知財判例データベース 均等範囲の判断要件として課題の解決原理の同一性判断における課題の解決原理の把握方法を具体化した事例

基本情報

区分
特許
判断主体
大法院
当事者
原告 A社 vs 被告 B社(特許権者)
事件番号
2017フ424権利範囲確認(特)
言い渡し日
2019年01月31日
事件の経過
上告棄却/原審確定

概要

  • 特許発明の課題の解決原理を把握する際に発明の詳細な説明の記載だけでなく出願当時の公知技術等までも参酌する理由は、先行技術全体との関係において特許発明が技術の発展に寄与した程度に応じて特許発明の実質的価値を客観的に把握し、それに相応した特許発明の保護を図るためである。従って、先行技術を参酌し特許発明が技術の発展に寄与した程度に応じて、特許発明の課題の解決原理をどの程度に広くまたは狭く把握するかを決定すべきである。ただし、発明の詳細な説明に記載されていない公知技術を根拠として、発明の詳細な説明から把握される技術思想の核心を除外したまま、他の技術思想を技術思想の核心として置き換えてはならない。
  • 確認対象発明は、構成の差異にもかかわらず、発明の詳細な説明の記載及び公知技術を参酌して把握される特許発明の技術思想の核心において同一であるため特許発明と課題の解決原理が同一であり、残りの均等要件も満足することから、特許発明の権利範囲に属する。

事実関係

原告は「焼海苔自動切断及び収納装置」を発明の名称とする登録特許第515442号の権利範囲に確認対象発明が属さないという趣旨で消極的権利範囲確認審判を請求したが、特許審判院は、確認対象発明が特許発明と均等関係にあるという理由で原告の審判請求を棄却した。原告は特許法院に審決取消訴訟を提起したが、特許法院でも均等関係を認め、これを不服とした原告は大法院に上告した。

特許発明は構成要素1~8を含むが、確認対象発明には、特許発明の構成要素6と構成要素7を除く残りの構成である構成要素1(フレーム)、構成要素2(切断用シリンダユニット)、構成要素3(昇降板)、構成要素4(加圧切板)、構成要素5(加圧棒)、構成要素8(包装容器移送ユニット)と同一の構成が含まれている。
一方、特許発明の構成要素6のガイドケースは「加圧切板の昇降作動を安定的に案内する」役割をするのに対し、確認対象発明は回動プッシャとその向かい側に設けられたストッパとが加圧切板の外側に配置されて加圧切板の昇降作動を案内している。

特許発明の構成要素6と確認対象発明の対応構成
本件特許発明の図3 確認対象発明の図1、6b

40: 加圧切板、60: ガイドケース

164:ストッパ、165:回転プッシャ

特許発明の構成要素7の格子状の切断刃と確認対象発明の対応構成要素とは、ガイドケースの下部に固定配置されて下に行くほどその厚さが線形的に広くなる、いわゆる「格子状部材」を備える点において共通する。ただし、構成要素7では格子状部材と格子状刃が「一体」に形成されてガイドケースの下部に固定配置される一方、確認対象発明は格子状切断刃が格子状ボックスと「分離されて上下に移動される」ように各加圧切板に隣接して垂直形態で別途に配置される点において差異がある。

特許発明の構成要素7と確認対象発明の対応構成
特許発明の構成要素7 確認対象発明の対応構成

80: 切断刃、81: 傾斜面、82: 押出孔

140:加圧切板、180:切断刃、182:押出孔、185:格子状ボックス

以上の差異に鑑み、均等範囲の判断の一般原理に従って大法院では、特許発明と確認対象発明の課題の解決原理が同一か、実質的に同一の作用効果を奏するか、構成変更が容易かを判断した。

判決内容

大法院は、課題の解決原理の同一性判断について次の法理を提示した。「確認対象発明と特許発明の『課題の解決原理が同一か』を判断するときは、特許請求の範囲に記載された構成の一部を形式的に抽出するのではなく、明細書に記載された発明の詳細な説明の記載と出願当時の公知技術等を参酌して先行技術と対比してみるときに特許発明特有の解決手段が基礎とする技術思想の核心が何かを実質的に探求して判断すべきである(大法院2014年7月24日言渡2012フ1132判決参照)。特許法が保護しようとする特許発明の実質的価値は、先行技術で解決されなかった技術課題を特許発明が解決して技術の発展に寄与したところにあるので、確認対象発明の変更された構成要素が特許発明の対応する構成要素と均等かを判断するときにも、特許発明特有の課題の解決原理を考慮する。また、特許発明の課題の解決原理を把握するときに発明の詳細な説明の記載だけでなく出願当時の公知技術等までを参酌するのは、先行技術全体との関係において特許発明が技術の発展に寄与した程度に応じて特許発明の実質的価値を客観的に把握し、それに相応する保護をするためである。従って、先行技術を参酌して特許発明が技術の発展に寄与した程度に応じて特許発明の課題の解決原理をどの程度に広くまたは狭く把握するかを決定すべきである。ただし、発明の詳細な説明に記載されていない公知技術を根拠として、発明の詳細な説明から把握される技術思想の核心を除外したまま、他の技術思想を技術思想の核心として置き換えてはならない。発明の詳細な説明を信頼した第三者が、発明の詳細な説明から把握される技術思想の核心を利用していないにもかかわらず、上記のように置き換えられた技術思想の核心を利用したという理由によって課題の解決原理が同じであると判断するようになれば、第三者に予測できない損害を及ぼすことがあるためである」

以上の判断法理に基づいて大法院は、特許発明の詳細な説明に「従来は包装容器の各収納空間の間にある間隔だけ、切断されたそれぞれの積層海苔の間を広げておく構造を提示することができなかったが、上記積層海苔を加圧する加圧切板が格子状切断刃の外側傾斜面に沿って、互いに“間”が広がるように誘導することによって収納工程までを自動化することができる」旨が記載されているという点において、特許発明の技術思想の核心を「切断されたそれぞれの積層海苔が下降しながらガイドケースの下部に固定配置される格子状部品の外側傾斜面に沿って互いに間が広がるように誘導する」ところにあるとした。さらに、上記のような技術思想の核心が本件特許発明の出願当時に公知となっていたと言えるだけの事情は認められないという点、及び構成要素6のガイドケースは、発明の技術思想の核心を具現するのに寄与しているというだけに過ぎず、特許発明の技術思想の核心と把握することはできないという点を指摘したうえで、確認対象発明は、上記のような特許発明の技術思想の核心において同一なので、課題の解決原理が同一であると判断した。

作用効果が同一である否かに関しては、特許発明と確認対象発明は実質的に同一の作用効果を奏すると判断した。特に、確認対象発明において特許発明の構成要素6に対応する構成が加圧切板を案内する効果が特許発明の構成要素6のガイドケースの構成より劣るとしても、確認対象発明において構成要素6が欠如していると言える程度にはなく、特許発明の技術思想の核心を具現することができないとは言えず、構成要素6とその効果は実質的に同一であると言うことができると判断した。 構成変更の容易性に関しては、特許発明の構成要素6及び7を確認対象発明の対応構成に変更することは、同技術分野において慣用的に採択する技術手段、部品の形態や配置関係等を考慮して、通常の技術者にとって容易であると判断した。

専門家からのアドバイス

韓国の権利範囲確認審判では、特許発明と確認対象発明との間の権利範囲の属否判断において、いわゆる均等範囲が考慮される。特に、確認対象発明が特許発明の均等範囲に属するかについての判断要素の一つである課題の解決原理の同一性判断について、大法院は、ここ数年間の判決を通じて、その意味と判断方法を具体化してきている。

2009年の大法院判決においては、「課題の解決原理が同一であるというのは、確認対象発明において置換された構成が特許発明の非本質的な部分であり、確認対象発明が特許発明の特徴的構成を有することを意味し、特許発明の特徴的構成を把握するにおいては、特許請求の範囲に記載された構成の一部を形式的に抽出するのではなく、明細書の発明の詳細な説明の記載と出願当時の公知技術等を参酌して先行技術と対比してみるときに特許発明特有の解決手段が基礎とする課題の解決原理が何かを実質的に探求して判断すべきである」旨を判示した(大法院2009年6月25日言渡2007フ3806判決)。

さらに、2014年の大法院判決では、「課題の解決原理が同一である」ことの意味から「本質的な部分」に関連する語句を削除することにより、本質的な構成を置換変更する場合であっても均等関係が適用され得ることが示唆された(大法院2014年7月24日言渡2012フ1132判決参照)。

これに対し本判決は、先行技術を参酌して特許発明の課題の解決原理を把握すべき旨とその理由、及びその際の先行技術の参酌方法について具体的に判示したものであるといえる。すなわち、本判決は、特許発明が先行技術全体との関係において技術の発展に寄与した程度を考慮することにより、その寄与度によって特許発明の課題の解決原理を広くも狭くも把握され得るということ、これにより、公知技術との関係において特許発明が大きく進歩した技術であれば、その均等範囲も広く認められ得るという判断基準を明確にしており、この点において本判決の意味があると言えよう。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

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