知的財産に関する情報(The Daily NNA【韓国版】より)日中韓知的財産協力の10年ビジョン
2024年07月10日
The Daily NNA【韓国版】掲載(File No.190)
ジェトロ・ソウル 副所長 大塚 裕一(特許庁出向者)
2024年5月27日、韓国・ソウルにおいて第9回日中韓サミットが開催されました。岸田文雄内閣総理大臣、尹錫悦(ユン・ソンニョル)韓国大統領(議長)、李強(り・きょう)中国国務院総理の3か国首脳が出席し、「3か国知的財産協力の10年ビジョン」が共同宣言の付属文書として採択され、今後、知的財産分野での協力をさらに強化していくこととなりました。
1.3か国の知財の状況
日中韓3か国の特許庁は、特許審査情報の交換及び活用を促進し、特許審査実務を調和させ、国際規範を確立することを目的として、2001年に3か国の知的財産分野における協力体制を立ち上げました。その後、継続的な協力を深め、この20年間で、3庁が取り扱う特許出願件数は世界全体の40%から60%以上に増加し、商標出願件数は世界全体の20%から50%以上に増加し、これが、北東アジアのみならず、世界の技術発展及び経済成長を促進する上で3庁が重要な役割を果たしてきました。この期間においては、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のような世界的危機もあったところ、技術進歩およびイノベーションがこれらの危機を克服する鍵であり、知的財産がそれらを達成するための触媒的要因であることを認識することとなりました。このような状況を鑑みて、次の10年にわたって、3庁での取り組みが今回、「3か国知的財産協力の10年ビジョン」として、定められました。なおサミットの情報については、日本国外務省のウェブサイト「第9回日中韓サミット」をご参照ください。
2.3つの内容
2.1.新技術への対応
1つ目の内容は、「3庁は、急速に変化する技術に対応し、受け入れることができる知的財産制度を確立する。3か国の大学、企業及び研究機関がAI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)などの第四次産業革命技術の分野で革新的な物品、サービス及びソリューションを開発し、発表することが期待される中、3庁は、これらの創作物に対して適切な種類の知的財産権が適時に付与され、それらが法律によって適切に保護されるよう、関連するルール、審査実務及び制度を改善するために協働する。」というものです。これは、昨今急速に技術が発展するとともに、専門家ではない者であっても、発明等を行うことが可能になってきた状況を踏まえて、これらの対応を協働して検討・対応を行うというものになります。AIを使った特許出願も実際に行われており、世界的に喫緊の対応課題となっています。
2.2.特許情報の活用支援
2つ目の内容は、「3庁は、特許情報の公共のアクセシビリティを向上させ、民間部門による利用を奨励するために、共同で取り組む。3庁は、学術界、研究グループ及び産業界が研究開発及び投資活動の方向性を定め、市場参入戦略を策定する上で、特許情報の分析が優れた指針を提供し得ることを認識する。この精神に基づき、3庁は、特許情報を相互に交換し、共有された情報を無償で公共に開示し、民間部門が開示された特許情報を最大限に活用することを支援することにより、技術開発及びイノベーション主導の成長を達成しようとする他国の取組を支援することにコミットしている。」というものです。韓国においては、IP R&Dと呼ばれていますが、特許情報を先行技術調査以外にも、ビジネス戦略策定に用いることにより、さらなる知財情報の価値増大を目指す内容となります。
2.3.他国への支援
3つ目の内容は、「3庁は、「三か国+X知的財産協力」を追求する中で、3庁が共に築き上げてきた価値ある成果を共有するため、知的財産協力が3か国を越え、他国や地域にも拡大するよう努める。3庁は、知的財産協力のパートナーを見つけるため、協力のニーズ若しくは相乗効果を生み出す余地がある国又は地域機関(ASEAN など)を主に検討する。3庁は、これが世界的な知的財産格差の縮小による、世界の均衡のとれた成長への第一歩になると信じる。」というものです。ビジネスにおいても第3国における3か国協力が盛んになっておりますが、知財の分野においても、特にASEAN地域への協力を3庁の協力において進めるという内容になります。
まとめ
いずれの内容も、知財分野のみならず、ビジネスや外交分野においても重要なトピックになっています。AIのイノベーションの速度は非常に早く、知財権をどのように設定するのか、慎重かつ迅速な対応が求められており、3庁の協働は重要な意味を持ちます。また、このような変化の激しい中で、ビジネス戦略を策定するうえで非常に有用な特許情報の活用は、すでに産業界からも求められているところです。さらに、第3国での協力も重要性を増しています。次の10年に期待が高まります。
今月の解説者
日本貿易振興機構(ジェトロ)ソウル事務所
副所長 大塚 裕一(日本国特許庁知財アタッシェ)
2002年日本国特許庁入庁後、特許審査官・審判官として審査・審判実務や管理職業務に従事。また特許庁 総務課・調整課・審判課での課長補佐、英国ケンブリッジ大学客員研究員、(国)山口大学大学院技術経営研究科准教授、(独)INPIT知財人材部長等を経て現職。
本記事はジェトロが執筆あるいは監修し、The Daily NNA【韓国版】に掲載されたもので、株式会社エヌ・エヌ・エーより掲載許諾をとっています。
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