知的財産に関する情報(The Daily NNA【韓国版】より)知的財産(IP)で金融?

2014年09月03日

The Daily NNA【韓国版】掲載(File No.72)
INVENTUS・呉世一(オ・セイル)代表弁理士

韓国政府は創造経済を国政課題の一つとして定め、知識を基盤とする経済発展を躍動的に推進している。これを受け韓国内の金融市場は、特許権等の知的財産(IP)をより活用することが課題となっている。今回は韓国におけるIP金融の現状を紹介する。

IP金融とは?

IP金融とは、簡単に言えば知的財産または知的財産権に対する投資による収益の発生やIPを活用した金融取引など、IPが金融と直接的に関連しているあらゆる形態の金融活動であると定義することができる。IP金融には大きく3つの形態があるが、韓国におけるそれぞれの状況は次のようになっている。

IP投資

現在、国内IPに投資を行っている主なファンドは、韓国ベンチャー投資(株)によるマザーファンド(約7,000億ウォン=約723 億6,600万円規模)、インテレクチュアルディスカバリー(株)による創意資本ファンド(約4,000億ウォン規模)及び産業銀行等による成長はしごファンド(IPファンド分は約1,000億ウォン規模)がある。

IP保証

IP保証は、IP価値評価の結果によってIP保有企業に当該IPを担保として保証書を発給し、IP保有企業が該当の保証書を利用して銀行から貸出を受ける形態を意味する。現在、IP保証を遂行する機関は信用保証基金と技術保証基金であり、技術保証基金はIP価値評価のための内部評価を遂行しているが、信用保証基金の場合は特許庁傘下機関である韓国発明振興会に評価を委託している。一方、IP価値評価にかかる費用の一部は特許庁により支援されていて、2013年は約200件に対する特許技術価値評価の連携保証が行われた。

IP担保

IP担保とは、知的財産権を担保に銀行から貸出を受けるモデルを意味する。このような知的財産担保事業は、2013年にはその規模がさほど大きくなかったが、2014年に入ってからその必要性が台頭し始め拡大実施が見込まれる分野である。既に、政策金融としては産業銀行、企業銀行、輸出入銀行が、民間銀行では、国民銀行、新韓銀行、ウリ銀行、ハナ銀行などが参加している。ただし、IP担保においてIPに対する価値評価が行われた後に貸出が行われる場合、IPが貸出金を回収できる基本的な担保力を有することが重要であるが、現在の市場において行われているIP担保貸出の場合は、市場の自律性により行われているとは言えず、政府の政策的な舵取りにより行われている性格のほうが強い。

IP価値の把握等に関する問題

以上の3つの形態は、それぞれIPを活用する方法は異なるが、成功のために必ず要求される共通の要素がある。すなわちIPの価値をきちんと評価しなければならないということだ。IP金融が定着するためには、投資の対象、担保物に対する正確な分析と価値付与が欠かせない。韓国の場合は、IP金融活性化の必要性に関する意見は多いが、未だきちんとした評価方法論が構築されていない状態である。特に、IP担保の場合は、貸出金の回収が究極的には担保物である特許の活用、すなわちライセンスが可能な特許であるか否か、侵害があった場合に特許侵害証拠が確保された特許であるか否か等が必ず考慮されるべきであるが、過去に技術保証基金などの公的機関が行った評価方法では、このような指標が正確に判断されないままIPの価値が算定されている問題点がある。現政府はまずIP金融の活性化に向けて、たとえ担保力のない特許が担保物として使用された場合でも、回収ファンドを通して解決するという立場であるが、これは市場の自生力を崩す危険な試みになりかねないという点に注意しなければならない。特に、政府主導の評価方法の制定および評価機関の指定などを通した市場統制は、下手すると市場を歪曲しIP金融の自生的な定着にネガティブ影響を及ぼすおそれがあるという憂慮まで起こっている。したがって市場が受け入れられる評価方法論の導入が必要であり、現在のような政府主導のIP価値評価に対する補完が必須である。また、IPの価値が認められるためには、IPの保護がきちんと行われるべきだということは当然なことである。したがって、現在の大きな問題点として提起されている特許無効率の高さ、裁判所での低い損害賠償額(侵害訴訟)に対する全般的な改善が要求されているといえる。

最後に

時代が変わったということは明らかな事実である。このように変化したパラダイムの中でIPに対する活用とこれを通した収益化は、今後も関心の高い分野になるはずである。現在、IP金融の活性化のために、政策金融と民間銀行の両方で投資がなされており、民間銀行の参加は今後さらに拡大する見通しである。ただし、IP金融が定着するためには、有意味のIPに価値が付与され、IP価値がきちんと認められる制度および社会風土が確立されるべきである。

今回の解説者

INVENTUS・呉世一(オ・セイル)代表弁理士
延世大学電機電子工学部卒業、特許法律事務所勤務を経て2012年INVENTUS 設立。「大韓弁理士会」鑑定及び価値評価取引委員会副委員長。
(監修:日本貿易振興機構=ジェトロ=ソウル事務所副所長 笹野秀生)

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本記事はジェトロが執筆あるいは監修し、The Daily NNA【韓国版】に掲載されたもので、株式会社エヌ・エヌ・エーより掲載許諾をとっています。

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