知財判例データベース 正当な理由なく放送番組送信の差止めを求める請求が著作権乱用に該当するとして著作権者の請求を棄却した事例
基本情報
- 区分
- 著作権
- 判断主体
- 水原地方法院ソンナム地院
- 当事者
- 原告 v 被告
- 事件番号
- 2012カ合8921判決
- 言い渡し日
- 2013年12月10日
- 事件の経過
- 請求棄却
概要
410
原告の著作権者の総合有線放送局「エービーアンド(ABN)アルム放送」の各チャンネルにおいて原告らの各放送番組を送信してはならないという請求が著作権乱用に該当すると見なし、原告の請求を全て棄却した事例
事実関係
原告は、いわゆる「PP(Program Provider)」として番組を制作・購入しそれを視聴者に提供する放送チャンネル使用事業者として登録されており、一方、被告は、いわゆる「SO(System Operator)」として地方区域における地域事業権を付与され、総合有線放送局を管理・運営する総合有線放送事業者である。原告は、2006年1月1日から2011年12月31日まで、被告との間で番組に関する著作物の利用契約を締結し、被告において原告の番組を当該地方区域において放送してきたが、契約満了日後、原告は、契約の更新を拒絶し、番組の提供を拒否・中断した。これに対し、被告は、原告らが送出する放送信号を勝手に受信して当該地方区域の視聴者約100万人に送信し続けたため、原告は、本事件の著作権侵害禁止の訴を提起した。
これに対し被告は、原告の番組の供給拒絶行為が著作権の乱用に該当するため、原告の請求が棄却されるべきであると抗弁していた。
判決内容
法院は、まず請求原因について、著作権者である原告が「2011年12月31日」を契約満了日とし、著作物利用契約に関する更新拒絶の意思の表示をしたため、特別な事情がない限り、被告は、原告に対し、2012年1月1日以降から、当該著作物を利用、送信しない不作為義務を負担すると判示した。
一方、裁判所は、原告と被告は、ともに放送業事業者の地位にあるため、放送法上の義務を遵守しなければならないところ、放送事業者の間には、正当な事由なしに放送番組の提供を拒否・中断してはならない義務があるにもかかわらず、原告が上記義務に違反したものであり、原告の行為は、被告が総合有線放送事業者として有しているチャンネル編成権の行使に干渉し、事業者に不当な圧力をかける意図から起因したものであるとし、これは、公正取引法上の「市場支配的な地位の乱用」に該当するだけでなく、著作権の本質に反した不当契約、ないしトラスト行為に該当する旨を指摘した。そして、結局、本件訴えについて、正当な理由なく放送法に違反する行為を行ったものであり、著作権乱用に該当し、許容されないという被告の抗弁を認め、原告の請求を棄却した。
専門家からのアドバイス
韓国では、2010年公正取引委員会が知的財産権乱用に対する規制に対するガイドラインを発表したことを機に、著作権の行使が公正取引法に違反した場合、それを著作権乱用として理論構成し、著作権の行使を制限できるかどうかについての議論が進められており、例えば、メガスタディー判決(ソウル中央地方法院2011年9月15日宣告2011カ合683判決)をはじめ、下級審ではあるが、著作権の権利濫用に関する事例がいくつか存在する。その中で、この事件は、やはり下級審の判決ではあるものの、緻密に著作権乱用法理を検討したものとして注目をされるものである。
この判決は、現在、ソウル高等法院に控訴され係留中にあるため、今後の控訴審の判断を見守る必要があるが、このように、著作権の行使が権利濫用に問われる例が少なくなく、著作権の権利行使に当たっては、安易に行使せず、トラスト行為やその他法令との関係からしっかりと検討した上で行う必要がある点に注意すべきである。
ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム
ジェトロ・ソウル事務所 知的財産チームは、韓国の知的財産に関する各種研究、情報の収集・分析・提供、関係者に対する助言や相談、広報啓発活動、取り締まりの支援などを行っています。各種問い合わせ、相談、訪問をご希望の方はご連絡ください。
担当者:大塚、李(イ)、半田(いずれも日本語可)
E-mail:kos-jetroipr@jetro.go.jp
Tel :+82-2-3210-0195