知的財産に関する情報(The Daily NNA【韓国版】より)2025年度韓国特許庁予算から見る、韓国における技術行政動向
2025年01月08日
The Daily NNA【韓国版】掲載(File No.196)
ジェトロ・ソウル 副所長 大塚 裕一(特許庁出向者)
2024年12月16日に、韓国特許庁が2025年度特許庁予算について公表を行いました。国内のみならず、世界的なビジネス展開においても、知的財産権が必須となっています。また、知的財産権に関する情報は、ビジネス戦略策定における非常に有用なビッグデータとして活用可能です。2025年の韓国特許庁予算はこれらの観点を踏まえて前年度より増額で確定されたと発表されました。以下詳細について解説を行います。
1.全体概要
韓国特許庁の予算は、2024年度が7,017億ウォンであったところ、2025年度は 7,058億ウォンとなり、41億ウォンの増額となりました。この内訳において、知的財産の創出・保護・活用などに投資される主要事業費は2024年度より6億ウォン増加の3,653億ウォンとなりました。
2025年度の集中投資分野としては、人工知能(AI)基盤の高品質審査サービスの提供、特許ビッグデータ活用の強化、知的財産金融の活性化および創業・成長支援、輸出企業の知的財産権紛争対応能力の強化などが挙げられています。
2.2025年度の集中投資分野
2.1.AI基盤の高品質審査サービスの提供
韓国特許庁は特許・商標・意匠等の審査業務を支援するために、「AI活用特許行政革新ロードマップ(2023年~2027年)」を策定し、LGのAI研究院と共に特許行政に特化した大規模言語モデル(LLM)を構築しています。産業財産権の出願件数が増加傾向にあり、膨大な情報が累積され、審査業務への負担が高まっているため、AIを活用してこの負担を減らすための試みとなります。本件に関連して、「AI基盤の審査支援システム用学習データの構築」という費目で、28億ウォンが新規予算として確定されました。
2.2.特許ビッグデータ活用の強化
特許や商標といった産業財産権に関する情報は、さまざまな分析を行うことにより、ビジネス戦略策定が可能となり、現在、世界的にその研究が行われています。特許情報を組み合わせることにより新たな技術開発が可能となったり、商標情報を分析することによって、現在需要が高まっているビジネス分野が把握できたり、さまざまな活用シーンが想定されています。本件に関連して、「国家R&D特許動向の深層分析」という費目で、44億ウォンが新規予算として、「IP R&D 戦略支援」の387億ウォンが前年度比で19億ウォンの増額予算として、「特許データ基盤の経済安全保障システム構築」の32億ウォンが新規予算として確定されました。
2.3.知的財産金融の活性化および創業・成長支援
2024年8月時点で、韓国における知的財産(IP)金融の規模は10兆ウォンを突破したと発表されています。企業が保有する特許などの知財を活用して担保融資・保証・投資により資金を調達することが可能となる施策であり、中小企業やスタートアップなどもこの制度により、資金調達が容易になったとの報告があります。本件に関連して、「IP価値評価支援」が前年度比で18億ウォンの増額予算として、「IP活用創業・成長支援」が前年度比で20億ウォンの増額予算として確定されました。
2.4.輸出企業の知的財産権紛争対応能力の強化
従前の模倣品の流通経路は、店頭での販売(オフライン)が主流であったところ、昨今は越境ECサイトを通じて個人が少数の物品を購入する事例が増加しています。また世界的にKコンテンツ等の韓国ブランドの人気が高まっており、これらの保護も必要となっています。本件に関連して、「輸出企業のIPリスク対応力強化」という費目で、26億ウォンが新規予算として、「AI基盤の偽造品取り締まり」という費目で、7億ウォンが新規予算として、「K-ブランド紛争対応支援」が前年度比で7億ウォンの増額予算として確定されました。
まとめ
韓国において、特許及び商標の審査期間が増大しており、結果が得られるまで1年以上が必要となっています。迅速なビジネスを行うにあたっては審査期間の短縮が必要であり、このためにAIを活用した審査に期待が高まっています。また、知的財産に関する情報の活用は、新たなビジネス戦略策定に、これまでにないインパクトを与える可能性が高まっています。こちらもAIがカギと言われています。また、中小・スタートアップにも資金供給が容易となる知財金融もニーズが増大しています。輸出を重要視する韓国企業に対する知財面の支援も必要性が高まっています。これらを総合した2025年度予算の結果が今回の発表から見て取れます。
今月の解説者
日本貿易振興機構(ジェトロ)ソウル事務所
副所長 大塚 裕一(日本国特許庁知財アタッシェ)
2002年日本国特許庁入庁後、特許審査官・審判官として審査・審判実務や管理職業務に従事。また特許庁 総務課・調整課・審判課での課長補佐、英国ケンブリッジ大学客員研究員、(国)山口大学大学院技術経営研究科准教授、(独)INPIT知財人材部長等を経て現職。

本記事はジェトロが執筆あるいは監修し、The Daily NNA【韓国版】に掲載されたもので、株式会社エヌ・エヌ・エーより掲載許諾をとっています。
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