知的財産に関する情報(The Daily NNA【韓国版】より)低消費電力ディスプレーLTPO技術の特許出願傾向
2024年10月10日
The Daily NNA【韓国版】掲載(File No.193)
ジェトロ・ソウル 副所長 大塚 裕一(特許庁出向者)
2024年8月27日、韓国特許庁は、この10年間において、低消費電力ディスプレーLTPO技術の特許出願件数・出願伸び率で韓国がトップであったと発表しました。当該LTPO技術は、今後のスマートウオッチやスマートフォンでの採用が見込まれ、世界的な需要を背景に注目の技術になります。
1.概要
LTPO(Low Temperature Polysilicon Oxide、低温多結晶酸化物)技術は、すでに次世代OLED(Organic Light Emitting Diode、有機ELディスプレー)パネルとして認知されている技術ですが、昨今の技術動向の変化から、重要性がさらに増しています。韓国特許庁によると、LTPOは製造工程が複雑で、歩留まりが低いことから、単価が高いデメリットがある一方で、電力消費を10~40%程度削減でき、画面を一定の明るさで維持できるというメリットがあるということです。このような低消費電力のメリットから、現在は黒色の画面を常時表示することの多い、スマートウオッチやハイスペックのスマートフォンに多く採用されています。人工知能(AI)を搭載したスマートフォンが相次いで販売されているところ、その処理には高い電力消費が必要となるため、全体として電力消費を抑える観点から、今後、スマートフォンにLTPO技術を採用することが増えると見込まれているということです。
また同じく韓国特許庁の報告によると、2023年における、LTPO搭載のOLEDパネルの世界の売上高は176億ドルとなり、2024年は前年比26.1%増加の222億ドルに達すると見込まれています(スマートフォンの市場規模(億ドル):[LTPO](2022年)148→(2023年)176→(2024年)222(26.1%)(韓国ディスプレー産業協会、2024年4月23日))。さらに韓国のLGディスプレーとサムスンディスプレーはLTPO搭載のOLEDパネルの世界市場シェア86.8%を占めていることから(サムスンディスプレー(61.2%)、LGディスプレー(25.6%)、BOE(6.9%)、Visionox(3.7%)、TCL CSOT(2.6%)(2023年度売上高基準のシェア、2024年4月、Omdia))、殆どのLTPO搭載のOLEDパネルを韓国企業である両社が供給していることがわかると報告されています。
2.特許出願
LTPO技術に係る世界の特許出願件数は、韓国特許庁が主要国特許庁(五庁:日本、韓国、米国、中国、欧州)に出願された世界の特許を分析したところ、2013年には65件にとどまっていたが、この10年間(2013年~2022年)年平均23.7%増加し2022年には440件に達していることがわかりました。さらに出願人の国籍を分析すると、出願件数は韓国が40.4%(1,052件)と最も多く、2位中国27.9%(728件)、3位日本21.8%(568件)、4位米国6.0%(156件)、5位欧州0.6%(16件)という結果が得られました。同期間の年平均伸び率においても韓国が70.9%と最も高く、続いて中国(29.8%)、米国(9.2%)、日本(4.3%)、欧州(0%)という結果になりました。この10年間で韓国企業が当該技術分野において躍進した状況が表れています。
企業別の特許出願件数は、1位は韓国のLGディスプレー(24.9%、649件)が最も多く、2位は韓国のサムスンディスプレー(14.4%、376件)、3位中国のBOE(14.3%、373件)、4位日本の半導体エネルギー研究所(SEL)(13.6%、355件)、5位米国のアップル(4.5%、116件)となっています。1位および2位がいずれも韓国企業であり、両者の出願件数を合計すると、全体出願件数の約4割を占めていることもわかりました。当該技術分野において、韓国企業があらためて世界をけん引している状況が表れています。
これらの状況を踏まえて、韓国特許庁の半導体製造工程審査課長は「現在、LTPO搭載のOLEDパネルへの需要が最も高いアップル社のサプライチェーンにはLGディスプレーとサムスンディスプレーが含まれている」とし、「韓国企業がOLEDパネルの世界市場においてシェアをさらに拡大していくためには、持続的な研究開発を通じて価格競争力を高める必要があり、そのために特許庁は高品質の審査のみならず、関連分野の特許情報を提供し続けていく」と述べたということです。
まとめ
生成AI機能のみならず、リアルタイム通訳や、高精細な画質での連続動画再生など、ユーザーにとっては嬉しい機能の進化が続きますが、これに対応するためのバッテリーやディスプレーなどの要素技術についても技術の進化が必要となります。新たな技術は競争力確保のために特許出願を行いますので、出願動向の分析は技術動向のみならず、ビジネスの方向性を見る指標となります。
今回は、ディスプレーに関する内容となりましたが、関連する技術全体についても動向を注視したいと思います。
今月の解説者
日本貿易振興機構(ジェトロ)ソウル事務所
副所長 大塚 裕一(日本国特許庁知財アタッシェ)
2002年日本国特許庁入庁後、特許審査官・審判官として審査・審判実務や管理職業務に従事。また特許庁 総務課・調整課・審判課での課長補佐、英国ケンブリッジ大学客員研究員、(国)山口大学大学院技術経営研究科准教授、(独)INPIT知財人材部長等を経て現職。
本記事はジェトロが執筆あるいは監修し、The Daily NNA【韓国版】に掲載されたもので、株式会社エヌ・エヌ・エーより掲載許諾をとっています。
ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム
ジェトロ・ソウル事務所 知的財産チームは、韓国の知的財産に関する各種研究、情報の収集・分析・提供、関係者に対する助言や相談、広報啓発活動、取り締まりの支援などを行っています。各種問い合わせ、相談、訪問をご希望の方はご連絡ください。
担当者:大塚、李(イ)、半田(いずれも日本語可)
E-mail:kos-jetroipr@jetro.go.jp
Tel :+82-2-3210-0195