知財判例データベース 特許拒絶決定不服審判の棄却審決に対して提起する審決取消しの訴えは、共同出願人のうち一部だけでも提起することができる
基本情報
- 区分
- 特許
- 判断主体
- 大法院
- 当事者
- 原告A(共同出願人のうちの1人、審判請求人) vs 被告(特許庁長)
- 事件番号
- 2024フ10825拒絶決定(特)
- 言い渡し日
- 2024年12月26日
- 事件の経過
- 上告棄却(原審確定)
概要
特許出願に係る発明の進歩性を否定した拒絶決定不服審判の審決に対して共同出願人のうちの1人だけが審決取消しの訴えを提起した事案において、大法院は、拒絶決定不服審判で棄却審決を受けた場合に提起する審決取消しの訴えは共同出願人のうち一部が単独で提起することができると判示した。
事実関係
本件特許出願は「神経精神疾患治療のための薬学的組成物」に関するもので、会社A、会社B及び大学Cの共同出願である。特許庁の審査において比較対象発明1(説明は省略)により進歩性が否定され拒絶決定となり、上記3人が審判請求人として共同して不服審判を請求したが、審判でも進歩性が否定されて棄却審決を受けた。
これに対して上記3人の名義で審決取消しの訴えを提起したが、会社B及び大学Cからの訴訟委任状の提出がなかったため、会社B及び大学Cによる提訴は不適法なものとして却下され、結局、適法な提訴は会社Aの単独によってなされたという状況になった。
審決取消しの訴えにおいて特許法院は、会社A単独による審決取消しの提訴自体は認めたものの、出願発明の進歩性がないためAの請求を棄却する判決を下し、これに対してAが上告を提起した。
判決内容
2人以上が共同で発明した場合には、特許を受ける権利を共有する(特許法第33条第2項)。特許を受ける権利の共有には、特許法の他の規定やその本質に反しない範囲で民法上の共有の規定が適用される(大法院2004年12月9日言渡2002フ567判決等参照)。
特許法は、特許を受ける権利が共有に係る場合には合一的に確定される必要があることから、特許出願、及び特許庁の審査官の特許拒絶決定等に対する審判請求を共有者全員が共同して行わなければならない旨を規定しているが(特許法第44条、第139条第3項)、特許拒絶決定等に伴う審決取消しの訴えを共有者全員が共同して提起しなければならないかについては何ら規定を設けていない。
特許を受ける権利の共有者のうちの1人が単独で特許拒絶決定等に対する審決の取消しを求める訴えを提起しても、その訴訟において審決を取り消す判決が確定した場合には、取消しの効力は他の共有者にも及ぼし、特許審判院における共有者全員との関係において審判手続が再開され(行政訴訟法第29条第1項)、一方、審決取消請求を棄却する判決が確定して審決が維持された場合には、審決に不服を申し立てなかった他の共有者の権利に影響を及ぼさない。
しかし、特許を受ける権利の共有者全員が共同して特許拒絶決定等に対する審決の取消しを求める訴えを提起しなければならないと解する場合、共有者のうちの1人でも提訴に協力しないときには、残りの共有者が権利行使において障害を受けたりその権利が消滅してしまう等の不当な結果に至ることになる。
従って、特許を受ける権利の共有者が特許拒絶決定等に対する不服審判で棄却審決を受けた場合に提起する審決取消しの訴えは、審判請求人である共有者全員が共同して提起しなければならない固有必須共同訴訟とはいえず、特許を受ける権利の共有者のうちの1人であっても、その権利を妨害する審決があるときには、権利の消滅を防ぐために単独で審決の取消しを求めることができる。
なお、発明の進歩性の判断等に関する判示内容はここでは省略したが、出願発明の進歩性を否定した特許法院の判断が維持される結果となった。
専門家からのアドバイス
韓国特許法には特許を受ける権利や特許権の共有に関連する明文規定が置かれており、特許拒絶決定に対する不服審判を請求するときには共同出願人全員が共同して審判請求を行わなければならないと規定されている一方で、その棄却審決に対する審決の取消しの訴えについては特段の規定が置かれておらず、本件はこの点について争点になっている。
民法上の共有所有の態様には共有、合有、総有の3つがあるところ、特許権や商標権等の共有はいずれに該当するであろうか。これについて韓国の特許法や商標法等には「各共有者は、他の共有者の同意を得なければその持分を譲渡し、又はその持分を目的とする質権を設定することができず、専用実施権(専用使用権)又は通常実施権(通常使用権)を設定することができない」と規定し、「各共有者がその共有の権利に関して審判を請求するときには共有者全員が共同して請求しなければならない」等の規定があるため、民法に規定された「合有」に準ずると解釈すべきであるとする学説や下級審判決等が存在していた。
しかし韓国の大法院は、過去に商標権の共有が争点になった事件において「商標権が共有に係る場合、各共有者は、他の共有者の同意を得なければその持分を譲渡し、又はその持分を目的とする質権を設定することができず、その商標権に対して専用使用権又は通常使用権を設定することもできない等の一定の制約を受け、その範囲において合有と類似の性質を有するが、このような制約は商標権が無体財産権であるという特殊性から来ると解されるに過ぎず、商標権の共有者が必ずしも共同の目的や同業関係に基づいた組合を形成して商標権を所有すると解することはできないのみならず、商標法に商標権の共有を合有の関係とみなす明文規定もない以上、商標権の共有にも、商標法の他の規定やその本質に反しない範囲で民法上の共有の規定が適用され得る」と判示している(大法院2004年12月9日言渡2002フ567判決、事件は原審判決破棄・差戻し)。すなわち韓国の大法院は、特許権や商標権等の共有には無体財産権の特殊性に由来する制約があるとはいえども、他の明文規定がない部分については民法上の共有の規定が適用されるとの立場であるといえる。
したがって、韓国特許法第139条第3項には「特許権又は特許を受けることができる権利の共有者がその共有の権利について審判を請求するときは、共有者の全員が共同して請求しなければならない」という明文規定が置かれているので、特許拒絶決定に対する不服審判等の審判を請求するときには共同出願人全員が共同して審判請求を行わなければならない。その一方で、当該不服審判で棄却審決を受けた場合に提起する審決取消しの訴えについては全員が共同して請求しなければならないという明文規定が特許法にないため、民法上の共有の規定に基づいて、共同出願人(及び共同請求人)のうちの1人でも単独で提起することができる。
ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム
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