ベルギーの貿易投資年報

要旨・ポイント

  • 2023年の実質GDP成長率は1.4%と前年の3.0%から減速。
  • 貿易は原油価格の下落を受けて輸出入ともに縮小し、貿易赤字が拡大。
  • 対内直接投資は拡大、情報通信や再生可能エネルギー活用に向けた投資で活発な動き。
  • 対日貿易は医薬品など化学工業品の輸出が大幅縮小し、ベルギーの貿易赤字に。

公開日:2024年10月23日

マクロ経済 
個人消費が経済成長を下支え

ベルギーの2023年の実質GDP成長率は、前年比1.4%とプラス成長を維持した。新型コロナウイルス感染拡大からの回復基調がみられた前年の3.0%から減速した。需要項目別では、民間最終消費支出と政府最終消費支出はそれぞれ1.4%増、1.6%増となり、経済成長を牽引した。国内総固定資本形成は、企業投資(6.0%増)と公共投資(6.3%増)が好調だった一方、住宅投資(5.7%減)のマイナス成長を受けて3.6%増となった。輸出・輸入はそれぞれ3.3%減、2.6%減となり、純輸出はGDPを0.7ポイント押し下げた。

産業別にみると、サービス業では、金融・保険業を除いてプラス成長となり、前年比2.5%増と成長を支えた。建設業は前年の2.4%減から、1.9%増とプラス成長となった一方で、工業(建設業を除く)は前年の0.7%増からマイナスに転じ、3.2%減となった。

表1 ベルギーの需要項目別実質GDP成長率(単位:%)(△はマイナス値)
項目 2021年 2022年 2023年
年間 Q1 Q2 Q3 Q4
実質GDP成長率 6.9 3.0 1.4 1.6 1.3 1.3 1.3
階層レベル2の項目民間最終消費支出 6.3 3.2 1.4 2.0 1.2 0.8 1.6
階層レベル2の項目政府最終消費支出 5.2 4.5 1.6 1.6 1.2 2.0 1.5
階層レベル2の項目国内総固定資本形成 4.9 △ 0.2 3.6 3.5 6.5 6.0 △ 1.6
階層レベル2の項目財貨・サービスの輸出 13.9 4.9 △ 3.3 1.0 △ 2.2 △ 5.9 △ 6.1
階層レベル2の項目財貨・サービスの輸入 13.0 4.9 △ 2.6 2.6 △ 0.9 △ 5.0 △ 6.9

〔注〕四半期の伸び率は前年同期比。季節調整値。
〔出所〕ベルギー国立銀行(NBB)

貿易 
主要輸出品の落ち込みにより、貿易赤字が再び拡大

2023年の貿易全体では、輸出が前年比17.4%減の3,638億8,000万ユーロ、輸入は12.8%減の3,847億4,600万ユーロで、ともに前年から縮小した。貿易収支は208億6,600万ユーロの赤字で、前年5億8,400万ユーロまで縮小した貿易赤字は再び拡大した。

輸出を主要品目別にみると、最大輸出品目の化学工業品(構成比25.4%)が、前年比20.9%減の923億1,100万ユーロに減少した。化学工業品の大半を占める医薬品(15.4%)が、新型コロナウイルスワクチンの需要縮小を背景に22.7%減となったことによる。前年に続き品目別2位となった鉱物性生産品(13.6%)は、前年に高騰したエネルギー価格が低下したことから、45.1%減の494億1,400万ユーロと大きく縮小した。一方、3位の輸送用機器(11.8%)や、4位の機械および電気・電子機器(10.2%)はそれぞれ16.7%増、4.4%増と、堅調に増加した。

輸出を国・地域別にみると、全体の6割以上を占めるEU(構成比63.8%)は、前年比18.9%減の2,321億9,400万ユーロとなった。最大の輸出相手国であるドイツ(16.3%)や、続くオランダ(13.5%)、フランス(12.7%)がそれぞれ32.9%減、21.9%減、16.4%減と軒並み縮小したことによる。EU域外で最大の輸出相手国である米国(7.0%)も13.8%減、英国(5.9%)も3.9%減となった。アジア大洋州の中では、中国(1.7%)が4.9%増となり、インド、日本を追い抜いて1位に浮上した。インド(1.2%)は前年に続き2位だが32.3%減、日本(1.1%)は56.6%減と大きく後退し3位となった。

主要国からの輸入が縮小、化学工業品が最大輸入品目に

輸入を主要品目別にみると、前年から0.1%減と堅調に推移した化学工業品(構成比23.7%)が品目別で1位となった。前年に1位だった鉱物性生産品(18.0%)はエネルギー価格が低下した結果、輸入額が前年比40.8%減となり2位に後退。多くの品目が前年比減となったなか、3位の機械および電気・電子機器(13.8%)、4位の輸送用機器(12.2%)はそれぞれ、3.8%増、15.6%増と拡大、輸入額を押し上げた。

輸入を国・地域別にみると、全体の約7割弱を占めるEU(構成比66.9%)は、前年比5.4%減と縮小した。最大の輸入相手国であるオランダ(21.2%)や、続くドイツ(12.5%)、フランス(11.6%)がそれぞれ12.4%減、8.3%減、5.7%減と減少したことによる。英国(3.5%)は、エネルギー価格の高騰を背景に前年に鉱物性生産品の輸入額が拡大していた反動から、52.0%減と大きく縮小。欧州以外の国では、前年に続き、米国(6.7%)が最大の輸入相手国で、中国(3.4%)が続き、それぞれ9.2%増、12.8%減だった。日本(2.1%)は、前年に続きアジア大洋州で2位となったが、2.9%減だった。

表2 ベルギーの主要品目別輸出入(単位:100万ユーロ、%)(△はマイナス値)
品目 輸出(FOB) 輸入(CIF)
2022年 2023年 2022年 2023年
金額 金額 構成比 伸び率 金額 金額 構成比 伸び率
化学工業品 116,682 92,311 25.4 △ 20.9 91,176 91,074 23.7 △ 0.1
階層レベル2の項目医薬品 72,364 55,913 15.4 △ 22.7 45,904 49,718 12.9 8.3
階層レベル2の項目有機化学品 17,441 14,598 4.0 △ 16.3 24,907 24,473 6.4 △ 1.7
鉱物性生産品 90,016 49,414 13.6 △ 45.1 116,706 69,133 18.0 △ 40.8
階層レベル2の項目鉱物燃料、鉱物油及びその蒸留製品 88,518 47,921 13.2 △ 45.9 112,478 65,674 17.1 △ 41.6
輸送用機器 36,671 42,799 11.8 16.7 40,509 46,836 12.2 15.6
階層レベル2の項目自動車(鉄道用または軌道用除く) 35,678 40,805 11.2 14.4 38,730 45,318 11.8 17.0
機械および電気・電子機器 35,517 37,085 10.2 4.4 51,301 53,260 13.8 3.8
階層レベル2の項目原子炉・ボイラー、機械類、同部品 23,304 23,901 6.6 2.6 27,014 26,383 6.9 △ 2.3
階層レベル2の項目電気機器 12,213 13,184 3.6 7.9 24,288 26,876 7.0 10.7
金属及び金属加工品 32,246 27,822 7.6 △ 13.7 28,168 24,033 6.2 △ 14.7
階層レベル2の項目鉄鋼 16,969 14,266 3.9 △ 15.9 11,263 9,002 2.3 △ 20.1
調整食料品、飲料・アルコール、たばこ 22,319 25,414 7.0 13.9 14,527 15,825 4.1 8.9
プラスチック・ゴム、同製品 27,035 22,504 6.2 △ 16.8 18,650 15,916 4.1 △ 14.7
真珠・貴石・貴金属 20,600 14,361 3.9 △ 30.3 18,864 11,998 3.1 △ 36.4
動物・動物性生産品 9,729 9,846 2.7 1.2 8,779 8,268 2.1 △ 5.8
光学・精密機器 9,151 9,270 2.5 1.3 9,600 9,858 2.6 2.7
植物性生産品 7,594 7,793 2.1 2.6 11,344 11,060 2.9 △ 2.5
繊維、同製品 9,195 7,594 2.1 △ 17.4 7,800 6,963 1.8 △ 10.7
合計(その他含む) 440,490 363,880 100.0 △ 17.4 441,073 384,746 100.0 △ 12.8

〔注〕EU域外貿易は通関ベース、EU域内貿易は各企業のインボイス報告などに基づく。
〔出所〕ベルギー国立銀行(NBB)

表3 ベルギーの主要国・地域別輸出入(単位:100万ユーロ、%)(△はマイナス値)
国・地域名 輸出(FOB) 輸入(CIF)
2022年 2023年 2022年 2023年
金額 金額 構成比 伸び率 金額 金額 構成比 伸び率
EU 286,147 232,194 63.8 △ 18.9 272,127 257,454 66.9 △ 5.4
階層レベル2の項目ユーロ圏 257,410 203,765 56.0 △ 20.8 248,000 230,925 60.0 △ 6.9
階層レベル3の項目ドイツ 88,352 59,253 16.3 △ 32.9 52,644 48,262 12.5 △ 8.3
階層レベル3の項目オランダ 62,732 49,024 13.5 △ 21.9 93,078 81,544 21.2 △ 12.4
階層レベル3の項目フランス 55,081 46,057 12.7 △ 16.4 47,285 44,570 11.6 △ 5.7
階層レベル3の項目イタリア 16,594 16,852 4.6 1.6 19,565 15,033 3.9 △ 23.2
階層レベル3の項目スペイン 11,278 10,273 2.8 △ 8.9 8,369 9,269 2.4 10.8
階層レベル3の項目ルクセンブルク 7,620 6,929 1.9 △ 9.1 1,757 1,507 0.4 △ 14.2
階層レベル3の項目オーストリア 3,406 3,418 0.9 0.4 2,708 7,084 1.8 161.6
階層レベル2の項目非ユーロ圏 28,737 28,429 7.8 △ 1.1 24,127 26,529 6.9 10.0
階層レベル3の項目ポーランド 9,559 9,514 2.0 △ 0.5 6,753 6,857 2.6 1.5
階層レベル3の項目スウェーデン 6,387 6,624 1.8 3.7 5,957 7,120 1.9 19.5
階層レベル3の項目チェコ 3,682 3,520 1.0 △ 4.4 4,275 4,448 1.2 4.0
英国 22,525 21,648 5.9 △ 3.9 28,122 13,493 3.5 △ 52.0
トルコ 5,151 4,797 1.3 △ 6.9 3,453 3,111 0.8 △ 9.9
スイス 5,302 4,636 1.3 △ 12.6 8,233 9,642 2.5 17.1
ノルウェー 2,471 3,226 0.9 30.6 16,548 8,636 2.2 △ 47.8
アジア大洋州 36,225 26,515 7.3 △ 26.8 43,716 37,638 9.8 △ 13.9
階層レベル2の項目中国 6,004 6,299 1.7 4.9 15,143 13,204 3.4 △ 12.8
階層レベル2の項目インド 6,599 4,470 1.2 △ 32.3 5,420 4,048 1.1 △ 25.3
階層レベル2の項目日本 9,258 4,020 1.1 △ 56.6 8,508 8,259 2.1 △ 2.9
階層レベル2の項目韓国 2,883 1,854 0.5 △ 35.7 2,724 2,989 0.8 9.7
階層レベル2の項目オーストラリア 1,784 1,770 0.5 △ 0.8 1,058 1,080 0.3 2.1
北米 34,514 30,389 8.4 △ 12.0 30,582 31,302 8.1 2.4
階層レベル2の項目米国 29,750 25,652 7.0 △ 13.8 23,721 25,899 6.7 9.2
階層レベル2の項目カナダ 2,854 2,766 0.8 △ 3.1 3,592 2,892 0.8 △ 19.5
湾岸協力会議(GCC)諸国 6,876 6,347 1.7 △ 7.7 9,632 5,800 1.5 △ 39.8
階層レベル2の項目アラブ首長国連邦(UAE) 3,956 3,626 1.0 △ 8.3 1,910 1,405 0.4 △ 26.5
アフリカ 20,753 15,666 4.3 △ 24.5 9,356 6,999 1.8 △ 25.2
合計(その他含む) 440,490 363,880 100.0 △ 17.4 441,073 384,746 100.0 △ 12.8

〔注1〕アジア大洋州はASEAN+6(日本、中国、韓国、オーストラリア、ニュージーランド、インド)に香港、マカオおよび台湾を加えた合計値。
〔注2〕北米は、米国、カナダ、メキシコの3 カ国の合計値。
〔注3〕湾岸協力会議(GCC)は、UAE、バーレーン、クウェート、オマーン、カタール、サウジアラビアの6 カ国の合計値。
〔注4〕EU域外貿易は通関ベース、EU域内貿易は各企業のインボイス報告などに基づく。
〔出所〕ベルギー国立銀行(NBB)

対内・対外直接投資 
対内直接投資は情報通信や再エネ分野向けが活発化

2023年の対内直接投資(国際収支ベース、ネット、フロー)は、204億8,700万ユーロとなり、前年の91億6,700万ユーロから拡大した。国・地域別にみると、オランダからの投資が150億1,300万ユーロと、前年に引き続き最も多く、前年の58億1,000万ユーロから拡大した。次いで投資額が多いのはフランスだった。2023年は半導体や情報通信関連のほか、洋上風力や蓄電池などの再生可能エネルギー(再エネ)活用に向けた投資の動きが目立った。日本企業については後述のとおり、富士フイルムや、東京電力と中部電力が出資するJERAが大型投資を発表した。また、フランスのトタルエナジーズ(TotalEnergies)、英国のセントリカ・ビジネス・ソリューションズ(Centrica Business Solutions)、オランダのギガストレージ(GIGA Storage)が相次いでバッテリーパークの建設を発表した。情報通信分野では、ベルギーの通信3社〔VOO、テレネット(Telenet)、プロキシムス(Proximus)〕に対する株式取得の動きがみられた。

対外直接投資を通じて、市場の変化に対応

2023年の対外直接投資は、前年の217億2,600万ユーロから縮小し、116億5,700万ユーロとなった。国・地域別でみると、ルクセンブルクが最も多く162億9,800万ユーロとなった。次いで米国が37億600万ユーロとなった。主な対外直接投資事例をみると、市場の変化に対応するための投資が目立った。メディア産業のDPGメディアグループ(DPG Media Group)は2023年12月に、同業のRTLオランダ(RTL Nederland)を11億ユーロで買収することで合意したと発表した。消費者の視聴行動の変化や国際的なストリーミングサービスの影響により転換期を迎えるテレビ業界の変化に対応していきたい意向。通信大手プロキシムスは同年7月、音声通話やSMS(ショートメッセージサービス)、会議システムなどの各種コミュニケーションツールをAPI 注)連携によって提供するクラウドサービス(CPaaS)に特化しているインドのルートモバイル(Route Mobile)の株式57.56%を、約6億4,300万ユーロで取得することで合意したと発表し、2024年5月に買収を完了した。鋼線大手ベカルト(Bekaert)は2023年12月、スコットランドのフリントストーン・テクノロジー(Flintstone Technology)の株式75%を取得したと発表した。フリントストーンは世界の洋上風力発電市場向けに、係留技術や、システム設計、テストサービスなどを提供している。今回の買収を通じてベカルトは、浮体式の洋上風力発電設備向けの係留ソリューションの提供をさらに強化したい意向だ。

注)APIとは、あるアプリケーションの機能や管理するデータなどを他のアプリから呼び出して利用するための接続仕様・仕組みを指す。

表4 ベルギーの国・地域別対内・対外直接投資 [国際収支ベース、ネット、フロー](単位:100万ユーロ)(△はマイナス値)
国・地域名 対内直接投資 対外直接投資
2022年 2023年 2022年 2023年
金額 金額 金額 金額
欧州 41 14,900 13,720 9,995
階層レベル2の項目EU △ 2,072 19,563 14,240 5,433
階層レベル3の項目ユーロ圏 1,211 24,018 9,183 4,911
階層レベル4の項目ルクセンブルク 3,924 573 △ 3,044 16,298
階層レベル4の項目ドイツ n.a. n.a. 1,441 1,399
階層レベル4の項目スペイン n.a. 930 n.a. 448
階層レベル4の項目ポルトガル n.a. n.a. 212 195
階層レベル4の項目オーストリア △ 454 △ 214 △ 390 66
階層レベル4の項目フランス △ 2,799 4,921 7,483 △ 3,291
階層レベル4の項目オランダ 5,810 15,013 2,146 △ 12,639
階層レベル2の項目EU以外 2,113 △ 4,663 △ 520 4,562
階層レベル3の項目英国 4,436 △ 2,615 △ 983 3,574
階層レベル3の項目スイス △ 2,277 △ 1,947 137 353
階層レベル3の項目ノルウェー n.a. n.a. 44 32
アジア 2,096 △ 27 2,304 △ 3,848
階層レベル2の項目香港 620 △ 436 14 567
階層レベル2の項目中国(香港除く) n.a. n.a. 373 197
階層レベル2の項目日本 3,165 812 195 n.a.
米州 3,713 1,948 5,425 4,567
階層レベル2の項目米国 1,746 n.a. 4,359 3,706
アフリカ 2,643 3,868 188 91
大洋州 703 △ 175 89 852
合計(その他含む) 9,167 20,487 21,726 11,657

〔出所〕ベルギー国立銀行(NBB)

表5-1 ベルギーの主な対内直接投資案件(2023年~2024年1月) [M&A以外]
業種 企業名 国籍 時期 投資額 概要
半導体 富士フイルム 日本 2023年4月 約45億円 ベルギーにある半導体材料工場の製造設備を増強すると発表。投資額は約45億円で、2025年の稼働を目指す。半導体製造プロセスの基幹材料となる最先端半導体材料の製造設備の増強に加え、新製品の開発加速や顧客への技術サポート強化に向けて、研究開発や品質保証の設備も拡大する。
半導体 imec ベルギー 2023年7月 最大15億ユーロ ベルギー・フランダース政府と欧州委員会は、半導体の研究機関imec(本部:ルーバン)の最先端クリーンルームの拡張・増強に向け、それぞれ最大7億5,000万ユーロ、合計で最大15億ユーロを拠出すると発表。
バッテリー トタルエナジーズ(TotalEnergies) フランス 2023年5月 非公表 石油大手トタルエナジーズは、ベルギー北部アントワープで、定格出力25メガワット(MW)、容量75メガワット時(MWh)の蓄電池プロジェクトを実施すると発表。このプロジェクトは、同社にとって欧州最大の蓄電池設備となる。2024年末までに稼働予定。電力需要の平準化に貢献することで、ベルギーおよび欧州の高圧送電網のニーズを満たす。
バッテリー セントリカ・ビジネス・ソリューションズ(Centrica Business Solutions) 英国 2023年4月 非公表 ベルギー北部オステンドで24MWの蓄電池施設の建設を開始。同社にとって英国外で初となる同設備は、4万8,000世帯に2時間電力を供給できる蓄電能力を備え、再生可能エネルギー発電の需給バランスをとることに貢献する。
バッテリー ギガストレージ(GIGA Storage) オランダ 2024年1月 非公表 オランダとの国境付近のディルセン・ストッケムに、600MWの電力と2,400MWhの電力容量を持つ新しいバッテリーパークの建設を発表。送電事業者であるエリアが新たに設置する380キロボルト(kV)の高圧変電所に隣接し、オランダの送電網にも接続する予定。

〔出所〕 各社発表および報道などから作成

表5-2 ベルギーの主な対内直接投資案件(2023年) [M&A]
被買収企業(事業) 買収企業 時期 投資額 概要
業種 企業名 企業名 国籍
エネルギー パークウィンド(Parkwind) JERA 日本 2023年7月 約15億5,000万ユーロ 洋上風力発電事業者であるパークウィンドの株式100%を、約15.5億ユーロで取得すると2023年3月に発表。同年7月に株式取得を完了した。パークウィンドは、ベルギーを中心に欧州で複数の洋上風力発電事業を手掛けており、JERAは、同社のノウハウを、アジアを中心とした事業開発につなげたい意向。
通信 VOO オランジュ(Orange) フランス 2023年6月 非公表 ベルギーの子会社を通じて同業VOOの株式取得を完了したと発表。オランジュ・ベルギーはVOOの株式75%から1株を差し引いた株式を取得し、残りの25%プラス1株はネティスが保有する。本取引により、VOOの企業価値は資本金総額で18億ユーロとなる。
通信 テレネット(Telenet) リバティ・グローバル(Liberty Global) 米国 2023年10月 非公表 同業テレネットの株式の100%をスクイーズアウト(強制買い取り)により取得したと発表。これにより、テレネットは2023年10月上場を廃止した。
通信 プロキシムス(Proximus) キャラウン テレコム(Carraun Telecom) アイルランド 2023年11月 非公表 同業プロキシムスの株式の6.01%(2,030万株)を取得したと発表。
機械 ユニフライ(Unifly) テラドローン 日本 2023年7月 非公表 運航管理システムプロバイダーのユニフライ(本社:アントワープ)の株式51.0%を取得し、子会社化したと発表。2016年に両社は資本提携をしていたが、子会社化により、ドローン用運航管理システム(UTM)事業の強化を図る。

〔出所〕 各社発表および報道などから作成

表6-1 ベルギーの主な対外直接投資案件(2023年~2024年3月) [M&A以外]
業種 企業名 投資先国 時期 投資額 概要
食品 アンハイザー・ブッシュ・インベブ(Anheuser-Busch InBev) メキシコ 2023年9月 3億ドル ビール大手アンハイザー・ブッシュ・インベブは、メキシコの子会社モデロ(Modelo)を通じてグアナファト州サラマンカに3億ドルを投資。地元産トウモロコシを加工する工場を建設する。2024年までに1,000人以上の雇用を創出する。加工されたトウモロコシは、ビールの風味付けのために使用される。
バッテリー ABEE(Avesta Battery and Energy Engineering) ポルトガル 2023年3月 7,180万ユーロ フィゲイラ・ダ・フォズ市の1万7,000平方メートルの土地に、容量が0.5~1ギガワット時(GWh)の固体電池の研究開発センターを設立すると発表。実施段階(投資総額7,000万ユーロ)と開発・強化段階(投資総額180万ユーロ)の2段階で実施され、合計で2,200人以上の雇用を創出する。
化学 ソルベイ(Solvay) 中国 2023年9月 非公表 上海テクノロジーパークに新しい研究開発施設を設け、中国のリサーチ&イノベーションセンター(R&I)を拡大すると発表。ソルベイは2005年以降、R&Iに40億人民元(約5億ユーロ)以上を投資。現地の研究能力を強化することで、急速に進化する市場ニーズに対応し、持続可能なソリューションのイノベーションを加速させる。同施設には、先端材料の応用に特化した研究室が併設される。また、産業アプリケーションと消費財の双方の研究に対応した施設や、グリーン水素、エレクトロニクス、半導体などの重要産業向けのイノベーション・プラットフォーム、オートメーション&ロボティクス向けの研究室などを備える。
化学 ソルベイ(Solvay) 中国 2024年1月 非公表 太陽光発電の需要拡大に対応し、北京南方部の山東省の自社製造施設の過酸化水素の生産能力拡大を発表。山東陽谷華泰化工との合弁会社であるShandong Huatai Interox Chemicalの生産設備の増強で、2025年までに年間48キロトンの太陽光発電グレードの過酸化水素の生産を目指す。
半導体 imec スペイン 2024年3月 非公表 スペイン政府とアンダルシア州政府とともに、マラガに300ミリメートル(mm)ウエハーのパイロットラインを新設する意向を定めた覚書に調印したと発表。ベルギー・ルーヴェンの既存の300mmウエハーのCMOS(相補型金属酸化膜半導体)プロセスラインを補完し、ヘルスケアや拡張現実(AR)、仮想現実(VR)分野でのイノベーション促進を目指す。

〔出所〕 各社発表および報道などから作成

表6-2 ベルギーの主な対外直接投資案件(2023年~2024年5月) [M&A]
買収企業 被買収企業(事業) 時期 投資額 概要
企業名 業種 企業名 国籍
DPGメディアグループ メディア RTLオランダ オランダ 2023年12月 11億ユーロ 同業RTLオランダの買収で合意したと発表。消費者の視聴行動の変化や国際的なストリーミングサービスの影響により転換期を迎えるテレビ業界の変化に対応していきたい意向。
プロキシムス(Proximus) 通信 ルートモバイル(Route Mobile) インド 2024年5月 6億4,300万ユーロ インドのルートモバイルの株式57.56%を約6億4,300万ユーロで取得することで合意したと2023年7月に発表。2024年5月に買収が完了した。ルートモバイルは、音声通話やSMS、会議システムなど、通信に関わる各種サービスをAPIで連携・接続させるクラウドサービス(CPaaS)の提供に特化しており、今回の合併により、プロキシムスはCPaaSの提供規模(メッセージ量ベース)で世界3位に浮上する。
ジョン・コックリル(John Cockerill) 原子力 STIN フランス 2023年5月 非公表 機械エンジニアリング大手ジョン・コックリルは、フランス北部ダンケルクを拠点とするSTINを買収したと発表。STINは、製鉄所、製油所、原子力発電所向けの溶接・配管作業が専門。同社の買収により、水処理、冷却、電気塩素処理の技術提供を拡大し、原子力発電所関連事業を強化する意向。
べカルト(Bekaert) 洋上風力 フリントストーン・テクノロジー(Flintstone Technology) スコットランド 2023年12月 非公表 鋼線大手べカルトは、スコットランドのフリントストーン・テクノロジーの株式75%を取得したと発表。フリントストーンは世界の洋上風力発電市場向けに、係留技術や、システム設計、テストサービスなどを提供しており、今回の買収を通じてべカルトは、浮体式の洋上風力発電施設向けの係留ソリューションの提供をさらに強化したい意向。

〔出所〕 各社発表および報道などから作成

対日関係 
半導体と再エネ分野で日本からの大型直接投資

2023年の日本からの直接投資受入額(国際収支ベース、ネット、フロー)は、8億1,200万ユーロと前年の31億6,500万ユーロから大きく縮小した。大型案件としては、富士フイルムが2023年4月に、ベルギーにある半導体材料工場の製造設備に約45億円を投じて増強すると発表した。2025年の稼働を目指す。最先端半導体材料の製造設備の増強に加えて、新製品の開発加速や顧客への技術サポート強化に向けて、研究開発や品質保証の設備も拡大し、世界的な半導体需要の増加に対応する。同社は中期経営計画で、電子材料事業への研究開発と設備投資として1,100億円(3年間累計)の投資を計画している。東京電力や中部電力が出資するJERAは2023年3月、洋上風力発電事業者であるパークウィンド(Parkwind)の株式100%を、約15億5,000万ユーロで取得すると発表した。パークウィンドは、欧州の洋上風力発電の開発・運営に実績があり、JERAは本買収が再エネ供給基盤の構築につながるとしている。JERAは、パークウィンドが持つ洋上風力発電事業のノウハウを、アジアを中心に、今後参入を予定している市場での事業開発に活用する意向。また将来的には、グリーン水素など再エネ由来の低炭素燃料の調達・製造への貢献も期待するとしている。

対日貿易は医薬品の輸出縮小を背景に、赤字に転換

2023年の対日輸出は40億2,000万ユーロと、前年の92億5,800万ユーロから56.6%減と大きく縮小した。輸入は前年比2.9%減と僅かな減少にとどまり、82億5,900万ユーロとなった。輸出が大幅に減少し、輸入が前年規模を維持した結果、ベルギーの貿易赤字に転じた。最大の輸出品目である医薬品(構成比51.4%)が新型コロナワクチン需要の減少により70.7%減と大幅に縮小した結果、化学工業品(60.4%)全体で、67.8%減となった。前年3位の機械・電気機器(8.9%)は17.2%増となり輸送用機器を抜いて2位に浮上した。輸送用機器(8.1%)、光学・精密機器(7.0%)はそれぞれ7.9%減、5.8%減となった。輸入を品目別にみると、最大輸入品目の輸送用機器(68.1%)は前年比0.1%減とほぼ横ばいに留まった一方、2位の機械・電気機器(11.2%)、3位の化学工業品(5.5%)がそれぞれ14.2%減、12.9%減と縮小した。光学・精密機器(4.9%)も4.6%減となった。

表7 ベルギーの対日主要品目別輸出入 [通関ベース](単位:100万ユーロ、%)(△はマイナス値)
品目 輸出(FOB) 輸入(CIF)
2022年 2023年 2022年 2023年
金額 金額 構成比 伸び率 金額 金額 構成比 伸び率
化学工業品 7,553 2,430 60.4 △ 67.8 517 450 5.5 △ 12.9
階層レベル2の項目医薬品 7,056 2,066 51.4 △ 70.7 148 106 1.3 △ 28.5
階層レベル2の項目有機化学品 231 142 3.5 △ 38.5 189 165 2.0 △ 12.3
機械・電気機器 305 357 8.9 17.2 1,082 928 11.2 △ 14.2
階層レベル2の項目原子炉、ボイラー等 168 207 5.1 23.2 615 530 6.4 △ 13.9
階層レベル2の項目電気機械・同部品 137 150 3.7 9.8 467 399 4.8 △ 14.6
輸送用機器 353 325 8.1 △ 7.9 5,631 5,626 68.1 △ 0.1
階層レベル2の項目自動車 352 324 8.1 △ 7.9 5,631 5,625 68.1 △ 0.1
光学・精密機器 297 280 7.0 △ 5.8 423 403 4.9 △ 4.6
調製食料品、飲料・アルコール、たばこ 221 232 5.8 4.8 10 10 0.1 5.5
階層レベル2の項目ココア・同調整品〔注〕 77 76 1.9 △ 0.8 0 0 0.0 1,797.1
金属及び金属加工品 145 113 2.8 △ 22.6 139 162 2.0 16.5
プラスチック・ゴム製品 144 85 2.1 △ 40.8 503 458 5.5 △ 8.9
繊維製品 49 46 1.1 △ 5.3 67 79 1.0 17.8
真珠・貴石・貴金属材料 54 39 1.0 △ 28.9 38 26 0.3 △ 30.4
合計(その他含む) 9,258 4,020 100.0 △ 56.6 8,508 8,259 100.0 △ 2.9

〔注〕ココア・同調製品の輸入は、2022年が4,695ユーロ、2023年が8万9,070ユーロ。
〔出所〕ベルギー国立銀行(NBB)

基礎的経済指標

(△はマイナス値)
項目 単位 2021年 2022年 2023年
実質GDP成長率 (%) 6.9 3.0 1.4
1人当たりGDP (米ドル) 52,026 50,259 53,659
消費者物価上昇率 (%) 3.2 10.3 2.3
失業率 (%) 6.3 5.6 5.5
貿易収支 (100万ユーロ) 8,038 △ 7,682 △ 3,278
経常収支 (100万ユーロ) 6,649 △ 5,606 △ 5,669
外貨準備高(グロス) (100万米ドル) 28,566 28,023 25,735
対外債務残高(グロス) (100万ユーロ、期末値) 339,054 292,657 321,197
為替レート (1米ドルにつき、ユーロ、期中平均) 0.85 0.95 0.92


実質GDP成長率:暫定値
貿易収支:財のみ
貿易収支、経常収支:国際収支ベース
出所
1人当たりGDP、外貨準備高(グロス)、為替レート:IMF
実質GDP成長率、消費者物価上昇率、失業率、貿易収支、経常収支、対外債務残高(グロス):ベルギー国立銀行(NBB)