知財判例データベース 権利範囲確認審判で商品の特殊かつ限定的な取引実情を考慮して標章の類否を判断することは商標類否判断の法理を誤解したものであるとした事例

基本情報

区分
商標
判断主体
大法院
当事者
原告 個人A vs 被告 個人B
事件番号
2018フ10848
言い渡し日
2019年08月14日
事件の経過
原審(特許法院)破棄差戻し

概要

大法院は、本件登録商標「白い背景に緑いろのサブという文字の上に、バラの絵が描かれた商標」と確認対象標章「緑色背景にソビアという白い文字の左側にに、バラの絵が描かれた商標」とにおいて、図形部分は花状でその識別力を認めるのが困難であるか、又はこれを特定人に独占させることは適当ではないと判断した上で、本件登録商標のうち「サブという文字」部分は造語として図形部分に比べて相対的に識別力が高く、需要者も本件登録商標を「サブ」と呼称してきた事実が認められるので要部であるといえるものであって、確認対象標章の「ソビアという文字」部分と対比すると、外観だけでなく呼称も「サブ」と「ソビア」とで差異があって互いに類似しないと判断しながら、確認対象標章が本件登録商標の権利範囲に属すると判断した原審判決を破棄差戻しした。

事実関係

被告は、確認対象標章が原告の商標登録第1082620号「白い背景に緑いろのサブという文字の上に、バラの絵が描かれた商標」の権利範囲に属さないという趣旨の消極的権利範囲確認審判を請求し、特許審判院は被告の請求を認容する審決をした。

これに対し、特許法院は、まず、(商標権の権利範囲確認審判及びその取消訴訟で)当該商品を巡る一般的な取引実情と商標の周知程度及び当該商品との関係などを総合的・全体的に考慮することを原則とするとしながらも、審決当時、既に当該商品に関する当事者の具体的な取引事情が形成されており、それが一般需要者に商品の出所に関する誤認・混同を引き起こす程度にまでは及ばない一時的なものでなく、そのような誤認・混同のおそれがあるかの判断の鍵となる場合には、これを考慮して標章の類否を判断することができることを示した。その上で、特許法院は、確認対象標章が本件登録商標とともに用いられる場合、一般需要者や取引者に、商品の出所について誤認・混同を引き起こすおそれがあり、その標章が類似すると見るべきなので、確認対象標章は本件登録商標の権利範囲に属すると判決した。

判決内容

(1)関連法理

商標権の権利範囲確認審判において登録商標と確認対象標章の類否は、その外観、呼称及び観念を客観的、全体的、離隔的に観察してその指定商品の取引で一般需要者が商標に対して感じる直観的認識を基準にその商品の出所について誤認・混同を引き起こすおそれがあるかによって判断すべきであり、このような判断において当該商品に対する標章の使用事実が認められる場合、標章の周知程度及び当該商品との関係、標章に対する需要者の呼称及び認識など当該商品を巡る取引実情を総合的・全体的に考慮すべきである。

商標中に、一般需要者にその商標に関する印象を植え付けたり記憶・連想をさせたりすることによってその部分だけで独立して商品の出所表示機能を担う部分、即ち、要部がある場合において、適切な全体観察の結論を誘導するためにはその要部をもって商標の類否を対比・判断することが必要である。

一方、結合商標のうち一部の構成部分が要部として機能することができる識別力がないか又は微弱であるかを判断するときは、当該構成部分を含む商標がその指定商品と同一・類似の商品について多数登録されているか又は出願公告されている事情も考慮することができるため、登録又は出願公告された商標の数や出願人又は商標権者の数、当該構成部分の本質的な識別力の程度及び指定商品との関係、公益上特定人に独占させることが適当ではないと判断される事情の有無などを総合的に考慮して判断すべきである。

(2)確認対象標章と本件登録商標の類否

両標章のうち図形部分は花状で互いに同一・類似であるが、上記図型部分が周知・著名であるとか、需要者に強い印象を与える部分であると見ることができない。むしろ花の香りがする石鹸として認識され、その指定商品又は使用商品と関連して品質や効能などを連想させ、本件審決以前に石鹸商品と関連して上記と類似の形状の図形を含んだ多数の商標が登録されているので、その識別力を認めるのが困難であるか、又はこれを公益上特定人に独占させることは適当でない。

一方、本件登録商標のうち「サブという文字」部分は、造語としてその指定商品との関係において図形部分に比べて相対的に識別力が高いといえ、需要者も本件登録商標を英文字部分である「サブ」と呼称してきた事実が認められるので、要部であるといえる。

上記の認定事実を前述した法理に照らしてみると、本件登録商標の「サブという文字」部分と確認対象標章の「ソビアという文字」部分は、外観だけでなく呼称もそれぞれ「サブ」と「ソビア」で互いに差異があるので類似しない。 原審は、両標章の文字部分と図形部分、そしてその使用された商品の具体的な形状と模様及びその包装の具体的な形態などが類似するか又は共通するという理由で両標章は互いに類似すると判断した。しかし、このような原審の判断には、先に見た取引実情を考慮した両標章の外観及び呼称の差異にもかかわらず、商品の具体的な形状と模様及びその包装の具体的な形態などのようにその商品で容易に変更が可能な特殊かつ限定的な取引実情に比重をおいて考慮し両標章が類似すると判断したことによって、商標の類否判断に関する法理を誤解して判決に影響を及ぼした誤りがある。

専門家からのアドバイス

本件は、標章の類比判断に関し、特許法院での原審判決 と大法院の判決で判断が異なった。

原審判決も、商標権の権利範囲確認審判及びその取消訴訟で標章の類否を判断するとき、商標権侵害訴訟のように、当該商品に関する一般的な取引実情以外に当事者の具体的な取引事情までを考慮して判断することを原則とするとまでは認めることができないと判断した。ただし、その上で原審判決は、審決当時、既に当該商品に関する当事者の具体的な取引事情が形成されていることなどを考慮して、本件両標章が類似するという判断を導き出したものであった。

これに対し、大法院は、商標権の権利範囲確認審判において登録商標と確認対象標章の類否を判断する既存の大法院判例の見解を維持しながら、原審判決の判断について、商標の類否判断に関する法理を誤解したものであると判示している。

具体的には、大法院は、登録商標と確認対象標章の類否判断において当該商品に対する標章の使用事実が認められる場合、標章の周知程度及び当該商品との関係、標章に対する需要者の呼称及び認識など当該商品を巡る取引実情を総合的・全体的に考慮して登録商標と確認対象標章の類否を判断すれば足りるとする法理を示した。その一方で、原審判決では取引実情を考慮した両標章の外観及び呼称の差異にもかかわらず、その商品の具体的な形状と模様及びその包装の具体的な形態といったその商品で容易に変更が可能な特殊かつ限定的な取引実情に比重をおいて考慮し両標章の類否を判断したことを原審判決の誤りとして大法院は斥けたのである。

すなわち、原審判決は、商標権の侵害訴訟と権利範囲確認審判を同一の法理下に判断すべきであるという前提のもとに権利範囲確認審判に新たな判断法理を導入しようとする試みをしたが、大法院はこれを否定し、権利範囲確認審判における登録商標と確認対象標章の類否判断に関する法理は既存の判例がそのまま維持されることを明確にした点で本件判決の意義があるといえよう。(注1)

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

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