タイの貿易投資年報

要旨・ポイント

  • 2023年の実質GDP成長率は1.9%となり、前年の2.5%から減速。
  • 輸出は中国向け、ASEAN向けの低迷を受けて前年比1.0%減。
  • 対内直接投資認可額は前年比78.1%増の5,590億バーツとなり、国別では中国が首位に。
  • 日本からの対内直接投資認可額は前年比31.0%増の655億バーツとなった。

公開日:2024年9月25日

マクロ経済 
2023年の実質GDP成長率は1.9%と前年から鈍化

2023年のタイの実質GDP成長率は1.9%と前年の2.5%から鈍化した。民間消費の加速が全体を下支えしたものの、財輸出の不振や、国の予算承認の遅れにより政府投資が減少した。

需要項目別にみると、民間最終消費支出(個人消費)が7.1%増と、前年の6.2%増から加速した。新型コロナウイルス(以下、新型コロナ)禍からの経済回復がまだ道半ばであった2022年から一転、2023年は年初から国内経済も新型コロナ前に近い状態に戻っており、タイ人、外国人観光客によるサービス消費も活発であった。その結果、個人消費は、第2~4四半期に7%を超える強い伸びを示した。しかし、タイの家計債務は、2010年は対GDP比が59.3%だったが、新型コロナ禍を経て、2023年には91.3%まで拡大した。こうした家計債務上昇によるローン審査厳格化などの影響を受け、自動車を含む耐久消費財の消費は低迷している。

また、国内総固定資本形成は1.2%増と、前年の2.3%増から減速した。民間投資が3.2%増と前年(4.7%増)から鈍化したことに加え、公共投資が4.6%減と前年(3.9%減)からマイナス幅が拡大した。2023年5月に総選挙が実施されたが、同年9月にセター・タビシン政権が発足するまで首相指名に数カ月を要し、2024年度予算(2023年10月~2024年9月)の承認と執行が遅れたことが影響した。

財・サービスの輸出は2.1%増とプラス成長を維持したが、2022年の6.1%からは伸び率が低下した。特に、財の輸出は2.8%減となった。タイにとって、2番目に大きい輸出相手国である中国の景気が低迷するなど、同国への輸出が減少したことが影響している。主要輸出品目であるコンピュータ・同部品が前年比13.9%減となり、全体を押し下げた。他方、サービス輸出(38.3%増)は、外国人観光客数が堅調に伸びていることから、2年連続の2桁増となった。

2024年は、輸出は穏やかな回復にとどまるとみられるものの、政府の予算執行が進み、公共投資が加速すること、観光業がさらに活性化し、観光客数や観光者1人当たりの支出が改善すると見込まれる。また、現政権の消費刺激策として、2024年第4半期を目途に、16歳以上の国民(所得制限あり)にデジタル通貨(1人当たり1万バーツ)が支給される計画だ。政府は当該政策がGDPを1.2~1.6%押し上げると見込んでおり、個人消費の拡大も引き続き期待できる。こうしたことも踏まえ、タイ中央銀行(BOT)は、同年の成長率を2.6%と予測している。

表1 タイの需要項目別実質GDP成長率(単位:%)(△はマイナス値)
項目 2021年 2022年 2023年
年間 Q1 Q2 Q3 Q4
実質GDP成長率 1.6 2.5 1.9 2.6 1.8 1.4 1.7
階層レベル2の項目民間最終消費支出 0.6 6.2 7.1 5.9 7.3 7.9 7.4
階層レベル2の項目政府最終消費支出 3.7 0.1 △ 4.6 △ 6.0 △ 4.3 △ 5.0 △ 3.0
階層レベル2の項目国内総固定資本形成 3.1 2.3 1.2 3.1 0.4 1.5 △ 0.4
階層レベル2の項目財・サービスの輸出 11.1 6.1 2.1 1.9 0.9 1.1 4.9
階層レベル2の項目財・サービスの輸入 17.8 3.6 △ 2.2 △ 0.2 △ 2.6 △ 9.4 4.0

〔注〕四半期の伸び率は前年同期比。
〔出所〕タイ国家経済社会開発委員会(NESDC)

貿易 
輸出は1.0%減、中国・ASEAN向け輸出が低迷

2023年の貿易(通関ベース)は、輸出が前年比1.0%減の2,846億ドル、輸入は3.7%減の2,898億ドルとなり、いずれも減少した。貿易収支は52億ドルの赤字で、2年連続の貿易赤字となった。

輸出を品目別にみると、最大シェアの自動車・同部品が前年比9.0%増加したものの、コンピュータ・同部品が13.9%減、宝石・宝飾品が2.1%減、ゴム製品が4.4%減、化学製品が16.0%減と幅広い主要製品でマイナスとなった。

輸入を品目別にみると、電気機械・同部品(前年比7.0%増)、機械・同部品(2.5%増)、電子集積回路(2.9%増)、コンピュータ・同部品(10.5%増)などの主要品目がプラスとなったものの、原油取引価格の低下から、輸入最大シェアの原油が7.8%減となったことに加え、化学製品(15.1%減)、鉄・鉄鋼製品(15.4%減)なども減少し、全体を押し下げた。

また、国・地域別にみると、輸出は米国が489億ドル(2.8%増)と、全体の17.2%を占め最も多かった。2位は中国で342億ドル(0.8%減、構成比12.0%)、3位は日本で247億ドル(0.1%増、8.7%)となった。また、輸出額の約4分の1を占めるASEANが7.1%減と大きく減少したことがタイの輸出の減少の大きな要因となった。米国向けでは、最大輸出品目であるコンピュータ・同部品が15.6%減の71億ドルとなったものの、プリンタ・電話機・同部品が28.5%増の38億ドル、半導体装置・トランジスタ・ダイオードは2.2倍の33億ドル、変圧器・同部品が44.4%増の19億ドル、機械・同部品で13.3%増の17億ドルなど、多くの主要品目で2桁増となった。中国向けを見ると、最大輸出品目である果実(生鮮・冷凍・乾燥)は25.0%増の63億ドルとなったが、同じく上位品目であるコンピュータ・同部品が23%減の35億ドル、ゴム製品が15.4%減の29億ドル、エチレン等のポリマーが20.1%減の26億ドルと、複数の主要品目で大きく減少した。

一方、輸入額を国・地域別でみると、最大の輸入相手国である中国は708億ドル(0.0%増)で全体の24.4%を占めた。2位の日本は312億ドル(9.5%減、構成比10.8%)、3位の米国は(9.9%増、6.7%)だった。

表2-1 タイの主要品目別輸出(FOB)[通関ベース](単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
品目 2022年 2023年
金額 金額 構成比 伸び率
自動車・同部品 28,465 31,024 10.9 9.0
コンピュータ・同部品 20,700 17,825 6.3 △ 13.9
宝石・宝飾品 15,112 14,787 5.2 △ 2.1
ゴム製品 13,863 13,248 4.7 △ 4.4
精製燃料 10,130 10,213 3.6 0.8
電子集積回路等 9,308 9,686 3.4 4.1
エチレン等のポリマー 10,682 8,877 3.1 △ 16.9
機械・同部品 8,755 8,784 3.1 0.3
化学製品 9,585 8,055 2.8 △ 16.0
鉄・鉄鋼製品 7,001 6,955 2.4 △ 0.7
合計(その他含む) 287,425 284,562 100.0 △ 1.0

〔注〕再輸出を含む。
〔出所〕タイ商務省

表2-2 タイの主要品目別輸入(CIF)[通関ベース](単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
品目 2022年 2023年
金額 金額 構成比 伸び率
原油 36,000 33,181 11.5 △ 7.8
電気機器・同部品 20,159 21,564 7.4 7.0
機械・同部品 20,705 21,214 7.3 2.5
電子集積回路 19,038 19,593 6.8 2.9
化学製品 20,995 17,834 6.2 △ 15.1
鉄・鉄鋼製品 15,551 13,153 4.5 △ 15.4
宝石・宝飾品・地金銀 15,560 11,923 4.1 △ 23.4
天然ガス 12,701 11,562 4.0 △ 9.0
その他金属・スクラップ 13,504 11,231 3.9 △ 16.8
コンピュータ・同部品 9,030 9,977 3.4 10.5
合計(その他含む) 301,030 289,754 100.0 △ 3.7
表3 タイの主要国・地域別輸出入(再輸出を含む総額ベース)[通関ベース](単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
国・地域 輸出(FOB) 輸入(CIF)
2022年 2023年 2022年 2023年
金額 金額 構成比 伸び率 金額 金額 構成比 伸び率
アジア・大洋州 175,854 171,273 60.2 △ 2.6 197,847 192,352 66.4 △ 2.8
階層レベル2の項目日本 24,656 24,670 8.7 0.1 34,477 31,191 10.8 △ 9.5
階層レベル2の項目中国 34,430 34,165 12.0 △ 0.8 70,767 70,800 24.4 0.0
階層レベル2の項目香港 10,084 11,096 3.9 10.0 2,734 2,612 0.9 △ 4.5
階層レベル2の項目台湾 4,719 4,797 1.7 1.6 11,826 16,604 5.7 40.4
階層レベル2の項目韓国 6,405 6,070 2.1 △ 5.2 10,124 8,666 3.0 △ 14.4
階層レベル2の項目ASEAN 71,969 66,847 23.5 △ 7.1 52,641 48,839 16.9 △ 7.2
階層レベル3の項目マレーシア 12,672 11,874 4.2 △ 6.3 14,377 13,244 4.6 △ 7.9
階層レベル3の項目ベトナム 13,258 11,196 3.9 △ 15.6 7,939 7,754 2.7 △ 2.3
階層レベル3の項目シンガポール 10,280 10,244 3.6 △ 0.3 8,197 8,179 2.8 △ 0.2
階層レベル3の項目インドネシア 10,340 10,044 3.5 △ 2.9 9,618 8,351 2.9 △ 13.2
階層レベル3の項目フィリピン 7,441 7,892 2.8 6.1 3,809 3,115 1.1 △ 18.2
階層レベル3の項目カンボジア 8,664 6,441 2.3 △ 25.7 1,115 1,598 0.6 43.3
階層レベル3の項目ラオス 4,539 4,647 1.6 2.4 3,339 2,987 1.0 △ 10.5
階層レベル3の項目ミャンマー 4,700 4,410 1.5 △ 6.2 3,531 3,024 1.0 △ 14.4
階層レベル2の項目インド 10,533 10,118 3.6 △ 3.9 7,175 5,927 2.0 △ 17.4
階層レベル2の項目オーストラリア 11,187 12,106 4.3 8.2 7,128 6,873 2.4 △ 3.6
階層レベル2の項目ニュージーランド 1,871 1,404 0.5 △ 24.9 975 838 0.3 △ 14.0
EU 22,797 21,838 7.7 △ 4.2 18,197 19,744 6.8 8.5
英国 4,035 4,073 1.4 0.9 2,156 2,667 0.9 23.7
アラブ首長国連邦 3,444 3,230 1.1 △ 6.2 17,030 16,284 5.6 △ 4.4
サウジアラビア 2,063 2,668 0.9 29.3 7,066 6,129 2.1 △ 13.3
米国 47,535 48,865 17.2 2.8 17,743 19,494 6.7 9.9
合計(その他含む) 287,425 284,562 100.0 △ 1.0 301,030 289,754 100.0 △ 3.7

〔注〕アジア・大洋州は、ASEAN+6(日本、中国、韓国、オーストラリア、ニュージーランド、インド)に香港、台湾を加えた合計値。
〔出所〕タイ商務省

対内直接投資 
対内直接投資認可額が前年比1.8倍と、11年ぶりの水準

タイ投資委員会(BOI)によれば、2023年の外国企業による対内直接投資認可額は、前年比1.8倍の5,590億バーツ(2024年2月20日付ビジネス短信参照)を記録し、11年ぶりに認可額が5,000億バーツを超えた。

国・地域別でみると、首位は中国で前年比3.1倍の1,248億バーツとなり、全体の22.3%を占めた。2位がシンガポールで、2.9倍の993億バーツ、3位が米国で2.7倍の880億バーツとなった。4位の日本は1.3倍の655億バーツとなり、上位3カ国の投資増加の勢いが勝り、前年までの首位から大きく順位を下げた。

2023年は、中国からの電気自動車(EV)関連投資が好調であり、米中対立を背景とした中国から他国への生産移管の流れも、タイへの投資額に寄与したと考えられる。また、タイのEV普及策である「EV3.0」が2022年3月に施行され、販売補助金も支給されたことで、輸入車を中心に、中国ブランドのバッテリー電気自動車(BEV)の新規登録台数は、前年比7.9倍の7万6,144台(2024年2月1日付ビジネス短信参照)と拡大した。一方、EV3.0による補助金支給を受けた企業は、2024~2025年にタイでBEV生産を開始することが条件となっている。具体的には、2022~2023年に輸入した完成車の1~1.5倍の台数のBEVを生産する必要がある。こうした政策も、中国からのEV関連投資の増加を後押ししたと考えられる。

主なEV生産拠点のタイへの設置案件では、中国5大自動車メーカーに数えられる長安汽車(Changan Automobile)(2025年1~3月に生産開始予定)、広州汽車(GAC)(2024年7月に生産開始)があった。また合衆新能源汽車(Hozon Auto)は、低価格市場に焦点を当て、タイ企業のバンチャン・ゼネラル・アセンブリ―(BGAC)に生産を委託して既にタイでBEVを生産している。さらに、比亜迪(BYD)も2024年7月、年間15万台の生産能力を有する工場をタイに開設した。

また、プリント回路基板(PCB)での中国からタイへの投資もみられる。2023年11月、世界有数のPCBサプライヤーで、設計から製造まで行う深南電路(Shennan Circuits)がタイでの新工場建設計画を発表した他、同年11月には、奥士康科技(Aoshikang Technolgy)がアユタヤ県ロジャナ工業団地に工場を建設していると発表した。

その他、2023年は、米国企業のアドバンスド・エナジー(Advanced Energy)が、半導体市場向けの電力供給システムを製造する最新工場建設に着工したほか、HPがノートパソコンの生産拠点を中国からタイに移転した。

なお、2023年の日本からの投資では、タイのASEAN域内における地理的優位性や、周辺国との交通網(幹線道路)がさらに整備されつつあることなどから、倉庫などの物流施設設置にかかる投資が多々みられた。例えば、東急不動産はバンコク近郊のチョンブリ県の物流施設開発プロジェクト「アルファ・レムチャバン」に参画する(2024年10月竣工予定)。東南アジアで有数の大型港であるレムチャバン港付近に、平屋建て倉庫6棟から成る大型物流施設を建設する。他にも、住友倉庫が、同地区に新たな倉庫を竣工した(2023年6月)。

またタイ政府が、デジタルトランスフォーメーション(DX)を推進する中、大量のデータをリアルタイムで伝送するインフラ整備の必要性が高まっている。こうした中、NTTは、新たなデータセンター〔バンコク3データセンター(BKK3)〕の建設を発表した(2023年3月)。本計画は、アマタシティ・チョンブリ工業団地(チョンブリ県)内に同社が既に有する2カ所目のデータセンター〔バンコク2データセンター(BKK2)〕に隣接し、面積4,000平方メートルを有する。電力容量(IT Load)は12メガワットで、「ハイパー・スケーラー」と呼ばれる大手クラウド事業者や大企業の需要の取り込みを狙う。

電気電子産業では、2023年3月に、村田製作所が積層セラミックコンデンサ(MLCC)の新生産工場を北部ランプーン県で竣工した。MLCCはスマートフォン、データセンター、EV向けの半導体などに使用され、村田製作所は同製品で世界シェアの4割を持つ。今回の工場の完成により、MLCCの中長期的な需要増加に対応できる体制を構築する。

なお、タイ政府が日本に投資を期待する分野として、2023年12月に東京で開催された「日タイ投資フォーラム」でナリット・タードサティーラックBOI長官は、5つの戦略産業〔(1)バイオ・循環・グリーン(BCG)経済、(2)次世代自動車、(3)電気電子(川上部門)、(4)デジタル・クリエーティブ産業、(5)地域統括拠点〕を挙げた。特に、環境保全と経済成長の両立を目指す「BCG経済モデル」は、日本のグリーン成長政策や、日本政府が立ち上げたアジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)構想とも方向性が一致すると説明し、同分野の日タイ連携が進むことに期待を示した。

表4 タイの国・地域別対内直接投資[タイ投資委員会認可ベース](単位:100万バーツ、%)(△はマイナス値)
国・地域 2022年 2023年
金額 金額 構成比 伸び率
アジア大洋州 206,620 387,547 69.3 87.6
階層レベル3の項目日本 49,960 65,472 11.7 31.0
階層レベル3の項目中国 40,296 124,782 22.3 209.7
階層レベル3の項目香港 22,846 20,027 3.6 △ 12.3
階層レベル3の項目台湾 45,484 47,417 8.5 4.2
階層レベル3の項目韓国 5,309 21,434 3.8 303.7
階層レベル2の項目ASEAN 37,103 102,004 18.2 174.9
階層レベル3の項目シンガポール 34,202 99,310 17.8 190.4
階層レベル3の項目マレーシア 3,335 2,189 0.4 △ 34.4
階層レベル2の項目インド 1,332 1,025 0.2 △ 23.0
階層レベル2の項目オーストラリア 4,284 5,383 1.0 25.7
米国 32,794 87,994 15.7 168.3
欧州 36,774 56,828 10.2 54.5
階層レベル3の項目英国 452 4,775 0.9 956.4
階層レベル2の項目EU27 31,472 45,005 8.1 43.0
階層レベル3の項目オランダ 4,556 13,300 2.4 191.9
階層レベル3の項目フランス 1,591 7,830 1.4 392.1
階層レベル3の項目ドイツ 3,795 6,230 1.1 64.2
階層レベル3の項目スイス 3,604 5,713 1.0 58.5
階層レベル3の項目ベルギー 213 5,628 1.0 2542.3
英領ケイマン諸島 21,049 4,902 0.9 △ 76.7
合計(その他含む) 313,841 559,009 100.0 78.1

〔注1〕アジア大洋州はASEAN+6(日本、中国、韓国、オーストラリア、ニュージーランド、インド)に香港、台湾を加えた合計値。
〔注2〕複数国による投資はそれぞれの国に重複して計上されている。
〔注3〕タイ投資委員会(BOI)の認可ベースのため、投資奨励非対象業種など、認可を受けていない投資は含まれていない。
〔出所〕タイ投資委員会(BOI)

表5 タイの主な対内直接投資案件(非日系外資、2023年)(単位:百万ドル)
業種 企業名 国籍 時期 投資額 概要
自動車OEM 合衆新能源汽車(Hozon Auto) 中国 2023年3月 n.a. 2014年設立の中国の新興EVメーカーで低価格帯に注力。タイ地場企業バンチャン・ゼネラル・アセンブリ―(BGAC)と連携し、EV組み立て工場の共同建設、スタッフの技術能力向上で合意。
自動車OEM 広州汽車(GAC) 中国 2023年7月 66 同社のAIONブランド初となる海外工場をタイに建設すると発表。東部経済回廊(EEC)内に建設し、2024年7月に生産開始。
自動車OEM 長安汽車(Changan Automobile) 中国 2023年10月 253 タイにEV生産拠点を設けることを発表。同社初の国外の大規模投資となる。生産開始時期は2025年1~3月の見通し。
消費財 エシロールルックスオティカ( EssilorLuxottica) フランス 2023年10月 n.a. イタリアのルックスオティカ(サングラス「レイバン」のメーカー)と、フランスの光学機器メーカーであるエシロールの経営統合により設立された持株会社。ラヨーン県にアジア大洋州地域の眼鏡製造工場を開設。22万平方メートルの面積を有し、世界で有数の大規模工場となる。
産業機器 アドバンスド・エナジー(Advanced Energy) 米国 2023年10月 n.a. 半導体市場向けの最先端電力供給システムプラントを着工。50万平方フィートの施設であり、年間最大10億ドルの収益を見込む。
電子部品 深南電路(Shennan Circuits) 中国 2023年11月 180 中国の、プリント回路基板(PCB)の設計・開発・製造会社。アユタヤのロジャナ工業団地での工場設置を発表。
電子部品 奥士康科技(Aoshikang Technology) 中国 2023年11月 170 中国のPCBメーカー。タイ工場をアユタヤのロジャナ工業団地に建設していると発表。製造する基板は主に自動車、ノートパソコン、通信機器、サーバ向け。

〔出所〕fDiMarkets、各社プレスリリース、報道などから作成

表6 タイの主な対内直接投資案件(日本、2023年)(単位:百万ドル)
業種 企業名 時期 投資額 概要
不動産 東急不動産 2023年2月 n.a. タイ・バンコク近郊で物流施設開発「アルファ・レムチャバン・プロジェクト」に参画すると発表。同社にとって、タイにおける3件目の物流施設開発事業。平屋建て倉庫6棟のマルチ型物流施設。タイがASEANの地理的中心に位置することや、製造業の集積を背景に、物流マーケットの成長を見込む。
通信 NTT 2023年3月 90 NTTグローバルデータセンターコーポレーションを通じ、「バンコク3データセンター(BKK3)」を建設すると発表。チョンブリ県のアマタシティ・チョンブリ工業団地の同社第2棟に隣接する形で建設され、2024年第2四半期の稼働を見込む。サーバーなどに供給する電力容量(IT Load)は12メガワットと、第2棟の2.4倍となる。
電子部品 村田製作所 2023年3月 75 タイ北部ランプーン県に新工場竣工を発表、積層セラミックコンデンサー(MLCC)を生産する。MLCCはスマートフォン、データセンター、EV向けの半導体などに使用され、村田製作所が世界シェアの4割を持つ。
運輸・倉庫 阪急阪神エクスプレス 2023年4月 n.a. バンコク近郊のバンプリー地区にあるテパラック倉庫に隣接する「テパラック第二倉庫」を開設すると発表。同地区はバンコク港、レムチャバン港、スワンナプーム空港の中間地点に位置し、顧客の幅広いニーズに応えられるロケーションとなっている。
運輸・倉庫 住友倉庫 2023年6月 n.a. レムチャバン地区における倉庫建設(第3期)が竣工。同地区は多くの工業団地が立地し、物流需要が旺盛。新倉庫は標高約40mで洪水リスクが低く、常時の有人警備、CCTVカメラ、ソーラー発電設備を備えた防災・安全・環境に配慮した施設。
自動車OEM 日野自動車 2023年7月 101 「日野スワンナプームものづくりセンター」を開所。ASEANのトラック・バスの生産・開発拠点として、タイ国内の商品企画・開発・生産の機能を集約・強化し、ASEAN最適車の現地での一貫した商品化・生産供給を行う。スワンナプーム国際空港から約20kmのサムットプラカーン県バンボー郡アジア工業団地に位置し、敷地面積は40万平方メートル。
食品・飲料 キユーピー 2023年10月 20 既存工場にマヨネーズ類を製造する新棟を建設し、生産能力を2倍に増強すると発表。これによりタイおよび拡大する輸出需要への供給体制を強化し、事業展開を加速する。新棟の稼働は2025年1月を予定。
電気電子 デンカ 2023年11月 400 xEVのリチウムイオンバッテリー、洋上風力発電の高圧送電線ケーブル用など、急拡大するアセチレンブラック需要に対応すべく、SCG Chemicals Public Companyと共同出資で製造販売の合弁会社を設立。年間11,000トンの生産能力を有するプラントを建設し、2026年下期稼働予定。

〔出所〕fDiMarkets、各社プレスリリース、報道等から作成

対日関係 
対日輸出額は前年比0.1%増

2023年の日本への輸出額は246億7,000万ドル(前年比0.1%増)となり、タイの輸出総額の8.7%を占めた。主要品目では加工鶏肉(13億7,100万ドル、5.9%減)や化学製品(10億300万ドル、3.3%減)などが減少した一方、自動車・同部品(20億5,500万ドル、11.5%増)、電子集積回路(10億4,000万ドル、59.1%増)、機械・同部品(10億6,000万ドル、4.0%増)などが増加した。特に、電子集積回路の日本への輸出は好調であり、同品目のタイから世界への輸出増(4.1%増)にも寄与している。

一方、2023年の日本からの輸入額は、311億9,100万ドル(前年比9.5%減)となり、タイの輸入総額の10.8%を占めた。自動車部品(30億8,000万ドル、7.6%増)、科学・医療試験機器(14億100万ドル、4.9%増)が増加したものの、鉄・鉄鋼製品(48億8,600万ドル、14.0%減)や化学製品(23億8,800万ドル、22.6%減)など幅広い主要品目で減少した。

2023年の貿易収支は65億2,100万ドルの赤字となったが、赤字幅は前年(98億2,100万ドルの赤字)から大きく減少した。

表7‐1 タイの対日主要品目別輸出(FOB)[通関ベース](単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
品目 2022年 2023年
金額 金額 構成比 伸び率
自動車・同部品 1,844 2,055 8.3 11.5
加工鶏肉 1,456 1,371 5.6 △ 5.9
機械・同部品 1,020 1,060 4.3 4.0
電子集積回路 654 1,040 4.2 59.1
化学製品 1,037 1,003 4.1 △ 3.3
その他電気設備・同部品 818 967 3.9 18.2
プラスチックペレット 850 792 3.2 △ 6.8
プラスチック製品 763 762 3.1 △ 0.2
コンピュータ・同部品 973 745 3.0 △ 23.4
加工魚類、甲殻類、軟体動物 658 645 2.6 △ 2.0
合計(その他含む) 24,656 24,670 100.0 0.1

〔出所〕 タイ商務省

表7‐2 タイの対日主要品目別輸入(CIF)[通関ベース](単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
品目 2022年 2023年
金額 金額 構成比 伸び率
機械・同部品 5,254 4,922 15.8 △ 6.3
鉄・鉄鋼製品 5,684 4,886 15.7 △ 14.0
電子機器・同部品 3,432 3,133 10.0 △ 8.7
自動車部品 2,863 3,080 9.9 7.6
化学製品 3,084 2,388 7.7 △ 22.6
電子集積回路 2,188 2,081 6.7 △ 4.9
金属くず・スクラップ 2,140 1,654 5.3 △ 22.7
科学・医療試験機器 1,336 1,401 4.5 4.9
プラスチック製品 855 761 2.4 △ 11.0
金属製品 864 721 2.3 △ 16.6
合計(その他含む) 34,477 31,191 100.0 △ 9.5

日系企業の経営上の課題、他社との競争とコスト増

バンコク日本人商工会議所(JCC)が2023年11月28日~12月20日に実施した「2023年下期タイ国日系企業景気動向調査(以下、景気動向調査)」によれば、在タイ日系企業の経営上の課題としては、「他社との競争激化」との回答が全体の66%を占め最も多かった。タイのEV奨励策や米中対立などを背景に、タイへの中国企業による製造拠点設置が増加しており、従来にも増して、企業間競争は激化していると言えよう。次いで、「総人件費の上昇」(46%)、「原材料価格の上昇」(44%)といったコスト面の課題も引き続き上位を占めた。特に、人件費について、現政権は2024年1月、地域によって金額は異なるが、全国平均2.4%の最低賃金(日額)引き上げを実施した(330~370バーツに改定)。また、2024年5月には、最低賃金を全国一律で400バーツに引き上げる計画も閣議承認されており、さらなる人件費の上昇が懸念される。

その他、景気動向調査では、「国内需要の低迷」が29%で5位にランクインした。2023年のタイの需要項目別実質GDP成長率(表1)を見ると、民間最終消費支出(個人消費)は前年比7.1%増加したが、タイの個人消費の牽引役はサービス消費であり、自動車を含む耐久消費財は低調だ。タイ進出日系企業において、製造業、特に自動車産業は大きな存在感を有しているため、このように国内需要が低迷していると捉える企業が多かったと考えられる。

表8 経営上の問題点(複数回答)(単位:件数、()内は回答企業数割合(%))
前回 今回 項目 製造業 非製造業 全体
1 1 他社との競争激化 186(66) 163(65) 349(66)
3 2 総人件費の上昇 150(53) 95(38) 245(46)
2 3 原材料価格の上昇 161(57) 73(29) 234(44)
4 4 為替変動の対応 103(37) 54(22) 157(30)
6 5 製品・利用者ニーズの変化への対応 85(30) 68(27) 153(29)
12 5 国内需要の低迷 93(33) 60(24) 153(29)
8 7 エンジニアの人材不足 75(27) 43(17) 118(22)
5 8 エネルギーコストの上昇 99(35) 17(7) 116(22)
9 9 DXによる業務効率化 53(19) 50(20) 103(19)
合計(その他含む) 1,413 909 2,322
回答企業数 281 251 532

〔注〕上位10位のみを表示。
〔出所〕バンコク日本人商工会議所「2023年下期タイ国日系企業景気動向調査」

日系企業の課題解決にAI活用の可能性

前出の景気動向調査では、経営上の課題として、「DXによる業務効率化」(19%)や「品質管理」(19%)もトップ10に挙げられている。同調査では、これらの課題解決に貢献すると思われる人工知能(AI)の活用状況についても日系企業に聞いている。

まず、日系企業のAIの取り組み状況については、「活用の必要性があるが取り組んでいない」(40%)が最も多く、次に「活用の必要性があり、これから取り組む予定である」(29%)が続いた。既に活用している企業を含めると、実に8割強がAI活用の必要性を感じているという結果となった。一方、実際に活用している企業は1割強(13%)に留まり、AI活用に踏み切れない企業が多い状況が浮き彫りとなった。

表9‐1 AIに関する取り組み状況(単一回答)(単位:件数、( )内は回答企業数割合(%))
順位 項目 製造業 非製造業 全体
1 活用の必要性があるが取り組んでいない 95(43) 69(37) 164(40)
2 活用の必要性があり、これから取り組む予定である 65(29) 55(29) 120(29)
3 活用の必要性がなく、取り組んでいない 35(16) 37(20) 72(18)
4 既に活用しており、成果を認識している 22(10) 17(9) 39(9)
5 既に活用しているが、成果を認識していない 5(2) 11(6) 16(4)
合計 222 189 411
回答企業数 222 189 411

〔出所〕バンコク日本人商工会議所「2023年下期タイ国日系企業景気動向調査」

AIを活用している、もしくは活用を検討している企業に対して、AI活用の狙いを尋ねたところ、「製品などの不良品検査や外観検査」(33%)、「文章作成業務の補助」(31%)、「工場や機械などの異常検知」(31%)との回答が上位を占めた。特に、製造業では工場や倉庫での検査や管理、熟練技術の代替などをAI活用の狙いとして挙げる企業が多かった。一方、非製造業では文章作成業務の補助や、製品・サービスの改善・高付加価値化などを挙げる企業が多く見られた。

表9‐2 AI活用の狙い(複数回答)(単位:件数、括弧内は割合(%))
順位 項目 製造業 非製造業 全体
1 製品などの不良品検査や外観検査 96(57) 7(5) 103(33)
2 文章作成業務の補助 35(21) 62(43) 97(31)
3 工場や機械などの異常検知 82(49) 14(10) 96(31)
4 生産ラインや倉庫での仕分けや管理 63(38) 13(9) 76(24)
5 需要予測 45(27) 28(20) 73(23)
6 セキュリティ対策(顔認証や不審者検知など) 31(18) 37(26) 68(22)
7 製品・サービスの改善、高付加価値化 17(10) 49(34) 66(21)
8 設備の点検 42(25) 20(14) 62(20)
9 チャットボットによる問い合わせ対応 12(7) 35(24) 47(15)
10 熟練技術の代替 30(18) 12(8) 42(14)
合計(その他含む) 321 124 445
回答企業数 168 143 311

〔注〕上位10位のみを表示。
〔出所〕バンコク日本人商工会議所「2023年下期タイ国日系企業景気動向調査」

また、AIを推進する際の課題としては、「個人情報、社内秘の流出リスク、データ管理」(41%)、「費用対効果が見込めない」(39%)、「どう取り組めばよいかわからない」(26%)が上位を占めた。AIというデジタルソリューションを導入することで、新たに発生するコンプライアンスへの対応、また効果的、かつ収益につながる形でのAI活用ノウハウの不足など、日系企業が抱える課題が明らかになった。

表9‐3 AIを推進する際の課題(複数回答)(単位:件数、括弧内は割合(%))
順位 項目 製造業 非製造業 全体
1 個人情報、社内秘の流出リスク、データ管理 78(36) 79(47) 157(41)
2 費用対効果が見込めない 81(38) 68(40) 149(39)
3 どう取り組めばよいかわからない 53(25) 48(28) 101(26)
4 トラブル時の責任の所在の判断が難しい 41(19) 28(17) 69(18)
5 本社と現地の意見の相違 26(12) 25(15) 51(13)
6 経営層と現場における意見の相違 23(11) 17(10) 40(10)
7 その他 18(8) 11(7) 29(8)
合計 320 276 596
回答企業数 216 169 385

〔出所〕バンコク日本人商工会議所「2023年下期タイ国日系企業景気動向調査」

基礎的経済指標

(△はマイナス値)
項目 単位 2021年 2022年 2023年
実質GDP成長率 (%) 1.6 2.5 1.9
1人当たりGDP (米ドル) 7,237 7,073 7,337
消費者物価上昇率 (%) 1.2 6.1 1.2
失業率 (%) 1.9 1.3 1.2
貿易収支 (100万米ドル) 32,354 13,543 16,972
経常収支 (100万米ドル) △ 10,268 △ 15,742 7,002
外貨準備高(グロス) (100万米ドル) 231,737 202,274 208,281
対外債務残高(グロス) (100万米ドル) 196,215 200,289 193,212
為替レート (1米ドルにつき、タイ・バーツ、期中平均) 32.0 35.1 34.8

注:
貿易収支:国際収支ベース(財のみ)
出所:
実質GDP成長率、消費者物価上昇率:タイ国家経済社会開発委員会(NESDC)
経常収支、貿易収支、対外債務残高(グロス):タイ中央銀行(BOT)
1人当たりGDP、失業率、外貨準備高(グロス)、為替レート:IMF