知財判例データベース 商標登録後に性質表示標章としての認識が明確となった場合は後発的無効事由に該当し、登録無効と判断した事例

基本情報

区分
商標
判断主体
特許法院
当事者
原告 個人A, B, C, D, E, F vs 被告 個人G(商標権者)
事件番号
2018ホ5785
言い渡し日
2019年01月10日
事件の経過
審理不続行棄却、2019年5月3日確定

概要

商標登録無効審判の請求を棄却した特許審判院の審決に対し、特許法院は「本件登録商標「オケタニのハングル」は、その登録日後において乳房管理及びマッサージ、母乳授乳などに関連する商品/サービスの取引者や需要者が、これを「日本の助産師により創案された産婦健康管理及び母乳授乳関連乳房管理法」を意味する乳房管理法の一つとして認識するようになったということができ、本件登録商標がその指定商品/指定役務に用いられる場合には、その品質、効能、用途などの性質を意味するものとして直ちに認識されるはずであるので、本件登録商標はその指定商品/指定役務の性質を普通に使用する方法により表示した標章のみからなる商標として旧商標法第71条第1項第5号、第6条第1項第3号の登録無効事由に該当し、また需要者が何人かの業務に関連する商品を表示するものであるかを識別できない商標として旧商標法第71条第1項第5号、第6条第1項第7号の登録無効事由にも該当する」と判断し、特許審判院の審決を取り消した。

事実関係

「オケタニ」は「桶谷乳房管理法」を創案した日本の助産師の名前に由来するもので、「桶谷乳房管理法」は日本で始まった乳房管理法の一つとして授乳婦が痛みなしに母乳の授乳ができるように助ける乳房管理の手技をいう。

被告も自身が運営する「オケタニモール」ウェブページで「オケタニ」が日本の「桶谷乳房管理法」に由来する用語であることを表示している。本件登録商標の登録日である2012年12月3日以降現在まで、韓国国内の論文、新聞記事、インターネットブログ及びコミュニティサイトなどに掲載された多くの文章において「オケタニ」が被告などの特定人の商標ではなく特定方式の乳房管理法を指し示す一般用語として広く使用されている。

判決内容

関連法理

出願商標やサービスマークが旧商標法第6条第1項各号の識別力要件を備えているかに関する判断の基準時点は、原則的に商標やサービスマークに対して登録可否を決定する決定時であり、拒絶決定に対する不服審判によって登録可否が決定される場合にはその審決時であるといえる。ただし、旧商標法第71条第1項第5号は「商標登録がされた後に、その登録商標が第6条第1項各号の一に該当するに至った場合(第6条第2項に該当するに至った場合を除く)」にも商標登録の無効審判を請求できるようにする後発的登録無効事由を規定している。このような法理は旧商標法第2条第3項によりサービスマークの場合にも同様に適用される。

具体的判断

本件登録商標の標章は「日本の助産師により創案された産婦健康管理及び母乳授乳関連乳房管理法」という観念を有するものであって、その指定商品及び指定役務である乳房管理及びマッサージ、母乳授乳などに関連する商品及びサービスとの関係において、その品質、効能、用途などの性質を直接的に記述するものと言うことができ、乳房管理法の一つを意味する単語として多数人により認識され使用されているのが取引社会の実情であることがわかる。

このような本件登録商標の観念、指定商品/指定役務との関係及び取引社会の実情などを勘案するとき、本件登録商標の標章は、少なくともその登録日である2012年12月3日以降には乳房管理及びマッサージ、母乳授乳などに関連する商品/サービスの取引者や需要者がこれを「日本の助産師により創案された産婦健康管理及び母乳授乳関連乳房管理法」を意味する乳房管理法の一つとして認識することができるようになっていたといえ、本件登録商標がその指定商品/指定役務に使用される場合には、その品質、効能、用途などの性質を意味するものと直ちに認識するはずであるので、本件登録商標はその指定商品/指定役務の性質を普通に使用する方法により表示した標章のみからなる商標として旧商標法第71条第1項第5号、第6条第1項第3号の登録無効事由に該当する。

また、前述のように「日本の助産師により創案された産婦健康管理及び母乳授乳関連乳房管理法」として乳房管理法の一つを意味する単語として認識・使用される「オケタニ」は、本件登録商標の指定商品/指定役務のように乳房管理及びマッサージ、母乳授乳などに関連する商品/サービスを取り扱う同種取引業界の従事者にその使用が開放され、取引社会で誰もが使用可能であるべきものとして、特定人に独占させることは公益上望ましくないだけでなく、指定商品/指定役務の性質を表示するものとして自他商品を識別させるようにする標章として機能するとも言い難いので、本件登録商標は需要者が何人かの業務に関連した商品を表示するものであるかを識別することができない商標として旧商標法第71条第1項第5号、第6条第1項第7号の登録無効事由にも該当する。

使用による識別力が認められるという被告の主張についての判断

旧商標法第6条第2項により、商標が需要者の間において特定人の商品に関する出所を表示するものとして識別できるようになった場合であると認定するためには、当該商標が使用された商品の取引者及び需要者において特定人の商品を表示するものであると認識されるに至ったという点が証拠により明確に認定されなければならないところ、被告が提出した証拠だけでは本件登録商標がその指定商品/指定役務に使用された結果、国内の需要者の間に特定人の商品/サービスに関する出所を表示するものであると認識されるに至ったと認めるには不足であるので、本件登録商標は旧商標法第6条第2項の使用による識別力を取得したとは言い難い。

専門家からのアドバイス

韓国の商標法では、たとえ商標登録がされたとしても、その後に普通名称、性質表示などの識別力がない標章に該当するに至った場合には無効審判を請求できるものと規定している (注1)。一方、日本商標法第46条第1項第5項には後発的な無効事由が規定されてはいるものの、日本商標法第3条の商標登録要件に後発的に該当するに至った場合は、その対象から除外されている(注2)

本判例は、商標登録がされた後に性質表示に該当することになったことを理由として、その登録が無効と判断された事例の一つとして意味があるだけでなく、日韓両国の後発的無効事由に対する違いを表しているという点から有益であろう。

なお、本件は被告が上告し、大法院に係属中である。

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