知財判例データベース 確認対象標章は商品の性質を表示する商標に該当するので、登録商標の効力が及ばないと判断した事例

基本情報

区分
商標
判断主体
特許法院
当事者
原告 個人A, B vs 被告 個人C
事件番号
2018ホ7224
言い渡し日
2019年01月10日
事件の経過
確定

概要

原告(審判被請求人)らは、指定商品「傘、日傘」などについて「거꾸로」(「逆さ」の意)という商標の登録を受けた商標権者である。被告(審判請求人)は、審判段階において原告らを被請求人として、使用商品である「逆さに開閉する傘」に使用する確認対象標章「거꾸로우산」が「逆さになった傘」という性質を示す記述的標章であり取引業界で慣用されている標章であるため本件登録商標の効力が及ばない旨を主張しながら消極的権利範囲確認審判を請求した。これに対し、特許法院は、特許審判院の審決と同様に、確認対象標章は商品の用途、効能、形状などを普通に用いる方法で表示する商標に該当し本件登録商標の効力が及ばないので、本件登録商標との同一・類似の如何を対比する必要なしに、その権利範囲に属さないと判決した。

事実関係

確認対象標章は、ハングルからなる「거꾸로」(逆さ)と「우산」(傘)が結合した文字標章であり、そのうち「거꾸로」は「順番や方向、又は状況などが反対になるように」という意味を有する副詞として日常生活でよく使用されている。

確認対象標章の使用商品は、「逆さに開閉する傘」として布と傘骨を二重にし、一般の傘とは異なり、逆さに開いたり閉じたりするように考案された傘である。即ち、次の写真のように傘を閉じると傘の内側面が外側を向き、雨水で濡れた外側面が内側を向くようになって、使用者が雨水と接触するのを防止し、全て閉じた場合には一般の傘を逆さにしたような形態となる。

逆さ傘に関連して、多数の出願人により18件の特許又は実用新案が出願されている。また、被告は、2015年に「二重ひさし構造を有する逆さに閉じる傘」という発明の名称で特許出願をし、逆さ傘の傘骨に対してデザイン出願をして、逆さ傘を生産・販売している。

インターネット検索サイトであるNamuwiki百科事典には、傘の使用例の1つとして「逆さ傘」がその写真及び「雨に濡れた部分に直接触れずに乗車時や狭い空間でも開くことができる長所がある」という文とともに登載されている。

「逆さ傘」又は「逆さに開閉する傘」は、2013年10月頃から2017年8月頃まで、新聞やテレビのニュースで多数紹介されている。

インターネットポータルサイトのNAVERによって2010年1月1日から2017年9月18日までで「逆さ傘」を検索した結果、ウェブサイト、インターネットニュース、ブログ、ポスト、知識iNなどにおいて、逆さ傘についての多数の掲示文、イメージ、動画などが掲示されており、また、2018年6月8日にインターネットポータルサイトのGOOGLEによって「逆さ傘」を検索した結果、約1,090件の動画が検索されるなど、様々な掲示物で「逆さ傘」が一般的な傘とは開閉する方向が反対の傘であることを示している。

本件審決日に近い2018年5月28日当時、NAVERショッピングにおいて2,473件の「逆さ傘」製品が販売のために掲載されており、その中から原告が製造した製品を除いても1,972件の「逆さ傘」製品が掲載されている。

判決内容

関連法理

商標権の効力が及ばない範囲を規定する商標法第90条第1項第2号の「商品の産地・品質・原材料・効能・用途・数量・形状・価格又は生産方法・加工方法・使用方法及び時期を普通に用いられる方法により表示する商標」に該当するか否かは、その商標が有する観念、使用商品との関係、及び取引会社の実情などに鑑みて客観的に判断しなければならないところ、需要者がその使用商品を考慮したときに品質、効能、形状などの性質を表示しているものと直感することができれば、これに該当するものとされる。一方、商標権の権利範囲確認審判において確認対象標章の全体又は一部が当該規定に該当するか否かの判断時点は「審決時」として判断すべきであるとされる。

具体的判断

確認対象標章の観念、使用商品との関係、及び取引社会の実情などに鑑みれば、確認対象標章は、本件審決日である2018年8月1日を基準としてその使用商品である「逆さに開閉する傘」に使用する場合、一般需要者や取引者に逆さに開閉する用途、効能、形状などの性質を有する傘として直感されるものと言える。また、確認対象標章は、同じ大きさのハングルを同一の書体で並べて配列しており、その使用商品の用途、効能、形状などを普通に用いる方法で表示しているので、商標法第90条第1項第2号の商品の用途、効能、形状などの性質を普通に用いる方法で表示する商標に該当する。従って、確認対象標章は、商標法第90条第1項第2号の商品の用途、効能、形状などを普通に用いる方法で表示する商標に該当して本件登録商標の効力が及ばないため、本件登録商標との同一・類似の如何を対比する必要なく、その権利範囲に属さない。

専門家からのアドバイス

日韓両国の商標法は、商品の普通名称、慣用標章、性質表示などに該当して識別力を喪失した商標は商標権の効力が及ばない旨を規定している。本件は、かかる規定に基づき、確認対象標章が商品の用途・特徴などを直接表示した記述的商標に該当することから本件登録商標の権利範囲に属さないと判断した事例の1つであるといえる。記述的商標は商標登録を受けることができず、商標登録を受けたとしても、その効力が及ばないという具体的な事例を示したという点で本件の意味がある。
せっかく考案した商標が記述的商標と判断されないようにするためには、たとえば商標のネーミング選定の段階から商品の特徴などを直接示すよりも暗示する表現にとどめるなどの方法が考えられ、実務上は専門家の検討を経ることが望ましいであろう。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

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