知財判例データベース 全体観察による比較時、登録商標「ハル」は先出願商標「爽快なハル」と非類似で無効事由がないと判断した事例

基本情報

区分
商標
判断主体
特許法院
当事者
原告 A社 vs 被告 日本国B社(商標権者)
事件番号
2018ホ8296
言い渡し日
2019年04月12日
事件の経過
確定

概要

特許法院は、被告の本件登録商標「 (ハルのハングル)」(指定商品:医療用温熱パッド)が原告の先出願商標「サンクェハンハル(爽快な一日(ハル)のハングル)」(指定商品:医療用温熱パック、医療用冷パック)と類似するかを判断するにおいて、先出願商標の「ハル」部分は要部に該当しないためこれを分離して観察することは適切でなく、両商標を全体として対比して類否を判断するとその外観や称呼等が相違するため、同一・類似の指定商品に使用される場合に出所の誤認・混同を生じさせるおそれがあるとは言えないと判断し、本件登録商標に無効事由があるとする原告の請求を棄却した。

事実関係

原告A社の代表者Cは2001年4月に「ハルのハングルにひらがなではるのルビ」からなる商標を出願したが(指定商品:医療用温熱パッド、医療用温熱パック)、当該出願商標は2003年2月に「サンクェハンハル (爽快な一日(ハル)のハングル)」(指定商品:ばん創膏等)という第三者の商標と類似するとの理由で登録が拒絶され、これに対しCは不服審判を請求したものの2003年7月に棄却された。

一方で、原告の代表者Cが2003年3月に出願した商標「ハルのハングルにひらがなではるのルビ」(指定商品:発熱パック、湯たんぽ、携帯用カイロ)は、同年12月に登録された(登録番号第567918号)。その後Cは2004年5月、上記の登録商標「ハルのハングルにひらがなではるとルビを付ける 」を被告側D社(現在、被告B社の子会社)に譲渡し、当該登録商標は2008年4月に被告B社に譲渡された。

さらに原告の代表者Cは、2009年に第三者の上記商標「サンクェハンハル (爽快な一日(ハル)のハングル)」について不使用取消審判を請求し同年8月に認容審決を受けた後、2009年12月に先出願商標である「サンクェハンハル (爽快な一日(ハル)のハングル)」を出願し、2011年6月に商標登録がされた。これに対し被告は、2012年、上記先出願商標は被告が譲り受けた上記登録商標(登録番号第567918号)と類似するという理由により先出願商標に対する登録無効審判を請求したところ、2013年5月、両商標は類似しないという理由により審判請求が棄却された。

本件登録商標「ハルのハングル文字」(指定商品:医療用温熱パッド)は、2009年12月に被告が出願し、2013年8月に商標登録がされたものである。その後、本件登録商標は、現在まで約6年間、先出願商標と共存してきているとともに、2008年4月に被告に譲渡されている上記登録番号第567918号商標「ハルのハングルにひらがなではるのルビ 」と先出願商標も約8年間共存してきた。

判決内容

(1)関連法理

商標の中に要部といえるだけの部分がなければ、全体観察の原則により商標を全体として対比して類否を判断するべきである。そして商標の構成部分が要部であるか否かは、その部分が周知・著名であるか、一般需要者に強い印象を与える部分であるか、全体商標において大きな割合を占める部分であるか等の要素を検討するものとし、さらに他の構成部分と比較した相対的な識別力の水準やそれとの結合の状態と程度、指定商品との関係、取引実情等までを総合的に考慮して判断しなければならない。

(2)具体的判断

(イ)要部観察の可否

先出願商標は次の点を総合してみるとき、「ハル」という文字の部分が一般需要者にその商標に関する印象を植え付けたり記憶・連想させることによりその部分だけで独立して商品の出所表示機能を遂行する部分に該当するとは言い難く、「ハル」という文字の部分が要部に該当するという原告の主張は受け入れることができない。

  1. 「ハル」という文字の部分が周知・著名であるとか一般需要者に強い印象を与える部分であるといえるだけの何らの資料もない。
  2. 先出願商標を構成する全体の文字は5音節に過ぎないが、その中で「ハル」という2音節の文字の部分は、他の構成部分である3音節の「爽快な」との結合状態と程度に照らし全体の商標において大きな割合を占める部分であるとも言い難い。
  3. 「爽快な」という文字の部分は「感じが涼しくてさっぱりした」という意味で、先出願商標の指定商品である医療用温熱パック、医療用冷パックと関連し、身体温度を上げたり下げたりすることによる痛みの緩和によって使用者が受ける主観的感情を表現するものにすぎないため、「爽快な」という部分自体によって、痛み緩和という指定商品の効能をある程度暗示又は強調することを超えてこれを直感させると認めることはできない。また「ハル」という文字の部分についても、上記指定商品と関連して痛み緩和という効能の「持続期間」をある程度暗示又は強調することを超えてこれを直感させると認めることはできない。このように、両構成部分は指定商品との関係で識別力が否定されない点は同じであって、それらの間に相対的な識別力の優劣があるとは言えない。むしろ先出願商標は「爽快な」という文字の部分がそれに続く「一日(ハル)」という文字の部分と観念的に結合して、全体的に一般需要者に「感じが涼しくてさっぱりした一日」という一体化した意味として認識されるといえる。つまり、「一日(ハル)」という文字の部分が他の構成部分である「爽快な」という文字の部分と比較して相対的な識別力水準が高いとか、指定商品との関係及び取引実情などに照らして独立して商品の出所表示機能を遂行するとも言い難い。

(ロ)全体観察による類否

先出願商標のうち「ハル」の部分は要部に該当しないため、これを分離して観察することは適切でないことから、両商標を全体として対比して類否を判断すれば、両商標はその外観や称呼等が互いに相違するため、同一・類似の指定商品に使用される場合にその出所の誤認・混同を生じさせるおそれがあるとは言い難い。これは弁論全体の趣旨を総合して上記【事実関係】の事情に照らしてみても、よりそうであるといえる。したがって、本件登録商標と先出願商標はその標章が類似するとは言えない。

(ハ)結論

本件登録商標は先出願商標と標章が類似しないため旧商標法第8条第1項に該当しない。

専門家からのアドバイス

商標において要部が存在する場合には、その部分が分離観察されるかを判断する必要なしに、要部のみで対比することにより商標の類否を判断することができるというのが韓国大法院の一貫した判断方法である。これに関連し、本判決は特許法院が要部観察の可否について判断した後、要部に該当する部分がないとして全体観察をして類否を判断したものであり、全体観察をするにおいては両当事者間の商標の出願・登録及び移転の経緯、両商標が共存している取引実情などを総合検討し、出所の誤認・混同を引き起こすおそれがあるか否かを判断した。

こうした本判決の事例は、当事者間の商標譲渡・譲受の経緯と、その後も一見似たような商標が共存してきたという取引実情に重点を置いて出所の誤認・混同を検討し、これにより標章が非類似と判断した点が特徴的であったと言える。さらに本事例は競合社の間で商標の譲渡・譲受をした場合に発生し得る紛争事例が具体的に扱われたものであって、これは他社との間で商標の譲渡・譲受といった実務を遂行する場合に、紛争リスクを未然に回避するための参考にもできよう。

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