知財判例データベース 業務上の取引関係等を通じて知った他人の商標と同一・類似であるという理由で商標登録無効と判断した事例

基本情報

区分
商標
判断主体
特許法院
当事者
原告 ネイチャーハイクアウトドアプロダクツCo., Ltd. vs 被告A
事件番号
2017ホ7630
言い渡し日
2018年05月31日
事件の経過
確定

概要

個人が登録した「登録商標 山のイラストの下にNaturehike outdoorsの文字」に対し、「イラストに赤色がついている商標」「傾いている商標」などの商標を先使用して製品を製造販売していた原告会社により請求された登録無効審判において、特許審判院は登録商標は旧商標法第7条第1項第12号(不正の目的で使用する商標)に該当しないとして請求を棄却したが、審決取消訴訟において、本件登録商標は先使用商標「NATUREHIKE(注1)」 との関係で旧商標法第7条第1項第18号(業務上の取引関係等を通じて知った他人の商標と同一類似の商標)に該当するという理由が無効事由に追加され、特許法院はこの無効事由を認め登録商標は無効であると判断した。

事実関係

原告は2005年に中国でネイチャーハイクアウトドアプロダクツカンパニーリミッテッド(Naturehike Outdoor Products Co., Ltd.)という商号で設立された、テント・寝袋などの登山用品を製作・販売する企業であり、上記の商号から「Naturehike」を抽出して文字構成の一部追加、図形の挿入、文字の種類や大きさ、形態の変化等の方法により一部を変形させて多様な形態の標章(以下「各先使用標章」)を作成し、原告が製作した商品に付して使用してきた。

韓国では2012年頃から2015年頃までの間に、国内の数々の登山同好会や個人ブログで各先使用標章の一部が付された原告の登山用品が紹介された。また、2015年10月19日付の日刊紙には「大陸のキャンプアイテム、予想外のコスパ」というタイトルで原告の登山用品がコストパフォーマンスに優れた製品であると紹介され、特に各先使用標章のうち「NH」が含まれたものが韓国の「農協」の商号(NH농협)を連想させるという理由から、原告のテントが消費者のあいだで「農協テント」と呼ばれるほどに認知度を獲得したという内容とともに原告テント製品の写真も掲載された。

中国のインターネットショッピングモール(タオバオ、Tモール)でも本件各先使用標章の一部が付された原告の登山用品が販売されてきたところ、特にTモールの場合、原告は2010年頃から販売しており、消費者の満足度も高いことが確認され、Youtube.comでは2014年7月から2015年5月までのあいだ、原告商品を使用した消費者の使用レビューが複数掲示された。またアマゾン(amazon.com)およびアマゾンジャパン(amazon.co.jp)でも2014年2月から2015年3月までのあいだ、各先使用標章の一部が使用された寝袋、登山用リュックサック、テントなどを販売し、上記サイトには購入した消費者のレビューが複数掲示された。

一方、被告は数回にわたり各先使用標章の一部と同一・類似の標章を商標登録出願したが、本件登録商標を除いた残りはいずれも登録が拒絶された。なお被告は2015年4月から約2年間、原告の登山用品を輸入して国内で販売していたことがある。

判決内容

関連法理

旧商標法第7条第1項第18号によれば、共同経営・雇用等契約関係もしくは業務上の取引関係またはその他の関係を通じて他人が使用し、または使用を準備中である商標であることを知ってその商標と同一・類似の商標を同一・類似の商品に登録出願した商標は商標登録を受けることができない。

本件登録商標と先使用商標の類否など

本件登録商標は中央の「NaturehIke」の上段に図案、下段に「outdoors」が結合しており、大文字の英単語のみからなる先使用商標「NATUREHIKE」とは外観において差がある。しかし一般消費者は本件登録商標を「Naturehike」と認識・称呼する可能性が高いため、両商標の呼称は「ネイチャーハイク」で同一であり、両商標は「自然(nature)」と「長距離徒歩旅行(hike)」の意味を有する英単語が結合することによって「自然の中で行う長距離徒歩旅行」を想起させるため観念も同一である。したがって、本件登録商標と原告の先使用商標は外観の一部の差にもかかわらず、呼称と観念が同一である点で互いに類似する。また被告の本件登録商標の指定商品は「サンシェード、防風用テント、遮光用テント」などで、原告の先使用商標の使用商品である「テント、寝袋、サンシェード」などと類似する。

結論

被告は本件登録商標の出願頃である2015年4月頃より、中国のオンライン卸売・小売サイトを通じて原告製品のうち一部を約2年間で2,000点ほど輸入したと自ら認めており、本件登録商標を出願した頃に先使用商標が使用された商品は国内外で活発に取引されていて、国内外の消費者は原告が上記商品等の製造者であることを認識していたか、または認識することができたものと見られる。被告は2011年から2013年までの間に各先使用標章のうち一部と同一・類似の標章を数回にわたって国内で商標登録出願したものの、本件登録商標を除いてはいずれも登録が拒絶された点に照らし、本件登録商標の出願日頃、すでに原告が先使用商標を使用していることを知っていたものと見られる。このような事情等を総合すれば、被告は本件登録商標の出願当時、業務上の取引関係などを通じて原告が先使用商標を使用していることを知りながら、これと類似の商標を同一・類似の商品に出願して登録を受けたものと言えるため、本件登録商標は旧商標法第7条第1項第18号によって登録が無効とされなければならない。

専門家からのアドバイス

旧商標法第7条第1項第18号は、商標法が2014年6月11日法律第12751号として改正された当時に新設された規定で、その趣旨は共同経営関係、雇用関係、フランチャイズ契約などの契約関係にあった者が、相手側が商標出願をしないことに乗じて正当な権原なしに同じ商標を先出願した場合のように、商標登録出願過程で信義則に反する商標出願によって商標登録がなされることを防止するためのものである。これに関連し、本件は、特許法院が実際の事例において上記の規定を適用し不正に登録された商標に対して無効と判断したという点で意味がある。参考までに、現在施行中である商標法は第34条第1項第20号に同じ規定をおいている。

知的財産権法は属地主義に従うため、事業展開に先立ち関連国家での商標権を確保することが重要であるものの、現実的には商標権が確保できないことも多い。そのような場合に他人による商標登録があったときは、韓国では商標不登録事由として上記規定が導入されており、この規定は他人による不正の商標登録をより積極的に防ぐのに役立つであろう。ただし、「業務上の取引関係」がある場合などの一定の要件においてのみ適用可能な規定である点には留意する必要があろう。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

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