知財判例データベース 諸般の事実関係に照らし、被告が確認対象商標を使用したとも将来使用する可能性があるとも認め難いため、確認審判を請求する利益がないとされた事例

基本情報

区分
特許
判断主体
特許法院
当事者
原告 A社(審判請求人、専用使用権者) vs 被告 B社
事件番号
2018ホ9169
言い渡し日
2019年07月18日
事件の経過
請求棄却/審決確定

概要

原告は本件登録商標の専用使用権者として、被告が寝具に対し確認対象標章を使用していると主張して、確認対象標章は本件登録商標の権利範囲に属するという積極的権利範囲確認審判を請求した。これに対し特許審判院は、本件審判請求は確認対象標章を直接使用せず、今後も使用する可能性があるとは認め難い被請求人(被告)を相手方としたものであるため、確認の利益がなく不適法であるという理由で本件審判請求を却下した。原告はこれを不服として特許法院に審決取消訴訟を提起しながら、被告が自身のホームページに寝具類の写真と共に確認対象商標を使用した事実があり、被告の実質的な従業員が自身のホームページ、ブログなどに確認対象商標を使用していた事実があるため、将来、被告や被告の従業員が再び確認対象商標を使用する可能性がないとは断言できないと主張したが、特許法院は諸般の事実関係に照らして原告の主張を排斥し本件請求は確認の利益がないと判断して原告の請求を棄却した。

事実関係

本件登録商標と確認対象標章は下表のとおり。

区分 本件登録商標 確認対象標章
標章の構成 英語でDOCTORFRIEND ハングルでDOCTORFRIEND
(ドクターフレンドのハングル)
指定商品/使用主張商品 商品区分第24類の布団、寝具等 寝具

判決内容

(1)関連法理

登録商標権者が、審判請求の対象となる確認対象商標が登録商標の権利範囲に属するという内容の積極的権利範囲確認審判を請求した場合、審判請求人が特定した確認対象商標と被審判請求人が使用している商標との間に同一性が認められなければ、確認対象商標が登録商標の権利範囲に属するという審決が確定するとしても、その審決は審判請求人が特定した確認対象商標に対してのみ効力が及ぶにすぎず、実際に被審判請求人が使用している商標に対してはいかなる効力もないため、被審判請求人が使用していない商標を対象にしたそのような積極的権利範囲確認審判請求は確認の利益がないため不適法であり却下されるべきである(大法院2003年6月10日付言渡し2002フ2419判決、大法院2012年10月25日付言渡し2011フ2626判決など参照)。

さらに審判請求の利益は審決時を基準として判断しなければならないため、原則的に積極的権利範囲確認審判の被審判請求人が審決時に確認対象商標を使用している場合には確認の利益が認められるが、そうではなく被審判請求人が以前に確認対象商標を使用していたに過ぎないときは、諸般の事情に照らして将来再び確認対象商標を使用する可能性がある場合に限って例外的に確認の利益が認められ得る(大法院2004年7月22日付言渡し2003フ2836判決など参照)。

(2)認定事実

(イ)原告が提出した被告ホームページのキャプチャ画面には、以下のように「ドクターフレンド アーシング寝具セット」を広報する文面および写真が掲載されている。

(ロ)Cは「www.닥터프렌드.com」(ハングル部分;「ドクターフレンド」)というインターネットドメインネームを利用して以下のようなホームページを運営した事実があり、Cのフェイスブックには「ドメインネーム付きのドクターフレンド」という表示がある。

(ハ)Dが運営するネイバーブログには「ドクターフレンド」に関する内容が記載されている。

(3)判断

(イ)原告が被告ホームページであると主張して提出したホームページキャプチャ画面は、被告ホームページの製作依頼を受けたEがその製作過程で原告の寝具類の写真と「ドクターフレンド」の標章を削除しないまま掲示した当時の画面とみられる。Eはドクターフレンドホームページの基本フレームを利用して被告ホームページの制作作業を行ったものとみられるが、その過程で錯誤により「ドクターフレンド」の関連部分が一部残ったままになり、後日、その事実を知って「ドクターフレンド」の関連部分をすべて削除した。また、被告ホームページにはショッピングモール機能がなかったため、原告が提出した「ドクターフレンド」が含まれる被告ホームページ画面は正常なドメイン経路によっては入ることができないものであって、一般大衆に公開された部分ではない。商標の使用とは、①商品または商品の包装に商標を表示する行為、②商品または商品の包装に商標を表示したものを譲渡し、もしくは引き渡し、または譲渡もしくは引き渡しの目的で展示・輸出もしくは輸入する行為、③商品に関する広告・定価表・取引書類、その他の手段に商標を表示し、展示し、または広く知らせる行為を意味するが、上記のようなホームページの表示だけで被告が確認対象商標を使用したと認めることはできない。

(ロ)Cは、2017年7月頃から被告と委託販売契約を結び、被告から手数料を受け取って被告製品を販売する者に過ぎないとみられる。一方、Cは被告と委託販売契約を締結する前である2016年3月頃に原告との委託販売契約により原告製品を販売したこともあり、その当時「www.닥터프렌드.com」というドメインネームを購入し、原告製品を広報したが、被告B社と委託販売契約を締結した2017年7月頃にドメインネーム管理業者に「ホームページ内の名前をすべてドクターフレンドからB社に変更してほしい」と要請し、現在は上記のドメインネームはすべて削除されている。また、Cと被告との間の委託販売約定を規定した業務協約書第21条には上記の契約が勤労雇用契約ではないことが明示され、Cが被告の勤労者ではないことを確認する旨の内容が記載されている。

(ハ)以上のような点に照らし、Cが被告の社員として「www.닥터프렌드.com」を運営したものとは認められないため、このようなCのホームページの運営が、被告が確認対象商標を使用したものであるとも認め難い。

(4)結論

以上の認定事実と判断から、被告が確認対象商標を使用し、または将来確認対象商標を使用する可能性があるとは認め難く、その他これを認める証拠がないため、確認対象商標が本件登録商標の権利範囲に含まれるという確認を求める本件審判請求は確認の利益がない。したがって、本件請求が確認の利益がないと判断した本件審決は適法である。

専門家からのアドバイス

韓国の権利範囲確認審判では、審判請求の利益(確認の利益)の有無がしばしば問題となる。

論理的に確認の対象は無制限であるともいえるが、訴訟法上では、確認の訴えは訴訟によって判断を受けることを正当化できる一定の利益が存在しない場合には不適法なものとして却下対象となる。これに準じ、登録商標権者が、審判請求の対象となる確認対象商標が登録商標の権利範囲に属するという内容の積極的権利範囲確認審判を請求する場合にも同じ法理が適用される。すなわち、審判請求人が特定した確認対象商標と被審判請求人が使用している商標との間に同一性が認められなければ、確認対象商標が登録商標の権利範囲に属する旨の審決が確定したとしても、その審決は審判請求人が特定した確認対象商標に対してのみ効力が及ぶにすぎず、実際に被審判請求人が使用している商標に対してはいかなる効力もないことになることから、そうした被審判請求人が使用していない商標を対象とした積極的権利範囲確認審判請求は確認の利益がなく不適法なものとして却下される。本判決で採用している法理は、法院の一貫した判例に従ったものであり、新しいものではないと見られる。

したがって、本判決は既存の法理に則って、被請求人(被告)が確認対象商標を使用していないとか、または将来使用する可能性がないとは断定できないという請求人の主張に対し、法院の判断を示したものと言える。法院が具体的に証拠に照らして事実関係をどのように認定し、積極的権利範囲確認審判請求の利益についてどのように判断したかを理解することができるという面で本判決は参考にすると良いといえよう。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

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