知的財産ニュース 公正委、MSに同意議決の開始を決定

2015年2月5日
出所: 公正取引委員会

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1.同意議決申し立ての概要

これまでの経過

マイクロソフト(MS)は、公正委が審査中であるMS-Nokiaの企業結合の件(以下、本件の結合)に対して、2014.8.27.同意議決を申し立てた。
※MSは、Nokiaの携帯電話端末機事業を買収する契約を締結し('13.9.)、公正委に届け出た('13.11.)。

公正委は、2014.9.16.第1回全員会議を開催し、同意議決の開始に関する可否を審議したが、事案が複雑な上、MS側も自発的な是正案を修正・補完すると提案したことで、審議継続を決定した。

それ以降、MSによる是正案の修正・補完について、次のような争点に対する意見の差を調整するに当たり、時間がかかった。

  • 是正措置の適用範囲と関連して商品市場と地理的市場の範囲などの確定
  • MSとスマートフォンメーカー間で結んだ事業提携契約の修正など

数回にわたるMSの自主的な是正案の修正・補完と利害関係社の意見収集などを通じて是正案を検討し、2.4.に第2回全員会議を開催して決定す るに至った。

申し立ての理由

  • 移動通信機器の市場および移動通信に関する特許市場は、技術発展が速く、市場環境が急激に変貌する革新市場である。
  • 海外の競争当局も情報通信(IT)など、新成長分野に対して同意議決の手続きを適用している。
  • 申立人の自主的な是正案によって、公正委が提起する本件の結合の競争制限に対する懸念を有効かつ迅速に解決することができる。

申し立ての内容

MSは、本件の結合の競争制限の可能性に対して、次のとおりに自主的な是正案を提示した。

スマートフォンの必須特許を多く保持しているMSが本件の結合により、携帯電話の生産まで手掛けることになれば、競合のスマートフォンメーカーを相手に特許料を過度に引き上げたり、不当に取り扱ったりする懸念がある。
→(是正案)スマートフォンメーカーに対する特許ライセンス付与の際、公平、合理的、かつ非差別的な条件(FRAND)の順守、販売差し止め請求訴訟の禁止、今後7年間、現行の特許料水準の超過禁止など
※Fair、Reasonable、Non-discriminatoryの条件

MSがスマートフォンメーカーと締結した事業提携契約の場合も、競合社間で経営上の中核情報を共有するようにしていることが市場競争を制限するおそれがある。
→(是正案)事業提携契約において情報共有の根拠条項を削除するなど

2.全員会議の開催結果

公正委は、次の事情などを総合的に踏まえて、同意議決の手続きを開始することに決定した。

  • 本件の結合の関連市場であるモバイル端末機および特許市場は、動態的な市場状況および技術発展などを考慮しなければならない革新市場である点
  • 事業者による自主的な是正によって、特許権の濫用、競合会社間の情報共有のような競争制限に対する懸念を有効に解消できるという点
  • 海外の競争当局も類似した事案に対して、同意議決の手続きを適用しているという点
    ※米FTC、GoogleによるMotorola買収の件(2013.7.)

ただし、今回の決定は、事業者の申し立てにより、同意議決の手続きを開始するか否かについてのみ審議している。

最終的な同意議決案は、暫定案を策定して利害関係者などの意見を収集する手続きを経てから、改めて公正委の審議議決を通じて最終確定する。

今後の処理手続き

  1. 暫定同意案の策定
    申立人と協議を経て、暫定同意議決案を決定(1カ月)
  2. 意見の収集
    利害関係者、関係部処、検察庁長と書面で協議(1~2カ月)
  3. 同意議決の確定
    最終的な同意議決案を委員会に想定して確定可否を議決

3.今回の決定の意義

今回の決定は、公正委が企業の結合事件に対して同意議決制度を適用した初めての事例である(公正委が同意議決制度を適用した事例は2件)。
※NAVER・DAUMの市場支配的地位の濫用行為などに対する件('14.5.)
 SAPコリアの取引上地位の濫用行為に対する件('14.12.)

企業結合審査制度は、過去の法律違反行為を制裁する談合や市場支配的地位の濫用行為などとは違って、企業結合による将来の競争制限可能性を前もって審査し、予め遮断するための制度
従って、事業者が自主的に提出した是正案を基に将来の市場状況に合わせた方案を策定する場合、競争制限に対する懸念をより効果的に解消できる。

課徴金が賦課される事案ではないため、同意議決をもって事業者への徴金を免除するといった懸念もないと思われる。

そのため、米国・欧州連合など外国の場合も企業結合の事件は、同意議決の手続きによって解決する場合が多い。

4.今後の計画

公正委は、今後の同意議決の手続きを進める過程で、公正かつ自由な競争秩序を回復し、消費者及び取引相手などを保護できるベストの同意議決案を導き出すため、利害関係者の様々な意見を積極的に収集する計画だ。

一方、同結合のもう一方の被審人であるNokiaの場合は、MSと違って同意議決を申し立てなかったため、通常的な委員会の審議手続きに基づいて審査する予定

公正委は、Nokiaが同結合の後、モバイル端末機をこれ以上生産しないようになれば、事実上の特許管理専門会社(NPE)と化し、自社が持しているモバイル関連特許を濫用する可能性について検討している。
※Nokiaは、今回のモバイル端末機事業部の売却とは関係なく、モバイル関連特許を引き続き保持している。

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