知的財産に関する情報(The Daily NNA【韓国版】より)海外特許出願時における注意事項

2016年03月09日

The Daily NNA【韓国版】掲載(File No.90)
特許法人シンテヤン(ソウル事務所) 代表弁理士 劉炳玉(ユ・ビョンオク)

韓国で特許権の権利行使をしようとする場合には、自国(日本)の他に韓国にも特許出願(海外出願)をしなければならない。韓国に出願をしないということは、韓国では権利行使を放棄するという意味になるのである。1日あれば世界中どこでも行ける時代に住んでいる私たちにとって、海外出願はもはや必須事項になっている。本稿では海外に出願しようとするときの注意事項を紹介する。

1.各国特許独立の原則

1883年3月20日にパリで締結された「工業所有権の保護に関するパリ条約」では、第4条の2で各国特許の独立原則を規定している。特許独立の原則とは、1国で特許を受けた者は、その国の領域内でのみ特許権の効力を主張することができ、他の同盟国ではその特許権の効力を主張することができない原則をいう。この原則により、各国で特許権を行使しようとする場合には、各国でそれぞれ特許出願を行う必要がある。

2.優先権

海外出願をするときには、一つ注意すべきものがある。それは、海外出願ができる期間(国内基礎出願から1年以内)が定められているということだ。この期間内に優先権を主張しつつ出願すると、他国においても国内基礎出願と同じ日に出願したのと同じ効果を得ることができる。しかし、この期間を経過して出願すると、海外出願が様々な理由で拒絶される可能性がある。この優先権についても、上記パリ条約の第4条で定められているものである。

3.優先審査制度

また、もう一つの問題がある。多くの場合、自国内の基礎出願日から1年間内に特許庁の審査が完了しないということだ(一般審査の場合、約20ヵ月所要)。そのため、出願人は国内出願の登録の可否も分からず、海外出願を決めなければならないが、これは簡単な問題ではない。なぜなら1国当たりの海外出願経費が500万ウォン(約50万円)以上かかるが、登録に対する自信もなく、その高い経費を支出することはリスクがあるためだ。このような場合には、自国内の優先審査制度を利用することを勧める。優先審査では、およそ6ヵ月内に審査が完了する。特許登録が早くできるので、国内における権利行使も早くできるだけでなく、海外出願をするときも遥かに安心できる(もちろん、海外特許庁が自国特許庁の結果を必ず従わなければならないというわけではないが、自国特許庁の審査結果が良いガイドになるのは事実だ)。このため、海外出願を念頭に置いているのであれば、優先審査を記憶しておく必要がある。

4.PPH制度

自国内の優先審査とは別に、PPH制度を知っておけば得になる。PPHとは、日本特許庁の主導で開始された特許審査ハイウェイ制度(Patent Prosecution Highway、PPH)をいう。特許審査ハイウェー(PPH)とは、出願人が同一の発明を2つ以上の国の特許庁に出願して、ある一国の特許庁から登録決定書又は特許可能通知書を受けた場合、それを他の国の特許庁に提出して、優先審査を申請する制度を指す。以下のような要件が必要となる。

  • 特許出願が相手国特許出願を優先権主張の基礎としたもの(PCT出願の国内段階進入出願を含む)であること
  • 相手国特許出願の特許請求範囲には、相手国特許庁の審査官が特許可能という判断を下した請求項が一つ以上存在すること
  • 特許出願のすべての請求項は、相手国特許庁で特許可能と判断された請求項と同一又は請求範囲を減縮したものであること

ちなみに、現在日本特許庁との間で上記協約を結んでいる国(特許庁)は、韓国特許庁、米国特許商標庁、欧州特許庁、中国特許庁といった世界の中でも特に出願の多い5大特許庁をはじめ、欧州18、アジア8など、世界34の国(特許庁)に上る。
PPHの長所は、まず特許審査期間の短縮といえる。国ごとに多少異なるが、およそ1年近く審査期間が短縮されるという報告がある。第二に、特許登録率を高めることができる。韓米PPHモデル運営の結果、最終登録率が90%に上るという。第三に、意見提出通知書(Office Action)を受けずにすぐ特許決定を受ける可能性が非常に高い。そのため、意見提出通知書への対応時間と数百万ウォン(数十万円)に上る対応コストを節約することができる。このようにPPHは出願人にとっては早期権利化が可能という効果が、特許庁にとっては、他の特許庁の審査結果を参照することで審査の負担を減らすという効果がある。
以上のことから、出願人は海外出願時に自国内の優先審査はもちろん、海外出願した国のPPH制度をうまく活用することを勧める。

今月の解説者

特許法人シンテヤン(ソウル事務所)
代表弁理士 劉炳玉(ユ・ビョンオク)
専門分野 機械・電子
亜洲大学教制御工学卒業、延世大学法務大学院卒業
京畿特許情報総合コンサルティングセンター 諮問委員、技術信用保証基金 外部諮問委員、
産業技術評価院 評価委員、韓国産業技術財団 部品素材ロードマップ専門委員
(監修:日本貿易振興機構=ジェトロ=ソウル事務所 副所長 笹野秀生)

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本記事はジェトロが執筆あるいは監修し、The Daily NNA【韓国版】に掲載されたもので、株式会社エヌ・エヌ・エーより掲載許諾をとっています。

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