1. サイトトップ
  2. 国・地域別に見る
  3. アジア
  4. ベトナム
  5. マーケティング情報
  6. 外資系外食産業の多くがホーチミン市中心に展開 ‐ 2大都市で消費行動に大きな相違
外国産品の先行事例分析

外資系外食産業の多くがホーチミン市中心に展開 ‐ 2大都市で消費行動に大きな相違

2010年12月
分野:食品・農林水産物

外国産品の市場浸透の要因

外国産品がベトナム市場に浸透するようになった第一の要因は、ベトナムの人々の所得の向上にある。統計総局の家庭生活基準調査によると、2008年のベトナム全体の平均月収は99万5,000ドン(約51ドル)、都市部においては160万5,000ドン(約82ドル)である。平均所得は2002年からの6年間で2.8倍に上昇している。2008年の貧困率は全体で13.4%、特に都市部での減少が著しい。

表1:都市部と農村部における平均月収、貧困率、年間平均消費者物価指数の前年比
2002年 2004年 2006年 2008年
平均月収
(1,000ドン)
全体 356.1 484.4 636.5 995.2
農村部 275.1 378.1 505.7 762.2
都市部 622.1 815.4 1,058.40 1,605.20
ハノイ(※1) 621 806.9 1,050.00 1,719.60
HCMC 904.8 1,164.80 1,480.00 2,191.70
貧困率(%)
(※2)
全体 23.2 15.5 13.4
農村部 26.4 18 16.1
都市部 13.7 7.7 6.7
ハノイ(※1) 3 2.4
HCMC 0.5 0.3
年間平均消費者物価指数の
前年比上昇率(%)
7.5 7.7 6.9

※1, 統計局の定義では、1人当たりの月収でみた2002年の貧困ラインは農村部で11万2,000ドン、都市部で14万6,000ドン。2004年はそれぞれ12万4,000ドンと16万3,000ドン。2006年は20万ドンと26万ドン。2008年は29万ドンと37万ドン。
※2, 2008年にハノイは近隣省を含み拡大したが、調査対象は旧ハノイ。

出所:統計総局

統計総局では2009年の家庭生活基準調査を実施していないが、一部オンラインニュースでは2009年のハノイでの平均月収は265万ドン(約136ドル)、ホーチミン市では386万1,000ドン(約198ドル)と報道されている(※3)。

収入の増加は経済発展に伴うインフレによるところも大きいが、貧困率の低下は人々の生活が豊かになっていることのあらわれといえよう。市場調査会社TNS Vietnamの最近の調査によると、高所得者層は月収900万~1,500万ドン(約462~769ドル)超で人口の5.4%、中間層は同650万~1,500万ドン(約333~759ドル)で16.6%、最も収入が低いグループが平均月収150万~450万ドン(約77~230ドル)であった。高所得者層と中間層は人口の4分の1程度にすぎないが、生活水準は大きく改善している(※4)。

所得の向上と生活環境の変化に伴い、これまで伝統的市場で日々の買い物を行ってきた消費者が、近代的流通形態(スーパーマーケットやコンビニエンスストア)を利用するようになった。とくに収入の高い都市部を中心に、スーパーマーケット各社は大幅に店舗を拡大している。

ホーチミン市で広く活動を行うスーパーマーケットCoop Martは、1996年に1号店を開店、10年後の2006年12月には全国で15店舗だったものが2007年と2009年にそれぞれ9店舗ずつ増え、2010年10月には44店舗まで拡大した。2010年にはハノイにも進出した。ハノイを中心とする北部地域で一般的なスーパーマーケットとしては、Hapromart(全28店舗)、Fivimart(全14店舗)が挙げられるが、こちらも2007年以降店舗拡大が相次いでいる。

スーパーマーケットの利点は、1.夜遅い時間でも利用できる、2.定価が表示されているため値引き交渉が不要、3.売り手の仕入れ状況や天候などによって日々販売価格が変わり朝や夕方しか開いていない伝統的市場よりも、便利で安心して商品を購入できる、ことである。またスーパーマーケットは品揃えが豊富で、食品だけでなく衣料品や生活雑貨まで揃い、一度に用を済ませることができる。冷蔵設備も整っていることから、乳製品や加工食品、冷凍食品も安心して購入でき、中・高所得者層を対象に、伝統的市場や個人商店では扱っていない輸入食品も見られるようになった。価格は伝統的市場よりも高いものの、品揃えの豊富さ、製品の品質、安全で衛生的な店舗設計により、多くの消費者から高い満足度を得ている。また最近ではホーチミン市を中心に、24時間営業のコンビニエンスストアも展開し始めている。

所得の上昇に伴う近代型流通形態の増加と利用率の向上が、外国産品・輸入食品の市場浸透に大きく影響している。旧来型の伝統的市場では青果以外の輸入食品の扱いはほとんど見られず、外国産品では衣服やプラスチック製品など生活雑貨が主流であった。一方で、設備が整い取扱商品が豊富な近代型流通形態では、消費者が輸入食品に触れる機会が多い。また所得の上昇で生活にゆとりが生じはじめた都市部では、より新しいもの、高価なものや、流行品を求めるようになり、中・高所得者層の間で加工食品や輸入食品への興味や関心が見られるようになった。食品を購入する際の基準は「安価」から「安全」で「おいしい」ものへと変化しており、より「健康」に関心を持つようになった。価格よりも利便性を重視する傾向もみられ、贅沢品もこの層を中心に強く伸びている。塩やしょうゆ、砂糖、みそなどベトナム国内で生産できるものまで幅広く外国産が輸入されるようになったが、それらは国内産の数倍の価格で販売されている。

「安全」で「便利」な近代型流通形態の利用は今後もさらに拡大することが予想され、それに伴い、国内食品産業や輸入食品産業もさまざまな分野での開発、展開が見られるようになるものとみられる。

※3, Stockbizオンラインニュース、Nam Dinhオンラインニュース
※4, Sai Gon Tiep Thi新聞 2010年8月30日 P.4

政府の促進策

外国産品の消費を促進する政策は特にとられていないが、ベトナムと諸外国との間でいくつかの自由貿易協定(FTA)が結ばれており、低減税率の適用、もしくは関税が近く0%になる食品は多い。例えば2010年1月1日から、ASEAN・オーストラリア・ニュージーランド自由貿易協定(AANZFTA)により、オーストラリア、ニュージーランド、ASEAN諸国から輸入される食品、家きん、果実など約1,000品目が税の優遇を受けている。その他、ASEAN・中国自由貿易協定(ACFTA)の早期関税引き下げ措置(アーリーハーベスト)により、2015年以降中国からの輸入品約8,000品目の輸入関税が0%になる予定である。これら優遇措置によりベトナム市場に流入する諸外国産の食品は増加傾向にあり、特にアーリーハーベスト措置が適用されるようになると、中国産果実は輸入果実の約30%を占めるようになるという報道もなされている(※5)。中国産果実はベトナム産よりも種類が豊富で、パッケージや保管の状態から見た目にも美しく、多くのベトナム人消費者に好まれている。中国産食品の品質や安全性に対する懸念などから、以前に比べれば中国産を敬遠する傾向が見られるようになったものの、低所得者層が大半を占めるベトナムでは、価格の安い中国産は今もなお根強い支持を得ている。

一方で、輸入食品の安全性も問われるようになっている。2008年、2009年には残留農薬で汚染された野菜、メラミン混入粉ミルク、賞味期限切れの動物性内臓食品など、安全基準を満たしていない輸入食品が数多く摘発され、大きく報道された。それに伴い消費者の国産食品への意識も高まったが、一方で大量輸入される安価な食品も多く、市場には多くの輸入食品が溢れている。

輸入食品が増加傾向にある中、政府は2010年に、1.輸入肉(豚肉、牛肉、鶏肉等)の品質管理の強化(※6)、2.食肉の輸入税率の30~40%への引き上げ、3.その他の食品の輸入税率も10~40%とする(※7)など、国内食肉産業の保護と危険な輸入食品の流入の排除を図る措置をとっている。

※5, Sai Gon Tiep Thi新聞 2009年12月30日 P.6
※6, 農業農村開発省通達29/2010/TT-BNNPTNT号。2010年7月1日からベトナムに入る全ての輸入肉は品質を満たし、SPS協定(衛生植物検疫措置の適用に関する協定)などの国際規定や、EUや米国などベトナムの貿易相手相当の規定に適合したものでなければならず、違反企業は輸入が停止される。
※7, 財務省通達133/2010/TT-BTC号。10月24日より多くの輸入食品で関税率の引き上げがなされている。

マーケティング・ブランディング

外資企業による現地生産品や外食産業は、市場浸透のためのさまざまなマーケティング・ブランディング活動(販売戦略・広告活動)を行っているが、外国から直接輸入される輸入品については必ずしも効果的な販売戦略や広告活動が行われていないのが現状である。外国産品に興味や関心のある消費者は増加しているが、市場全体から見ると、所得の高いごく一部の層にすぎず、輸出企業や販売業者はマーケティング・ブランディング活動に消極的である。外国産品に興味や関心のある一部の消費者にとっては、どの企業のどの製品がよりよく、安心して利用できるのかについての情報が不十分であり、過去の購買経験や口コミ、店頭でのPOP広告などから判断せざるを得ない状況である。

マーケティング・ブランディングに成功している先行事例

国内の食品メーカー大手Ajinomoto Vietnam社では、2005年にマヨネーズ「LISA」の発売を開始し、それまで「マヨネーズ」に親しみのなかったベトナム市場で売上を急激に伸ばし、今や一般家庭でも常備されるようになった。当製品は「新鮮卵ソース」のキャッチコピーで、新鮮な卵、植物性油、天然酢を原料として使用し、安全であることを強くアピールしている。商品には「ベトナム人の口に合うよう調合され、いろいろな料理にすばらしいおいしさをプラス」といった記載がなされ、広告では茹でエビやサラダ、ベトナム風サンドイッチやフライドポテトなど、日々の食事に利用できる便利で、おいしい、安全な食品であることを市場へのメッセージとした宣伝が行われている。マヨネーズのほかにも、同社では「LISAシリーズ」としてしょうゆ、酢、みそなど、さまざまな新商品を発売している。これらは、日本で販売されているマヨネーズ、しょうゆ、酢よりも、酸味が少なかったり、ベトナム調味料独特の風味があったりと、ベトナム人の嗜好に合わせ、ベトナムの市場にあった商品開発が行われていることが分かる。

外食産業の代表例であるケンタッキーフライドチキンでは、米食文化を反映し、より市場に受け入れやすいようにライスセットを開発している。ライスにチキン、スープがついたセットは、日本や欧米諸国ではみられない、東南アジア独自の戦略といえよう。また発売当初はオリジナルチキンが主要商品だったものが、スパイシーチキンにてりやきチキン、タコスやサラダなど、次々と新商品を登場させている。家族連れの利用が増加していることから、おもちゃ付きのキッズセットも登場した。特に最近では市場の「健康」志向の高まりを考慮してか、フィッシュ系の商品開発が進んでいる。メインディッシュだけでなく、アイスクリームやパイなどのデザート類も続々と登場しており、中高生をはじめ、家族連れに大変な人気となっている。新製品を続々と投入することでメニュー数も増え、流行に敏感な都市部の若者を中心に利用客が絶えない。またスーパーマーケットや大型ショッピングセンターに入居するなど、買い物のついでに軽食を取れる便利な場所に立地していることが多い。最近ではサービスの一環としてデリバリーもはじめ、都市部中心地であれば電話一本で無料配達を行っている。

その他、ロッテリアやBBQチキンなどの主要ファストフード店でも商品開発は著しい。日々めまぐるしく変化する外食産業では、各店とも既存のメニューだけでは他店に太刀打ちできない状況が見てとれる。また外資系外食産業でファストフード店に次いで進出の多い高級カフェでも、商品開発は頻繁に行われている。

南部・北部での市場の違い

ベトナムの主要都市であるハノイ、ホーチミン市は、消費者の購買行動もそれぞれ異なる。北部の消費者は社会的、歴史的背景から南部よりも保守的であり、市場に出回っているか、自分が利用したことのある商品に親しみを持ち、ブランドに忠実で、食品の場合はより味を重視する傾向がある。一方で南部は市場が開かれて競争が激しいため、商品の宣伝やマーケティングに積極的で、サービス・ケアを重視する。南部では商品がより簡単に受け入れられ、新しいモノ好きで、サービスの質やその場の雰囲気に注意を払う傾向が強い。

Nielsen Vietnam社の2009年調査によると、ホーチミン市の消費者は、購入を決定する際に他人の意見をさほど参考にせず、主に自分自身の必要性と欲求に従って判断している。一方ハノイの消費者は、さまざまなところから意見を聞いたうえで購入するかどうかを決めている。またホーチミン市の消費者は、自身の消費のために銀行などでお金を借りることを厭わないが、ハノイの消費者は約半数がこういった形での消費に否定的であるといわれる。また特徴的なのは、ハノイの消費者は71%が高級品を非常に好むと回答したことである。ハノイの消費者は、携帯電話や化粧品といった価値のある商品などの高級品に惹かれやすく、こういった高級品に喜んで高いお金を出す。一方ホーチミン市の消費者は、本当に必要なものしか買わないという傾向がある。ホーチミン市でも高級品を好む消費者は多いが、そのうち48%は、そういった品物は自慢や周囲の注意をひきたい人が使うものと捉えている(※8)。

これら主要2都市での消費者の購入パターンの違いは、それぞれの都市でのスーパーマーケットの展開や外食産業、輸入食品産業の戦略にも強く反映している。ハノイでは「良品は宣伝せずとも売れる」というスタイルでの活動を行うスーパーマーケットが多いため、市場が求めている商品ではなく、今ある商品を売るというスタンスで、マーケティングに慣れていないか、長期戦略に欠ける。一方ホーチミン市では、「流行」は「ブランド」と同義であり、常に新しいものを求める消費者に対応すべく、市場が求める商品開発やサービスの向上、ケアに余念がない。また本調査にあたっての聞き取り調査でも、南部企業はより協力的で情報公開に寛容であるのに対し、北部企業は閉鎖的、非協力的なところが多かった。

こういった主要2都市での違いを反映して、外資系外食産業の多くが、ホーチミン市を中心に展開している。新しいものに抵抗の少ないホーチミン市では、外資の外食産業や輸入食品産業にとっては参入しやすい市場でもある。ファストフードもベトナムではホーチミン市を発祥としており、進出から10年近く経過し市場での認知度が高まってから、ハノイへの進出を果たしているところがほとんどである。そういった両市での違いを十分把握し、マーケティング・ブランディング活動を行う企業、商品は、両市で成果をあげている。

※8, Dau Tu新聞 2009年6月22日 P.12

消費者が求めるもの

商品開発も、単に市場の流行を取り入れただけでは消費者は満足しない。食品メーカー、飲食産業の多くが、消費者の健康志向などを利用したマーケティング・商品開発を行っているが、過去にはその内容に偽りがあったことが発覚し、ブランドイメージを損ねた食品メーカーも多数ある。たとえば「化学調味料不使用」「発がん性物質不使用」など、人々の最大の関心ごとである「健康」に強く訴えかけたさまざまなキャッチコピーが使用されるようになったが、実際には「不使用」と謳われる物質が使用されていることが発覚した商品も少なくない。また、製造過程で生じた産業廃棄物の不法投棄や、排水の近隣河川への不法排出など、自然環境への問題も最近では厳しく取り上げられるようになった。商品自体に問題がないとしても、周辺住民への影響や自然環境への配慮に欠ける企業は、消費者から厳しく非難されるようになった。

消費者が食品メーカーや食品産業に求めるものは、商品だけでなく社会に対する責任を持ち、顧客や社会に誠実であることである。安全性や品質はもちろんのこと、それらが社会にどのような影響をもたらし、それに対し企業がどのような対応をとるのかまで、消費者は鋭く観察している。

また食品マーケットでのブランディング・マーケティングで他にも重要になってくるのが、市場へのメッセージの明確化である。特にホーチミン市では、先例のないメッセージが必要とされる。継続的に新しいイメージを打ち出し、商品を多様化しなければ競争にうち勝つことは難しい。

(ホーチミン事務所)

ご相談・お問い合わせ

現地日系企業の皆様

最寄りのジェトロ事務所にご連絡ください。