知財判例データベース ホテル業と衣類業が経済的牽連関係にあるとして、ホテル業についての特定人の商標を模倣した不正な目的による出願であると認定した事例

基本情報

区分
商標
判断主体
特許法院
当事者
原告 A社 vs 被告 個人B(商標権者)
事件番号
2018ホ7712
言い渡し日
2019年01月24日
事件の経過
確定

概要

特許法院は、指定商品を「Tシャツ、帽子」等とする本件登録商標「Fairmont」が、その出願当時、少なくとも北米地域をはじめとする外国の需要者に原告のホテル業を表示するものと認識されていた先登録サービスマーク「フェアモントのサービスマーク」等を模倣し、これに化体された良質のイメージや顧客吸引力に便乗して不当な利益を得ようとする等の不正な目的をもって出願されたものと言えるため、旧商標法第7条第1項第12号に該当し、その登録が無効とされるべきであると判断した。

事実関係

原告は、米国と韓国でそれぞれ下表の商標とサービスマークの登録を受けた(これらを総称し、以下「先登録サービスマーク等」という)。

先登録サービスマーク等
標章 サービスマーク1
FAIRMONT
サービスマーク2
FAIRMONT
サービスマーク3
FAIRMONT
サービスマーク4
FAIRMONT
商標1
FAIRMONT
役務・商品(国) ホテル業
(米国)
ホテル業
(韓国)
ホテル業
(米国、韓国)
ホテル業
(米国、韓国)
シャツ、帽子
(米国)

原告は、カナダのトロントに本社を置き国際的なホテルマネジメント事業をする法人であって、カルガリー、ドバイ、ロンドン、モントリオール及び上海に支社を置いており、ワシントンDC、ロサンゼルス、北京、フランクフルト、香港、モスクワ等に海外営業部を置いている。

原告が運営するフェアモント(Fairmont)ホテルは、1907年にサンフランシスコで初めて営業を開始した後、多様なメディアを通じて紹介されてきた。原告は、1998年頃からオンラインウェブサイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを開設し、ホテルの予約業務及び広報を直接しており、約110年間にわたりホテル業等を営みながら数多くの賞に輝いた。

フェアモントホテルは数々の映画の背景になり、過去には各国の政治家、皇族、企業家、映画監督及び俳優等が世界各地のフェアモントホテルに宿泊した。

原告は1999年7月頃から「先登録サービスマーク等」を付着したシャツ、帽子、シャワーガウン、室内用スリッパ等を原告が所有・運営するホテル内のストア(Fairmont store)で販売してきており、2007年頃からはオンラインストア外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを開設して上記製品を販売している。原告は上記製品を指定商品として米国、カナダ、ヨーロッパ、ロシア、タイ、トルコ、ベトナム、インド、日本等、世界各国で商標登録を受けている。

判決内容

関連法理

旧商標法第7条第1項第12号は、国内または外国の需要者の間に特定人の商品を表示するものと認識されている商標(以下「模倣対象商標」と言う)が国内に登録されていないことを奇貨として、第三者がこれを模倣した商標を登録して使用することによって模倣対象商標に化体された営業上の信用等に便乗して不当な利益を得ようとしたり、模倣対象商標の価値を損なわせたり、または模倣対象商標の権利者の国内営業を妨害する等の方法で模倣対象商標の権利者に損害を与えようとする目的で使用する商標は登録を許容しないことを趣旨とする。

「先登録サービスマーク等」の認知度

「先登録サービスマーク等」の使用期間、方法、態様、広告・宣伝内訳、受賞内訳、取引実情等を考慮すると、「先登録サービスマーク等」は、本件登録商標の出願日である2015年12月11日頃にホテル業に関連して少なくとも北米地域をはじめとする外国の需要者や取引者に原告の役務を表示するものと認識され得る程度に広く知られていたと言うことができる。

標章の同一・類似如何

本件登録商標と「先登録サービスマーク等」とは、大小文字、フォント、図案の結合等の差異しかなく、全体的な構成と文字の配列が類似し、その外観が全体的に類似であり、本件登録商標と「先登録サービスマーク等」はいずれも韓国語音訳に該当する「フェアモント」と発音されるので呼称が同一であり、各標章はいずれも造語に該当して特別な観念を想起させることは難しい。本件登録商標と「先登録サービスマーク等」は外観と呼称が同一・類似であるので、全体的に類似する。

不正な目的があるかどうか

先に詳察した事実関係等と下記のような事情とに照らしてみると、本件登録商標は、出願当時、少なくとも北米地域をはじめとする外国の需要者や取引者の間に原告の役務を表示するものとして広く知られていた先登録サービスマーク等を模倣することによって、先登録サービスマーク等に蓄積された良質のイメージや顧客吸引力に無償で便乗して不当な利益を得ようとする等の不正な目的をもって出願されたと言うのが妥当である。
-被告が偶然に「先登録サービスマーク等」と類似の本件登録商標を自ら創出したとは言い難い。
-本件登録商標の指定商品[注1]のうち外套、Tシャツ、帽子は、原告が米国で商標登録を受けた商標1の指定商品であって、原告がホテル内とオンラインのストアで直接販売しているシャツ、帽子、シャワーガウン、室内用スリッパ等と同一または類似である。
-有名ホテルブランドを有する企業がこれまで消費者から確保した信頼感及び良質感等を活用し、ホテルブランドと連係して衣類業等に事業領域を拡張してきている点、実際に世界的なホテルチェーンであるWホテル、Rits Cartonホテル、Four Seasonsホテル、Grand Hyattホテルでもオンラインストアを通じてホテルの標章が付着されたシャワーガウン、帽子、Tシャツ、ズボン等を販売してきている点、国内でもウォーカーヒルや新羅ホテル等のホテル業を指定役務とするサービスマーク権者が商品区分第25類に該当する指定商品に対して商標登録を受けたことがある点等を考慮してみると、本件登録商標の残りの指定商品 も先登録サービスマーク等の使用役務であるホテル業と経済的牽連関係があると見られる。
-本件登録商標は、先登録サービスマーク等とその構成及び外観が類似である上に、本件登録商標の指定商品である衣類等は先登録サービスマーク等の使用役務(ホテル業)及び使用商品(シャツ、帽子、シャワーガウン、室内用スリッパ等)と主要需要層が互いに重複するので、本件登録商標が指定商品に表記される場合、一般需要者がこれを原告または原告と特殊関係にある者によって生産・販売された商品と誤認するおそれがあると見られる。

結論

本件登録商標は指定商品に対し、その出願当時、少なくとも北米地域をはじめとする外国の需要者に原告のホテル業を表示するものと認識されていた先登録サービスマーク等を模倣し、先登録サービスマーク等に化体された良質のイメージや顧客吸引力に便乗して不当な利益を得ようとする等の不正な目的をもって出願されたものと言えるので、旧商標法第7条第1項第12号に該当し、その登録が無効とされるべきである。

専門家からのアドバイス

本事件で示されているように、周知商標を含む特定人の商標の不正登録については韓国において不登録事由とされるが、法文上、その要件は日本の規定と若干異なっている。

韓国の旧商標法第7条第1項第12号(現商標法第34条第1項第13号)は、属地主義の原則及び先願主義の下での模倣商標登録の弊害と、商標ブローカーの商標制度の悪用とに対処するために1997年の改正法から導入されているもので、特定人の商標を不正な目的で使用する場合を不登録事由とする一方で、商品の側面からの制限は明示されていない。その理由としては、「不正な目的」とは商品が同一又は類似でない場合にも想定され得るものであるという点と、同一又は類似でない商品について不正な目的を推断することは容易でないことを考慮すれば、不正な目的を要件とする場合、あえて同一・類似の商品のみに限定する必要がないという点が一般的に挙げられる。

一方、同条項は、2007年の商標法改正によって、模倣対象商標の周知性に関連する要件が、いわゆる周知商標から「特定人の商品を表示するものであると認識されている商標」へと緩和された。これについては先願主義の根幹を揺がす問題となり得るという指摘もあったが、韓国特許庁は、先願主義は出願人が不正な目的で商標出願をした場合にも無条件に守らなければならないという絶対的な価値を有するものではなく、また、周知性を緩和したとしても「不正な目的」という制限要件があるため、改正による副作用は大きくならないという見解を示した。

これに対し、日本の商標法も1996年の法改正によって第4条第1項第19号に基づき不正な目的による商標の登録を排除しているが、その模倣対象商標は需要者の間に広く認識されている周知商標であることを要件としている。本事件で適用された現行の韓国商標法の不登録事由とは要件上の違いがある点に注意されたい。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

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