知的財産に関する情報(The Daily NNA【韓国版】より)瑕疵ある商標権による権利行使は許されるか?

2014年08月13日

The Daily NNA【韓国版】掲載(File No.71)
特許法人ムハン・丁泰栄弁理士

特許庁において商標権が登録されたとしても、登録されるべきではなかった瑕疵(登録無効理由)が後から発見されて商標権が無効になることがある。それでは、そのように、登録されるべきではなかった商標権に基づいて商標権の侵害訴訟が提起された場合に、裁判所において権利侵害が認められるのだろうか?

従来の実務

これまでの韓国商標法の実務においては、瑕疵ある商標権、つまり登録無効理由を有する商標権であっても、その登録が無効審判等によって無効と確定する前までは、形式上は商標権が存在するために他人の同一類似の商標使用に対して侵害禁止、損害賠償請求等の法的措置を取ることができるという立場であった。これは、無効理由などの瑕疵がある場合、特許審判院等を通して無効審判によって消滅させるべきであり、商標権の侵害事件を扱う一般民事法院において侵害訴訟手続内で無効理由の存在有無を判断して商標権の侵害有無を決定してはならないとするものである。その理由は、既に発生した商標権の効力は、専ら法で定められた手続によってのみ否定することができ、侵害事件を扱う一般民事法院が個別の侵害事件を判断するにおいて任意にその効力を否定できないようにして、商標権効力の存在有無を明確にして不要な法的混乱を防ぐためのものであると考えられる。

問題点

しかし、このような実務の態度は、形式論に偏ったものであって商標制度の目的にも適しておらず、商標権者を過度に保護する一方で一般第三者の利益を不当に侵害するという批判があった。即ち、商標登録を本来無効にすべきにも関わらず、商標登録が形式的に維持されているにすぎない場合にも、その関連商標権を特別な制限なく独占・排他的に行使できるようにすることは、商標の使用に関する公共の利益を不当に害するだけでなく、商標を保護することで商標使用者の業務上の信用維持を図り、産業の発展に寄与すると共に需要者の利益を保護しようとする商標法の目的にも反することである。また、商標権も私的財産権の一つである以上、その実質的価値に応じて正義と公平の理念に合うように行使されなければならないが、商標登録が無効になることが明白な登録商標に基づいて、商標権者に不当な利益を与え、その商標を使用する者に不合理な苦痛や損害を与える結果となれば、実質的な正義と当事者間の衡平にも反る。

大法院による判例変更

このような不合理な結果を是正するために、近年大法院は無効理由があることが明白である場合、そのような商標権には侵害禁止、損害賠償請求等を認めないと判断し、従来の大法院の判例を変更するに至った。大法院は、大法院2012.10.18.言渡 2010ダ103000 全員合議体判決における のように構成された登録商標(「サービスマーク」を含む。以下同じ。)の商標権者の甲株式会社が乙株式会社を相手に商標権等侵害禁止及び損害賠償等を求めた事件において、上記の商標は、商標法第6 条第1 項第3号の技術的標章(品質・用途等を普通に用いられる方法により表示する標章のみからなるもの)又は商標法第7条第1項第11号前段の品質を誤認させる標章に該当し、登録が無効になることが明確であるため、上記の商標権などに基づく甲会社の侵害禁止、侵害製品の廃棄及び損害賠償請求は、権利濫用に該当して許容されないと判示した。即ち、登録無効審決が確定する前であっても商標登録が無効審判で無効になることが明白である場合は、商標権に基づく侵害禁止又は損害賠償などの請求は原則権利濫用に該当して許容されないと見るべきであり、商標権の侵害訴訟を担当する法院としても商標権者のそのような請求が権利濫用に該当するという抗弁がある場合、その当否を判断するための前提として商標登録の有効・無効に対して審理・判断することができるとし、これまでの大法院の判例を変更した。

まとめ

このような判例の変更により、現在では、明確に無効理由を有する登録商標に基づいて第三者に権利行使を行う場合は、当該商標権に対する無効審判によって無効審決が確定する前であっても、そのような権利行使が権利濫用に該当するという点を侵害訴訟の段階で主張し、侵害に該当しないという判決を受けられるようになっている。また、このような判例の変更は、商標制度の本来の目的、商標権者と商標使用者の利益の衡平という面で妥当であると判断される。

今回の解説者

特許法人ムハン・丁泰栄弁理士
1967年生まれ。93年 高麗大学法学科卒業、99年第36回 弁理士試験合格。ポスコ建設法務チームなどを経て、2002年 特許法人ムハン設立。現在、特許法人ムハン代表弁理士。
(監修:日本貿易振興機構=ジェトロ=ソウル事務所副所長 笹野秀生)

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本記事はジェトロが執筆あるいは監修し、The Daily NNA【韓国版】に掲載されたもので、株式会社エヌ・エヌ・エーより掲載許諾をとっています。

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