2の項目ユーロ圏内 2,191,349 2,730,550 40.1 24.6 2,171,163 2,631,083 37.0 21.2
EU域外 2,181,004 2,572,022 37.8 17.9 2,125,964 3,003,221 42.3 41.3
合計 5,623,553 6,802,089 100.0 21.0 5,509,967 7,105,562 100.0 29.0
EU域外
階層レベル2の項目EU加盟候補国 145,759 180,767 7.0 24.0 131,860 165,275 5.5 25.3
階層レベル3の項目トルコ 79,145 99,653 3.9 25.9 78,002 98,728 3.3 26.6
階層レベル3の項目ウクライナ 28,298 30,133 1.2 6.5 24,030 27,651 0.9 15.1
階層レベル2の項目ロシア 89,193 55,152 2.1 △ 38.2 163,647 203,326 6.8 24.2
階層レベル2の項目英国 283,416 329,011 12.8 16.1 147,547 216,199 7.2 46.5
階層レベル2の項目スイス 156,561 188,009 7.3 20.1 124,190 145,463 4.8 17.1
階層レベル2の項目アジア大洋州 549,701 606,468 23.6 10.3 828,283 1,091,999 36.4 31.8
階層レベル3の項目中国 223,481 230,406 9.0 3.1 473,811 626,525 20.9 32.2
階層レベル3の項目ASEAN 79,804 92,153 3.6 15.5 136,530 180,549 6.0 32.2
階層レベル4の項目マレーシア 11,769 14,728 0.6 25.1 29,078 35,553 1.2 22.3
階層レベル4の項目タイ 13,322 14,806 0.6 11.1 22,205 27,322 0.9 23.0
階層レベル4の項目シンガポール 27,362 31,728 1.2 16.0 15,708 20,788 0.7 32.3
階層レベル3の項目日本 62,319 71,590 2.8 14.9 62,285 69,959 2.3 12.3
階層レベル3の項目韓国 51,835 60,142 2.3 16.0 55,499 71,988 2.4 29.7
階層レベル3の項目インド 41,812 47,623 1.9 13.9 46,190 67,674 2.3 46.5
階層レベル3の項目オーストラリア 33,067 38,483 1.5 16.4 9,295 17,888 0.6 92.5
階層レベル2の項目北米 437,645 557,655 21.7 27.4 257,815 389,091 13.0 50.9
階層レベル3の項目米国 399,541 509,286 19.8 27.5 233,527 358,701 11.9 53.6
階層レベル3の項目カナダ 37,291 47,373 1.8 27.0 23,655 29,644 1.0 25.3
階層レベル2の項目湾岸協力会議(GCC)諸国 72,947 87,841 3.4 20.4 40,546 87,404 2.9 115.6
階層レベル3の項目アラブ首長国連邦 29,811 35,726 1.4 19.8 9,444 14,161 0.5 49.9
階層レベル2の項目ブラジル 33,802 42,978 1.7 27.1 32,973 49,929 1.7 51.4
階層レベル2の項目南アフリカ共和国 22,014 26,402 1.0 19.9 22,107 29,185 1.0 32.0
合計(その他含む) 2,181,004 2,572,022 100.0 17.9 2,125,964 3,003,221 100.0 41.3

〔注〕(1)EU域外貿易は通関ベース、EU域内貿易は各企業のインボイス報告などに基づく。
(2)EU貿易統計の金額は、輸出がFOB、輸入がCIF。そのため域内貿易で輸出入金額が一致しない。
(3)EU加盟候補国はトルコ、セルビア、モンテネグロ、北マケドニア、アルバニアおよび、2022年に加盟候補国となったウクライナ、モルドバ、ボスニア・ヘルツェゴビナを含む。
〔出所〕EU統計局(ユーロスタット)

ロシアへの輸出額は制裁措置により大幅減

ロシアによるウクライナ侵攻で、ロシアやウクライナとの貿易にも変化がみられた。EUは2022年2月23日以降、2023年6月までに11回、対ロシア制裁パッケージを発表した。エネルギー、運輸、機械、電子機器、化学品分野などを中心に、輸出入の制限措置の対象品目を拡大してきた。

ロシアへの輸出(構成比2.1%)は、前年比38.2%減と大幅に減少した。制裁措置によって主要品目が軒並み減少したことが原因である。最大輸出品目は化学工業製品(33.1%)で8.9%減となったが、そのうち、医薬品は23.3%増と伸びた。前年に1位だった機械・輸送機器類(29.2%)は59.2%減と大幅に減少し、2位に順位を落とした。一方、ロシアからの輸入(6.8%)は全体で24.2%増となった。鉱物性燃料・潤滑油などが42.3%増とエネルギー価格の高騰を受け大きく伸びた結果、輸入の72.8%と大半を占めた。

域外貿易に占めるウクライナの構成比は輸出で1.2%、輸入で0.9%となり、それぞれ前年比6.5%増、15.1%増だった。他方、品目は情勢を反映して大きく変動した。輸出では、最大品目は前年に続き機械・輸送機器類(構成比28.6%)となったが、13.9%減と減少した。一方、鉱物性燃料・潤滑油など(20.0%)は2.2倍となった。また、前年までわずか0.2%を占めていた武器・弾薬(4.1%)が24.8倍と大幅に伸びた。輸入では、前年1位の原料別半製品(18.3%)や前年2位の食料に適さない原材料(燃料を除く)(23.8%)を抜いて、食料品(24.4%)が2.0倍で最大品目となった。主にトウモロコシなどの穀物および穀物調整品(16.9%)が2.5倍となり、全体の輸入額を押し上げた。

欧州委は、新型コロナウイルス感染拡大や、ロシアのウクライナ侵攻による影響を受け、特定の地域や国からの原材料などの供給に依存する危うさを認識し、2023年6月にはEUとして初めて経済安全保障戦略を発表した。中国やロシアを念頭に、投資や輸出の制限強化を実施してデリスキング(リスク軽減)を目指す方針だ。特に注目される対中関係について、EUは経済面では互恵的な関係を目指すとしているが、重要分野での中国依存の軽減をどこまで進められるのか注目される。

対内・対外直接投資 
対内直接投資は1990年以降初の引き揚げ超過

国連貿易開発会議(UNCTAD)によると、2022年のEU加盟国への対内直接投資(EU加盟国間の投資も含む)は、1,249億4,800万ドルの引き揚げ超過(国際収支ベース、ネット、フロー)だった。同データによると、EU加盟国への対内直接投資が引き揚げ超過になるのは1990年以降初めてで、ルクセンブルクが前年のプラスから3,220億5,380万ドルの大幅な引き揚げ超過に転じたことが主因となった。他方、EU27カ国中10カ国では、投資額が前年から増加した。2022年末時点のEU加盟国の対内直接投資残高は、11兆1,704億5,890万ドルだった。2022年のEU加盟国へのグリーンフィールド投資件数の合計は、前年より144件少ない5,710件となった。ドイツ(984件)、スペイン(861件)、フランス(614件)、ポーランド(509件)などに集中した。2022年のEU域内企業を合併や買収の対象とするクロスボーダーM&Aの合計は、前年より148件多い3,143件だった。

対内直接投資のうち大型M&A案件としては、米投資会社ブラックストーンが2022年4月、輸送事業を拡大するため、都市型倉庫運営において欧州最大手のオランダ企業マイルウェイへ210億ユーロの追加出資を完了したと発表した。

M&A以外では、米インテルが2022年3月、ドイツ北東部での半導体工場の建設計画のため170億ユーロの投資を発表し、2023年6月には300億ユーロ超への投資拡大を発表した。工場の稼働は4~5年以内を目指すとしている。

一方、2022年のEU加盟国の対外直接投資(EU加盟国間の投資も含む)の合計は、前年比79.8%減の961億6,730万ドル(国際収支ベース、ネット、フロー)だった。ドイツが1,429億7,980万ドルとEU加盟国の中では群を抜いて最大となった。対外直接投資を押し下げたのは、対内直接投資と同様、ルクセンブルクの2,649億5,220万ドルの引き揚げ超過だった。2022年末時点の対外直接投資残高は、12兆7,263億700万ドルだった。2022年のEU域内企業が出資したグリーンフィールド投資件数は前年より237件多い5,954件で、ドイツ(1,340件)やフランス(1,068件)の企業がけん引した。2022年のEU域内企業によるクロスボーダーM&A件数は、前年より34件少ない2,326件だった。

対外直接投資のうちM&A以外の案件では、ドイツ化学大手BASFが2022年9月、中国広東省に建設中の巨大生産拠点のうち一部工場の稼働を開始した。2030年までに最大100億ユーロを投資するとしている。

EU域内の大型案件としては、ドイツのフォルクスワーゲン グループが2022年3月、スペイン東部バレンシア州に電気自動車(EV)用電池工場を建設するため、30億ユーロを投じると発表した。2026年に稼働開始を見込む。

対日関係 
対日貿易は化学工業製品の輸出増などで黒字拡大

2022年のEUの対日貿易は、輸出が前年比14.9%増の715億9,000万ユーロ、輸入が12.3%増の699億5,900万ユーロだった。EUの貿易黒字は前年の3,400万ユーロから16億3,100万ユーロに大きく伸長した。

対日輸出を品目別にみると、最大品目は化学工業製品(構成比32.0%)で32.8%増と前年に引き続き伸び率が最大となった。そのうち、医薬品が39.4%増で対日輸出の2割を占めたが、前年は新型コロナウイルスワクチンの伸び率が2.7倍だったのに対して、55.3%増に落ち着いた。次いで、前年まで最大品目だった機械・輸送機器類(29.3%)は4.2%増だった。乗用車(10.7%)の伸び率は0.4%増で横ばいとなった。雑製品(13.4%)は11.1%増となり、光学・医療用・分析機器など(4.3%)が3.8%増だった。

対日輸入は前年に続き主要品目で増加した。機械・輸送機器類(61.2%)は11.0%増と堅調に伸びた。最大品目の乗用車(18.6%)が4.5%増、自動車部品(4.8%)は3.4%増となった一方、バイク(2.6%)は5.9%減少した。電気機器(13.5%)は半導体装置や電子集積回路などが押し上げ、12.3%増と好調だった。化学工業製品(13.7%)は5.7%増となり、有機化学品(3.3%)や化学素材(2.5%)が微減し、医薬品(2.6%)が微増したほか、プラスチック(2.1%)と無機化学品(1.3%)はそれぞれ28.6%増、60.3%増と大きく伸びた。

表5-1 EUの対日主要品目別輸出(FOB) [通関ベース](単位:100万ユーロ、%)
品目 2021年 2022年
金額 金額 構成比 伸び率
化学工業製品 17,264 22,921 32.0 32.8
機械・輸送機器類 20,135 20,973 29.3 4.2
雑製品 8,617 9,574 13.4 11.1
食料品・動物 4,096 4,973 6.9 21.4
原料別半製品 4,182 4,664 6.5 11.5
飲料・たばこ 2,782 2,767 3.9 △ 0.6
合計(その他含む) 62,319 71,590 100.0 14.9

〔出所〕EU統計局(ユーロスタット)

表5-2 EUの対日主要品目別輸入(CIF) [通関ベース](単位:100万ユーロ、%)
品目 2021年 2022年
金額 金額 構成比 伸び率
機械・輸送機器類 38,589 42,843 61.2 11.0
化学工業製品 9,042 9,555 13.7 5.7
雑製品 8,110 8,990 12.9 10.9
原料別半製品 4,785 6,343 9.1 32.5
食料に適さない原材料(燃料を除く) 705 860 1.2 22.0
食料品・動物 293 356 0.5 21.3
合計(その他含む) 62,285 69,959 100.0 12.3

〔出所〕EU統計局(ユーロスタット)

日本からEUへの直接投資額は、製造業の大幅増で前年比75.6%増

財務省によると、2022年の日本の対EU直接投資額は、前年比75.6%増の3兆7,608億円だった。前年は2,799億円の引き揚げ超過だった製造業が1兆3,221億円の増加に転じた。輸送機械器具で3,671億円、食料品で2,452億円などの投資が目立った。非製造業では、金融・保険業で9,195億円、サービス業で7,208億円など、前年に続き大規模な投資を受け、全体で2兆4,386億円となった。国別では、オランダの9,975億円、アイルランドの9,025億円、ドイツの5,573億円の順に大きかった。

日本のEUからの直接投資受入額は2,207億円だった。前年は1,296億円の引き揚げ超過だったが、プラスに転じた形だ。業種別では、輸送機械器具や化学・医薬製造業が好調で、製造業全体で3,247億円の投資を受け入れた。一方、卸売・小売業の2,477億円の引き揚げ超過などが足かせとなり、非製造業全体では1,039億円の引き揚げ超過となった。

(注)ユーロ圏は、2023年1月からクロアチアがユーロを導入したため、本稿では2022年は19カ国、2023年は20カ国のデータを採用している。

基礎的経済指標

人口
4億4,673万5,291人(EU27カ国、2022年1月、暫定・推計値)このうち、ユーロ圏20カ国は3億4,673万1,402人(暫定値)
面積
429万平方キロメートル(2022年)
1人当たりGDP
3万7,357米ドル (2022年)
(△はマイナス値)
項目 単位 2020年 2021年 2022年
実質GDP成長率 (%) △ 5.6 5.6 3.4
消費者物価上昇率 (%) 0.7 2.9 9.2
失業率 (%) 7.2 7.1 6.2
貿易収支 (100万ユーロ) 321,619 233,271 △ 165,608
経常収支 (100万ユーロ) 286,021 421,199 △ 64,893
外貨準備高(グロス) (100万米ドル) 422,889 565,772 557,219
対外債務残高(グロス) (100万ユーロ、期末値) 14,943,175 14,900,730 15,909,476
為替レート ( 1 米ドルにつき、ユーロ、期中平均) 0.8755 0.8455 0.9496

注:
貿易収支:国際収支ベース(財のみ)
外貨準備高(グロス)、対外債務残高(グロス):EU19(ユーロ圏)のデータに基づく。
出所:
人口、実質GDP成長率、消費者物価上昇率、失業率、貿易収支、経常収支 :EU統計局(ユーロスタット)
面積:外務省
1人当たりGDP、外貨準備高(グロス)、為替レート :IMF
対外債務残高(グロス) :欧州中央銀行(ECB)