外国企業の会社設立手続き・必要書類
最終更新日:2023年07月12日
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外国企業の会社設立手続き・必要書類
ブラジルでの会社設立手続きは煩雑かつ言葉の問題があるため、進出企業はブラジル国内の弁護士事務所や会計事務所に委託するケースが多い。日本語あるいは英語が使える事務所も多数存在する。一般的に、設立が比較的簡単な有限会社形式をとるケースが多い。現地法人を設立しない駐在員事務所は特別なケースを除き認められない。会社設立自体は比較的短期間で可能だが、進出企業の場合には書類の準備(書類によっては公証翻訳人によるポルトガル語への翻訳や、在外公館でアポスティーユ公認確認が必要)や事業形態の検討、必要なライセンスの申請・取得を経て、事業スタートまでに半年から1年以上要する場合もある。
会社設立手続きの流れ
- 代理人の任命
- 会社形態の選択
- 会社定款の作成
- 会社登記
- 法人登録番号(CNPJ)の取得
- 資本金の送金、ブラジル中央銀行への登録
- 該当業界の許可取得
- 輸入許可・製造許可の取得
代理人の任命
ブラジルに居住するブラジル人のほか、帰化した外国人や役員用一時滞在ビザおよび居住許可を取得した外国人が会社を設立できる。新設企業の場合、現地の弁護士や会計士などを代理人に任命し、会社を設立するケースが多い。
駐在員が経営者になる場合、一時滞在ビザおよび居住許可を取得し、ブラジルに赴任後に会社設立名義人となった代理人と交代する(2017年11月の法律改正により「永住ビザ」が廃止され、「一時滞在ビザ」による「居住許可」の取得が必要になった。ビザについては「外国人の就業規則・在留許可、現地人の雇用」参照)。
会社形態の選択
ブラジルで事業活動を行うには「現地法人」の設立が必要となるが、外国企業が設立する現地法人は通常「有限会社」と「株式会社」のいずれかである(業種や事業目的によっては別の会社形態での会社設立も認められる)。ブラジルに進出している日本企業も有限会社の形態を選択する例が多い。銀行や保険会社等の一部の業種や、ブラジル証券市場に上場を予定する場合には、株式会社として会社を設立する必要がある。ブラジルでは、「駐在員事務所」という概念が法律上定められていない。また、外国企業の「支店」形態での会社設立には連邦政府による事前認可が必要で、特別なケースを除き認可されない。
有限会社の特色
- これまで2人以上の出資者が必要であったが、2019年の法律改正により単独出資者による有限会社設立が認められている〔2019年6月11日付規範命令第63号第2条、2019年9月20日付法律13874号第7条参照〕。2人以上の出資者で設立した有限会社を単独出資の有限会社に移行することも認められる。出資者は法人・個人のいずれでもよい。
- 最低資本金の規定はない。
- 出資者は会社に出資した出資金の範囲で責任を負う。
- 業務執行者(日本の取締役の役割を担う者)は最低1人でよい。業務執行者の任期を定める必要はない。
- 経営審議会は不要(任意で設立することも可能)。
- 共同出資者全員が書面で議決する場合や単独出資者による有限会社の場合、出資者総会の開催は不要。
- 定款記載事項を変更する場合、州商業登記所への登記が必要。
- 増資、株式譲渡、定款変更、会社清算手続き等は、75%以上の出資者の合意により可能。非出資社員を業務執行者に任命する場合、資本の払込みが完了していれば、出資者の3分の2以上の承認が必要。資本の払込みが完了していなければ、出資者100%の承認が必要。
- 財務諸表は、最低年1回開催される出資者総会で承認されればよく、公告は不要。ただし、前年の総資産が2億4,000万レアル超、あるいは年間売上高が3億レアル超の“大規模有限会社”の場合には必要となる。
- 外部の会計監査人は不要。ただし、“大規模有限会社”の場合には必要。
- 零細・中小企業向け簡易税務申告制度のシンプレス(SIMPLES NACIONAL)の選択が可能。ただし、法人や海外居住者が出資者に含まれる場合には適用できず、業種や売上高の制限もある。
株式会社の特色
- 株式会社法の適用を受ける。
- 公開会社または非公開会社として設立することができる。
- 最低2人以上の株主が必要。
- 年に1度の定時株主総会の開催が必要。
- 経営審議会あるいは株主総会で任命された2人以上の業務執行者によって構成される役員会の設置が必要。業務執行者の任期は最長3年だが、再選可能。
- 株主総会で任命された3~5人で構成される監査役会の設置が必要。
- 公開会社の場合、証券取引委員会の規則が適用される。
- 公開会社の場合、3人以上で構成される経営審議会の設置が必要。
- 財務諸表の公告が必要。
- 出資者の加入、脱退は株式移転台帳に反映されればよく、会社定款の改定は不要。
- ブラジル証券市場への上場が可能。
会社定款の作成(ここでは「有限会社」をベースに記述)
会社定款に規定すべき主な項目は次のとおり。
- 会社商号
事前に商号を調査し、同一の商号の有無を確認する。一般的に、商号の一部に主たる業務内容を入れる必要がある。 - 会社の所在地
所在地を説明する書類(賃貸契約、使用許可など)が必要。所在地によっては、事業活動が制限される。 - 事業目的
設立時の定款の事業目的は必要最低限のものに留め、必要に応じ事業内容を後から追加・変更していくのが一般的。定款の事業目的に“輸出入業務”や“製造業務”等を加えると、設立時に関係するライセンスの取得等が必要となり、手続きに長時間を要する。 - 出資者・出資比率
出資者および出資比率を定款に記載する。出資者は個人あるいは法人のどちらでもよく、ブラジル国籍か否かは問われない。
ブラジルに居住しない外国人・外国企業が出資者となる場合は、ブラジルに居住するブラジル人または役員用一時滞在ビザを保有する外国人を法定代理人に任命する。 - 業務執行者
会社のサイン権限を持ち会社を代表し業務を行う業務執行者を最低1人選任する。個人の出資者が業務執行者になることもできる。業務執行者の権限を定款内に規定する必要がある。
業務執行者は、ブラジルに居住するブラジル人、または役員用一時滞在ビザを保有する外国人がなることができる。駐在員が役員用一時滞在ビザを取得し赴任するまでの間は、現地の弁護士や会計士等を業務執行者に委任するケースが多い。
会社登記
設立する会社が有限会社・株式会社の場合には、法人民事登記所(Cartório de Registro Civil das Pessoas Jurídicas)に登記する。
法人登録番号(CNPJ)の取得
定款登記が終わると国税庁より法人登録番号(CNPJ)が発行される。法人登録番号は銀行口座の開設などにも必要。
資本金の送金、ブラジル中央銀行への登録
最低資本金の規制はない。また、会社設立の段階で資本金の送金は必要ないが、外国企業が会社を設立し駐在役員を置く場合、60万レアル相当額以上の投資を行うことにより駐在役員1人分の役員用一時滞在ビザが発給される。複数の役員用一時滞在ビザが必要な時は、60万レアル相当額×人数分の投資が必要。
投資後2年以内にブラジル人従業員10人以上の雇用を計画している場合、15万レアル相当額の投資で1人分の役員用一時滞在ビザの申請ができる。資本金は円やドルで送金することができるが、外貨預金口座の開設は原則、認められないため、ブラジル通貨(レアル)への換金が必要となる。
資本金をブラジル国外から投資する場合にはブラジル中央銀行への登録も必要となる。この登録を行わない場合、駐在員の役員用一時滞在ビザの申請、配当金の国外送金や投資引き上げの際の権利が確保されない。
企業が出資者となる場合には、外国企業も法人登録番号(CNPJ)の取得が必要となる。
該当業界の許可取得
業種にや事業内容よっては、各業界が定める許可の取得や登録が必要。例えば、金融機関、保健会社、製薬会社、食品会社、輸出入業者など。工場の建設・操業等では環境ライセンスが必要となり、その基準や取得手続きは工場が所在する州や市により異なる。
輸入許可・製造許可の取得
輸出入業務を行う場合、連邦税務局へ申請し通関業者活動追跡登録(Registro e Rastreamento da Atuacao Dos Intervenientes Aduaneiros:RADAR・ハダール)の資格取得が必要(RADARの規定については「貿易管理制度:輸入管理その他」参照)。
RADARは以下の3種類に分類される。いずれも輸出額に制限はない。
- 特急資格(Submodalidade Expressa)
株式を公開している株式会社や公社、官民混成会社に対して付与されるライセンス。輸入金額に制限はない。 - 年間輸入額の制限付き資格(Submodalidade Limitada)
財務能力が15万ドル以下の企業に対し付与されるライセンス。財務能力が5万ドル以下の場合、6カ月ごとに5万ドルまでの輸入が可能。財務能力が5万ドル超15万ドル以下の場合、6カ月ごとに15万ドルまでの輸入が可能。 - 年間輸入額の無制限資格(Submodalidade Ilimitada)
財務能力が15万ドルを超える企業に対し付与されるライセンス。輸入金額に制限はない。
※会社・ビジネスの簡易登記・認可ネットワーク(Redesim)
連邦政府、州財務局、州商業登記所、自治体(市)、連邦税務局、小企業・零細企業支援サービス機関(SABRAE)等が連携し、2007年にスタートした制度〔2007年12月3日付法令第11598号〕。
同制度を採用した自治体で会社を設立する場合、現物書類の提出が省略され、WEB経由で会社設立申請ができる。最短で5営業日以内に会社設立が認可される。主に小企業・零細企業で、ビジネスリスクが低いとされる事業を行う企業が同制度の対象となる。サンパウロ市も同制度を採用している〔2016年9月8日付行政令第57298号〕。
外国企業の会社清算手続き・必要書類
ブラジルから撤退する場合、投下した資本を出資者に送還できる。会社の清算・撤退手続きとそれに要する時間は、進出形態や投資優遇措置を受けているか否かによっても異なる。一般的に、会社の清算には長い時間を要する。
ブラジルに設立した会社を清算し、撤退する場合、払込資本金を出資者へ送還できる。ただし、現地会社への投下資本がブラジル中央銀行に登録されており、かつ、純資産がマイナスになっていないことが条件。
払込資本金を超える金額を送還する場合、差額はキャピタル・ゲインとみなされ源泉所得税の課税対象となる。
税率はキャピタル・ゲインの額により異なり、500万レアル以下15%、500万超~1,000万レアル以下17.5%、1,000万超~3,000万レアル以下20%、3,000万レアル超22.5%。
会社の清算および撤退手続きとそれに要する時間は、進出形態(販売・サービス会社か、製造会社か)や、投資優遇措置を受けているか否か等により異なる。
一般的に、規模の小さな企業では相対的に手続きを簡単に進めることが可能。 製造会社などでは、人員整理に伴う労働裁判や土地・工場の売却などに長時間を要するケースが多い。また、事業規模が大きい場合には、詳細な税務検査が行われ、清算手続きに長い時間を必要とする。
投資優遇措置を受けていた場合には、通常の手続きに加え、所管の監督機関に対する手続きが発生するため、さらに時間を要する場合もある。税制恩典を受けた企業が撤退する場合には、遡及して税の支払いを求められるなどのペナルティが課せられることもある。
税務や労働債務問題が未解決の場合、原則として会社の清算は認められない。ブラジルの税務訴訟の提訴期間は5年、労働訴訟の提訴期間は従業員の退職または解雇後2年のため、この期間内に清算手続きを完了させることは容易でない。会社登記を完全に抹消するまで、長期にわたり法人格を存続し続けなくてはいけないケースもある。
会社の清算手続き
会社の清算・消滅に必要な一般的な手続きは次のとおり。
- 臨時株主総会で会社清算を決議、清算人を任命
臨時株主総会を開催し、会社の清算を決議し、清算人を任命する。
清算人は会社の財産の管理、資産の現金化、残余債務の支払い、総会の開催・議事録の作成、所轄機関(州商業登記所や連邦・州・市の税務局、国立社会保障院(INSS)、地方労働監督局、組合等)への必要な手続きなどを行う。 - 州商業登記所に対する解散決議の登記
清算決議決定の日から30日以内に、会社の本店が所在する州の商業登記所で会社清算の総会議事録を登記する。 - 会社の清算を公告
清算人は官報および広く流通している新聞に会社の清算を公告する。 - 会社登録の更新
法人登録番号(CNPJ)や国立社会保障院(INSS)、勤続年数保証基金(FGTS)など、会社が清算手続き中であることを通知する。 - 清算手続き中の会社業務
会社の法人格は清算手続き中も存続しており、会社の商号の使用は可能。ただし、社名に「清算中」の文言の追加が必要。会社業務は必要最小限に制限され、新たな業務を引き受けることや契約を締結することなどはできなくなる。 - 債務の弁済および資産の分配
清算人は会社の資産や所有物、未払債務の処分を行い、債権者に対する債務の弁済を行う。残余財産の株主への分配は、すべての債務の弁済の終了後、または資産価値が債務を十分上回る場合に認められる。 - 清算手続きの完了(会社の消滅)
清算人は総会を開催し、清算手続きの完了と会社の消滅を承認する決議を行い、総会議事録を州商業登記所に登記する。その際、国立社会保障院(INSS)と勤続年数保証基金(FGTS)への納付金、税金の完納証明の提出が必要となる。会社の清算が州商業登記所に登記されることにより、正式に会社が消滅したことになる。
清算人は、会社の消滅の事実を官報や広く流通する新聞に公告する。
出資者またはその代理人は、法人登録番号(CNPJ)や国立社会保障院(INSS)、勤続年数保証基金(FGTS)の登録を中止し、ブラジル中央銀行に対する外国投資登録の中止手続きを行う。なお、税務や雇用契約に関連する書類は、係争リスクが時効により消滅するまでの期間、保存することが義務付けられている。
その他
ブラジルは借入金利が高く、国内での資金調達手段は少ない。そのため、他国・地域への進出に比較し、親会社からの出資金を資金計画の柱にし、事業拡大などによる資金需要には増資で対応するケースも少なくない。外資系企業は親会社からの借入れ(いわゆる親子ローン)や外貨建てローン、輸出企業は輸出ファイナンスなども利用。ブラジル国内で銀行業務を行っている邦銀は、三菱UFJ銀行、三井住友銀行、みずほ銀行の3行。
短期の現地通貨建て融資は、邦銀、地場銀行ともに取扱っている。中・長期の現地通貨建て融資は、国立経済社会開発銀行(BNDES)の制度金融を除き、高金利のため利用実績は限られている。
ブラジル国内の銀行からの外貨建て借入れや、外国の銀行や親会社からの外貨建て借入れの利用も可能。外貨建て借入れは現地通貨建て借入れと比較し低金利で長期の借入れが可能だが、為替リスクが発生する。現地会社の為替リスクを避けるため、現地通貨建ての親子ローンを採用する日系企業もある。
輸出入取引を行う企業の場合は、税務面での優遇措置がある貿易金融を利用するケースも少なくない。
国内での外貨口座の開設は、銀行や保険会社、旅行代理店、外国公館等の特定業種を除き原則として認められていない。また、ブラジル国外の銀行での銀行口座開設も、原則認められていない。
外貨建て借入れ
- ブラジルの銀行からの外貨建て借入れ
ブラジルの銀行が外国で外貨を調達し、これを国内企業に転貸するシステム。
契約は外貨建てだが、受け払いは現地通貨で行われる。外貨建てのため、一般的に借入金利は国内の現地通貨建てに比べ低い。長期借入れが可能だが、借り手は為替リスクを負う。 - 企業による外国からの外貨建て借入れ
ブラジル企業による外国の金融機関や親会社からの外貨建て借入れ方式で、いわゆる“親子ローン”も含まれる。受け払いは現地通貨で行われる。借入条件をブラジル中央銀行システムに登録する必要がある。
金利に対する源泉所得税は15%。貸出人が日本の居住者であれば日本ブラジル租税協定が適用され12.5%。親会社からの借入れを資本に切替えることも可能。 - 貿易ファイナンス
輸出前貸(ACC)、輸出手形買取(ACE)、輸入ファイナンス、輸出ファイナンスなどがある。
輸出前貸と輸出手形買取は、実行時に外貨建ての輸出債権額を上限に、現地通貨に転換した金額を調達。返済は輸出債権の回収代金を銀行に直接支払うため、輸出代金決済時の為替手続きが不要。
輸出振興の目的から、輸出前貸と輸出手形買取および輸出ファイナンスでは、金利に対する源泉所得税と金融取引税が免除。輸出前貸と輸出手形買取ともに、原則キャンセルは認められず、輸出契約が成立しなかった場合にはペナルティが科される。
国内通貨建て借入れ
固定金利式と変動金利式がある。為替リスクはないが、一般的に借入れ金利は高い。短期資金の調達手段として利用されるケースが多い。国立経済社会開発銀行(BNDES)の制度融資を除き、長期の資金調達は難しい。
金融取引税の対象となり、税率は借入れ時に0.38%、借入期間に応じ日歩0.0041%(上限は365日分で1.4965%)。1年間の借入れを行う場合、金融取引税だけで合計約1.88%発生する。
国立経済社会開発銀行(BNDES)の融資制度
国内産業の育成、近代化、輸出促進を目的に、支援目的別に各種融資制度を扱っている。一般の融資に比べて低利で、現地通貨建ての長期借入が可能。借入条件(金利、借入期間、限度額、資金使途等)は、融資プログラムと借り手の与信により異なる。経済情勢に応じ、特別プログラムも実行している。実際の借入れは、BNDESに登録された金融機関を通じて行われる。
国際協力銀行(JBIC)がBNDESに資金を提供し、優遇条件で融資を行う2ステップローンの制度もある。