知的財産ニュース 公取委、MS-Nokiaの企業結合を最終承認

2015年8月24日
出所: 公正取引委員会

5099

韓国公正取引委員会(以下公取委)は、マイクロソフト(MS)がNokiaの携帯端末機事業を買収する企業結合の件(以下、本件の結合)に対し、MSの特許濫用可能性を遮断する旨の同意議決を条件付きで最終承認した。

これにより、MSが今後携帯電話事業を展開する際、勝手に特許使用料(ロイヤルティ)を上げたり、特許訴訟を起こしてライバル社の事業活動を妨害する行為等、競争制限への懸念が完全に遮断された。

今回の決定は、MSが特許権濫用への懸念を解消するために、自ら提出した是正案を公取委が最終的に確定する形で行われた。

1.同意意議決の経緯

MSは、Nokiaの携帯端末機事業を買収する契約を締結し、公正委に届け出た。('13.11.11)
本件の結合により、モバイル関連特許を多数保有しているMSが直接端末機まで生産することになり、韓国のスマートフォンメーカーと競合関係を形成する形となった。
そのため、韓国のスマートフォンメーカーに特許権を濫用する可能性が生じ、MSが特定スマートフォンメーカーと締結した事業提携契約(BCA※※)がライバル社間営業情報交換の根拠となり、競争が阻害する恐れもある。
※同意議決制度:事業者が自ら消費者被害救済等妥当な是正案を提案し、公取委が利害関係者等の意見収集を行い、妥当性を認める場合、違法がどうかを確定せず、事件を迅速に終結する制度
※※Business Collaboration Agreement

MSは、競争制限への懸念を自発的に払拭する旨の是正案を提出すると同時に、同意議決を申し立てた。('14.8.27)
公取委は、MSの是正案について競争制限に対する懸念を解消するには不十分であるとしたものの、MSの修正・補完意志を考慮し、同意議決手続きを開始した。('15.2.4)

同意議決手続きの開始後、公取委は、本件の結合の競争制限可能性を深く分析し、解消策について専門家や利害関係者の意見を収集し、これを基にMSとの協議を通じて是正案を修正・補完した。
スマートフォンだけでなく、パブレット関連特許も追加し、販売差し止め訴訟の制限地域を国内から海外へと拡大する等、是正案の適用範囲を拡大させた。

公取委は、修正・補完された是正案について、関係省庁や利害関係者からの意見聴取を行った後、同意議決案は本件の結合の競争制限に対する懸念を解消するに十分だと判断し、全員会議議決で同意議決案を最終確定した。
※利害関係者及び検察等の関係省庁からの意見聴取結果('15.2.4~6.27)、異見なし

2.同意議決是正案の主な内容

MSの特許権濫用への懸念に関しては、韓国スマートフォンメーカーに対し特許使用慮を過度に上げたり、不当に特許侵害訴訟を提起する行為を制限する旨の是正案を作成した。

事業提携契約による競争阻害への懸念に関しては、敏感な営業情報交換を禁止する旨の是正案を追加した。

(1) 標準必須特許(SEP)に関する是正案

標準必須特許(SEP)に関しては、FRAND条件※※を常に順守し、韓国スマートフォンメーカーに対し、韓国内外で販売差し止め・輸入禁止訴訟を提起しないことを確約した。

※SEP(Standard Essential Patent):標準化機構(SSO:Standard Setting Organization)で採択した標準に含まれる特許で、標準実現に欠かせない特許(例:3G、4G、LTE等移動通信標準関連技術)
※※FRAND条件:公正、合理的かつ非差別的な(Fair、Reasonable And Non-Discriminatory)条件でSEPをライセンスしなければならないという条件

主要内容

  1. SEPライセンス時FRAND条件の(を)遵守

    SEPライセンスを公正かつ合理的かつ非差別的な(Fair、Reasonable And Non-Discriminatory)方式で提供する。

  2. 販売差し止め及び輸入禁止の請求禁止

    韓国に本社を構えるメーカーが生産したスマートフォン又はタブレットについて、SEPを侵害したという理由で国内外において販売差し止め又は輸入禁止を請求することを禁止する。

  3. SEPをライセンスする条件で相手方の特許ライセンスを要求する行為を禁止

    SEPライセンスを提供する際、相手方の特許(同一の標準関連SEPは除外)ライセンスをMSにも提供するよう求める行為を禁止する。

  4. SEP譲渡時、譲受人及び再譲受人にも同一な義務負担

    SEPを第3者に譲渡する場合、(ⅰ)当該譲受人が上記(1)~(3)の原則を順守し、(ⅱ)当該譲受人が取得したSEPを再譲渡する場合、当該再譲受人に上記(1)~(3)の原則を守ることを要求すると同意しない限り、SEPを第3者に譲渡することを禁止する。

(2) 非標準必須特許(Non-SEP)に関する是正案

非標準必須特許(Non-SEP)に関しては、特許使用料を現行水準以下にし、今後5年間譲渡を禁止するとともに、韓国のスマートフォン・タブレットメーカーに対し、韓国内外で販売差し止め・輸入禁止訴訟を提起しないことを確約した。

※MSが保持する特許のうち、SEPには含まれない特許で、このうち一部はアンドロイドOSに使用される中核技術。他の技術への回避や代替が事実上不可能。
(例:アンドロイドOS関連特許として、通信サーバーと形態端末機間のデータ動機化を可能にする特許技術 (EAS: Exchange Active Sync))

主要内容

  1. Non-SEPライセンスを引き続き提供

    韓国内におけるスマートフォン及びタブレットの製造・使用又は販売のためのNon-SEPライセンスを韓国に本社を置くメーカーに引き続き提供する。

  2. Non-SEPライセンス時、現行の特許使用料率の引き上げ禁止

    Non-SEPライセンス時、(ⅰ)価格条件の場合は、現行の特許使用料率を超過しない。(ⅱ) 非価格条件の場合は、MSの現行プログラムライセンス条件と実質的に類似した条件を引き続き提供する。ライセンス相手方にこのような価格上限が適用される端末機1台当たり使用料方式を選択できる権利を付与する。

  3. 特許交差使用許諾(Cross-License)の場合も、価格・非価格条件制限を賦課

    韓国に本社を置くメーカーが特許使用許諾を通じてMSのNon-SEPの一部を使用している場合、(ⅰ)その以外のNon-SEPに対するライセンスを提供し、(ⅱ)当該ライセンスの特許使用料率は上記(2)の上限に従い、従来の交差使用許諾の価値によって適切に減額し、(ⅲ)非価格条件の場合は、MSの現行プログラムライセンス条件と実質的に類似した条件で引き続き提供する。

  4. 今後5年間 Non-SEPの譲渡禁止

    (5年後譲渡時、譲受人及び再譲受人にもMSの公表された約定義務を負担)
    同意議決以降5年間、Non-SEPを第3者に譲渡することを禁止する。5年後にNon-SEPを第3者に譲渡する場合、(ⅰ)当該譲受人が従来のMSのライセンス関連約定を順守し、(ⅱ)当該譲受人が取得したNon-SEPを再譲渡する場合、当該再譲受人に従来のMSのライセンス関連約定を守ることを要求すると同意しない限り、Non-SEPを第3者に譲渡することを禁止する。

  5. 販売差し止め及び輸入禁止の請求禁止

    (スマートフォンメーカーがライセンス交渉に誠実に臨まない場合は除外)
    韓国に本社を置くメーカーが生産したスマートフォン又はタブレットについて、SEPを侵害したという理由で国内外において販売差し止め又は輸入禁止を請求することを禁止する。ただし、メーカーがライセンス交渉に誠実に臨まないと判断される場合は除外する。

(3) 事業提携契約(BCA)に関する是正案

MSが特定の韓国スマートフォンメーカーと結んだ事業提携契約(BCA)と関連し、新製品開発及びマーケティング計画等、競争上敏感な営業情報交換の関連条項を削除し、今後このような営業情報を交換しないことを確約した。

主要内容

  1. BCAを修正

    スマートフォン又はタブレットに関する競争上敏感な営業情報の交換に関する条項及び履行義務を削除する。

  2. 競争上敏感な営業情報の交換を禁止

    今後、修正されたBCAを履行する過程で、当該国内端末機メーカーとスマートフォン又はタブレット関連し、競争上敏感な営業情報の交換を禁止する。

3.Nokia審査について

公取委は、Nokiaが同結合後も継続して保持する特許権対しては、現行法上、原則として企業結合の審査対象には含まれないと決定した。

※Nokiaは、同結合で携帯端末機事業部のみMSに譲渡(売却)するが、モバイル関連特許は継続して保有する。
※Nokiaは、MSと違って同意議決を申し立てなかったため、別途審査する予定だ。

ただし、結合後、Nokiaの特許権濫用の可能性については今後引き続きモニタリングする計画だ。

4.決定の意義及び今後の計画

今回の決定は、サムスン電子やLG電子等、韓国の携帯端末機メーカーがグローバル企業の横暴により被害を受ける可能性を事前になくすことで、スマートフォン市場の公正な取引秩序を守ったことに意義がある。

標準必須特許(SEP)だけでなく、これまで規制の死角になっていた非標準特許(Non-SEP)も是正の対象にしたという点で一歩前進した事例である。

※SEPは、特許権者の自発的なFRAND確約で濫用行為が一部制限される効果があるが、Non-SEPはこのような制限がないため、特許濫用に脆弱だ。

スマートフォンたけでなく、タブレット関連特許やMSの系列会社が保持している特許も是正対象に含める一方、韓国企業が生産した合うマートフォン及びタブレットについて韓国内だけでなく、海外における販売差し止め訴訟も制限した。

※これは、本件の結合に対する海外(中国、台湾)の是正措置にはなかった内容である。

MSの韓国スマートフォンメーカーに対する特許使用料引き上げは、最終的にはスマートフォンの値上げにつながるという点で、消費者利益を保護する効果も期待できる。

また、企業の結合事件に対して同意議決制度を適用した初めての事例であり、企業結合による将来の競争制限可能性を十分に解消できる広範囲な是正案を策定したという点で同意議決制度の模範事例と評価される。

同意議決手続きの開始以降、MSとの持続的な協議を通じて、国内業界の懸念事項が十分に解消できるよう、是正案を修正・補完した。

公取委は今後も、国内経済に占める割合の高いIT産業と関連する原材料市場におけるグローバルM&Aに対し、深い審査を行うことでMSやNokiaのような特許技術独寡占事業者による市場支配力の濫用を積極的に防止する計画だ。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

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