知的財産に関する情報(The Daily NNA【韓国版】より)韓国での特許紛争にどう対応すべきか?

2016年12月14日

The Daily NNA【韓国版】掲載(File No.99)
特許法人ムハン 代表弁理士 千 成鎮(チョン・ソンジン)

最近、特許紛争に日本企業が巻き込まれる場合が増えてきているようです。韓国での特許紛争は日本と類似している面も多いが、一部は異なっているため、関連手続きと制度を知っておくと、特許紛争が発生した際に効果的に対処できると考えられます。本稿では、韓国での特許紛争の種類と対応方法、そして特許紛争に関する最近の法律改正などについて紹介します。

1.韓国での特許紛争の種類

韓国での特許権を巡る紛争には、特許権の侵害とその損害賠償に関する訴訟として、特許侵害差止請求訴訟、損害賠償請求訴訟及びその仮処分訴訟があり、関連審判手続きとして、権利範囲確認審判(積極的、消極的)と特許無効審判がある。特許侵害差止請求訴訟が始まると、権利範囲確認審判と特許無効審判が並行する場合が多いが、該当審判の結果(審決)次第で関連訴訟において有利にも不利にも作用し得るので、特許侵害訴訟などが提起された場合、関連審判手続きを適切に活用することが重要である。

2.権利範囲確認審判と特許無効審判

最近は侵害訴訟第一審法院において、関連審判手続きでの結果を待たずに、侵害当否及び無効当否を判断する事例が以前に比べ増えてはいるが、訴訟の進行上、まだ関連審判手続きでの結果を参考にするケースが多く、関連審判の手続きが終結するまで訴訟の審理を事実上中断することもある。
権利範囲確認審判は侵害が疑われる物品(方法)が特許権の権利範囲に属しているか否かに関する判断を特許審判院に要請するものであり、特許審判院の審決に不服する場合、特許法院、大法院にまで訴えて最終判断を受ける制度である。特許無効審判は、よく知られている通り、関連特許の無効を別途審判手続きを通じて争う制度で、同じように特許法院、大法院までの不服手続きが設けられている。

3.特許紛争の段階

韓国で特許権を保有している特許権者であれば、侵害が疑われる者に対し、段階的に以下の手続きを考慮することができる。
一つ目に、警告状を発送できる。警告状を発送することで、相手方の故意を明確にし、そうすることで刑事告訴を容易にすることができる。但し、警告状を直接的に侵害が疑われる者に対して発送せず、侵害が疑われる者の取引先などに発送する場合は、逆に特許権者が損害賠償の責任を負われる場合もあるので、注意が必要である。
二つ目に、侵害差止仮処分訴訟を提起することができる。特許権者が現在該当特許を実施していて、直ちに相手方の特許の実施を中止させないと特許権者の損害が莫大になると予想される場合は、侵害差止仮処分訴訟を提起し、侵害が疑われる者の特許侵害行為を迅速に中止させることができる。但し、韓国法院は一般的に侵害差止仮処分をよく受け入れない傾向があり(2009年から2013年まで仮処分申請の認容率は33%だという統計もある)、特許権者が仮処分訴訟で勝訴したとしても、本案訴訟(侵害差止請求訴訟)で敗訴する場合は逆に相手方から損害賠償の責任を負わせられることもあるので、仮処分訴訟の提起は慎重に考えることが勧められる。
三つ目に、侵害差止請求訴訟(本案)を提起することができる。韓国特許法には無効の抗弁に関する規定は存在しないが、判例によって侵害差止訴訟で被告は、原告の特許が無効であり、従って侵害は存在しないという趣旨の主張(無効の抗弁)ができて、法院はその主張について判断できる。実際にも特許侵害訴訟が提起されると、相手方は無効の抗弁を提起(特許無効審判も並行)するのが一般的である。これに対し特許権者は、権利範囲確認審判(積極的)で対応しながら、無効の攻撃に積極的に対処できる。

4.特許紛争に係る法律の改正

(1)特許侵害事件の控訴審の特許法院専属管轄

以前には特許権などに関する侵害訴訟の第一審及び第二審の手続きはいずれも一般民事法院で行われたが、2016年1月1日から第一審が全国5つの地方法院の、第二審が特許法院のそれぞれ専属管轄にて行われる。侵害訴訟が提起された場合、関連審判事件も一緒に並行されることが一般的で、終局には審決取消訴訟と特許侵害訴訟が並行される場合も多いが、今回の改正で特許法院の専門性と判決の一貫性がより向上できるものと期待される。

(2)侵害訴訟時の資料提出義務の強化

特許権などの侵害訴訟で特許権者が侵害及び損害賠償額を立証するために要請する資料について相手方が営業秘密だという理由で提出を拒否する場合が多かったが、2016年6月30日からそのような提出拒否が難しくなった。なお、相手方が資料提出命令に応じない場合、資料の記載に関する特許権者の主張を真実と認められるようになった。今回の改正により、特許権者の侵害・損害賠償額の立証がより容易になり、それに伴って損害賠償額も増額できると期待される。

今月の解説者

特許法人ムハン パートナー弁理士
金世元(キム・セウォン)
専門分野電気・電子・ITソウル大学校電気工学科卒業。
(監修:日本貿易振興機構(ジェトロ)ソウル事務所 副所長 笹野 秀生)

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本記事はジェトロが執筆あるいは監修し、The Daily NNA【韓国版】に掲載されたもので、株式会社エヌ・エヌ・エーより掲載許諾をとっています。

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