知的財産ニュース 特許庁、韓国企業の海外特許現況の調査結果発表

2019年4月15日
出所: 韓国特許庁

  1. 国内出願特許の88%、中小企業の96%は海外特許放棄
  2. 化粧品、食品など韓流商品が属する食料・直接消費財分野は98%が海外特許放棄
  3. 韓国企業は米国を中心に特許出願し、新南方市場では既に中国に遅れている

特許庁は、韓国企業と大学・公共研などの主要出願人のここ5年間(2011年~2015年)の海外特許の確保の現況について調査結果を発表した。

※2011年~2015年間、国内特許における新規出願の779,005件に対する海外特許の出願現況を追跡調査

※国内特許は、PCT国際出願を活用する場合、30カ月まで海外出願が可能であり、2016年末の出願はまだ海外出願が完了していないため、2015年の国内出願まで分析

※新規出願:先行特許出願と内容の重複がある分割出願・優先権主張出願を除外した出願

政府は、新通商戦略(※)を通じて韓国企業の新市場への進出を奨励しているが、貿易政策のみがあり特許先取り戦略はないため、特許で保護を受けられない輸出企業は、かえって紛争リスクにさらされるという懸念が提起されてきた。

※主要内容:輸出で日本を追い越す戦略、輸出市場の多角化(新南方、新北方)、デジタル通商の先導

これを受け、特許庁は内部のデータベースを活用し、韓国の出願人向けに海外特許の現況を分析し公開する。

国内特許の海外出願率

まず、韓国の出願人が2015年に韓国国内に新規出願した発明のうち、11.7%のみが外国に出願したことが判明した。

特許は、海外現地に出願していなければ該当の国家でまったく保護を受けられない。これは国内出願の88.3%は海外で保護を受けられる権利を放棄したことを意味する。

出願主体別にみると、大企業の海外出願率は36.8%、研究機関は12.3%、大学は4.5%、中小企業はわずか4.3%であった。

※海外出願率:国内に新規出願された国内発明のうち外国にも出願した発明の割合

大企業は国内に35,893件を新規出願し、そのうち13,216件を海外に出願しているが、中小企業は大企業より多い44,258件を国内に新規出願しているものの、そのうち海外に出願したのは大企業より遥かに少ない1,900件に留まった。

全般的にみると、大企業は2011年の10,023件から2015年の13,216件に海外出願が伸びたが、研究機関は2012年の1,480件から2015年の929件に急減した。
製品別(※)では、韓国の輸出品目の1位の電気・電子製品分野の海外出願率は18.6%、輸出2位の輸送設備は9.6%、3位の機械類・精密機器は11.9%、4位の化学工業製品は10.0%、5位の鉄鋼製品は4.6%、6位の原料・燃料は6.0%に過ぎず、製品別で差があることが明らかになった。

※関税庁の輸出入貿易統計の「性質別」輸出統計

最近、特許出願が活発な機能性化粧品と健康機能食品などの食料・直接消費財分野は、国内出願の1.6%のみが外国に出願されており、海外現地で韓国企業の特許製品の侵害製品が販売されても対応が難しいと予想される。

主要市場別の特許確保の現況

韓国は米国、中国などの既存市場を中心に出願しており、新南方国家などの新しい輸出市場に進出するための特許準備には消極的という結果も出た。

韓国の出願人は、米国、中国を中心に平均1.9カ国に海外出願し、大学と研究機関はそれぞれ1.4カ国、1.2カ国に出願しており米国以外の国家には殆ど出願していないことが判明した。

海外出願の米国への偏り現象は、主要輸出競争国のうち韓国が52.9%と最も高く、中国51.7%、日本43.3%、ドイツ30.7%となっている。一方、インド、ベトナムなど7つの主要新興国に対する海外出願の割合は韓国が5.6%と最も低く、米国は16.6%と主要輸出競争国のうち最も高かった。

また、不確実な新市場での特許出願に有利なPCT国際出願も有効に活用していないことが明らかになった。PCT国際出願は、まず低費用で出願し、30カ月内に現地出願の有無を決めても良いというメリットがあり、一般的に複数の国家に出願を準備する場合によく活用される。

海外出願時のPCT国際出願活用の割合をみると、大企業25.3%、中小企業63.9%、大学53.8%となった。ところがPCT国際出願の特許のうち、中小企業の55.3%、大学の61.3%の特許は個別国での現地出願を放棄していることが分かった。

※PCT出願以降、個別国に出願することで最終的に権利が確保される。

これは、大企業が出願初期から海外出願の対象国家を米国、中国などの巨大輸出市場中心に限定することに対し、中小企業と大学は費用不足などの理由により海外出願の対象国家を30カ月の間に決められないためと思われる。

海外出願件数と輸出規模の比較

韓国は主要輸出市場、特に新南方などの振興市場で米国、日本との特許競争に対する準備が足りないという調査結果が出た。特にASEANの主要国家では、最近中国に特許出願を追い越されている。

※世界知的所有権機関(WIPO)と世界貿易機構機関(WTO)の統計から算出

韓国は米国市場のみにおいて、輸出1億ドルあたり51.7件の特許を出願し63.7件を出願した日本と比較可能であって、最大輸出市場の中国では輸出1億ドルあたり24.3件を出願した日本の30%に過ぎないわずか7.3件を出願した。

こうした格差は特にインド、ASEANなど新南方市場でさらに広がりを見せた。インド市場で輸出1億ドルあたりの特許出願は米国、日本がそれぞれ40.1件、50.7件となっており、韓国は日本の20%の水準である11.1件の出願に過ぎず、ASEAN市場では米国、日本がそれぞれ11.9件、10.5件に対し、韓国は日本の19%に過ぎないわずか2.0件に留まった。

また、第3の輸出市場であるベトナムとフィリピンのみで中国より優位であり、タイ、マレーシア、シンガポール、インドネシアなどの主要ASEAN国家では中国より特許出願が少なく、今後本格化する新南方市場での技術競争の展望を暗くした。

政府の対応方策

特許庁は、今回の調査を契機に、2019年6月末を目処に「海外特許競争力強化総合計画」をまとめる計画である。

これまで特許庁は、グローバルIPスター企業(2017年~)、スタートアップ特許バウチャー(2018年~)、母胎ファンド投資拡大(2018年~)、特許共済事業(2019年~)などの韓国の中小・ベンチャー企業の海外特許支援事業を推進しているが、既存事業の拡大だけでは全般的な海外出願の傾向を変えることは限界があると判断し対策作りを急いでいる。

まず、主要企業の特許責任者から海外出願を阻む隘路事項を、特許庁長が直接聞く懇談会(4月16日、火曜)をはじめに、専門家インタビューなど現場の意見を幅広く汲み上げ、これまでの海外特許確保の低迷の原因を企業とともに考え分析する予定である。

これを基に、出願人の類型や国家別市場の特性に沿った支援体系を構築し、韓国企業のグローバル市場への進出を支援する計画である。

特許庁長は、「安い労働力を基盤に低価製品を輸出し成長してきた過去とは違い、今は韓国経済の革新成長に向け世界レベルの特許技術で高付加価値製品を輸出するべきだ」とし、「韓国の中小企業が特許なしで製品だけ輸出するのではなく、特許で保護を受けながら海外市場に進出できるよう実効性のある支援方策を企業とともに作っていく」と明かした。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

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