知財判例データベース 特許請求の範囲の解釈において、明示的に記載された技術的特徴に加えて、対象物の特定のための記載部分も考慮しなければならないと判断した事例

基本情報

区分
特許
判断主体
特許法院
当事者
キーフォンエスエイアールエル(原告)v. 株式会社テヨンメディカル(被告)
事件番号
2009ホ1965
言い渡し日
2010年03月19日
事件の経過
上告

概要

270

特許請求の範囲で請求する対象物を特定するための記載部分は、それ自体は独立した構成要素でないとしても、発明の構成を具体的に限定する役割を持っている。従って、発明の構成の具体的意味を解釈するときには、その特許請求の範囲に明示的に記載された技術的特徴部分に加えて、対象物を特定するための記載部分の機能を果たすためには当然に有しているはずと当業者が自明に認識できる技術的特徴も内在されているものと見なければならない。

事実関係

被告は「海綿骨に空洞を形成する道具」に関する原告の特許(以下「本件特許発明」とする)に対し登録無効審判を請求し、特許審判院は進歩性がないという理由で被告の請求を認容する審決を下した。その後、原告は、本件特許発明には新規性及び進歩性があると主張して、特許審判院の審決に対する審決取消訴訟を特許法院に提起した。

判決内容

法院は、本件特許発明の請求項1は「近い端部、遠い端部、第1ルーメン及び第2ルーメンを有するカテーテルチューブ(構成(1))と、上記のカテーテルチューブと遠い端部で支持され、先端部を有し、上記カテーテルチューブの第1ルーメンと疎通する膨脹可能な構造(構成(2))と、上記カテーテルチューブの第2ルーメン内に抜き取り可能に挿入される探針(構成(3))を含み、上記第2ルーメンは上記カテーテルチューブの第1ルーメンを通して上記膨脹可能な構造の先端部に延長(構成(4))される、海綿骨に空洞を形成する道具」と記載されているところ、上記のような特許請求の範囲の記載自体から本件請求項1の発明は「海綿骨に空洞を形成する」道具として上記の構成(1)~(4)を含むものであると解釈されるため、上記「海綿骨に空洞を形成する」という記載は、それ自体は独立した構成要素ではないとしても、本件請求項1の発明が特許請求の範囲で請求する対象物を特定するためのものであって、上記構成(1)~(4)を具体的に限定する役割を持っている。従って、上記構成(1)~(4)の具体的な意味を解釈するときにはその特許請求の範囲に明示的に記載された技術的特徴に加えて「海綿骨に空洞を形成する」機能を果たすために当然に有しているはずと当業者が自明に認識できる技術的特徴も内在されていると見なければならないと判示した。

このような法理によって法院は、「海綿骨に空洞を形成する」という記載は公知となった道具の使用用途を限定したものに過ぎず発明の構成と認められ得ないため新規性と進歩性の判断時においては上記の記載はないものと見なすべきであるという被告の主張を排斥し、本件特許発明に新規性と進歩性が認められるとして原告の請求を認容した。

専門家からのアドバイス

特許の有効性が問題となる場合、発明の各構成と全体としての構成を比較対象発明と比べることが必要であるところ、実務上発明の構成をどのように分類するかについて、たびたび当事者間で意見が分かれる。即ち、特許権者は発明の構成をより具体的に特定して比較対象発明との差別性を強調しようとする反面、無効を主張する者は発明の構成を最大限単純化、抽象化して比較対象発明と同一、類似であると主張する傾向がある。

本件においても、物の発明において発明の対象を限定する記載(おいて書きの場合は~においての前段部分となろう)に関して、特許権者はこの部分も発明の構成と主張したが、被告はこれを単なる用途の限定などに過ぎないとして発明の構成でないという主張をした。具体的に言うと、本件で従来技術として提示された同種技術構成は、血管内に挿通される道具であるため探針及びチューブが剛性を有さず自由に変形するものであるのに対し、本件発明は、海綿骨内を突き進んで空洞を形成するため探針は剛性を有することが必須なものであった。すなわち「海綿骨に空洞を形成する」という記載から「探針は剛性を有する」ことが当然であると特許権者は主張したのである。

これに対して法院は「海綿骨に空洞を形成する」のように特許請求の範囲で請求する対象物を特定する記載は、たとえ発明の独立した構成のように見えないとしても、これは発明の構成を具体的に限定するものであるから、発明の構成を解釈するときには「海綿骨に空洞を形成する」機能を奏するためには当然に有していると当業者が自明に認識できる技術的特徴も考慮しなければならないと説示し、発明の進歩性を肯定した。大法院の最終的な判断は残っているものの、本件判決は特許権者にとっては有利な判決として類似の事例にも積極的に活用できるものと思われる。

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