知的財産ニュース パク・ウォンジュ特許庁長とのインタビュー

2019年1月15日
出所: 電子新聞

パク・ウォンジュ特許庁長は産業通商資源部でさまざまな仕事をしてきた。2018年9月、特許庁長に就任する直前まで、産業部でエネルギー資源室長を務めたエネルギー・産業政策通である。青瓦台(大統領府)産業通商資源秘書官も務めた。彼と初対面した時の感想は「腰が低く、穏やかに見える」のであった。後から聞いた話だが、朴庁長は産業部時代から「人柄が良く、信頼される人」と職場の後輩から言われていたそうだ。

「昨年、不正競争防止法が国会で成立し、今年7月から施行される。知的財産(IP)取引が正常化し、市場が形成されるのである。IP金融を活性化させ、金融機関に担保能力を付与する予定である。」

朴庁長は特許業務には不慣れだろうという人々の先入観を破り、「IP金融活性化対策」を打ち出した。意外であった。特許庁長に就任してから100日を控えた時点であった。彼は「知的財産政策のイノベーション」と就任の第一声を発した。知的財産市場を活性化させ、第四次産業革命時代をリードしていくということであった。だが、たった3カ月で新しい特許政策の方向を設定し、これを推進するための方策まで考えたのである。

その第一が、IP金融活性化対策である。IPの価値を認め、その価値にふさわしい価格で市場で取引する、または特許を担保に投資できる環境を整えるということである。

IPの価値をどのように評価するか気になった。IPに財産価値を付与する上で最も重要な過程である。他の分野でも技術やコンテンツなどに担保能力を付与するために力を入れたが、いつも価値評価の段階でうまく行かなかった。

パク庁長は、「IPは市場従属性が大きいため、その価値を決める過程は不要である」と言い切った。評価は市場で自然に行われるため、政府は市場を開く役割をすれば良いということである。パク庁長の確固たる考えがにじみ出る。彼は銀行がIPの価値を評価できるよう、評価機関を指定するとともに、価値評価をモジュール化して手続きを簡素化する予定である。特許にとって時間は命であるため、価値評価の手続き簡素化し、時間を短縮するという趣旨である。この過程はすべて民間主導で進められるようにする方針である。

彼は「特許共済制度」も示した。海外に進出した中小企業に海外で特許紛争が発生すれば、その費用を先に貸与し、後で分割返済してもらう支援制度である。専門性を持つ委託機関を選定し、第1四半期にスタートさせる予定である。

彼は続いて「大韓民国にきちんとした知的財産市場を作りたい」とし、「企業の目線に合わせるために、市場とコミュニケーションを取り、現場が求める政策を推進することがイノベーションの始まり」と述べた。

彼はまた、「韓国の特許出願件数は年間20万件に達し、世界4位の水準である。だが、特許は保護価値がなければならないため、紛争が起きても生き残れる強い特許を育てなければならない」としながら、「強い特許」の重要性を強調した。第四次産業革命時代を迎えるなか、人工知能、ビッグデータといった、お金になる分野の高品質・源泉特許を確保し、事業化につなげるべきということである。そのため、「良質の特許をタイムリーに取得できるようにし、迅速な審査・審判システムを構築する」と約束した。

強い特許を創出し、知的財産の競争力を向上させる対策は?

グローバル競争力を備えた特許を創出するために、審査段階と審査官に限定していた特許の品質管理をR&D・出願・審査など、特許創出の全段階および全ての主体にまで拡大する。R&Dの段階で高付加価値の源泉・核心特許を確保できるように、「発明の品質」を高める予定である。出願の段階で優秀な発明を強い特許にするために、中小・ベンチャー企業のような特許創出主体の「出願の品質」を向上させる。

中小・ベンチャー企業が知的財産を基盤として成長していく政策支援プラットフォームを構築・拡大するために取り組んでいる。今年から加入者相互扶助の原則に則り、中小・ベンチャー企業の特許セーフティネットを構築するための特許共済事業を推進する。中小・ベンチャー企業の「知的財産の創出‐保護‐活用力を強化するための政策支援事業も進めている。

知的財産(IP)金融総合対策とは、どういう意味なのか。

不動産担保の少なさ・信用度の低さなどに悩む中小・ベンチャー企業がIPを担保に投資してもらうことがポイントとなる。初期創業企業が主に利用するIP保証商品の保証割合を高め、貸出金利を引き下げるなどして中小・ベンチャー企業を優遇する予定である。

優秀なIPを保有する中小企業のために、IP担保貸出を行う銀行を、民間を含める全体の金融機関に拡大し、IPへの投資規模も大幅に拡大する。出願特許・海外特許に対する価値評価についても支援し、中小・ベンチャー企業のIPの価値が正しく評価され、IP金融につながるよう、積極的に後押しする。2022年までに2兆ウォン規模のIP金融を拡大することで、中小・ベンチャー企業およそ9,000社がIP金融を活用できると見込んでいる。

不正競争防止法が7月から施行される。

大企業による中小企業の技術奪取は、革新成長を阻害する非常に深刻な問題である。大企業は優越的地位を濫用して中小企業の技術を侵害してきた。韓国では特許侵害に対する損害賠償額が平均6,000万ウォンと、米国の9分の1の水準である。中小企業は資本力が弱く、専門人材も不足しているため、大企業を相手取って訴訟を起こすことが難しい。

公正な競争秩序を確立するためにも、技術奪取は非常に重要な問題である。必ず是正しなければならない。

これまでは損害賠償額が少なすぎて、正当な対価を支払って利用するよりも、技術を奪取した方が多くの利益を取ることができたため、損害額の3倍にまで損害賠償額を増やす懲罰的損害賠償制度を導入した。立法趣旨に則り、実際に損害賠償が行われるよう、裁判所と緊密に協力していく計画である。

新興国・途上国との国際協力も積極的に進める。どのように行われているのか。

昨年からPCT協力審査と特許共同審査を行っており、高品質の審査結果を迅速に受けることができるようになった。PCT協力審査は現在、試験的に行われているが、これからは出願人にできる限り多くの情報を提供できるように改善し、利用率を高めていく計画である。

韓国企業の進出が進む新興国・途上国を中心に知的財産権の保護環境を改善し、協力の需要がある国を対象に知的財産の行政韓流を拡散していく方針である。ASEAN+1特許庁長官会合を韓国で開催し、重要な貿易対象となったASEANとの協力をさらに強化する予定である。ベトナム、カンボジアなどの知的財産権協力の需要が高い国との二国間協力も拡大する。インド、ブラジルなどで韓国企業が早急に権利を確保し、権利が正当に保護されるよう、審査協力プログラムといった協力も進める計画である。

パク・ウォンジュ特許庁長について

パク・ウォンジュ特許庁長は1964年、全羅南道霊岩で生まれた。光州松源高校、ソウル大学経済学科を卒業し、ソウル大学で政策学修士号を、米インディアナ大学では経済学博士号を取得した。

1988年、31回行政考試に合格し、公職に入った。盧武鉉政権の2007年には大統領秘書室行政官を務めた。その後、知識経済部長官室を経て外国人投資支援センターに出向した。2009年10月からは在日韓国大使館公使参事官を務め、2012年から産業通商資源部で働き始めた。産業部では産業経済政策官、スポークスマン、企画調整室長、産業政策室長を務めた。昨年、特許庁長に就任するまではエネルギー資源室長を務め、2016年には青瓦台(大統領府)で産業通商資源秘書官を務めた。

そのため、産業界全般での経験や知識が豊富との評価を受けている。韓国政府が脱原発政策と再生可能エネルギー普及政策を展開した当時、エネルギー資源室長を務めていた。政策をめぐり、賛否両論が巻き起こったなか、エネルギー資源室長として対内外とのコミュニケーションを図った。穏やかな性格で同僚から信頼が厚い。

昨年9月に特許庁長に就任した。特許審査と審判機能を超え、知的財産政策のイノベーションへと第四次産業革命をリードしていくという抱負を語った。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

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