知財判例データベース 権利範囲確認審判において、確認対象発明の説明書に特許発明との対比表が含まれている場合に、その対比表まで考慮して権利範囲に属さないと判断した事例

基本情報

区分
特許
判断主体
大法院
当事者
原告(特許権者) vs 被告(審判請求人、確認対象発明の実施者)
事件番号
2020フ11813権利範囲確認(特)
言い渡し日
2023年01月12日
事件の経過
上告棄却/審決確定

概要

権利範囲確認審判において、確認対象発明は確認対象発明の説明書及び図面によって特定されるため、その説明書の一部に特許発明と確認対象発明との対比表が含まれている場合、その対比表の記載も考慮して確認対象発明の特定及び特許発明への権利範囲の属否を判断すべきである。

事実関係

原告の対象特許は、肛門周囲の骨盤底筋を強化するために低周波パルスの電気刺激を加えるデバイスに関するもので、対象特許の請求項1は次の通りである。

【請求項1】

使用者の着座を可能にする着座手段が設けられているデバイスボディ(B)(「構成要素1」)、及び上記デバイスボディ(B)に使用者の肛門が接触せずに使用者の上記肛門に対応する位置周囲を囲んで配列される2つ以上の低周波パルス印加用電極パッド(P)(「構成要素2」)、を含んでなることを特徴とする骨盤底筋強化練習用デバイス。
(このうち、本件争点の構成は「肛門が接触しない電極パッド」に相当する部分である。)

対象特許の図3

使用者の着座を可能にする着座手段が設けられているデバイスボディ(B)(「構成要素1」)、及び上記デバイスボディ(B)に使用者の肛門が接触せずに使用者の上記肛門に対応する位置周囲を囲んで配列される2つ以上の低周波パルス印加用電極パッド(P)(「構成要素2」)、を含んでなることを特徴とする骨盤底筋強化練習用デバイス。 (このうち、本件争点の構成は「肛門が接触しない電極パッド」に相当する部分である。)

被告は、下記の図面とこれに関する説明書によって特定される確認対象発明が、対象特許の権利範囲に属さない旨の確認を求める消極的権利範囲確認審判を請求した。被告は、説明書において突出部(15)の高さを具体的に特定していないが、特許発明との対比表を添付して「確認対象発明の突出部(15)上に形成される第1電極及び第2電極は肛門と接触する」と記載した。

10:ボディ、15:突出部
確認対象発明の説明書の平面図及び側面図

10 

特許審判院は確認対象発明が対象特許の権利範囲に属さない旨の審決をし、これに対して原告は特許法院に審決取消訴訟を提起した。

原告は、確認対象発明の電極(対象特許の電極パッドに対応)が肛門に接触するか否かは電極が形成された突出部(15)の高さに左右されるものであるが、確認対象発明の説明書には突出部(15)の高さが記載されていないため、確認対象発明は対象特許と対比できる程度に特定されていないと主張した。

これに対して特許法院は、確認対象発明は突出部の高さを特定していないものの、確認対象発明の説明書の一部をなす対比表には「確認対象発明の突出部(15)上に形成される第1電極及び第2電極は肛門と接触する」と明示されているため、これにより確認対象発明は対象特許と対比できる程度に特定されているというのが妥当で、また、このように特定されている確認対象発明は対象特許の電極パッドが肛門と接触しない構成が欠如しているため、対象特許の権利範囲に属さないと判断した。これに対して原告は上告を提起した。

判決内容

(1)法理

権利範囲確認審判は、権利の効力が及ぶ範囲を対象物との関係において具体的に確定するものであり、特許権の権利範囲確認審判請求の審判対象は、審判請求人がその請求において審判の対象とする具体的な発明である。消極的権利範囲確認審判においては、審判請求人が現実的に実施する技術が、審判請求において審判の対象とする具体的な発明と異なるとしても、審判請求人が特定した発明が実施の可能性がない場合は、その請求が適法であるかが問題となり得るのみであって、依然として審判の対象は審判請求人が特定した確認対象発明であり、これを基準として特許発明と対比し、その権利範囲に属するか否かを判断すべきである(大法院2010年8月19日付言渡2007フ2735判決、大法院2019年9月9日付言渡2019フ10081判決など参照)。

(2)判断

確認対象発明は、確認対象発明の説明書及び図面によって特定されるため、その説明書の一部ということができる「特許発明と確認対象発明の対比表」の記載も考慮してその特定を判断し、これを把握すべきであるところ、確認対象発明の説明書のうちの一部である対比表には「第1電極及び第2電極は突出部上に形成されて使用者の肛門と接触するため」と明示されていることから、確認対象発明は、本件請求項1の発明と対比できる程度に特定されており、上記のように第1、2電極が使用者の肛門と接触する構成を有すると把握される。
したがって、確認対象発明は、本件請求項1の発明の「使用者の肛門が接触しない」構成が欠如し、その権利範囲に属さないため、これと結論を同じくした本件審決は適法である。

専門家からのアドバイス

本件のような消極的権利範囲確認審判は、特許権者から特許侵害の警告を受け又は訴訟を提起された侵害被疑者が、韓国の特許審判院を通じた手続によって、侵害訴訟よりも簡易な手続で権利範囲に属さない旨の判断を得るためにしばしば活用されている。この権利範囲確認審判における審判対象は、本件判決でも判示されているように、侵害被疑者である審判請求人が特定した確認対象発明である。したがって、侵害被疑者が自らに有利なように確認対象発明を特定して消極的権利範囲確認審判を請求する可能性があることになる。
これに関連して本件の主な争点は、対象特許の請求項において「肛門と接触しない」と限定した電極パッドの構成に対して、審判請求人である被告が特定した確認対象発明の電極が肛門と接触するか否かという点であった。より具体的には、特許権者である原告は、被告の確認対象発明では電極が形成された突出部の高さに応じて肛門と接触するか否かが変わるため、確認対象発明が特定されていない旨を主張したところ、法院は、審判請求人が特定した確認対象発明の説明書において「肛門と接触する」と明示されている点を挙げて、原告の主張を排斥した。
なお、もし本件の事案が侵害訴訟で争われた場合、仮に被告の実製品において電極が肛門と接触していないのであれば、本件消極的権利範囲確認審判とは異なる結論が出る可能性も排除できないと思われる。
日本では、こうした権利範囲の属否を審判手続で争う権利範囲確認審判の制度は、1959年の判定制度の導入とともに既に廃止されている。本件は、韓国における消極的権利範囲確認審判の実務がどのようなものかを把握するのに参考にすることができる。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

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