知財判例データベース 権利範囲確認審判の標章類否判断において、出所誤認・混同の判断の鍵となる場合には当事者の具体的な取引事情も併せて考慮できるとした事例

基本情報

区分
商標
判断主体
特許法院
当事者
原告 個人A vs 被告 個人B
事件番号
2018ホ1622
言い渡し日
2018年05月18日
事件の経過
破棄差戻し(2019年8月14日)特許法院 2019ホ6303(訴えの取下げ : 2019年11月13日)2019年11月13日確定

概要

権利範囲確認審判において、「確認対象標章 緑背景に白色で、薔薇のマークとその右にsobiaの文字が書かれている」が商標登録第1082620号「本件登録商標 白背景に緑色で、薔薇のマークとその下にSabooの文字が書かれている」の権利範囲に属さない旨の審決が下されたが、審決取消訴訟において特許法院は、商標権の権利範囲確認審判において登録商標と確認対象標章の類否はその外観、呼称及び観念を客観的・全体的・離隔的に観察して当該商品の取引で一般需要者が感じる直観的認識を基準にその商品の出所について誤認・混同を引き起こすおそれがあるかによって判断するものの、当該商品を巡る一般的な取引実情と商標の周知程度及び当該商品との関係などを総合的・全体的に考慮すべきであり、当該商品に係る当事者の具体的な取引事情を併せて考慮することができるとすると共に、確認対象標章が本件登録商標と共に使用される場合、一般需要者や取引者に商品の出所について誤認・混同を引き起こすおそれがあるため、その標章が類似すると見るべきであり、確認対象標章は、本件登録商標の権利範囲に属すると判断した。

事実関係

原告は、本件登録商標を出願するに先立ち、サブコリアという商号で石鹸製造業などを始めた。原告が本件登録商標を出願して登録を受けた後、製品流通を担当していた被告を代表者として株式会社サブコリアを設立した。その後、原告・被告間に争いが生じ、原告は被告に対して本件登録商標に関する使用権限を与えたことがなく、また、今後の被告との信頼関係を維持できない状態にまで至ったので、被告及び株式会社サブコリアに対し本件登録商標に関する使用行為を中断するよう通報した。その頃、被告は「花のマークと文字で構成された商標」及び「花のマーク」で構成された2件の商標出願をしたが、いずれも本件登録商標と類似するという理由で登録が拒絶された。

一方、本件審決当時、オンラインショッピングモールでは、被告が石鹸製品を販売すると共に、それをサブハンドメイドフルーツ石鹸、サブコリアの新たなブランドなどと紹介していた。また、同じ頃、一部の需要者はブログに「フルーツ石鹸の種類は非常に多いが、その中で私が紹介するのはハニーとグレープフルーツ。サブコリアの天然ハンドメイドフルーツ石鹸は、フルーツの香りと形が本物そっくり」という文章と共に写真を掲載しているが、その左側の石鹸には本件登録商標が、右側の石鹸には確認対象標章がそれぞれ表示されていた。

判決内容

関連法理

商標権侵害訴訟では当該商品に関する一般的・局所的取引実情に基づいて標章類否を判断する一方で、商標権の権利範囲確認審判及びその取消訴訟では当事者の具体的な取引事情を一切考慮することができないとすると、標章類否に関する判断が互いに一致しない結果が生じる可能性が十分にあり、これでは迅速な権利救済を図るという権利範囲確認審判制度の趣旨が生かされないことになってしまう。標章類否は最終的に取引者や一般需要者が商品の出所について誤認・混同するおそれがあるか否かを基準とするという点で判断するとき、商標権権利範囲確認審判で当事者の具体的な取引事情を一切考慮することができないとするのは、商標を巡る取引の現実とかけ離れた結論に至るようになり、ひいては権利範囲確認審判制度が実際の紛争とは相違するかたちで誤用・濫用されるのをそのまま放置する結果につながるおそれが大きい。権利範囲確認審判制度が依然として維持されている現在の状況では、上記のような権利救済の空白や制度の不正乱用を最大限防止する必要がある。ただし、商標権の権利範囲確認審判及びその取消訴訟において、標章類否を判断するとき、商標権侵害訴訟のように当該商品に関する一般的な取引実情以外に当事者の具体的な取引事情までこれに基づいて判断することを原則とするとまで見ることはできない。したがって、(商標権の権利範囲確認審判及びその取消訴訟で)当該商品を巡る一般的な取引実情と商標の周知程度及び当該商品との関係などを総合的・全体的に考慮することを原則とするものの、審決当時、既に当該商品に関する当事者の具体的な取引事情が形成されており、それが一般需要者に商品の出所に関する誤認・混同を引き起こす程度にまでは及ばない一時的なものでなく、そのような誤認・混同のおそれがあるかの判断の鍵になる場合には、これを考慮して標章類否を判断することができると見るのが妥当である。

確認対象標章と本件登録商標の類否

本件登録商標の文字部分はサブと呼称され、確認対象標章の文字部分はソビアまたはソビャと呼称されるものと見られる。両呼称において、第1音節と第2音節の初声がいずれも摩擦音「ㅅ(サの子音)」と唇音「ㅂ(ブの子音)」として同一であり、特に第1音節である「사(サ)」と「소(ソ)」はその調音位置や方法が非常に似ていて、全体的に類似の聴感を与える余地が大きい。さらに、本件登録商標と確認対象標章の文字部分の外観を詳察すると、いずれも5文字からなっており、そのうち第1文字と第3文字が共通し、第2文字と第5文字は離隔して見ると明確に区別され難いものであり、全体的に類似するという直観的認識が可能である。確認対象標章の図形部分は、中心から外郭へ多数の花びらが放射状に配置されてバラの花などのイメージを連想させる。本件登録商標の図形部分も、中心から外郭に向かって時計回りの螺旋状をなしながら同じイメージを連想させ得る。上記各図形部分を離隔して観察すると、多数の花びらが放射状に配置されるか時計回りの螺旋状をなすかなどの一部の差異がありはするが、全体的な構成とそれによる印象が非常に類似するという直観的認識を可能にする。

当該商品に関する取引実情

原告の使用標章は、本件登録商標と対比すると図形部分の位置などで多少差があるが、このような変形によって、取引通念上、本件登録商標と同一性を喪失するに至ったとはいえないものであって、本件登録商標と同一に見ることができる形態である。被告は多様なフルーツ形状の人体用石鹸に確認対象標章を使用したという点で原告の使用態様と共通し、その多様なフルーツ形状の具体的な形状においても原告・被告製品はほぼ差が見られない。被告製品は帯で包まれているという点で原告製品と共通しており、その帯の上下枠部分が黒のラインになっていて、その内側の緑色の面に3列の英文字が白の大文字で配列されている点でも原告・被告製品に差がない。実際に人体用石鹸という当該商品に関する取引社会でも、本件登録商標やその呼称と確認対象標章が明確な区別なしに1つの出所として認識されている事例が見られる実情である。

結論

確認対象標章と本件登録商標が共に使用される場合、一般需要者や取引者に商品出所の誤認・混同を引き起こすおそれがあるといえるので、確認対象標章と本件登録商標はその標章が類似するといえる。確認対象標章の使用商品は、本件登録商標の指定商品のうち人体用石鹸と同一である。したがって、確認対象標章は本件登録商標の権利範囲に属すると見るのが妥当である。

専門家からのアドバイス

本件は、韓国の権利範囲確認審判における標章の類比判断方法について判示したものである。特許審判院が、確認対象標章は本件登録商標と標章が類似しないと判断したのに対して、特許法院は、審決当時、当事者の具体的な取引事情が形成されていて、それが商品の出所に関する誤認・混同のおそれがあるかの判断の鍵になる場合には、これを考慮して標章類否を判断することができると見るのが妥当であるとすると共に、両標章は類似すると判断したことに本判決の意味があるといえよう。

韓国の権利範囲確認審判での判断は、商標権侵害訴訟や登録無効審判に羈束力を及ぼさないといわれるが、確定審決で認められた事実は特別な事情がない限り有力な証拠資料になり得るものであり、また、権利範囲確認審判制度は確認対象標章が登録商標権を侵害するか、または確認対象標章に関する権利が登録商標権と抵触するかを予め確認するようにすることによって紛争を予防し、登録商標権侵害に対する迅速な救済を図るところにその趣旨があるものである。こうした点に鑑みれば、侵害訴訟に先立って権利範囲確認審判を通じた類否に関する判断を予め受けた後に、後続措置を検討することも効率的な紛争対応方法であるといえる。

なお、本件は被告が上告して大法院に係属中であるところ、大法院で特許法院の判断を維持するか見守る必要がある。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

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