知財判例データベース 建築物模型に著作物性を認めるとともに、このような模型の模倣行為が著作権を侵害したものであるとした事例

基本情報

区分
著作権
判断主体
大法院(注1)
当事者
原告、被上告人株式会社A vs 被告、上告人B, C, D, E及びF株式会社
事件番号
2016ダ227625
言い渡し日
2018年05月15日
事件の経過
上告棄却、確定

概要

建築物模型に著作物作成者の創造的個性があらわれているか否かについて、第一審法院と第二審法院では異なる判決が出されたが、大法院は「実際に存在する建築物を縮小した模型が、実際の建築物を忠実に模倣すると共に、これを単に縮小したものに過ぎなかったり、ささいな変形のみを加えた場合には創作性を認め難いが、その程度を超える変形を加えて実際の建築物と区別される特徴や個性が示されたのであれば、創作性を認めて著作物として保護を受けることができる」とし、類似性の対比方法については「建築物を縮小した模型著作物と対比対象になる著作物との間に実質的な類似性があるかを判断するときにも、原建築物の創作的な表現ではなく、原建築物を模型の形態で具現する過程で新たに付加された創作的な表現に該当する部分のみをもって対比すべきである。」として第二審判決を支持し、被告の著作権侵害を認めた。

事実関係

原告は、被告が製造・販売する崇礼門(南大門)の模型が、原告の思想や感情が創作性をもって具現され著作権法の保護を受ける原告の光化門模型の表現形式と実質的に類似し、原告の著作財産権のうち、複製権または2次的著作物作成権を侵害するという理由で侵害中止と損害賠償を請求した。これに対し被告は、原告の光化門模型は創作性がなく、原告の光化門模型と被告の崇礼門模型との間に実質的類似性が存在しないので、著作権侵害にならないと主張した。

第一審法院は、原告と被告の立体パズルは、芸術性よりは特別な機能を主な目的とする機能的著作物に該当し、互いに類似する部分は、同一または同じ時代の類似する建築様式が反映された歴史的建造物をウッドクラフトパズルの組み立てという方式的限界の中で、最大限実際のものと似せるように具現するためのもので、その機能的著作物の最終立体物は誰がしても同じか類似せざるを得ず、著作物作成者の創造的個性があらわれているといえず、さらに原告の立体パズルに作成者の創造的個性があらわれている表現があるとしても、原告の立体パズルの表現方式が被告のものと実質的に類似するとも見難いとしながら原告の請求を棄却した(ソウル西部地方法院2015. 2. 12.言渡2012ガ合32560判決)。

一方、第ニ審法院は、原告の光化門模型の完成した外観は実際の光化門を縮小しただけにとどまらず、これを超えて相当な水準の変更があったことを認めることができるので、その表現の創作性を認めることができ、保護を受ける著作物に該当するとして、原告の光化門模型と被告の崇礼門模型を比較すると、城壁と屋根の比率、屋根の中央を折って表現したこと、正面及び側面から見た屋根の傾斜、屋根の色、軒下の構造物の省略及び2階の楼閣窓の単純化、門番の大きさ及び中門の形状など原告の光化門模型の各完成した外観に見られる創作的表現が被告の崇礼門模型でもそのまま表されているため、実質的類似性が認められる。したがって、被告の崇礼門模型の製作・販売行為は原告の光化門模型に対する複製権または2次的著作物作成権等、著作財産権を侵害する行為に該当するとして原告敗訴部分を取り消した(ソウル高等法院2016. 5. 12.言渡2015ナ2015274判決)。

判決内容

実際に存在する建築物を縮小した模型も、実際の建築物を縮小して模型の形態で具現する過程で建築物の形状、模様、比率、色彩などに関する変形が可能であり、その変形の程度に応じて実際の建築物と区別される特徴や個性があらわれる。したがって、実際に存在する建築物を縮小した模型が実際の建築物を忠実に模倣してこれを単に縮小したものに過ぎなかったり、ささいな変形のみを加えた場合には、創作性を認め難いが、その程度を超える変形を加えて実際の建築物と区別される特徴や個性が見られるものであれば、創作性を認めることができ、著作物として保護を受けることができる。

原審は、原告の光化門模型は実際の光化門を縮小して模型の形態で具現する過程で実際の光化門をそのまま縮小したものでなく、屋根の城壁に対する比率、高さに対する強調、屋根の二段構造、軒の傾斜度、屋根の色、2階の楼閣窓及び軒下の構造物の単純化、門番の大きさ、中門の形状など種々の部分にわたりささいな程度を超える水準の変形を加えたと判断し、これは著作者の精神的労力の所産としての特徴や個性があらわれる表現を用いたものといえるので、創作性を認めることができるという趣旨で判断したところ、原審の上記のような判断は正当である。

著作権の侵害の成否を判断するために両著作物間に実質的な類似性があるかを判断するときには、創作的な表現形式に該当することのみをもって対比しなければならない。したがって、建築物を縮小した模型著作物と対比の対象になる著作物との間に実質的な類似性があるかを判断するときにも、原建築物の創作的な表現ではなく、原建築物を模型の形態で具現する過程で新たに付加された創作的な表現に該当する部分のみをもって対比すべきである。原審は、原告の光化門模型に見られる創作的な表現が被告らの崇礼門模型でもそのまま表されているので、原告の光化門模型と被告らの崇礼門模型との間には実質的な類似性が認められるという趣旨で判断したところ、原審の上記のような判断は正当である。

著作権法が保護する複製権や2次的著作物作成権の侵害が成立するためには、対比対象になる著作物が侵害されたと主張する既存の著作物に基づいて作成されたという点が認められなければならない。このような依拠関係は、既存の著作物に対する接近の可能性及び対象著作物と既存の著作物との間の類似性が認められれば、推定することができる。原審は、被告1,被告2,被告3,被告4は原告の社員として原告の光化門模型を開発または販売していたものの、退職して被告クラッカープラス株式会社を設立して被告らの崇礼門模型を製作した点に照らして原告の光化門模型に対する接近の可能性が認められ、被告らの崇礼門模型と原告の光化門模型との間の類似性も認められるので、被告らの崇礼門模型は原告の光化門模型に基づいて作成されたことが認められるという趣旨で判断したところ、原審の上記のような判断は正当である。

専門家からのアドバイス

大法院が、実際に存在する建築物を縮小した模型もその変形の程度に応じて実際の建築物と区別される特徴や個性があらわれ、このような創作性が認められる建築物模型の場合には、著作物として保護を受けられることを確認した点と、建築物を縮小した模型著作物と対比対象になる著作物との間に実質的な類似性があるかを判断するときにも、原建築物の創作的な表現ではなく、原建築物を模型の形態で具現する過程で新たに付加された創作的な表現にあたる部分のみをもって対比すべきであると再確認した点で本判決の意味があるといえる。

一方、日本の著作権法でも模型を図形の著作物として規定している点で、韓国の著作権法と共通する(注2) 。本事例のような建築物模型については、その著作物としての類似性判断において、原建築物とは区別される創作的表現がされた付加的部分のみを互いに対比して判断するという点で、著作物としての保護を受けることができる可能性があり本判例を参考にすることができるであろう。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

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