知的財産に関する情報(The Daily NNA【韓国版】より)先進五大特許庁(IP5)長官会合、ソウルで開催

2024年08月14日

The Daily NNA【韓国版】掲載(File No.191)
ジェトロ・ソウル 副所長 大塚 裕一(特許庁出向者)

2024年6月19日、20日、韓国・ソウルにおいて、韓国、日本、中国、米国、欧州の知的財産庁からなる先進五大特許庁(IP5)長官会合、および、IP5と産業界代表との会議が韓国主催で開催されました。またこの会合に合わせて、2024女性発明王EXPOなど、知財に関するさまざまなイベントも開催されました。

会合風景

1.先進五大特許庁(IP5)

IP5は世界全体の特許出願の約85%を占める存在で、これらの機関同士は共通する課題も多く、毎年会合を開催し、解決に向けた協議なども行われてきました。ユーザーの利便性を考慮すると、IP5での知財制度のハーモナイゼーションは非常に重要であり、産業界からの期待も高い状況です。これまでIP5での取り組みは、本会合を通じて常に前進してきました。今回のホストである韓国特許庁は、世界4位規模の特許出願があり、その出願件数も増加を続けています。スマートフォンや半導体、2次電池など、昨今では世界的に重要となる技術に関する発明も数多く特許出願されており、世界的な影響力もますます強まっている状況で、今回の会合を主導しました。

2.3つの議論

今回のIP5長官会合では主に3つの議論、1知的財産分野における持続可能な開発目標(SustainableDevelopment Goals: SDGs)の実現方策、2グローバルな権利移転などユーザーフレンドリーな知的財産システムの構築、3人工知能(AI)など新技術発展への対応策、について、各庁の関係者のみならず、各地域の産業界代表とも、活発な議論が行われました。

2.1.持続可能な開発目標の実現に向けた知的財産分野における協力策の模索

今回の長官会合で「国連の持続可能な開発目標の実現」に向けた、中長期計画が盛り込まれた「先進五大特許庁の共同宣言文」が採択されました。昨年米国で開催されたIP5長官会合では「持続可能な開発目標の実現」が五庁ビジョンとして掲げられ、五庁による主な協力目標の一つになっています。今回の会合では、韓国特許庁と日本国特許庁が共にリードする「持続可能な開発目標の実現に向けたIP5の協力指針(Guideline for Building a Sustainable Future)」に五庁が合意し、今後の履行に向けて協力していくこととなりました。また、「持続可能なイノベーションに向けた包括的な知的財産システムの構築」をテーマに、中小企業の成長を促進するための知財の役割について深く議論も行われました。

2.2.グローバルな権利移転などユーザーフレンドリーな国際的知的財産システムの構築についての議論

ユーザーフレンドリーなシステムについて、個別具体的な課題に関して議論が行われました。例えば、特許権者が特許権譲渡の申請書を一つの庁に提出すれば、ほかの四庁においても当該特許権譲渡の効力を認めるという「グローバルな権利移転」のテーマの進捗(しんちょく)状況について、施行に向けて必要な制度への検討を迅速に行うことに合意がなされました。

2.3.AIなど新技術発展に伴う知的財産分野での協力についての議論

AIなど新技術発展に伴う知的財産分野の対応策についても議論が行われました。「AIを発明者として認めるかどうかに関する5か国の法制・判例の動向(Inventorship of AI generated inventions)」に関する研究結果が今回の長官会合で承認されました。この研究結果には、米大統領令(2023年10月)により米国特許庁(USPTO)が発表した「AIを利用した発明に関する発明者権ガイドライン」など五庁の関連政策の動向なども反映されています。

まとめ

今回の会合は、5年前に韓国で開催されたIP5長官会合時とは大きく状況が変化しました。アフターコロナの時代となりAI技術の発展もあり、社会情勢や技術革新などの変化に対応する課題について、IP5として知財の取り組みの方向性が示される有意義な会合となりました。


今月の解説者

日本貿易振興機構(ジェトロ)ソウル事務所
副所長 大塚 裕一(日本国特許庁知財アタッシェ)
2002年日本国特許庁入庁後、特許審査官・審判官として審査・審判実務や管理職業務に従事。また特許庁 総務課・調整課・審判課での課長補佐、英国ケンブリッジ大学客員研究員、(国)山口大学大学院技術経営研究科准教授、(独)INPIT知財人材部長等を経て現職。

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本記事はジェトロが執筆あるいは監修し、The Daily NNA【韓国版】に掲載されたもので、株式会社エヌ・エヌ・エーより掲載許諾をとっています。

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