知的財産ニュース (朴原住特許庁長寄稿)革新成長時代の知的財産制度のあり方

2019年4月25日
出所: 電子新聞

人工知能(AI)、3Dプリンティングなど、第四次産業革命の波が世界の産業構造を変えている。生命工学分野では、3Dプリンティング技術で人工臓器を作る3Dバイオ・プリンティング研究が活発であり、医療分野では、AIによるガン診断やロボット手術など、技術の商用化が見込まれる。

これを受け、米国、日本などの主要国は、第四次産業革命を低成長の突破口として位置づけるとともに、産業競争力の強化に向けたイノベーション政策を模索してきた。米国は、製造部門のイノベーションのための先端製造パートナーシップ(AMP)プログラムを通じて先端情報技術(IT)を集中的に支援し、日本は、2017年から「未来投資戦略」を策定し、ビッグデータとAIの活用を促進する制度づくりを進めている。新興経済大国として台頭する中国は、「製造2025」戦略の下、製造イノベーションと産業構造の転換を図っている。

韓国も大統領直属の第四次産業革命委員会で、2017年に、「第四次産業革命対応計画」を発表した以降、AI、ビッグデータ、超連結など、中核的なアジェンダを中心に分野別のエコシステム・イノベーションを推進している。既存の産業分野別に設けられている法制度が、新産業において規制として作用しないよう、制度の見直しが切に必要な時点である。

知的財産制度も同様である。AI、ビッグデータ、3Dプリンティングといった第四次産業革命関連分野の世界特許登録件数は、なんと12倍も増加した。熾烈な知的財産市場の中で、韓国企業が能力を発揮するためには、革新技術に対するきちんとした保護制度が整っていなければならない。

ハードウェア(HW)中心の現行の知的財産保護体系では、3Dデータ伝送などの、第四次産業革命時代の更なる侵害の類型をカバーできないという限界がある。特許権者の同意なしに、特許を受けた製品と付属品をスキャニングした後、その3Dデータファイルと組立図の提供で不公正な利益を得るとしても、「特許を受けた物」の流通のみを禁止する現行の特許制度は、その特許製品を生産し得る「デジタルファイル」の流通に対しては特許権を保護することが難しい。

また、既存の特許付与基準によると、人体の手術、治療、診断方法は、特許で保護を受けられない。医師の医療行為を特許で独占する場合、国民の生命権を侵害するためである。しかし、基準の適用が過度に厳しいと、医師の医療行為ではないAIで診断する技術、人体に関するビッグデータを基盤にする精密医療技術なども特許を受けることが難しくなり、革新産業の成長を阻害する結果につながることがある。

このような制度の不備を補完するために、特許庁は、3月に、「第四次産業革命時代の知的財産保護体系の改善策」を国家知識財産委員会に上程し、議論を行った。この方策は、特許登録された製品の3Dプリンティングデータの伝送行為を特許侵害に規定し、遺伝体情報のようなビックデータの分析で人体を診断するなど、バイオヘルス新技術を特許登録できるよう特許付与基準を改善する内容を盛り込んでいる。融合・複合技術に対する特許審査の専門性の確保のため、専担の特許審査組織を補強する方策も推進する。これを通じて、新しく登場する革新技術が一貫した基準の下で、特許審査を受け、適切な時期に知的財産として保護を受けられる。

昔、デジタル音源を正当な対価を払わず、ダウンロードしても何の規制もなかった時代に音楽産業が委縮された以降、今日のようなK-POP全盛期を迎えるまで長年かかった。革新成長産業は、技術発展の速度が速いだけに保護のゴールデンタイムを逃すと、グローバル競争で取り返しのつかない格差が生じることがある。特許庁は、韓国企業の新技術が迅速に保護を受けられるよう関連規制を整備し、第四次産業革命技術において優先審査を拡大するなど、新たな政策環境に対応しながら、合理的かつ妥当な知的財産制度の柔軟な運営に向けて取り組んでいく。革新技術の開発を目指して孤軍奮闘する韓国企業が、心強い知的財産を基盤に世界に挑んでいくことを望む。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

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