スリランカの貿易投資年報

要旨・ポイント

  • 実質GDP成長率はマイナス2.3%も、下半期は2期連続の成長で回復に期待。
  • 外需低下で輸出減も、国内経済の落ち込みで輸入も減少し貿易赤字幅は縮小。
  • 対内直接投資は、対外債務不履行による国際的な信用低下や高金利を背景に大幅縮小。
  • 日本との貿易・投資は、自動車の輸入規制の影響で低調。投資環境は改善の兆し。

公開日:2024年10月16日

マクロ経済 
IMFなどによる支援の下で、経済危機からの回復に向かう

2023年のスリランカ経済は、1948年の独立以降、最悪の景気後退となった2022年の経済危機から徐々に回復している。2023年通年での実質GDP成長率はマイナス2.3%で、2022年のマイナス7.3%に続き2年連続のマイナス成長となった。しかし、四半期ごとの数値を確認すると、2023年後半の成長率はプラスに転じており、景気後退に終止符を打ったかたちだ。また、消費者物価指数に基づくインフレ率は、同年7月以降1桁台に落ち着いた。

スリランカ中央銀行(CBSL)は急激なインフレに対応するため、2022年春以降、金利を大幅に引き上げたが、物価上昇が鈍化したため2023年6月に金利を引き下げた。同年3月のIMFによる金融支援プログラム承認が契機となり、国内の外国為替市場の流動性回復や市場における期待の高まりとともに、スリランカ・ルピーの為替レートが回復に向かった。

スリランカの外貨準備高は、海外出稼ぎ労働者の郷里送金や観光業回復による外貨流入、輸入需要の抑制やIMF、世界銀行、アジア開発銀行(ADB)からの援助により増加し、2023年末には43億9,200万ドル(前年比2.3倍)の外貨を確保した。外貨準備高の回復により、2022年夏ごろに顕著だったガソリンスタンドでの長蛇の列が解消され、2023年9月には燃料供給に関する制限も解除された。また、1日10時間を超えることもあった深刻な停電は、同年2月以降、電気料金の大幅な引き上げとともに解消に向かった。例えば月間使用量が30キロワット時(kWh)の場合、同年2月の料金改定により月額360スリランカ・ルピーが3.6倍の1,300スリランカ・ルピーとなった。

景気悪化の要因となった財政や経常収支の長期的な赤字にも是正の兆しが見られ、2023年の基礎的財政収支(プライマリーバランス)と経常収支は黒字に転じた。IMFの支援確保に当たり、スリランカ政府は国内外債権者への債務再編を通じ、財政の持続性回復に取り組んでいる。併せて、税制改革や国有企業の売却、腐敗防止等によりガバナンス強化を図っている。

今後の経済見通しについて、CBSLは、IMFによる金融支援プログラムで規定された構造改革の継続により、2023年後半以降の景気回復が2024年も続くと予測し、同年の実質GDP成長率3.0%、インフレ率(コロンボ)5.0%を見込む。あらゆる産業で広範な景気回復が見込まれるとともに、物価や対外経済の安定も維持されると予想している。

表1 スリランカの需要項目別実質GDP成長率(単位:%)(△はマイナス値)
項目 2021年 2022年 2023年
年間 Q1 Q2 Q3 Q4
実質GDP成長率 4.2 △ 7.3 △ 2.3 △ 10.7 △ 3.0 1.6 4.5
階層レベル2の項目民間最終消費支出 2.7 △ 0.5 △ 1.6 △ 11.7 △ 3.2 1.3 9.6
階層レベル2の項目政府最終消費支出 △ 2.8 1.4 △ 5.4 △ 5.9 △ 4.6 △ 3.1 △ 7.9
階層レベル2の項目国内総固定資本形成 6.4 △ 37.9 △ 7.9 △ 26.4 10.4 △ 3.0 1.7
階層レベル2の項目財貨・サービスの輸出 10.1 10.2 11.3 9.5 △ 2.3 27.6 11.9
階層レベル2の項目財貨・サービスの輸入 4.1 △ 19.9 5.1 △ 17.7 8.4 22.6 16.2

〔注〕四半期の伸び率は前年同期比。
〔出所〕スリランカ・センサス統計局(DCS)「National Accounts Estimates of Sri Lanka」

貿易 
輸出が落ち込むも、輸入減少幅が大きく貿易赤字幅は縮小

2023年の貿易(通関ベース)は、輸出が前年比9.1%減の119億1,100万ドル、輸入は8.1%減の168億1,100万ドルとなった。貿易収支は49億ドルの赤字となり、2010年以降で最少の赤字額となった。貿易赤字は輸出減少に比して輸入が顕著に減少したため縮小したが、経済活動の活性化により輸入量が回復すれば、今後拡大する可能性がある。

輸出減少の要因としては、主要輸出先である欧米での地政学的緊張や景気後退による需要減少に加えて、スリランカ国内の物価上昇に伴うオペレーション費用増加や、経済活動の停滞に伴う中間財の供給量低下などで価格競争力が減退したことなどが挙げられる。品目別にみると、輸出額の41.0%を占める繊維製品・衣料品が、欧米需要の落ち込みが響いたかたちで前年比18.0%減少した。また2021年に実施された化学肥料の輸入禁止の影響により栽培が減り、2022年の輸出額が減少していた茶は4.1%増加した。

輸入減少の要因は、非必需品の輸入制限や経済活動の低迷、金融・財政政策の引き締めによる支出抑制などが挙げられる。品目別にみると、2022年に大幅減少した消費財の輸入が前年比8.2%増加した一方で、燃料や繊維製品など輸入総額の6割以上を占める中間財が11.5%減少、機械・機器や建設資材など資本財が9.4%減少した。なおスリランカ政府は、2023年10月には食品や衣類などの299品目への輸入規制を緩和している。

国・地域別では、アジア大洋州や南アジア地域協力連合(SAARC)地域に対して貿易赤字を抱える。インドからの輸入は前年比33.8%減、中国からの輸入も7.8%減と減少したものの、依然としてスリランカは両国に対して大幅な輸入超過を抱える状態だ。一方で、欧州や北米地域に対しては貿易黒字を維持しているが、前年比では黒字幅は縮小傾向にあり、最大の輸出先である米国向けの輸出は16.6%減と輸出額が大幅に減少した。

2022年に経済危機に直面したスリランカでは、輸出拡大が喫緊の課題となっている。現地シンクタンクの政策研究所(IPS)は、1990年代以降の輸出低迷や、国内産業保護によるグローバル・バリュー・チェーン(GVC)への参画の遅れ、新製品開発のためのイノベーション不足などといった課題を指摘し、輸出活性化に向け貿易政策改革を求めている。

表2-1 スリランカの主要品目別輸出(FOB)[通関ベース](単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
品目 2022年 2023年
金額 金額 構成比 伸び率
農産品 2,568 2,567 21.5 △ 0.1
階層レベル2の項目 1,259 1,310 11.0 4.1
階層レベル2の項目ゴム 41 28 0.2 △ 32.2
階層レベル2の項目ココナッツ 400 337 2.8 △ 15.9
階層レベル2の項目香辛料 369 393 3.3 6.5
階層レベル2の項目野菜 27 28 0.2 3.8
階層レベル2の項目未加工たばこ 24 28 0.2 15.3
階層レベル2の項目その他農産品 179 181 1.5 1.2
階層レベル2の項目海産品 269 262 2.2 △ 2.5
工業製品 10,465 9,278 77.9 △ 11.3
階層レベル2の項目食品・飲料・たばこ 520 539 4.5 3.8
階層レベル2の項目繊維製品・衣料品 5,952 4,879 41.0 △ 18.0
階層レベル2の項目ゴム製品 977 902 7.6 △ 7.7
階層レベル2の項目宝石・ダイヤモンド・宝飾品類 451 500 4.2 11.0
階層レベル2の項目機械・機器 581 598 5.0 3.0
階層レベル2の項目木材・紙製品 137 114 1.0 △ 16.7
階層レベル2の項目石油製品 568 539 4.5 △ 5.0
階層レベル2の項目化学製品 224 194 1.6 △ 13.4
階層レベル2の項目卑金属および物品 177 178 1.5 0.9
階層レベル2の項目動物飼料 171 146 1.2 △ 14.6
階層レベル2の項目皮革、旅行用品、履物 86 71 0.6 △ 17.0
階層レベル2の項目プラスチックおよびその成形品 61 56 0.5 △ 7.6
階層レベル2の項目印刷業界向け製品 53 55 0.5 3.9
階層レベル2の項目輸送機器 129 149 1.3 15.4
階層レベル2の項目セラミック製品 38 34 0.3 △ 10.7
階層レベル2の項目その他工業製品 342 323 2.7 △ 5.8
鉱業品 50 39 0.3 △ 23.1
その他 23 28 0.2 20.8
合計 13,106 11,911 100.0 △ 9.1

〔注〕2023年は暫定値。
〔出所〕スリランカ中央銀行(CBSL)「Annual Economic Review 2023」

表2-2 スリランカの主要品目別輸入(CIF)[通関ベース](単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
品目 2022年 2023年
金額 金額 構成比 伸び率
消費財 2,813 3,044 18.1 8.2
食料品・飲料品 1,608 1,693 10.1 5.3
階層レベル2の項目野菜 318 359 2.1 12.6
階層レベル2の項目砂糖・菓子類 258 436 2.6 68.9
階層レベル2の項目乳製品 225 274 1.6 21.5
階層レベル2の項目油脂類 44 134 0.8 205.2
階層レベル2の項目香辛料 137 133 0.8 △ 2.4
階層レベル2の項目穀物・製粉産業製品 431 117 0.7 △ 72.8
階層レベル2の項目海産品 66 79 0.5 19.6
階層レベル2の項目その他食料品・飲料品 129 162 1.0 25.3
その他消費財 1,205 1,351 8.0 12.1
階層レベル2の項目通信機器 69 99 0.6 43.3
階層レベル2の項目医薬品 533 667 4.0 25.0
階層レベル2の項目家庭用品 86 72 0.4 △ 15.4
階層レベル2の項目衣類・アクセサリー 216 170 1.0 △ 21.1
階層レベル2の項目家庭用品・家具 116 122 0.7 5.0
階層レベル2の項目自動車(個人用) 12 28 0.2 136.9
階層レベル2の項目その他 174 193 1.1 11.1
中間財 12,439 11,007 65.5 △ 11.5
階層レベル2の項目燃料 4,897 4,703 28.0 △ 4.0
階層レベル2の項目繊維製品 3,065 2,371 14.1 △ 22.6
階層レベル2の項目ベースメタル 323 314 1.9 △ 2.9
階層レベル2の項目化学製品 966 815 4.8 △ 15.7
階層レベル2の項目紙・板紙およびその製品 466 412 2.5 △ 11.5
階層レベル2の項目プラスチックおよびその製品 651 475 2.8 △ 27.1
階層レベル2の項目小麦とトウモロコシ 303 338 2.0 11.6
階層レベル2の項目ダイヤモンド、貴石、半貴石 204 268 1.6 31.7
階層レベル2の項目肥料 276 235 1.4 △ 14.8
階層レベル2の項目農業資材 215 234 1.4 9.0
階層レベル2の項目自動車・機械部品 255 233 1.4 △ 8.8
階層レベル2の項目食品 190 171 1.0 △ 9.7
階層レベル2の項目鉱物製品 124 81 0.5 △ 34.6
階層レベル2の項目ゴムおよびその成形品 335 200 1.2 △ 40.2
階層レベル2の項目その他中間財 170 157 0.9 △ 7.9
資本財 3,031 2,745 16.3 △ 9.4
階層レベル2の項目機械・機器 1,969 1,868 11.1 △ 5.1
階層レベル2の項目建設資材 926 775 4.6 △ 16.3
階層レベル2の項目輸送機器 132 99 0.6 △ 25.4
階層レベル2の項目その他資本財 3 3 0.1 9.2
その他 9 16 0.1 82.9
合計 18,291 16,811 100.0 △ 8.1

〔注〕2023年は暫定値。
〔出所〕スリランカ中央銀行(CBSL)「Annual Economic Review 2023」

表3 スリランカの主要国・地域別輸出入[通関ベース](単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
国・地域 輸出(FOB) 輸入(CIF)
2022年 2023年 2022年 2023年
金額 金額 構成比 伸び率 金額 金額 構成比 伸び率
アジア大洋州 1,348 1,305 11.0 △ 3.2 7,104 6,611 39.3 △ 6.9
階層レベル2の項目日本 231 190 1.6 △ 17.7 252 188 1.1 △ 25.4
階層レベル2の項目中国 255 279 2.3 9.4 3,285 3,030 18.0 △ 7.8
階層レベル2の項目シンガポール 131 123 1.0 △ 6.1 871 866 5.2 △ 0.6
階層レベル2の項目マレーシア 66 62 0.5 △ 6.1 969 828 4.9 △ 14.6
階層レベル2の項目タイ 62 62 0.5 0.0 293 268 1.6 △ 8.5
階層レベル2の項目インドネシア 50 50 0.4 0.0 343 378 2.3 10.2
南アジア地域協力連合(SAARC) 1,259 1,217 10.2 △ 3.3 5,319 3,660 21.8 △ 31.2
階層レベル2の項目インド 860 853 7.2 △ 0.8 4,738 3,136 18.7 △ 33.8
階層レベル2の項目パキスタン 78 74 0.6 △ 5.1 342 323 1.9 △ 5.6
欧州 3,998 3,576 29.9 △ 10.6 1,435 1,560 9.3 8.7
階層レベル2の項目EU 3,035 2,718 22.8 △ 10.4 1,241 1,354 8.1 9.1
階層レベル2の項目英国 963 849 7.1 △ 11.8 194 206 1.2 6.2
中東 1,159 1,201 10.1 3.6 1,254 2,852 17.0 127.4
階層レベル2の項目アラブ首長国連邦(UAE) 355 364 3.1 2.5 666 1,850 11.0 177.8
北米 3,682 3,063 25.7 △ 16.8 480 628 3.7 30.8
階層レベル2の項目米国 3,321 2,769 23.2 △ 16.6 378 504 3.0 33.3
階層レベル2の項目カナダ 361 294 2.5 △ 18.6 102 124 0.7 21.6
合計(その他含む) 13,106 11,911 100.0 △ 9.1 18,291 16,811 100.0 △ 8.1

〔注1〕2023年度は暫定値。
〔注2〕アジア大洋州は、中国、日本、オーストラリア、香港、インドネシア、マレーシア、シンガポール、韓国、タイ、ベトナム、ニュージーランド
〔注3〕南アジア地域協力連合(SAARC)は、インド、パキスタン、バングラデシュ、スリランカ、ネパール、モルディブ、アフガニスタン、ブータン
〔注4〕中東はアラブ首長国連邦(UAE)、バーレーン、イラン、イラク、イスラエル、ヨルダン、クウェート、オマーン、カタール、サウジアラビア、シリア、トルコ、イエメン、パレスチナ自治区
〔注5〕北米は米国、カナダ
〔出所〕スリランカ中央銀行(CBSL)「Annual Economic Review 2023」

通商政策 
アジア諸国との積極的なFTA拡大へとかじを切る

スリランカはこれまでに、インド、パキスタン、シンガポール、タイとの間で二国間の自由貿易協定(FTA)を締結している。

また、スリランカ政府は国内経済を強化するべく、戦略的に重要な東アジア地域とのFTA交渉を進めている。南西アジア地域の主要な海路・航路上に位置するスリランカの地政学的特性を生かして、スリランカからの輸出や、スリランカからの輸出を目的とした海外直接投資誘致の強化を狙う。

2023年7月には、ASEANや東アジアの市場へのアクセス向上を図るため、地域的な包括的経済連携(RCEP)協定への加入意向表明書をASEAN事務局に提出した。中国との間では、2014年にFTA交渉を開始し、2017年までに5回の協議を実施したが、締結には至らず交渉が停滞している。スリランカ政府としては、今後改めて再開を図りたい意向だ。タイとは、新型コロナウイルス感染症とスリランカの関連機関再編などが原因で、FTA締結に向けた交渉が2018年以降途絶えていたが、2023年1月に交渉を再開、2024年2月に署名した。またシンガポールとの間では、2018年にFTAが発効していたものの、野党や労働組合などが「スリランカに対して利益をもたらさない」といった理由で反対していたため履行されていなかったが、政府内では履行を妨げる要因となっている条項を解消するため2022年11月に検討作業に着手している。直近では、2024年6月12日にマレーシアとのFTA交渉開始が閣議決定されている。

また、一部品目に係る優遇措置を行う二国間特恵貿易協定(PTA)の拡大も進めており、インドネシアとの交渉開始を2023年7月に閣議決定したほか、バングラデシュとの間でも交渉を進めている。

対内直接投資 
スリランカへの対内直接投資が大きく減少

2023年のスリランカへの対内直接投資(FDI)は大幅に減少し、前年比30.8%減の7億4,423万ドルとなった。業種別では、観光業の回復を背景として、ホテル・レストランをはじめとするサービス業が2.8倍の2億8,341万ドルとなり大幅に拡大した一方で、インフラ関連への投資額は61.5%減の2億2,158万ドル、製造業への投資額は40.0%減の2億3,910万ドルにとどまった。

国・地域別では、EUからの投資額が最も多く1億7,627万ドル、次いで中国から1億6,886万ドル、インドから1億6,313万ドルとなった。2019年以降、中国はシェアを落としていたが、他国の投資額減少の影響で2023年はシェアを大きく伸ばした。インドからは、新興財閥アダニ・グループ(Adani Group)が、スリランカ北部のマンナール半島で風力発電所を建設するとともに、コロンボ港の開発にも着手している。

スリランカへの投資が落ち込んだ主な原因として、2022年から継続する対外的な債務不履行による国際的な信用低下、物価上昇やCBSLの金融引き締め政策による投資コストの上昇などが挙げられる。国内消費が落ち込んだため、企業は事業活動を制限せざるを得ず、投資家の株式投資によるリターンも低水準にとどまった。

一方、スリランカ政府は戦略上重要な立地や教育水準の高さ、港湾などのインフラ設備や生活水準の高さ、低い賃金などを投資誘致の魅力として推進している。ラニル・ウィクラマシンハ大統領は、2023年6月に発表した「国家変革計画(National Transformation Roadmap)」で今後の改革方針を示し、経済活性化に向けて投資を促進、スリランカを輸出志向国に変えるという目標を掲げて、再生可能エネルギーやグリーン水素、デジタル化などの導入を促している。

また、ジェトロが2023年に実施した「2023年度海外進出日系企業実態調査(アジア・オセアニア編)」によると、スリランカはアジア大洋州地域で最も賃金が低廉な国の一つとなっている。ただし、他国との賃金格差は海外への人材流出につながる要因にもなっている。

なお、スリランカ政府は、投資促進に向けて投資委員会(BOI)と輸出促進庁(EDB)、輸出信用保険公社(SLECIC)を一つの投資促進機関として集約することを検討している。またBOIは、事業計画の相談や申請書を受け付けるワンストップ窓口として、2022年10月に「投資円滑化センター(IFC)」を設置し、投資認可にかかるリードタイムの短縮化を図っている。

表4 スリランカの国・地域別対内直接投資[国際収支ベース、ネット、フロー](単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
国・地域名 2022年 2023年
金額 金額 構成比 伸び率
アジア大洋州 385 469 63.0 21.7
階層レベル2の項目日本 9 9 1.2 △ 3.1
階層レベル2の項目中国 63 169 22.7 166.2
階層レベル2の項目香港 10 26 3.5 161.4
階層レベル2の項目マレーシア 91 34 4.6 △ 62.4
階層レベル2の項目シンガポール 40 52 7.0 31.8
階層レベル2の項目タイ 1 6 0.8 671.8
階層レベル2の項目インド 155 163 21.9 5.3
階層レベル2の項目オーストラリア 7 6 0.8 △ 16.2
欧州 334 204 27.4 △ 39.0
階層レベル2の項目EU 210 176 23.7 △ 16.2
階層レベル2の項目英国 106 13 1.8 △ 87.3
中東 3 5 0.6 75.1
階層レベル2の項目アラブ首長国連邦(UAE) 1 3 0.4 314.3
北米 221 23 3.1 △ 89.5
階層レベル2の項目米国 221 21 2.8 △ 90.5
階層レベル2の項目カナダ 0 2 0.3 2,742.5
合計(その他含む) 1,076 744 100.00 △ 30.8

〔注1〕BOI法に基づく認可案件。
〔注2〕アジア大洋州は、日本、中国、香港、台湾、韓国、マレーシア、シンガポール、タイ、インドネシア、インド、モルディブ、オーストラリア、ニュージーランド
〔注3〕EUはオランダ、スウェーデン、ルクセンブルク、ベルギー、 ドイツ、マルタ、ノルウェー、フランス、イタリア、スペイン、セルビア
〔注4〕中東はアラブ首長国連邦(UAE)、サウジアラビア、ヨルダン、オマーン
〔注5〕北米は米国、カナダ
〔出所〕スリランカ投資委員会(BOI)2023

表5 スリランカの業種別対内直接投資[国際収支ベース、ネット、フロー](単位:100万ドル、%)(△はマイナス値)
業種 2022年 2023年
金額 金額 構成比 伸び率
製造業 398 239 32.1 △ 40.0
階層レベル2の項目食品・飲料・たばこ 7 5 0.7 △ 24.8
階層レベル2の項目繊維・衣料・皮革製品 138 85 11.4 △ 38.8
階層レベル2の項目木材・木材製品 4 3 0.3 △ 32.9
階層レベル2の項目紙・紙製品、印刷・出版 2 3 0.4 36.5
階層レベル2の項目化学・石油・石炭・ゴム 208 99 13.3 △ 52.4
階層レベル2の項目非金属鉱物製品 2 8 1.0 407.0
階層レベル2の項目金属加工・機械・輸送機械 6 10 1.4 69.5
階層レベル2の項目その他製造業 32 27 3.6 △ 14.6
農業 0 0 0.0 △ 20.0
サービス業 101 283 38.1 180.3
階層レベル2の項目ホテル・レストラン 54 129 17.3 139.0
階層レベル2の項目IT、ビジネス・プロセス・アウトソーシング(BPO) 7 12 1.7 84.3
階層レベル2の項目その他サービス 41 142 19.1 250.9
インフラ関連 576 222 29.8 △ 61.5
階層レベル2の項目住宅物件開発・店舗・オフィス 193 41 5.5 △ 78.9
階層レベル2の項目電話・通信ネットワーク 350 113 15.2 △ 67.7
階層レベル2の項目発電、燃料、ガス、石油、その他 2 37 5.0 2,280.8
階層レベル2の項目港湾コンテナターミナル 32 30 4.1 △ 4.8
合計 1,076 744 100 △ 30.8

〔出所〕 スリランカ投資委員会(BOI)

対日関係 
自動車への輸入制限措置の影響継続、日本との貿易は依然低調

2023年の日本とスリランカの貿易は、外貨不足により2020年から継続する自動車やバイクの輸入禁止措置の影響を受け、日本からの輸入額は前年比25.4%減の1億8,800万ドルにとどまった。主な日本からの輸入品は電気・電子製品、合成ゴム、自動車部品、ニット製品などで、自動車やバイクの輸入が禁止される以前で内需が旺盛だった2018年には、日本からの輸入額が15億8,500万ドルに達していたが、減少が顕著になっている。なお、自動車の輸入規制については、ランジット・シヤンバラーピティヤ財務担当副大臣が2024年6月15日の記者会見で、段階的に緩和する意向を示している。

2023年の日本への輸出額は前年比17.7%減の1億9,000万ドルで、主な日本への輸出品は動物飼料、茶、エビ・エビ類、ココピート(ヤシから作る土壌改良剤)、工業用・手術用ゴム手袋などだった。

2023年の日本からスリランカへの投資も、2022年に引き続き低調で、前年比3.1%減の912万ドルにとどまった。

他方、2023年の投資環境は、2022年に比較し回復基調にある。ジェトロ・コロンボ事務所は2023年8月から9月にかけて、スリランカに拠点を構える日系企業に対し、2022年春以降のスリランカ経済危機の影響に関するアンケート調査を実施した。経済危機による自社の操業への影響について、80.0%が「悪影響があった」と回答した一方で、2022年夏と比べて33.3%が「改善」と回答し、「横ばい」が50%、「悪化している」が16.7%だった。操業状況が、経済危機から改善された具体的な要因(複数回答)では、「停電がなくなった」「ガソリン・燃料不足が確保された」(いずれも75.0%)、「物流問題が解消された」(37.5%)、「物価の上昇が落ち着いた」(37.5%)などの回答があげられた。一方で、「スリランカ・ルピー為替の回復」や「金融決済」が改善されたという回答は少なく、債務再編を通じたスリランカに対する国際的信用の回復が求められている。スリランカ政府は2024年6月26日に、インドや日本などが共同議長を務める債権国会合および中国輸出入銀行(CEXIM)との間で公的債務再編に係る最終合意に至り、民間債権者とも近日中の債務再編を目指している。

基礎的経済指標

(△はマイナス値)
項目 単位 2021年 2022年 2023年
実質GDP成長率 (%) 4.2 △7.3 △ 2.3
1人当たりGDP (米ドル) 3,999 3,464 3,830
消費者物価上昇率 (%) 7 50.4 16.5
失業率 (%) 5.1 4.7 4.7
貿易収支 (100万米ドル) △8,139 △5,185 △ 4,900
経常収支 (100万米ドル) △3,284 △1,448 1,559
外貨準備高(グロス) (100万米ドル) 3,139 1,898 4,392
対外債務残高(グロス) (100万米ドル) 51,775 49,667 54,832
為替レート (1米ドルにつき、スリランカ・ルピー、期中平均) 198.88 324.55 327.53


2023年は暫定値。
出所
実質GDP成長率、1人当たりGDP, 消費者物価上昇率、失業率、貿易収支、経常収支、為替レート:スリランカ中央銀行(CBSL)「Annual Economic Review 2023」
外貨準備高(グロス):スリランカ中央銀行「Reserve Data Template - Historical」
対外債務残高(グロス: スリランカ中央銀行「Quarterly External Debt Statistics as at End Quarter (2012 4Q to Latest)」