知的財産ニュース [インタビュー] チェ・ドンギュ特許庁長

2015年7月7日
出所: 電子新聞

5055

1987年に特許庁の事務官として官僚への道を歩み始めたチェ・ドンギュ特許庁長は、外務省に出向してから20年となる今年5月、特許庁のトップとして復帰した。

チェ庁長は、今月7日、庁長室にて就任後、電子新聞とは初めてとなるインタビューにおいて「特許庁の中核業務である審査・審判業務を新たに整備することで、強い特許を創出するするとおもに登録特許権利の安定化に向け努力したい」と意気込みを述べた。

幹部会議を2週間に1回開くことにしたのは、就任後初めての実績と評価される。特許庁の中核人材である審査官が主な業務である審査により集中できるよう、配慮した措置である。これまでのいかなる政策よりも、特許審査現場で歓迎されている。

チェ庁長は「特許庁で事務官として7年間働いていた時、当時、意匠審査と呼ばれていたデザイン審査を経験したので特許審査の重要性をよく理解している。就任直後から行われた各種のイベントや国際会議の準備過程等に関連し、機関長の理解を助けるためだけの報告書や演説文の作成等を禁止し、より重要な業務に集中するよう指示した」と述べた。

チェ庁長は「特許庁での勤務から得た専門性と、特許庁から離れて外交官として経験した普遍性をバランスよく調和させていきたい」と意気込んでいた。知的財産という専門分野で専門家としての能力を発揮すると同時に、普遍性も保つようにして経済革新と創造経済の実現を促進させたいとの考えとみられる。

今後、重点的に推進する政策・事業は?

特許庁の基本事業である審査・審判業務の整備を図る方針だ。国民が必要とする時期に知的財産サービスの提供を受けられるように、審査・審判の処理期間を合理的な水準で維持するつもりだ。審査パラダイムを特許品質中心に転換させることで、特許庁に登録された権利は簡単には無効化しない安定的権利という信頼感を与えるために努力する。知的財産が先進国並みに保護される政策と制度を構築したい。特に、特許損害賠償制度の改善、技術奪取・流出防止、偽造品流通根絶等知的財産の公正な価値が守られるように努力していく。また、海外で発生する韓国企業の知財権・紛争に効果的に対応するために、海外知識財産センターの運営を効率化・拡大する一方で、訴訟保険の支援等を強化する方針だ。

特許審査品質の改善策は?

韓国の特許審判院による無効審判認容率は主要先進国(40~50%)と近い50%程度だ。ただ日本の場合は、裁判所が進歩性の判断基準を変更したため認容率が低い。無効審判認容率を単純に特許品質の指標としてみなすことはできないが、特許権の法的安定性を高めるために、無効審判認容率を海外の主要国レベルに下げる必要がある。そのために、今後、無効可能性が少ない強い特許を創出し、登録特許権利の安定性の強化に向け、持続的に特許審査品質の向上に努める方針だ。新技術に関する教育プログラム等を実施することで審査官の専門性を強化させると同時に、主要先進国の特許庁と共同審査制度を施行して審査の正確性と信頼性を伸ばしていく。また、不良特許を減らすことを目的に、特許権の発生以前に明らかな拒絶理由が発生すると審査官が職権で再審査することができる制度や、登録特許を検証できる特許取消申請制度も導入するつもりだ。

韓国の知的財産サービス市場が活性化しない理由と対策は?

韓国の知的財産サービス市場は、企業の知財サービスに対する認識がまだ低い上、サービス企業の能力も足りないため、市場が活性化しないものだと思う。2013年時点で市場規模は6,400億ウォン、雇用規模は約1万6,500人にすぎない。市場の活性化に向け、去年12月に知的財産サービスの産業特殊分類を制定し、これに基づいた税制支援が最近進められている。今後、母胎ファンド(Fund of funds)の特許勘定を通じて150億ウォン規模を知的財産に直接投資し、サービス企業の投資ファンドも200億ウォン規模に造成する計画だ。

知的財産価値評価による金融支援が拡大しているが、現況及び支援強化策は?

去件、知的財産価値評価の費用支援事業を通じて303社に1,658億ウォン規模の保証及び担保ローンの支援を行った。今年は、400社、2,000億ウォン規模に増やす計画だ。特に、知的財産金融プロセスを整備し、知的財産金融を充実させていく。知的財産価値評価の期間・モデルを金融機関や投資機関に合わせて見直すとともに、知的財産価値評価機関を民間部門へ拡大して市場中心の評価が行われるようにする方針だ。

法廷から知的財産訴訟に関わる損害賠償額の現実化問題が持続的に提起されているが、対策は?

韓国の裁判所で認められる損害賠償額は米国等の先進国より非常に低い水準だ。現在、損害賠償額の算定体系を見直し、関連証拠提出義務を強化する改正案をウォン・ヘヨン議員が発議し、国会で審議されている。改正案には、特許権者が適正実施料を受けられるように算定基準を改善する内容や、当事者への勘定義務を勘定人に義務付けることで、正確な賠償額の算定が行われるようにする内容が盛り込まれている。

韓国企業を狙う外国のパテントトロールによる知財権紛争が増えているが対策は?

韓国企業がパテントトロールから提訴された件数は、2010年の57件から2014年の244件に大きく増えている。外部に公開しなかった企業の件まで含めるとさらに増えるものと推定される。パテントトロールの活動には、技術開発及びライセンス取引を促進するポジティブな面がある一方で、メーカーの生産・営業活動を委縮させるネガティブな面もある。したがって、パテントトロールの長所は最大限活かしつつ、逆効果は最低限に抑える総合的観点が求められる。今後、韓国企業にパテントトロールの動向情報を提供するとともに、知財権訴訟保険や紛争コンサルティング等の支援を行う予定だ。

今年5月、中国で開かれた知的財産先進5カ国(IP5)特許庁長会議で韓国のステータスは?

20年ぶりに特許庁に復帰して初めての国際会議だったが、大きく変わった韓国のステータスを実感することができた。米韓特許庁長会談で、韓国主導の審査協力事業である「共同審査プログラム」を試験的に実施することで合意し、韓国の特許審査が世界的なレベルにまで達していることを実感した。

知的財産分野において国際協力の重要性が高まっているが、主な国際協力策は?

韓国企業の海外進出拡大への対応策として、知的財産協力対象国との協力分野を拡大するとおもに、先進国中心の協力に偏らず、東南アジアや中東、南米等、韓国企業の進出が活発化している新興国・途上国との協力も拡大していく方針だ。

シン・ソンミ記者 smshin@etnews.com

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

ジェトロ・ソウル事務所 知的財産チームは、韓国の知的財産に関する各種研究、情報の収集・分析・提供、関係者に対する助言や相談、広報啓発活動、取り締まりの支援などを行っています。各種問い合わせ、相談、訪問をご希望の方はご連絡ください。
担当者:大塚、柳(ユ)、李(イ)、半田
E-mail:kos-jetroipr@jetro.go.jp
Tel :+82-2-3210-0195