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日本産および日系企業現地生産品の小売での販売動向

拡大する日本産米市場 ‐ 本物志向が需要を高める

2010年12月
分野:食品・農林水産物

日本産米の市場が拡大している。日本産米に対する「安心」「安全」はもとより、シンガポール人の本物志向が日本産米の需要拡大を後押ししているようだ。地場系スーパーマーケットでは、タイ産や中国産等のインディカ米や、オーストラリア産やベトナム産の安価なジャポニカ米が店頭に並び、日本産米はわずかしか目に付かないのが現状であるが、日本食の需要の高まりに伴い、今後は日本産米の品数も増えることが予想される。日系スーパーマーケットでは、よりおいしい米を求める消費者が店内の玄米を購入した場合、それをその場で精米するサービスを提供しており、玄米市場も徐々に拡大する可能性を秘めている。

日本産米の人気が高まる

2010年11月9日付けの地元紙「ストレーツ・タイムズ」は、全人口の約60%が、1週間に少なくとも1度は外食をしており、外食に依存する傾向はより強くなっていると伝えている。一般的に、シンガポールの家庭は、自宅で調理して、一家だんらんで食事をすることが少ない国だともいわれている。この背景には、低価格で食事ができるホーカーセンター(屋台店)やフードコードが充実していることや、共働き家庭が多いため、自宅で料理をしている余裕がないこと等が挙げられる。

そのようななか、自宅で料理を楽しむ世帯には、日本食をメニューとして取り入れている家庭が少しずつ増えているという。「手巻きずし」をはじめとした日本食メニューが人気で、自宅で日本食を作る際には、日本産米を使用する傾向があるようだ。実際、日系スーパーマーケットの明治屋、伊勢丹では、高価な日本産米を購入するシンガポール人消費者が増えているという。明治屋スーパーマーケットにおける日本産米の売り上げは、2010年以降毎月ほぼ安定しており、9~11月の売り上げも前年同期比で約18%増の約29万シンガポール・ドル(以下Sドル ※)に達した。
※ 1Sドル=63.82円(2010年12月23日、シンガポール中央銀行)

また、地場系スーパーマーケットでも、日本産米が販売されているが、そのパッケージには、「にぎりずし」や「手巻きずし」の写真を使い、現地消費者を引きつけるデザインとなっている。地場系大手小売店のNTUC FairPriceの高級食材を扱うFinestの店舗では日本産米の取り扱い品数が少しずつ増えているという。

日本のシンガポール向け米輸出が増加

表1の日本の財務省貿易統計によると、2009年シンガポール向けの日本産米(精米ベース)の輸出は数量・金額とも前年比で減少したものの、2007年と2008年は連続で前年比二桁以上も増加し、順調な伸びを示してきた。2010年に入ると、前年に落ち込んだ輸出額、輸出量は共に回復をみせ、同年1~9月の輸出額は前年同期比で54%増の7,470万円(表2)を記録した。また、輸出量も前年同期比で87%増加し191トン(表3)に達した。数量・金額とも香港に及ばないものの、シンガポールは日本産米の主要輸出国のひとつであるといえる。

表1:シンガポール向け日本産米(精米)の輸出推移
2005 2006 2007 2008 2009
輸出額(100万円) 35 39.94 48.18 79.08 71.72
輸出量(トン) 62 63 92 166 163 
表2:日本産米輸出額の推移(1~9月)
順位 国・地域名 輸出額(100万円)
2007 2008 2009 2010
1 香港 83.32 125.31 133.1 161.83
2 シンガポール 33.98 54.53 48.3 74.7
3 台湾 105 85.29 64.86 60.84

※援助米と思われる国への輸出は順位から除く。

表3:日本産米輸出量の推移(1~9月)
順位 国・地域名 輸出量(トン)
2007 2008 2009 2010
1 香港 155 243 313 428
2 シンガポール 65 113 102 191
3 台湾 262 230 180 181

※援助米と思われる国への輸出は順位から除く。

(表1~3出所:日本財務省貿易統計)

一方、シンガポール国際企業庁(International Enterprise Singapore)の統計でも、シンガポールにおける日本産米市場の成長がより明確に見てとれる。2007年以降、日本産米の輸入額、輸入量が共に順調に伸びている(表4)。2009年に輸入増加率は鈍化したものの、前年比で輸入額が3.7%増、輸入量が3.4%増とそれぞれ増加した。2010年1~9月は前年同期比で、輸入額が68%増、輸入量が81%増と大きく伸びた。(表5、6)。シンガポールにおける米の輸入先として日本は、輸入額で第6位、輸入量では第8位となっている。

表4:シンガポールにおける日本産米の輸入推移
2007 2008 2009
輸入額(100万シンガポール・ドル) 0.5587 1.0623 1.1015
輸入量(トン) 92 177 183 
表5:シンガポールにおける米輸入額の国別推移(1~9月)
順位 国名 輸入額(100万シンガポール・ドル)
2007 2008 2009 2010
1 ベトナム 21.05 5.33 3.93 11.35
2 タイ 11.07 35.81 14.47 9.42
3 米国 4.23 6.49 5.22 5.52
4 オーストラリア 1.8 2.27 2.66 2.17
5 中国 1.05 1.57 2.42 2.07
6 日本 0.38 0.66 0.69 1.16
表6:シンガポールにおける米輸入量の国別推移(1~9月)
順位 国名 輸入額(100万シンガポール・ドル)
2007 2008 2009 2010
1 ベトナム 46,238 8,113 5,247 19,908
2 タイ 19,653 33,636 15,302 12,044
3 米国 3,629 4,879 2,822 4,045
4 中国 1,181 1,689 2,110 2,020
5 インド 169 23 97 1,949
6 オーストラリア 2,013 1,888 1,440 1,332
7 ミャンマー 841 1,502 3,165 1,257
8 日本 61 109 111 201

(表4~6出所:シンガポール国際企業庁(International Enterprise Singapore))

2010年1~9月期の日本産米の輸入単価は、トン当たり5,780Sドルだった。ベトナム産米(トン当たり570Sドル)の10倍、ジャポニカ米が人気の米国産米(トン当たりの単価が1,365Sドル)の4.2倍に当たる。このように他国原産の米と比較して、日本産米の輸入単価は極めて高額であるが、輸入量は着実に伸びており、人気の高さがうかがえる。

日本産米の価格帯

市内のスーパーマーケットでは、消費者ニーズに合わせ、1キロ、2キロ、3キロ、5キロ、10キロと、数種類のパッケージが店頭に並んでいる。 5キロの日本産米の小売価格帯は48~77Sドルと幅がある。韓国産の「Gold Rice」(45.5Sドル、5キロ入り)のように一部高級米として販売されている外国産米もあるが、一般的な他国原産のジャポニカ米の小売価格帯は5キロ当たり14~19Sドルであり、日本産米の小売価格は2.7~4倍高く設定されている。日本での米の価格を知っている日本人にとっては、手が出しづらい商品となっているが、日系スーパーマーケットでは、日本食を好むシンガポール人富裕層を中心に日本産米を購入する姿が目につく。

日本産米を販売する小売店では、1~3キロ入りなど少量のパッケージを多く準備しているのが特徴的だ。日本産米を購入するシンガポール人消費者によると、日本産米は主食ではなく、料理の種類によって、タイ米や中国産米のインディカ米などと使い分けているという。そのため、簡単に冷蔵庫で保管できる2キロ入りのパッケージを好む消費者が多く、売れ筋商品となっているようだ。日系スーパーマーケットでは、こうした消費者のニーズに応えて、2キロパッケージの商品を豊富に揃えているという。

明治屋スーパーマーケットでは、2キロ入りの品数が最も多く、10種類以上取り揃えている。価格帯は17.85~23.75Sドルだ。また、少量ではあるが地場系スーパーマーケットで販売されている日本産米も1キロ入りや2キロ入りといった少量のパッケージが目につく。NTUC FairPrice Finestでは2キロ当たり22.1~22.8Sドルで販売されている。

人気の日本産ハイブリッド米

従来の日本産米の少量パッケージが少なかったころは、5キロの日本産米には手が出しづらいと感じた客層が、品質の良い米国産の「こしひかり」(2.26~2.5キロ)を購入する傾向があったようだ。しかし、少量パッケージの日本産米の品数が増えたことで、同客層も日本産米に目を向けるようになったという。

明治屋スーパーマーケットで販売されているハイブリッド米「みつひかり」(写真)

明治屋スーパーマーケットは、日本ではあまり評価されていないといわれているハイブリッド米を2キロと5キロのパッケージで販売したところ、瞬く間に2キロのパッケージが人気商品となった。その理由を日本産米でありながら、2キロで17.85Sドルは安いと消費者が感じたと同店では見ているようだ。日本産ハイブリッド米「みつひかり」はキロ当たりで比較すると、小売価格23.2Sドル(2.26キロ)で販売されている米国産「田牧米こしひかり」より安い。同店の名越秀二常務取締役によると、2010年9月に「みつひかり」を販売して以来、米国産「田牧米こしひかり」から「みつひかり」にシフトした消費者が多く、「田牧米こしひかり」の売り上げは下降傾向にあるという。米のブランドにそれほどのこだわりをみせないシンガポール人の中間層の消費者に対し、新たな日本産米の選択肢を提供した形となった。

本物志向が需要を高める

ビジネスや旅行で海外を訪れるシンガポール人が、旅先で口にする食べ物に感銘を受けて、帰国後に同類の食べ物を求めるケースが増えているといわれている。このような現地消費者の「本物の味」へのこだわりは日増しに強くなっており、食品輸入業者もより品質の高い食材の輸入に力を入れているようだ。

日本政府観光局(JNTO)が公表している訪日外客数の統計によると、2010年1~10月に日本を訪れたシンガポール人は前年同期比で33%増の12万500人だった。日本産米を購入する現地消費者のなかには、一度は日本を訪れたことがあるシンガポール人が非常に多いといわれている。はじめは比較的安価なオーストラリア、中国、ベトナム産のジャポニカ米を購入していたが、渡日で口にした「ごはん」の味が忘れられず、最終的に日本産米を購入するようになった消費者もいるようだ。米の輸入業者A社は、生活水準が向上すれば、より高級な食材を求めるのは自然な流れであり、シンガポール人消費者の間で日本産米の需要が高まっていることは当然の結果だと見ている。

日系の飲食店もシンガポール人の食に対する本物志向を満たすために、日本産米の使用を売りにしている店が増えているという。2009年6月に開業した「大戸屋」や2010年4月に海外1号店として出店した「富寿し」なども、日本産米を使用しており、シンガポール人にも人気の飲食店となっている。営業上、具体的な数字は明らかにされていないが、食品輸入業大手ヤマカワ・トレーディング社(Yamakawa Trading Co. (Pte)Ltd. )の高野新作ゼネラルマネジャーによると、現在のところ日本産米を使用している飲食店は日本食レストラン全体の約5%ほどで、今後、日本産米を提供する日本食レストラン数は増加するだろうとみている。本物志向という意味では、こうした飲食店の利用者が、小売店で日本産米を購入するケースも増えていくのではないかと予想される。

よりおいしい米を求める消費者

日系スーパーマーケットの伊勢丹や明治屋では、よりおいしい米を求める消費者に玄米を販売し、店内で精米機による精米のサービスを提供している。小売価格は白米よりもやや高めに設定されているものの、9~11月の売り上げも堅調だったという。明治屋スーパーマーケットでは、現在4種類(「きぬひかり」、「仁多米こしひかり」、「あきたこまち」、「きぬむすめ」)の玄米が3キロ入りのパッケージで28.8~39.8Sドルの価格帯で販売されている。どの銘柄も同じように売れ行きがよく、リピーターのつく商品になっているようだ。明治屋スーパーマーケットの名越秀二常務取締役は、店内で精米できることによる新鮮さと味・香りのよさが消費者に好評で、富裕層を中心に、さらなる売り上げが期待できると話した。

明治屋スーパーマーケットで販売されている玄米と精米機(写真)

シンガポールの食品輸入業界関係者によると、玄米を輸出したいという日本からの問い合わせが、ここ数年増えているという。玄米はシンガポール政府が実施する米貯蔵計画(Rice Stockpile Scheme:RSS)の適用除外商品であることから、輸入数量の規制もなく、比較的扱い易い商品だという輸入業者もいる。白米より安く輸入ができる可能性もあり、新たに日本産玄米の輸入を検討している業者もあるようだ。

将来、よりおいしい米を求める消費者に新たなブランドの玄米が紹介され、小売店内により多くの玄米商品が並ぶのではないかと期待されている。

(シンガポール・センター)