知財判例データベース 公知となっている個別の構成を結合した物の製造可能性が提示されていても、その効能が予測されないとして発明の進歩性を認めた事例

基本情報

区分
特許
判断主体
大法院
当事者
原告 A社 vs 被告 B社(特許権者)
事件番号
2018フ10206登録無効(特)
言い渡し日
2018年12月13日
事件の経過
上告棄却/原審確定

概要

本件特許発明の優先権主張日の当時、たとえ肺炎球菌結合ワクチンの分野で血清型の種類と運搬体タンパク質の種類が個別にそれぞれ公知となっており、かつ被告が従前に商用化した7価結合ワクチンにCRM197単一運搬体が使用されたことがあったとしても、多数の先行文献に示された免疫干渉のおそれ及び単一運搬体の使用に対する否定的な認識等があったことを考慮すれば、通常の技術者が13個の血清型全てに対する十分な免疫原性が発揮されるはずであろうと合理的に予測して、13価結合ワクチンの単一運搬体としてCRM197を採択したであろうとは言い難いとして、特許発明の進歩性が否定されないとした。

事実関係

事件の経緯

特許発明は、プレベナー®という名称で市販されている13価肺炎球菌ワクチン医薬品をカバーしている。特許発明は先行発明1-1により新規性が否定され、各先行発明により進歩性が否定され、明細書に記載不備事由があるという理由によって無効審判を請求した原告の請求に対し、特許審判院は訂正後の特許発明に基づいて無効審判請求を棄却する審決をした。これを不服とした原告は特許法院に審決取消訴訟を提起したが、特許法院もやはり、同一の理由で新規性及び進歩性は否定されず、明細書の記載不備もないとして原告請求を棄却したため、原告は大法院に上告した。

特許法院の判断要旨

特許発明は「特定血清型13個の多糖類をCRM197運搬体タンパク質にそれぞれ結合した13個の相違する結合体を含む、肺炎球菌ワクチンとして使用するための13価免疫原性組成物」に関するものである。特許発明の新規性を否定するためには、13個の血清型の種類と運搬体タンパク質CRM197が各々公知となっているということだけでは足りず、「運搬体タンパク質CRM197に結合された13個の血清型全てに対し免疫原性がある肺炎球菌多糖類-タンパク質結合体組成物」に関する技術内容が開示されていなければならない。

先行発明1-1には、CRM197に結合されて糖結合体をなす7価結合ワクチンが商用化された点、及び研究が進められているワクチンとして13価ワクチンがあるという点が開示されている。しかし、先行発明1-1には、13価結合ワクチンがいかなる運搬体タンパク質に結合されたか、及び13個の血清全てに対して免疫原性を示すかに関する記載がない。従って、特許発明は先行発明1-1により新規性が否定されない。

先行発明1-2からはCRM197を運搬体タンパク質とする13価ワクチン等に対して大規模生産設備を計画・準備しているという事実が分かるだけなので、CRM197を運搬体タンパク質とする13価肺炎球菌結合ワクチンが製造され得るという可能性を開示しているに過ぎない。ワクチン分野の発明は、生体内で多様な免疫細胞と数多くの媒介因子による複雑な相互作用と経路により目的とする用途が確認されて完成するものであり、製造条件も精巧に調節されなければならない。このような技術分野の特性を考慮すると、特許発明は先行発明1-2により新規性が否定されない。

また、特許発明は、次の理由により、先行発明のそれぞれ、またはこれらの組合わせによっても進歩性が否定されない: 免疫干渉現象とは、いくつかの血清型を同時に投与すると、一部血清型に対する免疫反応が単独投与時より増加したり抑制される現象を言うもので、ワクチンの価数が増加するほど運搬体タンパク質の投与量と、結合された及び/又は同時投与された抗原に対する免疫反応に対する免疫干渉の確率が高くなるものと知られている。免疫干渉のおそれによる単一運搬体に対する否定的な認識及び複数運搬体に対する選好、CRM197運搬体使用時にも発生する免疫干渉現象及びそのおそれ、免疫干渉現象に関する予測の困難性及びその正確な原因(メカニズム)に関する究明の困難性、本件特許発明の優先権主張日前後の多価結合ワクチンの開発状況と通常の技術者の技術水準及び対処方式、免疫干渉現象を克服し併せて適切な製造条件も探し出して13個の血清型全てに対する免疫原性を備えたワクチンを開発するのにはかなりの時間と費用及び労力が要される点等の、様々な事情を総合してみれば、通常の技術者が本件特許発明の優先権主張日当時、免疫干渉現象のおそれと単一運搬体使用に対する否定的な認識を克服し、単一運搬体としてCRM197を採択する場合に13個の血清型全てに対する十分な免疫原性が維持されるはずであろうと合理的に予測し、これにより単一運搬体としてCRM197を採択していたはずであると言うことは難しい。特許発明は、単一運搬体を使用した多価結合ワクチンの免疫干渉のおそれを克服し13個の血清型全てで免疫原性を維持したという点で、通常の技術者が予測することが困難な顕著な効果を奏する。また、特許発明の明細書に記載不備の事由もない。

判決内容

大法院は、下記の通り判断した特許法院の原審判決を支持した。

たとえ肺炎球菌結合ワクチン分野で血清型の種類と運搬体タンパク質の種類が個別にそれぞれ公知となっており、被告が従前に商用化した7価結合ワクチンにCRM197単一運搬体が使用されたことがあったとしても、多数の先行文献に示された免疫干渉のおそれ及び単一運搬体の使用に対する否定的な認識等を考慮すると、本件特許発明の優先権主張日当時、通常の技術者が13個の血清型全てに対する十分な免疫原性が発揮されるはずであろうと合理的に予測し、13価結合ワクチンの単一運搬体としてCRM197を採択したと言うことは難しい。実際に競合製薬業者は、被告とは異なって新たな運搬体タンパク質を使用したり、2種以上の運搬体タンパク質を使用した多価結合ワクチンの開発を試みたりもしていた。

結局、各先行発明またはその結合によっても、13価肺炎球菌結合ワクチンの開発においてCRM197単一運搬体を使用して免疫原性を確保した本件発明の新規性や進歩性が 否定されない。

原審の判断に記載不備に関する法理誤解等の誤りもない。

専門家からのアドバイス

本件は、物の発明において個別の構成がそれぞれ公知となっており、これらを結合した物の製造可能性が提示されている状況で、実際に物を製造して意図した効能が発揮されるかを確認した特許発明の進歩性が認められるかどうかが争点となった。

公知となっている個別の構成を結合した物の製造可能性が開示されている場合、一般的には、該当物が容易に導き出されるという理由で進歩性が否定される可能性がある。これに対し本件は、①ワクチン分野では生体内での相互作用による効能の予測性が低いため、その効能が確認されて初めて発明が完成するという点、及び②特許出願当時の技術水準で単一運搬体を使用した多価ワクチンが十分な効能を示すことへの否定的な認識があったという点等の事情を重視して、実際に意図した効能を有する、単一運搬体を使用した多価ワクチンを提供する特許発明の進歩性が否定されないと判断した。

特許法院の原審判決と今回の大法院判決は、公知となっている個別の構成を結合した物の製造可能性が開示されていたとしても、進歩性判断の法理に従い、個別的・具体的な技術分野及び事実関係に基づいて、優先日当時において通常の技術者が多価ワクチンの効能を合理的に予測し、特定の単一運搬体を採択できたであろうかという点についての判断が示されたものであり、進歩性判断の事例として参考となろう。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

ジェトロ・ソウル事務所 知的財産チームは、韓国の知的財産に関する各種研究、情報の収集・分析・提供、関係者に対する助言や相談、広報啓発活動、取り締まりの支援などを行っています。各種問い合わせ、相談、訪問をご希望の方はご連絡ください。
担当者:大塚、柳(ユ)、李(イ)、半田
E-mail:kos-jetroipr@jetro.go.jp
Tel :+82-2-3210-0195