知財判例データベース 著名な大企業の名称を含んだ商標でも、企業間に関係がない場合には、営業の誤認混同のおそれがないと言えるか

基本情報

区分
商標
判断主体
特許法院
当事者
原告 株式会社フリードライフ vs. 被告 現代ドリームライフ相助株式会社
事件番号
2017ホ3171
言い渡し日
2017年11月02日
事件の経過
上告審係属中

概要

相助企業(韓国における葬儀会社のこと)である原告が「葬儀業等」を指定サービス業として登録を受けた商標「現代総合相助のハングル文字」が、韓国の著名な大企業の商号かつ商標である「현대(現代のハングル)」などとの関係で旧商標法第7条第1項第10号(注1)に該当するかどうかが問題になった事案において、特許法院は、大企業である現代の事業範囲及び「葬儀業」の性質、営業形態に照らし、原告商標が指定サービス業に使用されても先使用標章と誤認・混同を引き起こすおそれがないと判断した。

事実関係

1946年に設立された現代自動車工業社と現代土建社を母体にした旧現代グループは、2000年には国内の大規模企業集団の中で1位を占める等、韓国の代表的なグループに該当し、1999年から2002年まで系列分離作業を進めた。現在は新現代グループ、現代自動車グループ、現代産業開発グループ、現代百貨店グループ、現代重工業グループ、現代海上火災保険グループに分離された。上記6つのグループを総称して「汎現代グループ」と言う。 先使用標章である「現代」(以下、先使用標章とする)は、6つの特定大規模企業集団の集合体である汎現代グループの略称で、汎現代グループの主要系列会社は「現代」という標章を1978年から登録して商号及び商標として使用してきている。 原告は汎現代グループに属さない会社であり、「葬儀業」などを指定サービス業として原告商標「現代総合相助」(以下、原告商標とする)について対して2006年2月15日に登録を受けた。これに対して被告(注2)は、汎現代グループの先使用標章と出所や営業に関する誤認・混同を引き起こすおそれがあるので、旧商標法第7条第1項第10号に該当するとして特許審判院に無効審判を請求したところ、特許審判院はこれを認容したため、原告は特許法院に不服を申し立て審決の取消を求めた。

判決内容

商品または営業の出所の誤認・混同の法理

需要者間に顕著に認識されている他人の商品や営業と混同を引き起こすおそれがあるかどうかは、両商標の構成、商品または営業の類似ないし密接性、先使用商標の権利者の事業多角化の程度などを総合的に考慮し、当該商標の需要者がその商標から他人の著名な商標やその商品または営業などを容易に連想し、出所の混同を引き起こさせるおそれがある場合を意味する。
一つの企業が種々の産業分野にわたり異種商品を生産販売するのが一般化した現代の産業構造のもとでは、著名商標と類似の商標を著名商標の指定商品ではない他の商品に使用するとしても、需要者としては著名商標権者やそれと特殊関係にある者によってその商品が生産販売されると認識して商品の出所や営業に関する誤認・混同を引き起こすおそれがあるが、商品の性質、営業の形態、その他取引事情などに照らし、商品または営業が著名商標の著名度とその指定商品または営業が有する名声に便乗して需要者を誘引することができる程度に互いに競業関係ないし経済的有縁関係があると言い難い場合には、商品の出所や営業の誤認・混同を引き起こすおそれがないので、類似商品の登録、使用を差し止めるものではない。

両サービスマーク間の誤認・混同如何

1)先使用標章の著名度

先使用標章は汎現代グループ系列社が長期間使用してきた商標であって、原告商標出願時に著名性を獲得していた(この点に対しては当事者間で争いがない)。

2)営業の出所に関する需要者の誤認・混同如何

原告商標「現代総合相助のハングル文字」は「現代」と慶弔事関連サービス業の業種を意味する「総合相助」が結合した標章であって、要部が「現代」である点でその構成やモチーフ、観念等で先使用標章が連想され、先使用標章と連関性が認められる。
しかし、
  1. 汎現代グループが保有している先登録商標では原告商標の指定サービス業である「葬儀業」などを指定していない点
  2. 汎現代グループは自動車、船舶、建設、百貨店、金融など国内産業の基礎及び中心となる分野の業種と関連した事業のみを営んでいるだけで、これまで「葬儀業」などと関連した事業は営んでいない点
  3. 汎現代グループが今後「葬儀業」に進出する予定であるという点を認める証拠がなく、むしろ原告商標の指定サービス業である「葬儀業」などの相助業は企業イメージを重視する大企業ではその取扱ないし進出を躊躇する業種であると言う余地があり、他の大企業でも相助業に進出した例がないという取引実情に照らし、汎現代グループが「葬儀業」に進出する可能性が希薄である点
などを総合的に考慮すると、原告商標をその指定サービス業である「葬儀業」など相助業に使用するとしても、需要者に先使用標章の営業と誤認・混同を引き起こさせるおそれはないと言える。

3)結論

原告商標が先使用標章の著名度と名声に便乗して需要者を誘引する程度に互いに競業関係ないし経済的有縁関係があると言えない。従って、原告商標は、その指定サービス業である「葬儀業」などに使用されるとしても、先使用標章「現代」が使用されるサービス業や営業と混同を引き起こすおそれがないので、旧商標法第7条第1項第10号に該当しない。

専門家からのアドバイス

上記判決は、多様な事業を営む大企業の名称として著名な標章を含む商標であるとしても、大企業の業種範囲及び取引実情を考慮し、サービス業間の競業関係ないし経済的有縁関係が存在する可能性がないとし、誤認・混同の可能性を否定した事例である。
本件とは別のケースであるが、「現代」が含まれた商標である現代スイス相互貯蓄銀行の商標「」を第三者が相互貯蓄銀行業に登録した事案において特許法院は、(1)大規模企業集団中で相互貯蓄銀行業に進出した事例がある点、(2)汎現代グループが金融業に進出した事情がある中で、相互貯蓄銀行業も金融業の一種である点に照らしてみると、需要者が誤認・混同のおそれがあると判断した(特許法院2013年5月30日付言渡2012ホ1330判決)。
このように法院は、事業範囲が広範囲な大企業の商標を第三者が出願した場合であるとしても、実際の事業範囲、今後の進出の可能性、需要者の該当企業に対する認識などを考慮して商品またはサービス業間の経済的有縁関係を判断し、誤認・混同の可能性を判断していることが分かる。
また、第三者が大企業の名称が含まれた商標を出願する場合以外にも、韓国では大企業集団が系列関係が変更された後も各系列社別に大企業のグループ名を継続して商標として使用または出願することにより、消費者の誤認・混同を引き起こす等、系列会社の間でも内部的な商標権紛争が起こる場合がしばしばある。これについて特許庁は、大企業の名称を共有する商標は登録を不許可とし、同じグループ系列社でも法人格が異なれば他人として審査する内容などを含んだ『大企業商標審査指針』を発表しており、大企業のグループ名が入った商標に対する審査方針を確立しつつある。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

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