ベネズエラの貿易投資年報

要旨・ポイント

  • 2023年の実質GDP成長率は前年から後退したものの、4.0%とプラス成長を維持。
  • シェブロンの原油生産・輸出の再開による外貨供給が通貨下落やインフレを抑制。
  • 石油部門以外ではメタノール輸出の伸びが著しく、米中以外に市場を拡大。
  • 輸入では首位中国のシェアが一層高まり、全体の4割弱を占めた。

公開日:2024年7月26日

マクロ経済 
石油産業の回復や経済の安定により4%の成長

IMFの推計値では、ベネズエラの2023年の実質GDP成長率は4.0%と、2022年の8.0%からは後退したものの、プラス成長を維持した。OPECの資料によると、2023年のベネズエラの原油生産は日量平均74万9,000バレル(二次情報)と、前年比で5%増加した。月間でみると年初から約12万バレル増加しており、その大部分は2022年11月に米財務省外国資産管理局(Office of Foreign Assets Control:OFAC)から制裁緩和措置を受けた米国のシェブロン(Chevron)の生産再開によるものだった。なお、年間の消費者物価上昇率は190%(IMF推定値)と高率だったものの、民間企業の65%はドル建てで給与を支給しており、国内主要10銀行の預金残高の50%超が外貨建てというデータもあるなど、経済の実質ドル化が一層定着し、経済安定につながった。調査機関ベネズエラ金融観測所(Observatorio Venezolano de Finanzas:OVF)によると、2023年のドル建てのインフレ率は11.0%だった。

米国による経済制裁が継続し、外貨獲得源は相変わらず限定されているが、イラン等の友好国を介したアジア向け原油輸出が続けられ、外貨準備高は年間を通じ97億ドル前後を維持した。ベネズエラ中央銀行(以下、中銀)はボリバル貨の安定のため、為替介入により市場に外貨を投入した。また、シェブロンの生産活動に伴う外貨供給もあり、ボリバルの下落率は106%と、2022年の280%を大きく下回った。金融関連調査機関バンカ・イ・ネゴシオス(Banca y Negocios)は、2023年2月時点で月間3,000万ドル程度だったシェブロンによる市場への外貨供給額が同年12月には1億1,000万ドルまで拡大した、と推定している。中銀による2023年の為替介入額は約48億ドルに上ったものの、2022年の54億ドルからは減少している。

貿易 
米国向け原油輸出が再開、メタノール輸出も順調に増加

経済制裁で自由な輸出が不可能な中、国営石油公社(Petroleos de Venezuela SA :PDVSA)によるアジア向けの原油輸出に加え、2023年1月にはシェブロンによる米国向け輸出が4年ぶりに再開した。米国の輸入統計を見ると、2023年のベネズエラからの原油輸入額は34億5,900万ドルで、数量ベースで見ると、ベネズエラは米国にとって8番目の原油供給国となった。また、2022年に債務スワップによる原油引き取りが認められたスペインのレプソル(Repsol)、イタリアのエニ(ENI)の2社がスペイン向けに原油を輸出しており、現地統計によると、5億8,800万ドルの実績がみられる。なお、原油の品質改善に必要なナフサなどの希釈剤については、米国から新たに3億6,700万ドルの輸出が行われた。

OFACは2023年10月、ニコラス・マドゥロ政権と反政府派によるいわゆる与野党対話で大統領選挙に関する合意がバルバドスで行われたことを受け、ベネズエラの石油・ガス産業での取引を6カ月間認めるライセンスを発行した。ライセンスは6種類で、国営金採掘公社ミネルベン(Minerven)との取引や、ベネズエラ国債とPDVSA債の二次市場での取引などについても緩和した。これら一連の緩和措置によって、米国企業はPDVSAとの取引が可能となったほか、ベネズエラにとっては、アジア向け原油のディスカウント販売を避けることが可能となり、一気に輸出市場が開けることとなった。

2023年の石油部門以外の輸出は、4億7,200万ドルと前年比で24.8%減少した。品目別に見ると、メタノールを中心とする有機化学品が1億500万ドルと、前年比で19.0%増加し、最大の輸出品目となった。中国、米国以外に欧州や中南米諸国などにも市場を拡げている。エビを中心とする魚、甲殻類、軟体動物輸出は8,600万ドルで、前年比96.5%増加した。また、肥料はブラジル向けが急拡大し、前年比717.0%増の6,000万ドルとなった。一方、鉄鋼はトルコ向けの急減で前年比67.8%減、アルミニウムも主要輸出先のメキシコ、ポーランド向けがなくなり同36.1%減となった。2022年には好調だったこれらの品目の減少が全体の輸出額を押し下げる最大要因だった。なお国別に見ると、ブラジルが前年比303.2%増の1億700万ドルと大幅に増加し、最大の輸出先となった。主には化学肥料、メタノール、アルミニウムインゴットなどの品目が大幅に増加した。前年首位だった中国は、主力のメタノール、鉄鉱石が大幅に減少し、前年比29.3%減の6,300万ドルとなった。米国も電気ケーブルやメタノール、魚介類などの減少により、同31.5%減の5,100万ドルだった。

2023年の輸入は、79億7,800万ドルで、前年比で6.5%増加した。品目別に見ると、ボールなどの遊具・玩具が前年比6.6倍増の9億2,600万ドル、電気機器が同69.4%増の7億8,600万ドル、小麦やトウモロコシといった穀物が同7.2%増の6億3,900万ドルとなった。なお2022年5月から、国内で供給不足と見なされた品目を特別分類産品として、減税で輸入することが可能となった。2023年は同措置の対象産品として、エンジン、トウモロコシ、潤滑油など6億6,500万ドルの輸入実績がみられた。一方、国別で首位の中国からの遊具・玩具、電気回路用機器、エンジンなどの輸入が急増し、前年比67.5%増の29億9,200万ドルで、輸入全体の37.5%を占めるに至った。その他の主要国からの輸入は、軒並み減少した。2位の米国は、最大品目の大豆油かすが前年比で5.4%増加したものの、小麦やポリエチレンの減少により、全体では前年比11.1%減の11億6,300万ドルで、輸入全体に占める割合も14.6%と、中国と大差がついた。なお3位となったブラジルは、トウモロコシやコメを大幅に増やしたものの、大豆油や穀物調整食料品の減少により、前年比23.8%減の8億1,400万ドルにとどまった。このほか、2022年に国交を正式に回復したコロンビアや、パナマ、メキシコといった周辺国の減少が目立った。

表1-1 ベネズエラの主要品目別輸出(FOB)【通関ベース】(単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
品目 2022年 2023年
金額 金額 構成比 伸び率
有機化学品 88 105 22.2 19.0
魚、甲殻類、軟体動物 44 86 18.2 96.5
肥料 7 60 12.7 717.0
鉄鋼 131 42 8.9 △ 67.8
アルミニウム 53 34 7.3 △ 36.1
鉱石、スラグおよび灰 50 27 5.6 △ 46.8
電気機器 32 26 5.4 △ 20.0
無機化学品 1 18 3.9 1,544.2
食用野菜類 9 13 2.8 37.3
ココアおよび同調整品 8 10 2.1 25.1
合計(その他含む) 627 472 100.0 △ 24.8

〔注〕輸出は非石油部門のみ。
〔出所〕SENIAT(Global Trade Atlas)

表1-2 ベネズエラの主要品目別輸入(CIF)【通関ベース】(単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
品目 2022年 2023年
金額 金額 構成比 伸び率
遊具・玩具 140 926 11.6 561.2
電気機器 464 786 9.8 69.4
特別分類産品 724 665 8.3 △ 8.1
穀物 596 639 8.0 7.2
ボイラーおよび機械類、同部品 555 621 7.8 11.7
自動車・同部分品 262 371 4.7 41.9
食品工業残留物・くず、調製飼料 319 330 4.1 3.5
プラスチックおよび同製品 460 296 3.7 △ 35.6
動植物性油脂 445 227 2.8 △ 49.0
医療用品 245 209 2.6 △ 14.6
合計(その他含む) 7,495 7,978 100.0 6.5

〔注〕輸出は非石油部門のみ。
〔出所〕SENIAT(Global Trade Atlas)

表2-1 ベネズエラの主要国・地域別輸出(FOB)【通関ベース】(単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
国・地域 2022年 2023年
金額 金額 構成比 伸び率
ブラジル 27 107 22.7 303.2
中国 93 66 13.9 △ 29.3
米国 74 51 10.8 △ 31.5
オランダ 36 48 10.2 32.1
フランス 6 24 5.0 296.5
トルコ 56 20 4.2 △ 64.7
ベルギー 1 16 3.5 1,064.0
ドミニカ共和国 21 16 3.4 △ 23.8
コロンビア 12 15 3.1 20.6
スペイン 8 12 2.5 39.5
ベトナム 5 7 1.5 56.1
ペルー 0 6 1.3 1,069.7
パナマ 9 6 1.3 △ 34.2
インド 3 6 1.3 123.2
ポーランド 14 6 1.3 △ 57.9
トリニダード・トバゴ 1 5 1.2 401.5
インドネシア 4 5 1.1 50.6
韓国 3 5 1.1 80.7
プエルトリコ 1 5 1.0 235.0
イタリア 3 4 0.9 22.2
合計(その他含む) 627 472 100.0 △ 24.8

〔注〕輸出は非石油部門のみ。
〔出所〕SENIAT(Global Trade Atlas)

表2-2 ベネズエラの主要国・地域別輸入(CIF)【通関ベース】(単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
国・地域 2022年 2023年
金額 金額 構成比 伸び率
中国 1,786 2,992 37.5 67.5
米国 1,308 1,163 14.6 △ 11.1
ブラジル 1,069 814 10.2 △ 23.8
コロンビア 507 467 5.9 △ 7.7
パナマ 362 294 3.7 △ 18.9
アルゼンチン 255 261 3.3 2.4
メキシコ 328 208 2.6 △ 36.7
トルコ 257 200 2.5 △ 22.4
カナダ 135 157 2.0 16.1
インド 186 149 1.9 △ 19.8
ロシア 137 130 1.6 △ 5.0
スペイン 99 94 1.2 △ 4.5
イタリア 76 83 1.0 9.2
UAE 51 82 1.0 61.3
ペルー 79 77 1.0 △ 3.1
チリ 89 67 0.8 △ 25.0
ドイツ 66 65 0.8 △ 2.3
日本 44 53 0.7 20.5
イラン 6 53 0.7 798.4
ベルギー 30 48 0.6 59.4
合計(その他含む) 7,495 7,978 100.0 6.5

〔注〕輸出は非石油部門のみ。
〔出所〕SENIAT(Global Trade Atlas)

対日貿易 
日本からの自動車関連輸出は好調も、輸入は半減

日本の貿易統計によると、2023年のベネズエラ向け輸出は前年比72.8%増の5,825万ドルと、2022年に続き大幅に回復した。特に最大の輸出品である乗用車は、3,367万ドルと前年比でおよそ2.4倍となったほか、エンジンや自動車部品、バス用シャシ、二輪車など、貨物自動車とゴム製タイヤを除けば、自動車関連製品はいずれも好調だった。輸入では2022年の最大品目だったメタノールの輸入がなかったことが大きく響き、総額は1,333万ドルと、前年から半減した。そのほか、アルミニウムインゴットが前年比で半減した一方で、カカオ豆は631万ドルと若干回復し、急増した銅のくずは、全体の3割超を占めるに至った。

表3-1 日本の対ベネズエラ主要品目別輸出(FOB)
【通関ベース】(単位:1,000ドル、%)(△はマイナス値)
品目 2022年 2023年
金額 金額 構成比 伸び率
乗用車 14,021 33,671 57.8 140.2
ピストン式火花点火エンジン 3,703 4,613 7.9 24.6
貨物自動車 3,699 3,210 5.5 △ 13.2
二輪車 1,080 2,502 4.3 131.7
自動車用部分品及び附属品 1,544 2,276 3.9 47.4
原動機付きシャシ 791 1,290 2.2 63.1
特殊取扱品 616 1,231 2.1 99.7
ゴム製タイヤ(新品) 1,683 962 1.7 △ 42.9
エンジン部分品 501 861 1.5 72.0
液体ポンプ 379 770 1.3 103.4
合計(その他含む) 33,721 58,253 100.0 72.8

〔出所〕財務省「貿易統計」(通関ベース)

表3-2 日本の対ベネズエラ主要品目別輸入(CIF)
【通関ベース】(単位:1,000ドル、%)(△はマイナス値)
品目 2022年 2023年
金額 金額 構成比 伸び率
カカオ豆 6,040 6,311 47.3 4.5
銅のくず 951 4,328 32.5 355.1
アルミニウムインゴット 3,922 1,797 13.5 △ 54.2
灰及び残留物 363 2.7 全増
ラム酒その他類似品 377 227 1.7 △ 39.8
冷凍タコ等軟体動物 145 162 1.2 11.6
再輸入品 8 86 0.6 1,029.3
コーヒー 31 0.2 全増
収集品・標本 5 19 0.1 273.0
血液 3 0.0 全増
合計(その他含む) 27,924 13,333 100.0 △ 52.3

〔出所〕財務省「貿易統計」(通関ベース)

その他(政治情勢) 
大統領選を巡る政府の対応を受け、米国による制裁が復活

2022年11月にメキシコで行われた与野党対話で合意されたベネズエラ対外資産の凍結解除などに関する議論では進展がみられず、政権側は対話の道を閉ざした。しかし米国との水面下での交渉もあり、2023年10月にはバルバドスで2024年に行われる大統領選の公正な実施に関する合意が行われた。米国はこれを評価し、ベネズエラの石油・ガス産業での取引を6カ月間認める部分的な制裁緩和を実行した。並行して、国内の反政府派は2023年10月、大統領選に向けた統一候補を擁立するための予備選を実施し、9割を超える得票率でマリア・コリーナ・マチャド氏(ベンテ・ベネズエラ党)を選出した。しかしながらマチャド氏については、公職就任資格の停止措置などを受け、大統領選への出馬が叶わず、同氏の後継者も候補者登録手続き時のトラブルによって、立候補が不可能となった。これらの一連の流れが米国側によって、バルバドスでの合意内容を逸脱したものであると判断されたことで、2024年4月からは制裁の復活に至っている。

基礎的経済指標

(△はマイナス値)
項目 単位 2021年 2022年 2023年
実質GDP成長率 (%) 1.0 8.0 4.0
1人当たりGDP (米ドル) 2,090 3,422 3,659
消費者物価上昇率 (%) 686.4 234.0 190.0
失業率 (%) n.a. n.a. n.a.
貿易収支 (100万米ドル) n.a. n.a. n.a.
経常収支 (100万米ドル) △ 684 3,308 3,312
外貨準備高(グロス) (100万米ドル) 10,917 9,924 9,817
対外債務残高(グロス) (100万米ドル) n.a. n.a. n.a.
為替レート (1米ドルにつき、ボリバル、期中平均) 3.25 6.76 27.36

注:
実質GDP成長率、1人当たりGDP、経常収支は推計値。
外貨準備高(グロス):マクロ安定化基金(FME)を含む。
為替レート:2021年はデノミが実施された10月以降の平均、2023年は1~10月の平均。
出所:
実質GDP成長率、1人当たりGDP、消費者物価上昇率、経常収支:IMF
外貨準備高(グロス)、為替レート:ベネズエラ中央銀行