スペインの貿易投資年報

要旨・ポイント

  • 2023年の実質GDP成長率は2.5%。EU(平均0.4%)の中では堅調。
  • 貿易は新型コロナやエネルギー価格高騰に関連した需要の低下により前年を下回る。
  • 輸出は自動車関連が牽引。
  • 外国直接投資は、再生可能エネルギーが引き続き活発。
  • 対日貿易は日本からの自動車輸入が過去最高。日本からの直接投資はエネルギー分野中心。

公開日:2024年11月18日

マクロ経済 
世界的な景気弱含みの中、堅調な成長を維持

2023年の実質GDP成長率は2.5%と、前年の5.8%から鈍化した。新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)収束後の力強い回復から一転、世界的な金融引き締めや景気の弱含みが影響した。特に輸出は年半ばから減速し、前年の2桁成長から2.3%に低下した。とはいえ、EUの平均実質GDP成長率 が0.4%であったことを考慮すると、逆風の中で極めて堅調な伸びだった。2024年前半は雇用の改善などにより、GDPの6割近くを占める個人消費の回復がみられる。観光も引き続き経済に寄与している。政府はEU復興基金の執行本格化により、近年低調だった総固定資本形成が押し上げられると見込み、2024年7月に同年の実質GDP成長率見通しを従来予測から0.4ポイント増の2.4%に上方修正した。

表1 スペインの需要項目別実質GDP成長率(単位:%)(△はマイナス値)
項目 2022年 2023年 2024年
年間 Q1 Q2 Q3 Q4 Q1
実質GDP成長率 5.8 2.5 4.0 2.0 1.9 2.2 2.6
階層レベル2の項目民間最終消費支出 4.7 1.8 2.5 1.7 0.5 2.4 2.6
階層レベル2の項目政府最終消費支出 △ 0.2 3.8 1.8 4.4 4.7 4.2 3.4
階層レベル2の項目国内総固定資本形成 2.4 0.8 △ 0.2 1.3 0.0 2.1 1.8
階層レベル2の項目財貨・サービスの輸出 15.2 2.3 9.6 △ 0.0 △ 1.0 1.1 △ 0.2
階層レベル2の項目財貨・サービスの輸入 7.0 0.3 2.4 △ 0.2 △ 2.4 1.5 △ 0.7

〔注〕四半期の伸び率は前年同期比。
〔出所〕スペイン国家統計局(INE)

貿易 
自動車の好調が輸出を牽引

2023年の貿易は、輸出が前年比1.0%減の3,836億8,900万ユーロ、輸入は7.6%減の4,242億4,900万ユーロと、いずれも前年の過去最高からやや減少した。貿易赤字は資源・エネルギー価格の低下により、43.4%減の405億6,000万ユーロに縮小した。

輸出金額の内訳を品目別にみると、資本財(構成比19.5%)が最大で、前年比10.1%増だった。特に商用車(2.6%、商用車は自動車ではなく資本財に分類される)が37.3%増、台数ベースでも45.8%増と非常に好調だった。電子機器(4.0%)は、米国向けスタティックコンバーターのほか、コネクタや輸送機器用の電装品が牽引して12.9%増となった。貿易黒字額が最大の食料品(17.5%)は4.1%増。主力品目の豚肉(1.6%)は生産減による価格上昇で輸出競争力が低下し、数量ベースでは8.0%減だったが、金額ベースでは7.8%増だった。スペインが世界生産の6割を占めるオリーブ油(1.1%)は、干ばつにより生産量が前年から6割近く減少し、8割高の価格高騰となったことで、数量ベースでは35.9%の大幅減だったが、金額ベースでは1.1%の微増となった。化学品(16.8%)は、新型コロナの収束でワクチンの輸出が前年の3分の1に縮小したことが影響し、11.0%減となった。自動車(14.1%)は20.5%増となった。完成車(乗用車、10.3%)は欧州やトルコ向けの輸出が力強く伸びて21.7%増、自動車部品(3.8%)も欧州やモロッコ向けを中心に17.6%増加した。中間財(9.9%)は10.3%減と低調だった。主因は、電力価格・炭素価格の高止まりや、欧州の需要減を受けて、鉄鋼(2.1%)が金額ベースで22.5%減、数量ベースで7.3%減となったことだ。消費財(8.7%)は2.4%減。米国・英国・新興国向けが大幅減少し、消費財の4割を占める衣類(3.6%)が9.3%減となったことが響いた。鉱物・エネルギー(7.9%)はエネルギー価格高騰の沈静化を反映し、18.4%減となった。このうち石油精製品(4.8%)は、金額ベースで14.8%減、数量ベースで2.8%減だった。電力(0.8%)も前年の急増の反動で55.3%減となった。前年は欧州全体の電力高騰に加え、フランスでは多くの原子力発電所が保守点検で稼働停止し、ポルトガルでは石炭火力発電所の段階的閉鎖が進められたため、両国が比較的安価で安定したスペインの電力融通に頼っていた。2023年半ば以降は電力価格の低下やフランスの原発再稼働により輸出は減少し、フランスは再びスペインに対して電力の輸出超過に転じた。

輸出を国・地域別にみると、EU域内(構成比62.7%)は前年比1.1%の微減となった。エネルギー価格が落ち着き、石油精製品やワクチン、電力が大幅減となるなど、新型コロナ以降の特徴的な貿易変動要因が後退したことによる。一方、乗用車、自動車部品、貨物自動車、豚肉など、従来の主力品目は力強く伸びた。ユーロ圏(54.5%)は2.3%減だったが、輸出上位3カ国のフランス(15.6%)、ドイツ(10.4%)、イタリア(8.6%)は前年比でプラスを維持した。イタリアは引き続きオリーブ油の輸出先1位だが、2023年は不作で前年から輸出量が半減した。EU域外最大の輸出先である英国(5.9%)は6.4%増を記録した。乗用車の急回復が増加を後押しした一方、青果類は干ばつの影響などで減少した。域外輸出先2位の米国(4.9%)は石油精製品の減少が響き、0.3%減となった。他方で、バイオディーゼルが前年の3.6倍に急増した。EUの再生可能エネルギー指令下では、廃棄物由来のバイオ燃料の方が導入目標を達成しやすく、従来のバイオ燃料の需要と価格が低下したことで、米国に振り向けられたとみられる。アジア最大の輸出先である中国(2.0%)は5.8%減となった。従来の主力輸出品である銅や豚肉、オリーブ油、ポリカーボネートが大幅に減少した。医薬品は2.1倍に増加したが、全体の減少は相殺できなかった。

原油・ガス輸入における米国の存在感大

輸入を品目別にみると、資本財(構成比22.4%)は、貨物車両・バス・電気自動車(EV)の生産増を背景に、リチウムイオン電池やワイヤーハーネスが伸びた。一方、太陽光パネルは引き続き高い水準ながらも2割減少した。中国製太陽光パネルの輸入規制を視野に入れた在庫積み増しが続いていたが、電力価格の低下によって2024年前半の太陽光発電の設備導入ペースは、前年同期の4割近くまで鈍化しており、需要減が鮮明となっている。鉱物・エネルギー(15.0%)は価格下落により前年比29.8%減となった。主要品目の原油(8.1%)はエネルギー価格低下を反映し、金額ベースで24.0%減、数量ベースで3.8%減となった。原油の主要調達先として米国が初めて1位となり、これにナイジェリア、メキシコ、ブラジルが続く。ロシア産はEUによる原油輸入禁止措置により輸入実績はなかった。天然ガス(3.1%)も金額ベースで47.2%減、数量ベースで16.1%減だった。輸送手段別では8割近くが液化天然ガス(LNG)で、残りはアルジェリアを中心とするパイプライン経由のガスだった。米国は前年に続きLNG調達先1位となったが3分の1に減少したことで、天然ガス全体ではアルジェリアが再び米国を抜いて首位となった。ロシア産LNGは長期契約分の輸入が継続された。食料品(12.5%)は1.9%の小幅増だった。ただ、食料品1位の小麦は51.1%増となり、最大調達先のウクライナからの輸入が4倍に急増したことが寄与した。自動車(10.7%)は15.3%増。特に完成車(5.7%)は中国、ドイツからの輸入が牽引し3割近く伸びた。

輸入を国・地域別にみると、EU域内(構成比49.3%)は自動車が好調だったが、ワクチンや電力の大幅減が相殺し、前年比1.4%増に留まった。EU域外では、アフリカ(8.1%)、北米(7.3%)、中南米(5.5%)、中東(2.1%)がエネルギー・資源の価格低下や輸入数量減により15~30%程度減少した。他方、資源国ではないモロッコ(2.1%)は、最大品目のワイヤーハーネスが2割増加したことで、3.9%増となった。モロッコではワイヤーハーネスの主要生産国であるウクライナの生産縮小を受けて、主要メーカーによる生産投資が進む。アジア大洋州(17.7%)は7.2%減だったが、これは主要輸入相手国の中国(10.4%)が11.3%減となったことが主な理由だ。中国からの輸入では、2021年から増加傾向にある乗用車が倍増して最大品目となった一方、太陽光パネルや、スマートフォン、パソコンなどの従来の主要品目の減少が顕著だった。

表2 スペインの主要品目別輸出入[通関ベース](単位:100万ユーロ、%)(△はマイナス値)
品目 輸出(FOB) 輸入(CIF)
2022年 2023年 2022年 2023年
金額 金額 構成比 伸び率 金額 金額 構成比 伸び率
資本財(自動車を除く) 67,968 74,834 19.5 10.1 90,644 95,222 22.4 5.1
食料品 64,584 67,210 17.5 4.1 52,079 53,086 12.5 1.9
化学品 72,263 64,286 16.8 △ 11.0 75,691 67,206 15.8 △ 11.2
自動車(部品含む) 44,775 53,972 14.1 20.5 39,312 45,344 10.7 15.3
中間財 42,548 38,167 9.9 △ 10.3 34,716 30,019 7.1 △ 13.5
消費財 34,193 33,357 8.7 △ 2.4 48,896 45,580 10.7 △ 6.8
鉱物・エネルギー 37,248 30,399 7.9 △ 18.4 90,426 63,479 15.0 △ 29.8
原材料 9,677 8,135 2.1 △ 15.9 13,794 11,692 2.8 △ 15.2
耐久消費財 6,087 5,943 1.5 △ 2.4 11,004 10,169 2.4 △ 7.6
合計(その他を含む) 387,599 383,689 100.0 △ 1.0 459,203 424,249 100.0 △ 7.6

〔注〕EU域外貿易は通関ベース(輸出はFOB、輸入はCIF)、EU域内貿易は各企業のインボイス報告などに基づく。
〔注〕自動車には商用車を含まず。商用車は資本財に含む。
〔出所〕スペイン税関

表3 スペインの主要国・地域別輸出入[通関ベース](単位:100万ユーロ、%)(△はマイナス値)
国・地域 輸出(FOB) 輸入(CIF)
2022年 2023年 2022年 2023年
金額 金額 構成比 伸び率 金額 金額 構成比 伸び率
EU 243,174 240,389 62.7 △ 1.1 206,402 209,337 49.3 1.4
階層レベル2の項目ユーロ圏 214,236 209,277 54.5 △ 2.3 174,298 176,004 41.5 1.0
階層レベル3の項目フランス 59,156 59,905 15.6 1.3 41,416 39,628 9.3 △ 4.3
階層レベル3の項目ドイツ 37,531 40,019 10.4 6.6 44,045 47,058 11.1 6.8
階層レベル3の項目イタリア 31,554 33,045 8.6 4.7 28,042 28,302 6.7 0.9
階層レベル3の項目ポルトガル 32,109 31,817 8.3 △ 0.9 16,622 16,536 3.9 △ 0.5
階層レベル2の項目非ユーロ圏 28,938 31,112 8.1 7.5 32,104 33,333 7.9 3.8
階層レベル3の項目ポーランド 8,414 9,247 2.4 9.9 8,064 8,676 2.0 7.6
英国 21,209 22,564 5.9 6.4 11,257 10,797 2.5 △ 4.1
トルコ 6,762 8,766 2.3 29.6 10,093 9,120 2.1 △ 9.6
スイス 6,801 6,635 1.7 △ 2.5 6,741 4,730 1.1 △ 29.8
ロシア 1,281 852 0.2 △ 33.5 7,392 3,129 0.7 △ 57.7
北米 21,329 21,155 5.5 △ 0.8 36,782 31,115 7.3 △ 15.4
階層レベル2の項目米国 18,952 18,904 4.9 △ 0.3 33,762 28,268 6.7 △ 16.3
アフリカ 21,137 19,871 5.2 △ 6.0 42,580 34,289 8.1 △ 19.5
階層レベル2の項目モロッコ 11,758 12,146 3.2 3.3 8,694 9,032 2.1 3.9
階層レベル2の項目ナイジェリア 412 359 0.1 △ 12.9 9,122 5,762 1.4 △ 36.8
階層レベル2の項目アルジェリア 1,018 332 0.1 △ 67.4 7,633 6,425 1.5 △ 15.8
アジア大洋州 23,135 21,687 5.7 △ 6.3 81,038 75,163 17.7 △ 7.2
階層レベル2の項目中国 8,049 7,579 2.0 △ 5.8 49,860 44,244 10.4 △ 11.3
階層レベル2の項目ASEAN 4,220 4,087 1.1 △ 3.2 13,576 13,398 3.2 △ 1.3
階層レベル2の項目日本 3,299 2,797 0.7 △ 15.2 3,942 4,652 1.1 18.0
階層レベル2の項目韓国 2,190 1,788 0.5 △ 18.4 3,946 3,733 0.9 △ 5.4
階層レベル2の項目インド 1,828 1,780 0.5 △ 2.6 5,736 5,848 1.4 2.0
中南米 18,822 20,363 5.3 8.2 27,588 23,209 5.5 △ 15.9
階層レベル2の項目メキシコ 5,185 5,605 1.5 8.1 5,946 5,624 1.3 △ 5.4
階層レベル2の項目ブラジル 3,562 3,295 0.9 △ 7.5 9,115 7,446 1.8 △ 18.3
中東 9,683 8,484 2.2 △ 12.4 13,098 8,941 2.1 △ 31.7
階層レベル2の項目サウジアラビア 2,979 2,577 0.7 △ 13.5 5,087 3,403 0.8 △ 33.1
合計(その他を含む) 387,599 383,689 100.0 △ 1.0 459,203 424,249 100.0 △ 7.6

〔注1 〕EU域外貿易は通関ベース、EU域内貿易は各企業のインボイス報告などに基づく。
〔注2〕アジア大洋州はASEAN+6(日本、中国、韓国、オーストラリア、ニュージーランド、インド)に香港・台湾を加えた合計値。
〔出所〕スペイン税関

対内・対外直接投資 対内投資は脱炭素化資金調達のための資産売却加速

経済・商業・企業省によると、2023年の対内直接投資(届出ベース、ネット、フロー)は前年比41.1%増の312億6,400万ユーロとなった。ただし、このうち約3割は、スペインに持株会社(ETVE)を置くことで第三国からの配当・キャピタルゲインを親会社の所在国に低税率で還流できる税制優遇措置を活用した資金移動によるものだ。税制優遇措置の利用が多い影響で、卸売や自動車製造分野の投資額が大きくなった。

一方、ETVE投資を除いた実質的な投資額は前年比5.5%増の約223億ユーロで、業種別では石油鉱業が最大となった。これは米投資会社EIGグローバル・エナジー・パートナーズ(EIG Global Energy Partners’)が2023年3月に石油大手レプソル(Repsol)の石油・ガス上流事業会社の株式25%を48億ドルで取得したためで、2023年における最大案件とみられる。レプソルはこの資金を脱炭素化やエネルギー移行への投資に充てる。電力・ガス・水道・環境分野は、金利上昇やインフレ、地政学的緊張でグリーンディールが停滞する中、投資会社や機関投資家主導の資産売買が活発化し、55.0%増と好調だった。

特にEUが推進する循環型経済への取り組みの最前線といえる廃棄物処理の分野で、2023年10月にカナダの公的年金運用機関CPPIBが建設大手FCCの環境サービス事業会社の株式約25%を取得、米モルガン・スタンレー(Morgan Stanley)のインフラ投資会社が建設会社サシール(Sacyr)の環境サービス事業部門バロリサ(VALORIZA)を相次いで買収した。

再エネ分野では、以前からエネルギー大手とインフラ投資会社の間で資産の売買が活発だったが、卸電力価格が下降に転じる中で太陽光をはじめとする再エネ発電資産の売却が加速した。ポルトガル電力公社(EDP)の再エネ事業部門(本社スペイン)は2023年7月、オーストリアのエネルギー大手フェアブント(Verbund)に風力発電資産を4億6,000万ユーロで売却。フェアブントはすでに太陽光発電開発プロジェクトも取得済みで、スペイン国内で合計5ギガワット(GW)規模の再エネ発電資産(プロジェクト含む)を保有することとなる。フランスの投資会社アーディアン(ARDIAN)は2023年第3四半期に風力発電資産を電力ガス大手ナチュルジー(Naturgy)に売却。カナダのインフラ投資会社ブルックフィールド・リニューアブル・パートナーズ(Brookfield Renewable Partners)が同年11月に太陽光発電開発エクセリオ(X-ELIO)の株式50%を9億ドルで追加取得して完全子会社化したと発表したほか、英石油大手シェル(Shell)は2022年12月に続き、2023年5月にも太陽光発電所の開発権益を取得。保有規模は合計3.1GWに達し、レプソルやセプサ(Cepsa)などの競合と肩を並べた。アリアンツ・キャピタル・パートナーズ(Allianz Capital Partners)も同年10月に太陽光発電開発グリーナジー(Grenergy)が開発中の発電資産を約3億ユーロで買収することで合意。電力大手イベルドローラ(Iberdrola)は、2024年1月に国内で開発中の太陽光・風力発電資産674メガワット(MW)の権益の49%をノルウェー政府系ファンドに約6億ユーロで譲渡すると発表した。同年4月に合意したイベリア半島におけるクリーンエネルギー共同投資に関する提携により、合計2.5GW規模の再エネ発電開発を加速させる。

インフラ分野では、フランスの海運大手CMA CGMが2023年6月に中国遠洋海運集団(COSCO)のバレンシア港などのターミナル事業に参画したほか、アブダビ港湾公社(AD Ports Group)が同年7月に港湾総合物流ノアトゥム(Noatum)を買収した。

国・地域別では、引き続き米国が最大の投資国となった。前述の米投資会社による大型案件に加え、2023年10月にアマゾンが合計794MWの再エネ発電所を開発すると発表しており、人工知能(AI)・クラウドインフラの強化と並行して電力確保の動きを加速させた。中国からの投資は低調だったが、EUが中国の風力タービン供給事業者に対して外国補助金規則に基づく調査の実施方針を示したり、バッテリー式電気自動車(BEV)に対して追加関税措置の発動を検討したりする中、2024年3月にガラス製品・複合材料事業を含む中国の産業グループ振石控股集団(Zhenshi Holding Group)が、エアバスのカディス工場を取得して風力発電ブレードを製造する計画を発表。翌4月には中国の奇瑞汽車(Chery Automobile)がバルセロナの新興EVメーカーとの合弁生産契約を結ぶなど、欧州への生産移転に関連する動きがみられた。

投資規制については、政府は2023年7月、新型コロナ感染拡大以降に導入された投資スクリーニング(事前審査)の適用基準や審査期間を法令で明確化した。なお、同年には審査対象となった投資案件はすべて承認された(一部は条件付き承認)。その一方で、同年9月にはサウジアラビアの電気通信大手サウジ・テレコム(STC)が同業テレフォニカ(Telefónica)の株式9.9%を取得した件は、競争当局により承認されたが、報道によると政府は国内の重要産業への影響を懸念し介入を試みている。ハンガリーのオルバーン・ビクトル首相が支援するとされる同国の企業連合ガンツ・マーバグ・ヨーロッパ(Ganz Mavag Europe)が鉄道メーカーのタルゴ(Talgo)への株式100%に対する公開買い付けを提案した件については、スペイン政府が2024年8月、国家安全保障上の観点から承認しないと発表した。

対外投資でもエネルギー関連の参入・強化が活発

2023年の対外直接投資(届出ベース、ネット、フロー)は、前年比6.2%増の189億1,700万ユーロと堅調だった。業種別では対内投資と同様にエネルギー関連が目立ち、最大案件とみられる2023年8月のインフラ投資会社アステリオン・インダストリアル・パートナーズ(Asterion Industrial Partners )によるドイツの電力会社シュテアグ(STEAG)の買収発表のほか、レプソル(Repsol)は同年11月に英国の石油権益の合弁先である中国石油化工集団(シノペック、Sinopec)から持ち分をすべて取得し、完全子会社化した。再エネ投資は前年から3割減となったが、米国やブラジル、欧州などで活発に展開された。

イベルドローラ(Iberdrola)は米国では9GW、ブラジルでは3.9GWの再エネ発電設備容量を保有しており、2023年には米国で30億ユーロ、中南米全体で18億ユーロを投資した。他方で、アラブ首長国連邦(UAE)のアブダビ未来エネルギー公社マスダール(Masdar)との洋上風力発電およびグリーン水素プロジェクトへの共同投資契約の枠組みの中で、同年12月までにドイツと英国の洋上風力発電の開発権益の49%を譲渡した。対外直接投資の引き揚げに当たるが、同社の資本参加で開発を加速させる。また、レプソルも同年9月に米国の再エネ開発会社コネクトジェン(ConnectGen)を約8億ドルで買収し、米国の陸上風力市場に参入した。

国・地域別で最大の投資先は米国で、前年比84.5%増となり全体の3割を占めた。前述の再エネや金融関連に加え、診断薬大手ウェルフェン(Werfen)が2023年3月に米国の輸血検査システム大手イムコア(IMMUCOR)を約20億ドルで、また青果大手AMフレッシュ(AMFRESH)が同年8月に米ブドウ育種大手IFGを共同買収するなど、さまざまな分野でM&Aがみられた。なお、グローバル展開のための資金調達を加速させるために国外で上場するケースが増えており、建設大手フェロビアル(Ferrovial)は同年 6月に本社をオランダに移転して同国で上場開始した後、2024年5月にスペインの上場企業として初めて米ナスダックに上場した。

表4 スペインの業種別対内・対外直接投資[届出ベース、ネット、フロー](単位:100万ユーロ、%)(△はマイナス値)
業種 対内直接投資 対外直接投資
2022年 2023年 2022年 2023年
金額 金額 伸び率 金額 金額 伸び率
流通・小売・卸売り 995 8,222 726.5 637 930 45.9
製造業 5,983 6,060 1.3 6,142 1,307 △ 78.7
階層レベル2の項目機械・自動車などその他の製造業 4,707 4,042 △ 14.1 5,914 167 △ 97.2
階層レベル2の項目石油精製・化学・プラスチック 423 1,099 159.6 △ 3 716
階層レベル2の項目食品 644 576 △ 10.5 219 365 66.7
階層レベル2の項目繊維・衣類 45 264 491.1 △ 2 1
階層レベル2の項目製紙・出版 165 80 △ 51.7 14 59 330.6
鉱業 112 3,520 3,049.2 △ 415 114
電力・ガス・水道・環境 2,048 3,174 55.0 3,712 3,756 1.2
不動産・企業向けサービス 3,639 2,583 △ 29.0 1,687 1,782 5.7
運輸・通信 6,161 1,988 △ 67.7 △ 3,891 3,260
金融・銀行・保険 1,556 1,566 0.6 6,817 4,520 △ 33.7
建設 512 1,250 144.2 2,700 2,627 △ 2.7
ホテル・レストラン 888 875 △ 1.5 210 214 1.9
農業・牧畜業・林業・漁業 56 121 118.7 73 297 305.9
合計(その他含む) 22,163 31,264 41.1 17,817 18,917 6.2

〔出所〕スペイン経済・商業・企業省

表5 スペインの国・地域別対内・対外直接投資[届出ベース、ネット、フロー](単位:100万ユーロ、%)(△はマイナス値)
国・地域 対内直接投資 対外直接投資
2022年 2023年 2022年 2023年
金額 金額 伸び率 金額 金額 伸び率
EU 10,418 12,579 20.7 8,298 5,222 △ 37.1
階層レベル2の項目ユーロ圏 10,025 12,082 20.5 8,121 4,972 △ 38.8
階層レベル3の項目ベルギー 168 4,412 2,533.5 6 △ 123 --
階層レベル3の項目ドイツ 4,525 3,206 △ 29.2 1,923 967 △ 49.7
階層レベル3の項目フランス 2,986 1,373 △ 54.0 327 508 55.4
階層レベル3の項目ポルトガル 193 422 118.6 △ 800 464 --
階層レベル3の項目イタリア 847 156 △ 81.6 786 169 △ 78.5
階層レベル2の項目非ユーロ圏 393 497 26.6 178 249 40.4
階層レベル3の項目チェコ 2 269 15,194.3 68 156 128.5
英国 1,629 2,819 73.1 8,639 294 △ 96.6
スイス 210 1,101 424.3 3 60 1964.0
北米 7,655 8,259 7.9 3,577 6,949 94.3
階層レベル2の項目米国 7,970 7,544 △ 5.4 3,603 6,648 84.5
中南米 △ 38 2,686 -- △ 5,291 6,578 --
階層レベル2の項目メキシコ 433 1,588 267.2 577 1,807 213.3
階層レベル2の項目ブラジル △ 912 29 -- △ 7,951 2,223 --
アジア大洋州 1,516 2,478 63.4 942 331 △ 64.9
階層レベル2の項目オーストラリア 1,343 1,333 △ 0.8 295 163 △ 44.5
階層レベル2の項目日本 316 463 46.2 △ 1 0 --
階層レベル2の項目韓国 10 384 3,931.3 0 3 3771.4
階層レベル2の項目中国 △ 52 83 -- 29 45 53.5
階層レベル2の項目ASEAN △ 656 133 -- 613 105 △ 82.9
中東 △ 126 573 -- △ 12 5 --
階層レベル2の項目アラブ首長国連邦 251 360 43.7 52 △ 2 --
アフリカ 766 254 △ 66.9 58 △ 154 --
階層レベル2の項目南アフリカ 742 226 △ 69.6 △ 22 △ 208 --
階層レベル2の項目モロッコ 7 7 6.3 19 23 22.2
合計(その他含む) 22,163 31,264 41.1 17,817 18,917 6.2

〔注〕 アジア大洋州は、ASEAN+6(日本、中国、韓国、オーストラリア、ニュージーランド、インド)に香港、台湾を加えた合計値。
〔出所〕 スペイン経済・商業・企業省

表6‐1 スペインの主な対内直接投資案件(2023年~2024年4月)[M&A以外]
業種 企業名 国籍 時期 投資額 概要
IT アマゾン 米国 2023年10月 非公表 スペイン国内で合計794MWの再エネ発電所を開発すると発表。これにより同社のスペインでの再エネ発電容量は合計2.3GW以上で、67以上の風力および太陽光発電プロジェクトを有することとなる。
素材 振石控股集団(Zhenshi Holding Group) 中国 2024年3月 非公表 ガラス製品・複合材料事業を含む産業グループ振石控股集団がエアバスのカディス工場を取得して風力発電ブレードを製造する計画を発表。
自動車 奇瑞汽車(Chery Automobile) 中国 2024年4月 非公表 スペインの新興電気自動車(EV)メーカー・EVモーターズと、欧州市場向けのEV共同生産の合弁契約に調印。官民合わせて4億ユーロの投資が見込まれ、2029年には年間合計15万台の生産規模、約1,200人の雇用創出を目指す。

〔出所〕 各社発表および報道などから作成

表6‐2 スペインの主な対内直接投資案件(2023年~2024年4月)[M&A]
被買収企業(事業) 買収企業 時期 投資額 概要
業種 企業名 企業名 国籍
エネルギー レプソル・アップストリーム(Repsol Upstream) EIGグローバル・エナジー・パートナーズ(EIG Global Energy Partners) 米国 2023年3月 48億ドル 米投資会社EIGグローバル・エナジー・パートナーズが石油大手レプソル(Repsol)の石油・ガス上流事業会社であるレプソル・アップストリームの株式25%の取得を完了。 レプソルはこの資金を脱炭素化やエネルギー移行への投資に充てる。
環境 FCCメディオ・アンビエンテ(FCC Medio Ambiente) CPPIB カナダ 2023年10月 9億6,500万ユーロ カナダ公的年金運用機関CPPIBが建設大手FCCの環境サービス事業会社であるFCCメディオ・アンビエンテの株式24.99%取得を完了。FCCメディオ・アンビエンテは廃棄物処理の分野における主要企業で、CPPは本買収により循環型経済での世界的トレンドについての知見を得る。
エネルギー エクセリオ(X-ELIO) ブルックフィールド・リニューアブル・パートナーズ(Brookfield Renewable Patners) カナダ 2023年11月 9億ドル カナダのインフラ投資会社ブルックフィールド・リニューアブル・パートナーズが、太陽光発電などの持続可能エネルギー開発を行うエクセリオの株式50%を9億ドルで追加取得して完全子会社化を完了したと発表。
インフラ ノアトゥム(Noatum) アブダビ港湾公社(AD Ports Group) アラブ首長国連邦(UAE) 2023年7月 6億6,000万ユーロ アブダビ港湾公社が港湾総合物流ノアトゥムの買収を完了。2社の強みや能力により、貿易および物流分野における世界的大企業となることを目指す。
エネルギー EDPリニューアブルス・ヨーロッパ(EDPR) フェアブント(Verbund) オーストリア 2023年7月 4億6,000万ユーロ オーストリアのエネルギー大手フェアブントは、ポルトガル電力公社(EDP)の再エネ事業部門(本社スペイン)の風力発電資産を買収すると発表。フェアブントはすでにスペイン国内に太陽光発電開発プロジェクトを取得済みで、合計5ギガワット(GW)規模の再エネ発電資産(プロジェクト含む)を保有することになる。

〔出所〕 各社発表および報道などから作成

表7 スペインの主な対外直接投資案件(2023年)[M&A]
買収企業 被買収企業(事業) 時期 投資額 概要
企業名 業種 企業名 国籍
アステリオン・インダストリアル・パートナーズ(Asterion Industrial Partners) エネルギー STEAG ドイツ 2023年8月 26億ユーロ 投資運用会社アステリオンはドイツの電力会社STEAGの買収契約を締結したと発表。STEAGを持続可能なエネルギー発電事業者に発展させることを目指し、STEAGが掲げる2040年までの気候中立達成を引き続きサポートする。
ウェルフェン(Werfen) 診断機器 イムコア(Immucor) 米国 2023年3月 約20億ドル 診断薬大手ウェルフェンは輸血検査システム大手イムコアの買収を完了。ウェルフェンの既存の止血、急性期ケア、自己免疫事業ラインを補完し、病院や臨床検査室向けの専門診断ソリューションのポートフォリオを拡大する。
AMフレッシュ(AMFRESH) 食品 IFG 米国 2023年8月 非公表 青果大手AMフレッシュが、プライベートエクイティファンドのEQTフューチャー(EQT Future)とパイン・シュワルツ・パートナー(Paine Schwartz Partners)と共同で、ブドウ育種大手IFGの買収を完了したと発表。

〔出所〕 各社発表および報道などから作成

対日関係 
対日輸入、自動車や電動機が大幅増

2023年の対日貿易は輸出が15.2%減の27億9,700万ユーロ、輸入が18.0%増の46億5,200万ユーロ。スペインの対日貿易赤字は前年の3倍近くに拡大した。

対日輸出を品目別にみると、最大品目の豚肉(構成比21.6%)が、過去最高を記録した前年の反動減で17.5%減となったものの、引き続き高い水準を維持した。日本にとってスペインは、米国、カナダに次ぐ豚肉供給国で、外食や加工向けの冷凍豚肉で強みがある。乗用車(11.4%)は0.7%増だったが、台数ベースでは16.4%減の1万7,814台。ステランティス、フォルクスワーゲン、メルセデス・ベンツの工場などからの輸出が中心となっている。日本にとってスペインが最大の供給国となっているオリーブ油(4.7%)は、歴史的不作による価格高騰を反映し、数量ベースで3割減の約2万トン、金額ベースで3.3%減となった。また、石油精製品や灰および残留物といった、エネルギー・資源製品はいずれも数量で6~7割減少した。

日本からの輸入を品目別にみると、最大品目の乗用車(構成比37.9%)が大幅増で過去最高となり、対日輸入の4割近くを占めた。自動二輪車や電動機も伸びが顕著だった。食料品は対日輸入に占める割合は0.6%に留まる。内訳をみると、ホタテが最大品目で、各種調整品、緑茶、和牛なども好調だった。

表8-1 スペインの対日主要品目別輸出(FOB)[通関ベース](単位:100万ユーロ、%)(△はマイナス値)
品目 2022年 2023年
金額 金額 構成比 伸び率
豚肉 731 603 21.6 △ 17.5
乗用車 317 319 11.4 0.7
自動車部品 126 158 5.7 25.3
オリーブ油 135 131 4.7 △ 3.3
革製バッグ・小物類 93 101 3.6 8.2
ワイン 103 93 3.3 △ 9.3
医薬品 58 74 2.7 27.9
複素環式化合物 60 71 2.6 19.6
灰および残留物 167 66 2.4 △ 60.6
石油精製品 246 62 2.2 △ 75.0
合計(その他含む) 3,299 2,797 100.0 △ 15.2

〔出所〕 スペイン税関

表8-2 スペインの対日主要品目別輸入(CIF)[通関ベース](単位:100万ユーロ、%)(△はマイナス値)
品目 2022年 2023年
金額 金額 構成比 伸び率
乗用車 1,042 1,764 37.9 69.3
鉄または非合金鋼のフラットロール 316 290 6.2 △ 8.2
自動二輪車 158 210 4.5 33.0
航空機エンジン部品 114 100 2.2 △ 12.0
印刷機器 104 98 2.1 △ 5.8
自動二輪車・自動車部品 85 83 1.8 △ 3.1
電動機 36 81 1.7 126.6
医療機器 72 71 1.5 △ 1.0
集積回路 64 58 1.2 △ 10.2
自動車部品 81 57 1.2 △ 29.4
合計(その他含む) 3,942 4,652 100.0 18.0

〔出所〕 スペイン税関

日本からの対スペイン投資もエネルギー関連が好調

2023年の日本からの直接投資受入額は、前年比46.2%増の4億6,300万ユーロとなった。M&Aが全体の約75%を占めた。再エネ分野では引き続き投資が活発で、リニューアブル・ジャパンが同年8月、また東急不動産と共同で同年10月と2024年2月に相次いで太陽光発電所を取得した。両社は今後数年間で南欧地域において1GWの再エネ発電所の開発および保有を目指す。また日立エナジーは2023年10月、米バッテリー蓄電システム大手パーウィン(Powin)と共同で、同社の子会社で電力変換・制御ソリューションサプライヤーのeksエナジー(eks Energy)の株式の過半数を取得する契約を締結したと発表。

包装材分野では、レンゴーが2023年10月に重量物包装資材メーカーのジェストラ・コマーシャル・インターナショナル(Gestora Comercial Internacional、ジェコインサ)を買収した。既存の進出企業では、富士通が2023年11月、アンダルシア州政府と、地域医療におけるサイバーセキュリティの強化に向けた協定を締結した。

スペインの対日直接投資の実績は統計上、ネット値でゼロだったが、自動車ディーラーのアスタラ(Asatra)による日産自動車のポーランド販売事業の買収など、スペイン企業が日本企業の海外事業を買収するケースがみられた。日本企業とスペイン企業の第三国ビジネス連携では、三菱商事がフィリピン政府から受注した南北通勤鉄道延伸向け鉄道システムの案件において、鉄道機器製造CAFが2023年12月に車両7両の設計・供給を請け負った。

基礎的経済指標

(△はマイナス値)
項目 単位 2021年 2022年 2023年
実質GDP成長率 (%) 6.4 5.8 2.5
1人当たりGDP (米ドル) 30,564 29,800 33,071
消費者物価上昇率 (%) 3.1 8.4 3.5
失業率 (%) 14.8 12.9 12.1
貿易収支 (100万ユーロ) △ 23,802 △ 59,187 △ 32,777
経常収支 (100万ユーロ) 9,300 8,239 37,689
外貨準備高(グロス) (100万米ドル) 75,724 76,498 84,418
対外債務残高(グロス) (100万ユーロ、期末値) 2,336,000 2,327,000 2,418,000
為替レート (1米ドルにつき、ユーロ、期中平均) 0.85 0.95 0.92

注:
1人当たりGDP、実質GDP成長率、貿易収支、経常収支、対外債務残高(グロス):暫定値
貿易収支:国際収支ベース(財・サービス)
出所:
実質GDP成長率、消費者物価上昇率、失業率:スペイン国家統計局(INE)
1人当たりGDP、外貨準備高(グロス)、為替レート:IMF
貿易収支、経常収支、対外債務残高(グロス):スペイン銀行