マレーシアの貿易投資年報

要旨・ポイント

  • 2023年の実質GDP成長率は3.6%、前年からの反動と外需不振で3年ぶりに減速。
  • 世界的な需要低迷を受け、2023年の輸出入はともに1割減。
  • 2023年の対内直接投資は3年ぶり減も、投資流入額は過去2番目の高水準。
  • 対内直接投資残高で日本は4位、堅調な投資流入続く。

公開日:2024年10月3日

マクロ経済 
前年からの反動と外需不振で3年ぶり減速

2023年のマレーシアの実質GDP成長率は3.6%だった。前年の8.9%と比較して大きく減速し、2024年国家予算案発表時(2023年10月)に財務省が発表した予測値4.0%をも下回った。2022年は、22年ぶりの高成長であったことから、その反動減に加え、世界貿易の低迷、半導体産業の不振、地政学的緊張の高まり、金融政策の引き締めなどの要因により、成長率の大幅鈍化につながったとマレーシア中央銀行(以下、中銀)は分析した。四半期別の動きを見ても、第1四半期を除き3%前後の伸びにとどまった。

表1 マレーシアの需要項目別実質GDP成長率(単位:%)(△はマイナス値)
項目 2021年 2022年 2023年
年間 Q1 Q2 Q3 Q4
実質GDP成長率 3.3 8.9 3.6 5.5 2.8 3.1 2.9
階層レベル2の項目民間最終消費支出 1.8 11.3 4.7 6.1 4.2 4.1 4.2
階層レベル2の項目政府最終消費支出 5.8 5.1 3.3 △ 2.0 3.3 5.3 5.8
階層レベル2の項目国内総固定資本形成 △ 0.7 6.8 5.5 4.9 5.5 5.1 6.4
階層レベル2の項目財貨・サービスの輸出 18.5 14.5 △ 8.1 △ 2.9 △ 9.0 △ 12.0 △ 7.9
階層レベル2の項目財貨・サービスの輸入 21.2 16.0 △ 7.4 △ 6.7 △ 8.8 △ 11.3 △ 2.6

〔注〕四半期の伸び率は前年同期比。
〔出所〕マレーシア統計局「四半期別GDP統計」から作成

需要項目別にみると、民間最終消費支出(個人消費)は年間を通じて継続的な家計支出に下支えされ、前年比4.7%増と経済を牽引した。政府消費は、新型コロナウイルス(以下、新型コロナ)感染対策の支出廃止により第1四半期に一時マイナスに落ち込んだが、2023年後半にかけて伸びが加速した。国内総固定資本形成(民間投資)も、とりわけ情報通信技術や、電気・電子、化学および同製品分野を中心とした新規または継続案件の進展により、第2四半期以降は5%超の成長を続けた。他方で純輸出は、外需の低迷により輸出入ともに前年比でマイナスに転じる中、特に輸出の減少幅が輸入のそれを上回ったことで、16.2%減へと落ち込んだ。経済への影響が大きい個人消費の動きに関しては、2023年の小売売上は9.0%増の7,208億リンギへと、3年連続で堅調に拡大した。同年の新車販売台数も、10.0%増の79万9,731台と前年に続き過去最高を記録し、80万台目前に迫った。自動車の売上税免税措置が、同年3月末までの登録車を対象としたことから、年初の駆け込み需要が販売台数を押し上げた。電動自動車(xEV)の販売台数も、68.9%増の3万8,214台へと急伸した。

産業別に見ると、実質GDPの59.2%を占めるサービス業の成長率は、前年の11.0%から5.1%へ減速した。その中にあって、宿泊、輸送・倉庫、ビジネスサービスは2桁増で好調を維持したほか、卸売りは前年から加速した。製造業の成長率は前年の8.1%から0.7%へと大幅に減速し、機械機器や電子部品・基盤、通信機器、家電を含む複数の業種で成長率がマイナスに転じた。

中銀は、2024年通年の実質GDP成長率を4.0~5.0%と予測している(同年5月時点)。長期的に見るとマレーシアは、リーマンショック後(2009年)と新型コロナ感染拡大時(2020年)を除き、4~5%の成長率を安定的に維持している。前年と比べて大幅に鈍化した2023年の3.6%から、新型コロナ禍前の水準に回復するとの見立てだ。特に内需は、引き続き個人消費を中心に経済全体を牽引し、5.4%の伸びが予測されている。半導体需要の回復などにより、輸出もプラスに転じると見られている。成長を後押しする要素としては、テクノロジー部門の復調や観光産業のさらなる活発化、新規や既存の投資事業の着実な実施が想定される。一方、リスク要因としては、予想より低迷する外需、地政学的緊張の激化、一次産品生産の減少幅拡大などが挙げられた。2024年のインフレ率は2.0~3.5%と予測される。好調な内需や失業率の低下、コアインフレの高止まりを受け、中銀は2023年5月に政策金利を0.25ポイント引き上げ3%とした。これ以降、中銀は利上げを実施していない。

投資環境・外資誘致政策 
重要政策を相次ぎ発表、脱炭素化にも注力

2022年11月に発足したアンワル・イブラヒム政権は、経済構造改革と高付加価値投資の誘致を目指し、中長期政策を次々と打ち出した。政権スローガンである「マダニ(MADANI)」の名を冠した中期国家政策であるマダニ経済政策を2023年7月に発表したのを皮切りに、同政策に紐づく形で、2050年までのカーボンニュートラルへの道筋を示す「国家エネルギー移行ロードマップ(NETR)」(7~8月)、中期産業計画「新産業マスタープラン(NIMP)2030」(9月)、第12次マレーシア計画の中間点検報告(9月)、さらにはこれらを実施すべく2024年国家予算案(10月)が発表された。2023年12月には、政権初となる内閣改造を経て、デジタルやエネルギー移行分野で省庁再編も行った。これら分野に力を入れつつ、次の総選挙までは閣僚60名の現行体制で政権運営に集中する意向だ。

2024年国家予算案は、アンワル政権が新規で組成した初の予算であり、当初予算としては過去最高となる3,938億リンギを計上した。「経済改革と国民のエンパワーメント」をテーマに、直近に打ち出した各政策とも歩調を合わせ、サービス向上のためのガバナンス改善、成長を加速させる経済改革、国民生活の水準向上、高付加価値産業の育成を強化することを強調した。企業活動に対する優遇措置としては、「グローバルサービス・ハブ(GSH)」に対する税制優遇を盛り込んだ。地域統括拠点としての競争力向上などを主眼に、GSHに対し最長10年の法人所得税を免除する。また、15年間の再投資控除の適用期間が終了した製造業と農業関連企業に対して、事業を拡大する場合に70%または100%の投資控除が受けられる。

2024年税制改正においては、サービス税率の6%から8%への引き上げ(2024年3月実施)、電子インボイスの段階的導入(同年8月から)、グローバルミニマム課税の導入(2025年から)などが盛り込まれた。とりわけ電子インボイスについては、2025年7月までに原則としてすべての企業が導入義務を負うため、日本企業も会計ソフトの見直しを含めた準備を進めている。

脱炭素化に関しては前述の通り、2023年12月に天然資源・環境・気候変動省を、エネルギー移行・水資源変革省および天然資源・持続可能性省の2省体制に再編し、NETRの下で基幹分野への投資増強に取り組んでいる。2024年2月には、両省が参加するグリーン投資戦略実施運営委員会が開催され、基幹分野への投資機会拡大に向けた研究を進めている。ジェトロの「2023年度海外進出日系企業実態調査(アジア・オセアニア編)」(以下、日系企業調査)によれば、脱炭素化に取り組んでいる、またはその予定があると回答した企業はマレーシアで80.5%と、ASEAN主要国の中では最多で、前年度調査と比べても同比率が4.5ポイント上昇した。中小企業でも取り組みが進みつつある。一方で、政府によるインセンティブが少ない、あるいは補助金の詳細が未詳、NETRを企業単位の活動にいかに落とし込むのかが不明瞭といった、政策の不備を指摘する意見もあった。

貿易 
世界的な需要低迷を受け、2023年の輸出入はともに1割減

2023年の貿易総額(通関ベース)は前年比7.3%減の2兆6,373億リンギだった。貿易収支は16.4%減の2,141億リンギと前年を下回ったものの、26年連続で黒字を維持した。輸出総額は8.0%減の1兆4,257億リンギ、輸入総額は6.4%減の1兆2,116億リンギと、いずれも前年を下回った。マレーシア投資貿易産業省(MITI)によると、世界的な需要低迷、コモディティ価格の下落、地政学的な不確実性の高まり、インフレ率上昇、半導体産業の不振、前年からの反動減といった、経済成長率全体の鈍化要因とも共通する複合的な要素が重なり、貿易の低迷につながった。

輸出を品目別にみると、全体の4割を占める電気・電子製品が5,755億リンギで、前年から微減した。同品目の半数以上を占める集積回路も、前年比1.0%減の2,989億リンギとほぼ横ばいであり、他の主要品目と比べれば、落ち込み幅が小さい。これに次いで、石油製品が10.7%減の1,339億リンギ、パーム油・同製品が26.0%減の1,022億リンギ、液化天然ガス(LNG)が12.4%減の596億リンギと、価格下落の影響を反映し、いずれも2桁減に落ち込んだ。

輸出を国・地域別でみると、最大の仕向け先シンガポールが前年比5.7%減の2,193億リンギで、前年に続き中国を上回った。次いで、中国が8.7%減の1,922億リンギ、米国が3.5%減の1,613億リンギ、香港が6.1%減の898億リンギ、日本(【対日関係】参照)と続く。シンガポール向けの主要輸出品目では、全体の4割を占める集積回路が9.3%減、1割強を占める石油および同製品が12.1%減といずれも1割縮小した。中国向けでも、3割を占める集積回路が1.7%減へと微減したほか、天然ガスや記憶装置などの主要品目が2桁減に落ち込んだ。MITIは、中国など主要貿易相手国への過度な依存から脱却すべく、貿易の多角化を推進する方針を示している。

輸入を品目別にみると、3割を占める電気・電子製品が、前年比9.5%減の3,559億リンギに縮小した。通信機器・部品を除く主要な電気・電子製品で2桁減を記録した。石油製品が4.8%減の1,303億リンギへ縮小した一方、原油は15.2%増の610億リンギ、自動車部品も14.3%増の195億リンギと、輸入は堅調だった。

輸入を国・地域別にみると、シンガポールや欧州、中東など一部の国・地域を除き軒並み減少した。最大の輸入相手国は総額の21.3%を占める中国で、最も輸入額の大きい集積回路が前年比17.0%減に縮小した一方、石油および同製品、通信機器、コンピュータおよび周辺機器は好調だった。次いで、シンガポールからの輸入では、石油および同製品と金が2桁減に縮小した一方、集積回路、電気回路の開閉用・保護用・接続用機器、電子管・半導体等が前年比で拡大した。中国とシンガポールに、米国、台湾、日本からの輸入が続いた。

表2-1 マレーシアの主要品目別輸出(FOB) [通関ベース](単位:100万リンギ、%)(△はマイナス値)
品目 2022年 2023年
金額 金額 構成比 伸び率
電気・電子製品 592,956 575,454 40.4 △ 3.0
階層レベル2の項目電子管・電子部品 387,338 387,452 27.2 0.0
階層レベル3の項目集積回路 302,085 298,938 21.0 △ 1.0
階層レベル2の項目通信機器・部品 51,387 48,065 3.4 △ 6.5
金属・鉱物 255,062 227,119 15.9 △ 11.0
階層レベル2の項目石油製品 149,836 133,871 9.4 △ 10.7
階層レベル2の項目液化天然ガス(LNG) 68,002 59,602 4.2 △ 12.4
階層レベル2の項目原油 31,847 28,733 2.0 △ 9.8
パーム油・同製品 137,986 102,151 7.2 △ 26.0
専門・科学・制御機器 52,254 50,361 3.5 △ 3.6
合計(その他含む) 1,550,009 1,425,677 100.0 △ 8.0

〔出所〕マレーシア統計局

表2-2 マレーシアの主要品目別輸入(CIF) [通関ベース](単位:100万リンギ、%)(△はマイナス値)
品目 2022年 2023年
金額 金額 構成比 伸び率
電気・電子製品 393,474 355,937 29.4 △ 9.5
階層レベル2の項目電子管・電子部品 255,295 221,152 18.3 △ 13.4
階層レベル3の項目集積回路 185,691 159,288 13.1 △ 14.2
階層レベル2の項目電気機器・部品 36,701 33,046 2.7 △ 10.0
階層レベル2の項目通信機器・部品 27,327 29,642 2.4 8.5
石油製品 136,762 130,253 10.8 △ 4.8
原油 52,941 60,972 5.0 15.2
特殊機械・同部品 22,684 22,447 1.9 △ 1.0
自動車部品 17,052 19,495 1.6 14.3
測定・分析・制御機器 18,167 19,103 1.6 5.1
合計(その他含む) 1,293,811 1,211,573 100.0 △ 6.4
表3 マレーシアの主要国・地域別輸出入[通関ベース](単位:100万リンギ、%)(△はマイナス値)
国・地域 輸出(FOB) 輸入(CIF)
2022年 2023年 2022年 2023年
金額 金額 構成比 伸び率 金額 金額 構成比 伸び率
アジア・大洋州 1,073,982 990,035 69.4 △ 7.8 936,156 852,932 70.4 △ 8.9
階層レベル2の項目日本 98,658 85,699 6.0 △ 13.1 83,076 70,944 5.9 △ 14.6
階層レベル2の項目中国 210,554 192,208 13.5 △ 8.7 275,826 258,629 21.3 △ 6.2
階層レベル2の項目香港 95,671 89,836 6.3 △ 6.1 17,601 15,250 1.3 △ 13.4
階層レベル2の項目韓国 54,906 55,877 3.9 1.8 59,187 55,194 4.6 △ 6.7
階層レベル2の項目ASEAN 452,725 420,299 29.5 △ 7.2 318,052 300,360 24.8 △ 5.6
階層レベル3の項目シンガポール 232,484 219,331 15.4 △ 5.7 135,040 143,801 11.9 6.5
階層レベル3の項目タイ 65,774 58,712 4.1 △ 10.7 56,186 54,457 4.5 △ 3.1
階層レベル3の項目インドネシア 55,736 50,908 3.6 △ 8.7 73,968 60,301 5.0 △ 18.5
階層レベル3の項目ベトナム 53,623 52,012 3.6 △ 3.0 31,747 27,412 2.3 △ 13.7
階層レベル2の項目インド 54,762 45,537 3.2 △ 16.8 31,458 29,853 2.5 △ 5.1
階層レベル2の項目オーストラリア 48,091 49,901 3.5 3.8 40,637 34,739 2.9 △ 14.5
欧州 156,962 143,816 10.1 △ 8.4 110,394 113,616 9.4 2.9
階層レベル2の項目EU27 126,066 112,882 7.9 △ 10.5 90,178 93,812 7.7 4.0
階層レベル2の項目英国 9,282 8,781 0.6 △ 5.4 8,295 8,519 0.7 2.7
中東 35,582 31,140 2.2 △ 12.5 75,520 81,029 6.7 7.3
階層レベル2の項目湾岸協力会議(GCC)諸国 26,705 25,077 1.8 △ 6.1 73,002 79,560 6.6 9.0
北米 172,091 165,472 11.6 △ 3.8 105,887 93,188 7.7 △ 12.0
階層レベル2の項目米国 167,208 161,298 11.3 △ 3.5 100,421 88,957 7.3 △ 11.4
アフリカ 40,464 31,959 2.2 △ 21.0 19,431 22,237 1.8 14.4
中南米 30,335 31,744 2.2 4.6 28,844 30,611 2.5 6.1
階層レベル2の項目ブラジル 4,663 4,998 0.4 7.2 12,197 12,463 1.0 2.2
合計(その他含む) 1,550,009 1,425,677 100.0 △ 8.0 1,293,811 1,211,573 100.0 △ 6.4

〔注〕アジア・大洋州は、ASEAN+6(日本、中国、韓国、オーストラリア、ニュージーランド、インド)に香港、台湾を加えた合計値。
〔出所〕マレーシア統計局

通商政策 
FTAカバー率は7割、停滞していた交渉に再開の動きも

マレーシアが締結する自由貿易協定(FTA)は16あり、貿易総額に占めるFTAカバー率は67.4%に上る。直近発効した環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定(CPTPP)について、MITIは、発効後1年に当たる2023年12月に声明を発表し、協定の効果により石油製品の輸出が前年同期比15%増に拡大するとともに、鉄鋼製品や繊維製品でも輸出が増加したと強調した。MITIによれば、2022年11月29日の発効以降、2023年10月末までに4,482件のCPTPP特定原産地証明書が発給されており、最大の輸出先は日本、次いでメキシコ、カナダ、ペルーと続いた。MITIは今後も、中小企業を含むマレーシア国内企業がCPTPPから利益を享受できるよう、例えば法律、税務・会計、エンジニアリングなど専門サービスの輸出拡大、専門家の国際労働移動による知識移転、電子商取引の促進と障壁削減など、物品貿易以外のメリットを最大化できるよう取り組みを推進するとしている(注1)。

(注1)なおMITIは、FTA別の特定原産地証明書発給件数をウェブサイト上の電子週刊誌で公開している。

表4 マレーシアのFTA発効・交渉状況(単位:%)
FTA 発効日 マレーシアの貿易に占める構成比(2023年)
往復 輸出 輸入
発効済み ASEAN物品貿易協定(ATIGA) 1993年1月 27.3 29.5 24.8
ASEAN・中国自由貿易協定(ACFTA) 2005年7月 44.4 43.0 46.2
日本・マレーシア経済連携協定(JMEPA) 2006年7月 5.9 6.0 5.9
ASEAN・韓国自由貿易協定 2007年6月 31.6 33.4 29.4
マレーシア・パキスタン自由貿易協定 2008年1月 0.2 0.3 0.2
日本・ASEAN包括的経済連携協定(AJCEP) 2008年12月 33.3 35.5 30.7
ASEAN・インド包括的経済協力枠組み協定(AIFTA) 2010年1月 30.2 32.7 27.3
ASEAN・オーストラリア・ニュージーランド自由貿易協定(AANZFTA) 2010年1月 31.0 33.5 28.0
マレーシア・ニュージーランド自由貿易協定 2010年8月 0.4 0.5 0.3
マレーシア・インド包括的経済連携協定 2011年7月 2.9 3.2 2.5
マレーシア・チリ自由貿易協定 2012年2月 0.1 0.0 0.1
マレーシア・オーストラリア自由貿易協定 2013年1月 3.2 3.5 2.9
マレーシア・トルコ自由貿易協定 2015年8月 0.8 1.2 0.2
ASEAN・香港自由貿易協定 2019年6月 31.8 36.3 26.4
環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定(CPTPP) 2018年12月 37.5 42.5 31.6
地域的な包括的経済連携(RCEP)協定 2022年1月 58.2 56.9 59.8
合計 67.4 69.6 64.7
交渉中 マレーシア・韓国自由貿易協定 4.2 3.9 4.6
マレーシア・EU自由貿易協定 7.8 7.9 7.7
ASEAN・カナダ自由貿易協定 27.7 29.8 25.2
マレーシア・EFTA経済連携協定 0.3 0.3 0.4
マレーシア・UAE包括的経済連携協定 1.5 1.0 2.1

〔注1〕FTAを適用した貿易額ではなくFTA締結国との貿易額がマレーシア全体の貿易額に占める割合を表示。
〔注2〕「合計」算出に当たっては、重複する国・地域の構成比は除く。
〔注3〕特恵関税協定は除く。
〔注4〕 複数国間協定の場合、発効日は最初の発効国を基準とする。
〔出所〕マレーシア統計局、ジェトロ「世界のFTAデータベース」から作成

日本との間では、日本・マレーシア経済連携協定(JMEPA)、日本・ASEAN包括的経済連携協定(AJCEP)、CPTPP、および地域的な包括的経済連携(RCEP)協定の4つが併存する。2023年7月以降、前者の2協定では、日本からマレーシア向けの輸出で特定原産地証明書が電子化された。マレーシアの輸入者は、PDF形式の証明書をプリントアウトして、税関に提示できる。運用開始直後は、税関の現場で当該情報が行き渡っていないケースがあったが、その後大きな混乱なく運用されている。

停滞していた協定交渉の一部にも動きが出ている。2024年3月にはMITIが、2019年以来中断していた韓国とのFTA交渉を再開すると発表した。両国間には、既にASEAN韓国FTAとRCEPが存在するが、加えて二国間協定も追加で締結する。物品貿易のみならず、デジタル経済、グリーン経済、サプライチェーン、バイオエコノミーなど広範な分野をカバーし交渉を推進する。他方、2012年を最後に交渉が中断したEUとのFTAについても、2024年3月にアンワル首相率いる投資貿易ミッションが欧州を訪問した際、交渉再開に向けた議論があった。両者間のFTA交渉のボトルネックであるパーム油を巡る問題については、同年3月にWTO紛争処理小委員会が、パーム油由来のバイオ燃料を制限するEUのルールが差別的だと判じ、マレーシア側の主張を一部認める報告を出した。国際判断が出たことがFTA交渉への弾みになった可能性もあり、交渉再開への期待がマレーシア国内で高まっている。

対内直接投資 
対内直接投資は3年ぶり減も、流入額は過去2番目の高水準

2023年のマレーシア対内直接投資(国際収支ベース、ネット、フロー)は前年比46.4%減の404億リンギと、3年ぶりに減少に転じた。対内直接投資額は、2022年まで2年連続で過去最高を更新し続けたが、2023年についても、統計をさかのぼることができる2008年以降、5番目に高い水準となった。投資実行額(グロス)は、2008年以降緩やかな拡大基調を続けており、2023年についても、前年(2,956億リンギ)に次ぐ2,631億リンギの投資を受け入れた。

業種別では、製造業が前年比89.1%減の55億リンギへ減少した。投資の実行自体は、1,344億リンギと活発だったが、ほぼ同額の1,290億リンギの回収があったことから、実行額から回収額を差し引いたネットの投資額がほぼ全減した。その結果、50.5%増の354億リンギを記録したサービス業への投資が、2023年の対内直接投資のほぼ全てを占めた形となった。特に、情報通信業向けが3.3倍の120億リンギに急増したほか、その他サービス業も2.8倍の118億リンギへと拡大した。情報通信業については、大型のデータセンターへの投資活発化が背景にあると見られる。MITIによれば、2021~2023年に認可されたデジタル投資のうち、データセンターが79.3%を占めた。2023年に報じられた規模の大きい案件として、米バンテージ・データセンターズ(Vantage Data Centers)、シンガポールのプリンストン・デジタル・グループ(Princeton Digital Group)、中国のブリッジ・データセンターズ(Bridge Data Centres)などによる新しい設備の建設があった。

国・地域別にみると、シンガポールによる投資が前年比99.0%増の226億リンギへとほぼ倍増し、過半を占めた。シンガポールからの投資は、それまでのピークだった2022年の113億リンギを上回り、過去最高を記録した。これに、香港(2.7倍の175億リンギ)、日本(42.6%減の55億リンギ)、中国(9.7%増の41億リンギ)、韓国(39.2%増の28億リンギ)が続いた。中国からの、投資実行額は157億リンギで過去最高額を記録した。2023年末時点の対内直接投資残高ではまだ7位であるものの、着実にマレーシアへの投資を拡大させつつある。

前年まで2年連続で過去最高を更新していた米国は、2023年には13億リンギの引き揚げ超過を計上した。その結果、マレーシアの投資残高において米国は、前年末の2位から、シンガポールと香港に次ぐ3位に順位を落とした(構成比は10.4%)が、依然として日本(10.2%)を上回っている。過去数年、米国からの投資が好調だったのは、特に半導体分野で安定的な投資があったためで、2023年も、テキサス・インスツルメンツ(Texas Instruments)によるクアラルンプールやマラッカ州での半導体生産増強や、マイクロン・テクノロジー(Micron Technology)によるペナン州での第2工場開設などが発表された。

表5 マレーシアの業種別対内直接投資[国際収支ベース、ネット、フロー](単位:100万リンギ、%)(△はマイナス値)
業種 2022年 2023年
金額 金額 構成比 伸び率
農林水産業 21 21 0.1 0.8
鉱業・採石業 1,567 1,391 3.4 △ 11.3
製造業 50,146 5,469 13.5 △ 89.1
階層レベル2の項目食品・飲料・たばこ 867 468 1.2 △ 46.1
階層レベル2の項目繊維・木製品 1,420 88 0.2 △ 93.8
階層レベル2の項目石油・化学・ゴム・プラスチック 1,192 △ 5,424
階層レベル2の項目非金属鉱物・基礎金属・金属加工 3,780 3,289 8.1 △ 13.0
階層レベル2の項目電気電子・輸送機器・その他製造業 42,887 7,049 17.4 △ 83.6
建設業 187 △ 1,837
サービス業 23,496 35,359 87.5 50.5
階層レベル2の項目電力・ガス 490 1,889 4.7 285.3
階層レベル2の項目卸小売業、自動車修理業 3,628 △ 1,728
階層レベル2の項目輸送・倉庫業 △ 82 △ 309
階層レベル2の項目情報通信業 3,613 11,982 29.7 231.6
階層レベル2の項目金融・保険業 11,686 11,774 29.1 0.8
階層レベル2の項目その他サービス業 4,160 11,751 29.1 182.5
合計(その他含む) 75,417 40,403 100.0 △ 46.4

〔出所〕マレーシア統計局

表6 マレーシアの国・地域別対内直接投資[国際収支ベース、ネット、フロー](単位:100万リンギ、%)(△はマイナス値)
国・地域 2022年 2023年
金額 金額 構成比 伸び率
アジア大洋州 38,903 51,469 n.a. 32.3
階層レベル2の項目香港 6,380 17,475 43.3 173.9
階層レベル2の項目日本 9,654 5,546 13.7 △ 42.6
階層レベル2の項目中国 3,720 4,079 10.1 9.7
階層レベル2の項目韓国 2,009 2,797 6.9 39.2
階層レベル2の項目ASEAN 14,526 22,915 56.7 57.8
階層レベル3の項目シンガポール 11,341 22,573 55.9 99.0
階層レベル3の項目タイ 1,710 979 2.4 △ 42.8
階層レベル2の項目インド △ 15 △ 122
階層レベル2の項目オーストラリア 134 △ 3,311
欧州 △ 5,610 △ 8,311
階層レベル2の項目EU27 555 △ 8,545
階層レベル3の項目オーストリア 1,195 3,474 8.6 190.8
階層レベル3の項目アイルランド 116 1,730 4.3 1,391.4
階層レベル3の項目フランス 515 85 0.2 △ 83.6
階層レベル3の項目ドイツ 4,430 △ 102
階層レベル3の項目オランダ △ 6,875 △ 13,356
階層レベル2の項目スイス △ 3,479 1,005 2.5
階層レベル2の項目英国 △ 2,735 △ 796
北米 35,743 △ 1,163
階層レベル2の項目米国 36,350 △ 1,284
中南米 6,284 △ 1,604
階層レベル2の項目英領バージン諸島 1,900 △ 1,239
合計(その他含む) 75,417 40,403 100.0 △ 46.4

〔出所〕マレーシア統計局

投資の先行指標と位置付けられるマレーシア投資開発庁(MIDA)の投資認可額統計では、2023年の外国投資認可額は前年比15.4%増の1,884億リンギへと拡大した。うち、製造業は94.5%増の1,284億リンギ、サービス業は31.8%減の579億リンギと、製造業がほぼ倍増し全体を牽引した。2023年の製造業向けの外国投資認可額は、統計がさかのぼれる1986年以降では、従来の過去最高額である2021年の1,796億リンギに次ぐ水準を記録した。製造業投資の内訳として、新規投資が424億リンギと全体の33.0%を占め、残りが拡張・多角化投資に当たる。MIDAが2024年に初めて発表した、認可投資案件の実行率については、2021~2023年に認可された2,386件の投資案件のうち74.0%が既に実行済みだ。2023年の案件に限れば、認可済み883件のうち、同年末時点で50.1%が実行された。2024年通年では、前年比8~10%増の投資認可が見込まれている。

製造業の外国投資認可額を業種別にみると、全体の6割強を占める電気・電子製品分野への投資が、前年比3.0倍の824億リンギだった。これに、機械装置が3.2倍の170億リンギ、非金属鉱物が18.1%増の63億リンギと続いた。主要業種の中で、輸送機器は23.1%減(51億リンギ)と前年を下回った。

国・地域別では、オランダが前年比4.0倍の349億リンギで首位だった。電気・電子関連の投資が、同国からの投資額の95.7%を占めた。発光ダイオード部品などを手掛けるルミレッズ(Lumileds)による237億リンギ相当の大型投資が大きく寄与した。次いで、米国が前年比4.2倍の181億リンギだった。オランダ同様に、電気・電子関連の投資が全体の8割強を占め、例えば、リチウム電池メーカーのエノビックス・コーポレーション(Enovix)によるシリコン電池製造拠点の設立(58億リンギ)があった。中国からの投資は25.5%増の120億リンギで、オランダ、米国、英領ケイマン諸島、シンガポールに次ぐ5位だった。中国企業による主な投資案件として、リチウムバッテリーセパレータメーカー深圳市星源材質による、東南アジア初の電池セパレータ生産拠点設立(32億リンギ)などがあった。

表7 マレーシアの主な対内直接投資案件(2023年)(単位:100万米ドル)
業種 企業名 国籍 時期 投資額 概要
輸送機器 浙江吉利控股集団(Zhejiang Geely Holding Group:ZGH) 中国 7月18日 10,000 ペラ州タンジュンマリムを東南アジア最大の自動車都市とすべく、100億米ドル規模の新たな投資計画を明らかに。DRBハイコムと基本契約書を締結し、同計画に焦点を当てた合弁事業を実施予定。
IT アマゾン・ウェブ・サービス(AWS) 米国 3月2日 5,662 2037年までに、クラウドコンピューティングのインフラ整備に255億リンギを投資する計画を発表。同社のマレーシアへの投資としては最大規模。
データセンター バンテージ・データセンターズ(Vantage Data Centers) 米国 5月16日 3,000 スランゴール州サイバージャヤに2カ所目のデータセンター(KUL2)を開設すると発表。2025年第4四半期の稼働を見込む。
半導体 テキサス・インスツルメンツ(Texas Instruments) 米国 6月13日 2,105 クアラルンプール・アンパン地区工場に隣接する建物を取得。最大96億リンギを投じ、半導体の組み立ておよび検査工場に改装する計画を発表。
半導体 テキサス・インスツルメンツ(Texas Instruments) 米国 6月13日 1,081 マラッカ州既存工場の隣接地で新工場を建設。投資額は最大50億リンギ。クアラルンプールの新工場同様2025年に稼働、最大500人の雇用が創出される見通しだ。
電子部品 肯微科技(Compuware Technology) 台湾 11月21日 1,081 ジョホール州セナイ空港近くに新工場設立。2024年半ばまでに建設の第一段階を完了予定。4,000人以上の雇用創出見込む。
プラスチック 深圳市星源材質(Shenzhen Senior Technology Material ) 中国 11月29日 685 ASEAN初のバッテリーセパレータ工場をペナンテクノロジーパークに設立。域内最大規模の低炭素セパレータ生産施設となる予定。
データセンター プリンストン・デジタル・グループ(Princeton Digital Group) シンガポール 5月22日 435 ジョホール州クライに20億リンギを投じ、150メガワット規模の大型データセンター「JH1」を建設。東南アジア最大のデータセンターの一つになる見通し。
電子部品 恵州億緯鋰能(EVE Energy) 中国 5月12日 422 電動バイクや電動工具向けの円筒形電池を製造する工場をクダ州クリムに建設。EVEエナジーにとって世界53カ所目の工場で、600人を雇用する。
電子部品 浙江祥邦科技(Zhejiang Sinopont Technology) 中国 10月18日 420 ペラ州タセク工業団地に20億リンギを投じ、太陽電池セル用封止材の生産工場を建設。2024年3月に開業済みで、フル稼働時点で約300人の雇用を見込む。同社初の海外生産工場。
データセンター STテレメディア・グローバル・データ・センターズ(STT・GDC) シンガポール 11月2日 397 データセンター開発に向けマレーシアの同業ベイシス・ベイと合弁会社を設立。1棟目「サイバージャヤDC2」は2024年、2棟目「STTクアラルンプール1」は2025年に稼働予定。同日、ジョホール州イスカンダルプテリでのデータセンターキャンパス開発計画も発表。
データセンター エッジコネックス(EdgeConneX) 米国 9月11日 397 スランゴール州サイバージャヤに、電力容量200メガワット、9棟から成るデータセンターキャンパスを開発。
データセンター ブリッジ・データセンターズ(Bridge Data Centres:BDC) 中国 6月23日 397 クアラルンプール市のMRANTIパーク内既存キャンパスを拡張。第1フェーズは2025年第3四半期までに、16メガワットの電力で稼働予定。第2フェーズは2027年の第4四半期に開始見込み。
データセンター エクイニクス(Equinix) 米国 6月11日 397 スランゴール州サイバージャヤにデータセンター「KL1」を建設。ジョホール州イスカンダルプテリと併せてマレーシア国内2拠点体制を敷く。
データセンター エアトランク(AirTrunk) オーストラリア 1月19日 397 ジョホール州ジョホールバルにデータセンター「JHB1」を開設。同社がマレーシアにデータセンターを開設するのは初めて。電力容量は150メガワットで、完工は2024年の見通し。
電子部品 隆基緑能科技(Longi) 中国 10月17日 379 スランゴール州スレンダーの太陽電池モジュール工場第1期操業を開始。単結晶シリコンウェハを製造。投資額は18億リンギで、第2期の起工式も同時に行った。同工場は、サラワク州クチンとビントゥルに次ぐ3カ所目。
半導体 マイクロン・テクノロジー(Micron Technology) 米国 10月13日 373 創業45周年に合わせ、ペナン州バトゥカワンで第2工場を開設。同社は2018年のマレーシア進出からペナン拠点に10億米ドルを投じた。今後数年間で設備増強にさらに10億米ドルを投じる計画。
半導体 鴻富誠(深圳HFC) 中国 11月14日 373 マレーシアの半導体産業向け検査機器メーカーJFテクノロジーと、半導体チップの電磁波干渉(EMI)シールド材料や熱伝導材料などを製造する合弁会社「HFCテック」をスランゴール州に設立。深圳HFCが80%、JFテクノロジーが20%出資。
消費財 大創産業 日本 10月5日 214 スランゴール州クランにグローバル配送センターを設立。投資額は10億リンギ。配送センターとしては同社最大で、中国に次ぐ第2のグローバル拠点。

〔注〕 投資額は推計値も含む。
〔出所〕ワークスペース(Refinitive)、fDi Markets(Financial Times)、各社プレスリリース、報道などから作成

対日関係 
対内直接投資残高で日本は4位、堅調な投資流入続く

2023年の対日貿易総額は前年比13.8%減の1,566億リンギだった。マレーシアにとって日本は、中国、シンガポール、米国に次ぐ4位の貿易相手国である。貿易収支は5.3%減の148億リンギへと微減したが、14年連続で対日黒字を記録した。輸出額は13.1%減の857億リンギ、輸入額は14.6%減の709億リンギで、いずれも2桁減だった。

対日輸出を品目別(HSコード4桁ベース)にみると、全体の3割を占める天然ガスが依然として最大の輸出品目だったが、価格下落の影響で前年比15.9%減に縮小した。次いで、集積回路、石油および歴青油、映像機器、パーム油・同製品が続く。主要品目の中では、石油および歴青油が33.6%増と大きく拡大したほか、集積回路も前年に続き7.3%増と好調だった。対日輸入では、全体の2割を占める集積回路や半導体デバイスがやや減少した一方、自動車部品と半導体製造装置は20%を超える伸びを記録した。石油やプリント基板が大幅に減少したことで、総額を押し下げた。

表8‐1 マレーシアの対日主要品目別輸出(FOB) [通関ベース](単位:100万リンギ、%)(△はマイナス値)
品目 2022年 2023年
金額 金額 構成比 伸び率
天然ガス(HS2711) 30,566 25,697 30.0 △ 15.9
集積回路(HS8542) 7,490 8,039 9.4 7.3
石油および歴青油(HS2709) 4,622 6,177 7.2 33.6
映像機器(HS8528) 2,877 2,459 2.9 △ 14.5
パーム油・同製品(HS1511) 2,811 2,269 2.6 △ 19.3
合計(その他含む) 98,658 85,699 100.0 △ 13.1

〔出所〕 マレーシア統計局

表8‐2 マレーシアの対日主要品目別輸入(CIF) [通関ベース](単位:100万リンギ、%)(△はマイナス値)
品目 2022年 2023年
金額 金額 構成比 伸び率
集積回路(HS8542) 15,782 14,722 20.8 △ 6.7
自動車部品(HS8708) 2,885 3,523 5.0 22.1
半導体デバイス(HS8541) 2,936 2,828 4.0 △ 3.7
乗用車(HS8703) 2,412 2,576 3.6 6.8
半導体製造装置(HS8486) 1,991 2,432 3.4 22.1
合計(その他含む) 83,076 70,944 100.0 △ 14.6

〔出所〕 マレーシア統計局

日本からの直接投資(国際収支ベース、ネット、フロー)は、前年比42.6%減の55億リンギで、2年ぶりに減少に転じた。ただし、投資実行額は緩やかな増加基調が続いており、2023年(177億リンギ)は、2022年(240億リンギ)と2019年(222億リンギ)に次ぐ、過去3番目の水準だった。この結果、2023年末時点の日本の対内直接投資残高は942億リンギと総額の10.2%を占め、シンガポール、香港、米国に次ぐ4位だった。

MIDAによると、2023年の日本からの製造業投資認可額は、前年比10.9%増の102億リンギで国・地域別で6位(構成比7.9%)、日本の投資による推定雇用創出数は5,262人だった(注2)。機械装置分野への投資が全体の6割強を占め、次いで電気・電子製品、化学・同製品、金属加工品と続いた。

(注2)2023年の製造業投資認可額が多い国においては、例えばオランダが889人、米国が6,063人、シンガポールが1万5,293人、中国が9,305人など。

2023年に発表された日本企業による主な製造業への投資案件として、豊田自動織機による自動車・重機大手UMWの産業機器事業への出資や、岩谷産業によるマレーシア冷媒事業会社2社の買収、KOAによる新工場設立に向けた追加投資などがあった。非製造業でも、中間層・富裕層の取り込みを当て込んだ拠点設立が相次いだ。例えば、2023年にクアラルンプール市内にオープンした大型商業施設「エクスチェンジTRX」では、中核テナントとして「SEIBU」(西武)ブランドの百貨店が初開業した。書店「ツタヤ・ブックストア」やドラッグストア「アルプロ・スギ・ファーマシー」も開業したほか、家具大手ニトリやブックオフの中古商材店「ジャラン・ジャラン・ジャパン」なども店舗網を拡大している。さらに、シンガポールでのコスト高騰やビザ取得手続きの厳格化などからマレーシアのビジネス環境の相対的な優位性を評価し、マレーシアに地域統括機能を設置する動きも出ている。例えば、サカタインクスが2024年に、コスト競争力の高さも加味しアジア事業を統括する機能をマレーシアに置いた。

前述の日系企業調査によると、在マレーシア日系企業の50.2%が、今後1~2年の事業展開を拡大すると回答した。ASEAN主要6カ国ではベトナム(56.7%)に次いで高水準であり、5割を超えるのは5年ぶりだった。製造業では特に一般機械や食料品、化学・医薬、非製造業では販売会社や不動産・賃貸業、小売業の事業拡大意欲が高く、現地市場ニーズの拡大や輸出の増加を背景として現地市場開拓を積極化する姿勢がうかがえた。

その一方、マレーシア日本人商工会議所(JACTIM)とジェトロが実施した2024年度日系企業アンケート調査(調査期間2024年1月29日~2月19日、有効回答数217社、回答率39.1%)によれば、業況判断指数は、2023年下期はマイナス22.1ポイントと、2022年下期(マイナス8.1ポイント)から14.0ポイント悪化した。悪化の背景には、外需低迷の長期化が懸念されることや、財政健全化を目的とした補助金制度の見直しによるコスト増が見込まれることなどがあったとみられる。2024年通年では、景況判断指数は0.5ポイントまで改善する見通しだ。

オペレーションにおける現状の課題としては、依然として従業員の賃金上昇を挙げる企業が7割超と最多だった。2022年5月に実施された最低賃金引上げ(従業員数5人以上の雇用主、従業員数にかかわらずマレーシア標準職業訓練分類で専門的活動に該当する雇用主が対象)については、2023年7月には、従業員数5人未満の零細企業を含む全企業に賃上げ対象が拡大した。最低賃金の見直しは2年に1度実施されるため、2024年中に再度の見直しを行うことを、人的資源省(MOHR)は2024年3月に明らかにしている。人手不足の問題も変わらず、特に技術者・専門職・中間管理職などの高度人材は質量ともに課題を感じている企業が多い。これ以外では、為替レートの変化(リンギ安による原材料調達コストの高騰)、物価の上昇、受注減といった、ビジネス環境上の急激な変化を訴える企業が、とりわけ製造業に多く見られた。

従来、手続きの煩雑さを指摘されていた駐在員の雇用パス(EP)発給については、2023年6月に導入された新システム「エクスパッツ・ゲートウェー」の下で、複数機関が関与していたEP申請手続きが一元化された。許諾機関からのサポートレター取得手続きが、本システムによって効率化された結果、EP取得までの所要時間は短縮化されたと評価されている。加えて、同年10月には、2019年以降発給を停止していた外国人用身分証明書「アイカード(i-KAD)」を、EPの保持者などを対象に復活させ、生活の利便性が高まった。MITIによる戦略的投資家パス、マレーシア・デジタルエコノミー公社(MDEC)によるデジタルノマド・パス、起業家支援のためのイノベーション・パスなど、あらゆるタイプのビザ導入で外国人の就業に柔軟性も生まれた。一方、エクスパッツ・ゲートウェーに関しては、全ての手続きがオンライン化したことで、提出書類に少しでも不備があればフローが止まるなど、かえって融通が利かなくなったとの声もある。

前述のアンケート調査によれば、製造業企業においてはこのほか、外国人労働者の雇用問題が引き続き提起されている。製造業ライセンス取得の要件として、常勤雇用者の8割をマレーシア人とするよう義務付けるいわゆる「80:20ルール」は2024年末に猶予期間の期限を迎える。しかしながら、2025年以降に比率を達成できるとする企業は48.0%と半数を切っており、31.6%の企業がルールの達成が困難と回答した。業種や地域に応じて異なる比率を適用する、あるいは適用範囲を限定する、もしくは段階的に外国人比率を引き下げていくといった、きめ細やかな政策対応が期待される。外国人労働者の雇用問題への対策として、人的資源省は、外国人の雇用比率に合わせて税率を調整する多層型人頭税を2025年から導入することを表明している。

基礎的経済指標

(△はマイナス値)
項目 単位 2021年 2022年 2023年
実質GDP成長率 (%) 3.3 8.9 3.6
1人当たりGDP (米ドル) 11,476 12,466 12,570
消費者物価上昇率 (%) 0.7 3.0 3.0
失業率 (%) 4.6 3.9 3.4
貿易収支 (100万リンギ) 253,678 256,198 214,104
経常収支 (100万リンギ) 60,178 55,098 22,781
外貨準備高(グロス) (100万米ドル) 114,641 112,393 110,860
対外債務残高(グロス) (100万米ドル) 1,080,355 1,144,663 1,242,535
為替レート (1米ドルにつき、マレーシア・リンギ、期中平均) 4.14 4.40 4.56


実質GDP成長率:2015年基準
消費者物価上昇率:2010年基準
貿易収支:国際収支ベース(財のみ)
出所
実質GDP成長率、消費者物価上昇率、失業率:マレーシア統計局
貿易収支、経常収支、対外債務残高(グロス):マレーシア中央銀行
1人当たりGDP、外貨準備高(グロス)、為替レート:IMF