知的財産に関する情報(The Daily NNA【韓国版】より)デザイン戦略で後れをとる日本企業

2014年03月11日

The Daily NNA【韓国版】掲載(File No.66)
日本貿易振興機構(ジェトロ)ソウル事務所 副所長 岩谷一臣(特許庁出向者)

日本の特許出願は、近年減少傾向にあるとはいえ、依然として年間約35万件、世界第3位の出願数を保っている。しかし、日本のデザイン(意匠)出願は、韓国の約半分にとどまっていることをご存じであろうか? アップルとサムスン電子の知的財産紛争でアップルが大きな武器とした権利は、デザインであった。また、最近では、デザインを単なる製品の形としてではなく、自社ブランドととらえて知的財産戦略を組み立てる企業も目につく。はたして、日本企業は、デザインを活用した知的財産戦略を有しているのだろうか?

韓国の半分にとどまる日本デザイン出願

日本特許庁へのデザイン(意匠)出願は、近年微減の傾向にあり、また、韓国のデザイン出願より大幅に少なく、2012年では約半数にとどまっています。韓国に対し、人口比で約2倍、経済規模を考慮すると約4 倍であるはずの日本ですが、ことデザイン出願数では、韓国に大きく後れをとっています。

日刊意匠出願状況

一方、日韓の特許出願数を比較すると、日本は、近年減少傾向にあるとはいえ、年間約35万件の出願があり、同20万件の韓国を大幅に超過しています。日本企業は、よく技術偏重であるといわれますが、特許出願とデザイン出願の件数をみても、この傾向が伺え、逆に言えば、デザインをしっかり活用した知的財産戦略に後れをとっている懸念が否めません。

サムスン電子のデザイン戦略強化の動き

ところで、サムスン電子は、以前よりデザイン重視の戦略をとっており、例えば、欧米におけるデザイン登録数を見ると、特に2005年以降、日本企業をしのぐ件数となっています。そして、ここにきて、さらに急激な伸びが見られ、アップルとの知財訴訟が影響しているのではないかと言われております。もちろん、単年の動きで結論付けるのは早計ですが、いずれにせよ、サムスン電子が日本企業をしのぐデザイン権を登録していることには間違いありません。

米国デザイン登録と欧州デザイン登録

単なる形状の保護からブランドの保護へ

さらに、ほかの企業にも目を広げると、近年、デザインを単なる製品の形としてではなく、自社ブランドの保護という観点から知財戦略を組み立てる企業も目につきます。例えば、本コラムFile No.65でご紹介したバイアグラは、青いひし形の錠剤という独特の形状をデザイン権や商標権として多面的に取得し、その地位を確固たるものとしています。その他にも、カバンの金具のデザインを商標として登録し、自社ブランドとして確立する例など、権利の垣根を越えた知的財産戦略が見られるようになっています。知的財産戦略は、もちろん出願・登録件数だけで議論できませんが、それでも日本企業のデザイン出願の少なさをみると、知的財産戦略の中でデザインをどう位置づけているのか疑問を感じます。知的財産は、戦略次第で強力な鉾や盾になるビジネスツールです。そういった観点から、知財戦略や知財ポートフォリオなどを、今一度見直す必要があるのではないでしょうか。

今月の解説者

日本貿易振興機構(ジェトロ)ソウル事務所 副所長 岩谷一臣(特許庁出向者)
92年特許庁入庁。96年に審査官昇任後、特許情報課、特許審査調査室、調整課人事担当、ヨーロッパ特許庁派遣、2007年に審判官昇任。その後、審判課法規担当、主任上席審査官昇任を経て、2011年6月より現職

どうなる韓国 新・知財最前線は今

本記事はジェトロが執筆あるいは監修し、The Daily NNA【韓国版】に掲載されたもので、株式会社エヌ・エヌ・エーより掲載許諾をとっています。

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