知的財産情報(知財関連法律改正の動き) 特許法一部改正法律案

2018年06月21日

議案番号:2013961

提案日:2018.06.21          

提案者:共に民主党のホン・イラク(洪宜洛)議員外9人

提案理由

最近、企業間の取引関係において大企業や公共機関などの優位を占める者が、中小・ベンチャー企業の特許侵害や技術奪取、デザインの盗用を行うなどして莫大な経済的利益を上げている。一方、当初特許や技術を保有する中小・ベンチャー企業は苦境に立たされることが頻繁に発生しているため、政府レベルでこのような不正競争行為を第4次産業革命の推進過程における足かせと見なし、その解決策の摸索に積極的に乗り出しているのが現状である。

米国の事例を見ると、Google、Facebook、Amazonといった世界的な企業は、新規事業に進出する際、事業の第1段階として技術力や事業性を持つ企業を適正な買収価格で買収するかことや、その分野に対する技術力は高くないが会員数が多いことから事業性があると見込まれる企業を買収することが一般的である。

起業して20ヶ月のYoutubeをGoogleが16億5千万ドル(約1兆8千億ウォン)で買収し、起業して3年以内であるが会員数が4億5千万人もいるWhatsAppをFacebookが190億ドル(約21兆ウォン)で買収し、職員が13人しかいないInstagramをFacebookが10億ドル(約1兆1千億ウォン)で買収したのが代表例である。

このように米国ではM&Aが活性化しているため、投資資金の回収期間が短いほか、回収期間が短いことから景気変動のサイクルによって投資の損失が発生する可能性は低くなっている。

このため、初期段階のベンチャー企業にも民間の投資資金が集まり、ベンチャースタートアップが活性化する。さらにベンチャースタートアップの段階から大企業に会社を売却するという考えで起業することも日常茶飯事である。

他方、韓国では大企業による中小・ベンチャー企業の技術人材の引き抜きや、特許侵害・技術奪取、又は事業モデルやデザインの盗用が蔓延しているせいか、ベンチャー企業は概ね投資資金の回収を上場(IPO)に依存している。

ところがM&Aの場合は今月投資しても、来月買収する会社さえあれば、売却して投資資金を回収することができる。一方、上場(IPO)の場合は、営業利益30億ウォン(ベンチャー企業であれば15億ウォン)以上、又は一定規模以上の売上高や持続的な売上の伸び率など、一定の要件を満たさなければならない。韓国では起業してから平均10年が過ぎなければ、上場(IPO)できない。さらに、ベンチャー企業に投資するとしても上場直前である、一定の規模を備えた企業にしか投資が集まらないのが現状である。そのため、初期ベンチャーや成長段階にある、いわゆる死の谷(Death Valley)段階にある企業が投資を誘致することは非常に難しい構造であるため、ベンチャー(起業活動)の活性化につながっていない。

一方、適正な買収価格で技術や企業を買収する米国の企業文化の背景には、個人から企業まで知的財産権の盗用や技術奪取はかなり重大な犯罪行為という認識が広がっていることがある。これは、不正競争行為に重い罰則が科せられる、特に技術を奪取した企業に対しては、その企業を破綻に追い込むほどの重い懲罰的損害賠償制度があるためである。

韓国は資本主義市場経済を掲げながらも、その間、資本主義市場経済をリードする米国のこうした文化や制度については全く受け入れなかった。これは、特許の実質的な価値を計量的に見せるといえる特許関連の損害賠償請求訴訟の結果を比べてみれば明らかになる。2009年から2011年までの特許訴訟の判決を見れば、特許訴訟において被害者であると同時に、特許権者である原告の勝訴率は米国では60%に及ぶが韓国では20%にとどまっている。また、損害賠償額の平均値を見れば、米国は102億ウォンであるのに対し、韓国は7,800万ウォンとなり、米国の131分の1に過ぎない。米国のGDPが韓国の13倍であることを考慮して損害賠償額の平均値を出しても40分の1に過ぎない。

このような結果が出る最大の理由は特許などの知財権侵害によって莫大な利益を得るにもかかわらず、韓国の訴訟実務上、損害賠償は完全損害賠償や機会費用の賠償ではなく、「実損害賠償」を基準とするため、損害賠償額それ自体が過少に算定されているからである。 その上、特許訴訟を受け持つ弁護士の平均的な受任料は、着手金が5千万ウォン、成功報酬が追加5千万ウォン程度に形成されているため、たとえ特許権者である原告が勝訴しても算術的結果では2千万ウォン程度、損害を被ることになる。

このような環境では、特許など登録された財産権を使う者や貸与された者(ライセンシー;Licensee)は「ライセンシングをするより、訴えられた方が良い」として「モラルハザード」に陥りかねない一方、特許など財産権の保有者(ライセンサー;Licensor)は「特許は資産でなく費用」と思いかねないため、このような状況が改善されなければ、大韓民国の特許市場や革新エコシステムは早期に消滅することになるに違いない。

そのため、大企業による中小・ベンチャー企業や個人の特許権や専用実施権などの侵害、無断使用による利益取得に対する抑制力を実質的に向上するために、10倍の懲罰的損害賠償制度を導入し、特許侵害・技術奪取に対する警鐘を鳴らすことで、大韓民国の技術競争力を早急に向上させるとともに、M&Aを活性化させ、ベンチャー企業・起業エコシステムが活気づくよう、寄与するためである。

主要内容

イ. 第9条(特許発明の保護範囲)関連

大企業が中小企業の特許を侵害していないように見せかけるために、特許の主要要素のうち一部だけを省略して使う、あるいは一部要素を変更して使う場合があるが、そうした場合も最初発明者の特許発明の権利範囲内にあることを明記する((案)第97条後段新設)。

ロ. 第128条(損害賠償請求権等)関連

現行法は損害額の算定において製品を生産・販売する企業を前提にして制定されたため、実質的に生産や販売をしない個人発明者や専門的に研究開発のみをする企業又は研究機関などが特許権や専用実施権を侵害された場合は、製品を作って販売する企業だと仮定して損害額を算定することを明記する((案)第128条第1項)。

ハ. 第128条(損害賠償請求権等)関連

特許権や専用実施権侵害による損害を金額に換算する場合、現行法では侵害行為がなかったなら販売することができた物の譲渡数量に単位数量当たりの利益額をかけた金額に算定しているが、侵害者が一方的に物を生産・販売して利益を得る場合も多いため、侵害者が上げた利益を基準として損害額を算定することもできることを提示する((案)第128条第2項第1号及び第2号新設)。

ニ. 第128条(損害賠償請求権等)関連

特許権や専用実施権を侵害する行為を厳しく取り締まり、類似の不法行為の発生を抑制するために、裁判所が該当侵害行為を犯した者に対して損害額の10倍に当たる損害賠償の責任を負わせることができるということを明記する((案)第128条第8項新設)。

ホ. 第128条(損害賠償請求権等)関連

特許権又は専用実施権の侵害に関する訴訟における立証責任については、特許権又は専用実施権を侵害した者が負うということを明記して「立証責任の転換」を実現する((案)第128条第9項新設)。

ヘ. 第225条(侵害罪)関連

現行法上、特許権や専用実施権の侵害に対する罰則が非常に軽いため、大企業・中堅企業が中小企業の特許を常習的に侵害した場合は「10年以下の懲役、又は10億ウォン以下の罰金」という重い罰則を科す((案)第225条第2項新設)。

ト. 第230条(両罰規定)関連

大企業・中堅企業が中小企業の特許を常習的に侵害した事件が発生すれば、両罰規定も適用し、 特許侵害の罪を犯すよう仕向けたのが法人であれば、その法人に500億ウォン以下の罰金を、個人であれば、その個人に該当条文上の罰金刑(10億ウォン以下)を科することで、侵害罪に対する罰則規定の威嚇効果を上げる((案)第230条第2号新設)。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

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