知的財産ニュース 再生可能エネルギーを水素として貯蔵する

2021年12月20日
出所: 韓国特許庁

水電気分解を活用したグリーン水素生産技術の特許出願31%増加

水を電気分解して水素を作る水電解水素生産技術がカーボンニュートラルの達成と水素社会への突入という一石二鳥の技術として注目を浴びている。

韓国政府は温室効果ガスの削減に向けて2030年までに再生可能エネルギー発電の割合を30%以上に拡大する計画(※)である。太陽光や風力といった再生可能エネルギーは二酸化炭素を排出せず電気を作るためである。
※2021年10月18日、韓国政府共同報道資料、「2050カーボンニュートラル、未来の生存に向けた最後のチャンス」

しかし、再生可能エネルギーは風や日光などの自然現象から得られるため天候による変動性が大きく、電力網の需要を超えて生産された余剰電力を貯蔵する必要がある。そのため、余剰電力で水を分解し、水素を生産・貯蔵する技術がカーボンニュートラルの達成と水素社会への突入をつなぐものとして注目されている。

韓国中部発電は済州サンミョン風力団地の水電解施設で2020年12月~2021年4月まで韓国で初めて一日35kg(※)の水素を生産しており、済州ヘンウォン風力団地で2023年4月まで一日300kgの生産能力を実証する計画である。(韓国中部発電報道資料総合)
※1kgの水素は現代自動車の水素自動車ネッソが90~100km走行できる量である

水電解技術に対する特許出願も盛んで、特許庁によると、水電解技術に対するIP5(※)の特許出願がここ5年間(2015年~2019年)1,469件で、前の5年間(2010年~2014年、1,123件)に比べて約31%増加したことがわかった。
※日本、米国、EU、中国、韓国の5つの先進特許庁を意味

国籍(※※)別に見ると、日本が1,974件(44.3%)と最も多く、韓国は549件(12.3%)と4番目であり、特に中国(617件、13.8%)は2014年から出願量が急増して韓国を追い越した。
※※IP5の特許出願に対する出願人の国籍を意味

韓国の代表出願業者には韓国エネルギー技術研究院やサムスンなどがあるが、IP5の多出願人リストを見るとトップ10内にサムスン、韓国エネルギー技術研究院の2つの出願人しか入っておらず、韓国企業の海外知財権確保に対する努力は足りない方である。韓国企業が水電解装置を海外に輸出する際は、海外特許の確保努力とともにグローバル企業とのライセンス・技術開発協力などの準備が必要と見られる。

水電解技術は陽極と陰極を通じて電気エネルギーを加えることで水(H2O)を水素(H2)と酸素(O2)に分解する方法であり、両電極の間を埋める電解質の種類によってアルカリ型、固体高分子型、固体酸化物型の3つに区分される。

IP5の特許出願のうちアルカリ型水電解技術の出願が2,443件(54.8%)と最もシェアが高いが、これはアルカリ型水電解技術が最初に開発されて技術が成熟しており、装置の価格が安く分解容量が多くて商用化に有利なためであると見られる。固体高分子型水電解技術は電流の密度が大きく電力の変動性に強いという長所があるため、高価の電極を使用し、耐久性が弱いという短所があるにもかかわらずアルカリ型水電解技術と共に発展すると期待される。

IP5の韓国出願549件のうち固体高分子型技術の出願の割合は42.4%(233件)と、米国(40.7%)、日本(39.2%)、EU(30.0%)、中国(28.8%)に比べて最も高くなっているが、固体高分子型技術分野で韓国国籍の出願人を見てみると、韓国エネルギー技術研究院のような水電解の専門出願人だけでなく、サムスンやSKイノベーションのようなバッテリー関連企業が入っているのが興味深い。

韓国は二次電池で世界レベルの競争力(※)を有しているが、電池と水電解装置の基本構造が類似であるため、電池関連企業の基礎技術が固体高分子型水電解技術の開発にも活用されていると見られる。
※2020年世界二次電池市場のシェア韓国1位(44.1%)、産業通商資源部報道資料、2021年7月8日

特許庁の材料金属審査チーム審査官は「水電解技術は、カーボンニュートラルの達成を超えて、再生可能エネルギーを水素社会と効率的につなぐ技術という点でとても重要だ」とし、「再生可能エネルギー発電の変動性を補完できる水電解技術の研究開発とともに、それを保護できる知的財産権の確保も重要だ」と強調した。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

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