知的財産情報(知財関連法律改正の動き) COVID-19の対応に向けたTRIPS協定一部条項適用の一時猶予を促す決議案(議案番号:2109314)

2021年04月05日

議案番号:2109314

提案日:2021年4月5日

提案者:チャン・ヘヨン議員外13人

主文

大韓民国の国会は、世界は相互に結び付いているため、一部の国の集団免疫ではCOVID-19を終息させられないということを認識し、COVID-19を完全に終息させるためには、国家間におけるワクチン確保の不平等問題を早急に解消しなければならないということを確認する。

現在、高所得の10ヶ国がワクチン供給量の3分の2を確保しており、国家間におけるワクチンの不平等が加速している。このような状態が続くと、低所得国と中所得国が集団免疫の状態になるには2022年まで待たなければならず、それにより、9兆2,000億ドルという世界的な経済損失が予想される。特に、ワクチンの不平等を解消するためには、ワクチンの生産能力があり、製造設備を備えた製薬会社間の協業によって、必要な量を生産するとともに、サプライチェーンを拡大し、世界中に普遍的かつ公平なワクチンの普及を早急に達成しなければならないが、その際に知的財産権の規範が障害になりかねない。

知的財産権の規範がCOVID-19対応の障害にならないようにするためには、一国レベルの措置では難しく、世界レベルの合意と措置を取る必要がある。

そこで、大韓民国の国会は、COVID-19の終息とワクチンの不平等問題を迅速に解決するために次のように決議する。

  1. 大韓民国の国会は、COVID-19の完全な終息のためには、ワクチンの不平等問題が解消され、地球上の全ての人にワクチンを接種しなければならず、その際に知的財産権の規範が障害となってはならないという点を認識する。
  2. 大韓民国の国会は、世界的なワクチンの不平等問題を解消するための生産量の拡大には、複数のワクチン製造企業との協業が必要であり、そのためにはワクチン製造と生産に必要な技術共有と知的財産権に対する独占性の緩和を伴わなければならないという点を確認する。
  3. 大韓民国の国会は、公的資金の支援で開発されたワクチンが一部の製薬会社の独占商品のように扱われる現実を懸念し、「ワクチンと治療薬が人類のための公共財として世界中に公平に普及」され、「各国の公平なアクセス権が保障」されなければならないという文在寅大統領の国際社会への約束を実践できる最も効率的な方法は、世界貿易機関(WTO)による「知的所有権の貿易関連の側面に関する協定(TRIPS Agreement)」の一部条項の適用を猶予することであると確認する。
  4. 大韓民国の国会は、2020年10月16日に南アフリカ共和国とインドが提案して世界貿易機関で議論されているTRIPS協定の一部条項の一時猶予案(文書名:IP/C/W/669)を支持し、大韓民国の政府も世界貿易機関(WTO)のTRIPS理事会と一般理事会で、この猶予案を支持する立場を取ることを促す。

提案理由

COVID-19を終息させるためには治療薬、ワクチン、診断剤の生産量を早急に増やし、医療技術を全世界に共有することで規模の経済を達成し、医療技術の生産能力が不足している国を支援しなければならない。

しかし、事前購入契約で確保された95億9,000万doseのワクチンを平等に配分すれば、世界人口の半分以上に接種することができるが、カナダは人口比5倍である3億4,200万回分のワクチンを、英国は人口の3倍の量である3億5,700万回分を確保している状態で、ニュージーランド、オーストラリア、欧州連合、米国等は人口の2倍以上のCOVID-19ワクチンを確保する等、高所得の10ヶ国がワクチン供給量の3分の2を確保し、国家間のワクチン不平等が加速している。

COVID-19の完全な終息と迅速かつ公平にワクチンを普及するために、2020年10月16日、インドと南アフリカ共和国が共同で世界貿易機関にTRIPS協定猶予案を正式に提案した。この提案は、TRIPS協定の第2部第1節(著作権)、第4節(産業デザイン)、第5節(特許)、第7節(未公開情報)とこれらの条項に関連する第3部の知的財産権の執行条項であり、 COVID-19の対応に必要な全ての知的財産権を包括すると見做せる。

TRIPS協定の猶予案について、世界貿易機関の164の加盟国のうち3分の2以上が支持しており、ローマ教皇庁も2021年2月23日に声明文を発し、「安全で効果のあるワクチンを生産する能力があり製造設備を備えている多くの国が、このような能力を発揮してワクチンを生産するためには、知的財産権という障害を無くさなければならない」と表明した。米国議会も30人以上の議員がバイデン大統領に書簡を送りTRIPS協定の猶予案に支持することを促し、欧州議会の議員115人も2021年2月24日に欧州委員会(EC)にTRIPS協定の猶予案に対する反対意見の撤回を要求する声明を発表した。また、パキスタン、コロンビア、フィリピン、マレーシアの上院議員がTRIPS協定の猶予案への支持を公にし、それ以外にもアムネスティ・インターナショナル、国連の人権専門家と特別報告者、数百の市民社会団体が2020年から TRIPS協定の猶予案の採択を促している。

文在寅大統領も2020年5月18日、世界保健機関の第73回総会で、「開発されたワクチンと治療薬は、人類のための公共財として全世界に公平に普及されなければならない」と演説し、2020年9月22日、第75回国連総会の基調演説では、「ワクチン治療薬の開発に向けた国際協力だけでなく、開発後、各国の『公平なアクセス権』を保障しなければならない」とし、全ての国にCOVID-19のワクチンを供給して、国連の包容的多国間主義の実現を強調した。大韓民国の政府は、国際舞台で文在寅大統領がした約束を実践するために、TRIPS協定の猶予案を支持する必要がある。

そこで、COVID-19の完全な終息に向けて、大韓民国が国際社会に貢献するために決議案を提案する。

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