知的財産に関する情報(The Daily NNA【韓国版】より)韓国政府の著作権ビジョン2030 ―文化が経済になる著作権強国を目指して―

2020年03月11日

The Daily NNA【韓国版】掲載(File No.138)
ジェトロ・ソウル事務所 副所長 浜岸 広明(特許庁出向者)

第四次産業革命時代の経済成長基盤として、著作権の重要性が増大していることから、韓国政府は2月4日、著作権法の全部改正をはじめとする4大戦略目標を盛り込んだ中長期ロードマップ「著作権ビジョン2030 -文化が経済になる著作権強国-」を発表しました。
著作権に関連した国家レベルでの中長期ロードマップが示されたのは、今回が初めてのことです。本稿では、この「著作権ビジョン2030」の概要について、ご紹介します。

1.第四次産業革命時代の著作権基盤の造成

時代を反映した法制度の整備
第5世代移動通信システム(5G)や人工知能(AI)といった新しい技術環境のもとで新産業活性化のための著作権保護を行うとともに、紛争予防のために懲罰的損害賠償制度を導入するなど、著作権法の全部改正を推進します。
創作と分かち合いの著作権文化拡散
動画検索時代に対応した著作権の知識に関する動画製作、著作権意識向上キャンペーンの拡大、著作権教育体験館を通じた著作権教育などを推進します。
著作権事業化と管理能力の強化
創作から収益構造の創出まで、著作権基盤事業を管理する著作権事業化専門人材を育成するとともに、著作権関連専門機関の能力を強化します。

2.公正で透明な利用・流通環境づくり

著作権集中管理団体の自律責任強化
著作権管理団体の経営状況などの情報を常時公開して透明性と公正性を高め、著作権補償金分配率を現行の73%から80%以上に拡大します。
著作権流通情報活用の公共基盤の構築
著作物流通事業者などの利用情報の記録を中立機関で統合収集し、権利者団体精算システムと連携して透明性を高め、レーベル・放送局の音楽利用内訳のビッグデータ分析を行い、音楽利用の状況について国民・権利者・産業界に情報提供します。
共有著作物と休眠著作物の創作資源化
メディアや教育現場で活用される可能性が高い共有著作物を集中収集するツールを提供するとともに、権利者不明の著作物収集提供システムの拡大構築、法定許諾の判断要件の明確化などにより著作権の利用環境を改善します。

3.著作権侵害対応の強化

侵害の多様化に迅速に対応可能な保護体系構築
オンライン科学捜査を行うサイバー著作権捜査隊を創設し、巧妙化・国際化された侵害に迅速に対応するとともに、海外基盤侵害対応のために外国の著作権当局との協力体系を構築します。
新しい侵害に対する技術的対応能力の向上
デジタル侵害に対応するフォレンジック専門人材を育成するとともに、人工知能基盤の自動監視システムを構築します。

4.韓流拡散のための海外著作権保護基盤強化

韓流コンテンツの海外著作権保護システム強化
関連機関による「海外著作権保護協議会」を運営し、主要国・ジャンル別に侵害対策計画を立案するとともに、著作権海外事務所を増設して国別に侵害への対応力を強化します。
民間の海外著作権侵害対応支援の拡大
韓流著作物の流通実態調査を実施するとともに、韓流の中小コンテンツ企業に対して、契約相談や訴訟支援などの法律サービスを提供します。
国際機関協力と通商交渉による著作権保護環境造成
世界知的所有権機関(WIPO)仲裁調停センター韓国支部の設立を推進するとともに、発展途上国における著作権保護を支援します。

このように、韓国政府は「著作権強国」を目指した中長期ロードマップを提示し、著作権貿易収支を2018年の14億ドルから、2030年には100億ドルにすることを目標としています。著作権における懲罰的損害賠償の導入や、人工知能を用いた著作権監視システムの構築などについて、今後注目していく必要があると言えます。

今月の解説者

ジェトロ・ソウル事務所 副所長 浜岸 広明(特許庁出向者)
98年特許庁入庁。情報処理分野の審査官・審判官、国際課課長補佐、審判課課長補佐、知的財産活用企画調整官等を経て、17年6月より現職

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本記事はジェトロが執筆あるいは監修し、The Daily NNA【韓国版】に掲載されたもので、株式会社エヌ・エヌ・エーより掲載許諾をとっています。

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