知的財産に関する情報(The Daily NNA【韓国版】より)特許侵害の警告状が来たら?

2015年03月05日

The Daily NNA【韓国版】掲載(File No.78)
特許法人NAM&NAM 弁理士 李 浩俊

事業を進めていく中で、特許侵害に関する警告状が送られてくる場合があります。法務担当者や法律顧問を置いていない、中小企業や現地事務所ではどのように対応すべきか、当惑するかもしれません。そこで侵害警告状を受けた場合、どのように対処すべきか簡単に説明します。

交渉の意思決定

まず、最初に、相手方と交渉を進めるかどうかを決めます。権利者からの警告状に対して、必ず返答を出す義務はありませんが、警告状を無視したり、相手側の特許などに対して無効審判などといった法的措置をとれば、権利者がこちらに交渉する意思がないと見なして侵害訴訟を直ちに提起する可能性があります。そうした場合、勝訴しなければ、権利者からより強い制裁を受ける場合がありますし、こちら側が故意侵害に該当すると見なされれば、刑事罰として罰金を払わなければならないこともあります。また、警告状を受けて、最終的に事業を中断することに決めた場合でも、それまでに侵害した分の損害賠償は残りますので、事前調査の上、交渉を重ねて少しでも有利な結論を導くことが望ましいです。したがって、事業の中断や法的措置は、最終手段と考えて、まずは交渉を開始することが通常の対応となります。

さらに、権利者の立場から訴訟を進めることは負担になりますので、特に理由がない限りは、交渉を拒否するケースは稀であることも参考にしておくと良いでしょう。

侵害証拠の要求

通常の警告状では、特許番号と侵害製品を整理して、侵害の停止または特許実施料の支払いを要求する内容が含まれていますので、具体的な侵害の証拠や対象となる特許請求の範囲 を相手側に要求し、交渉により円満に解決する意志があることを示すべきです。

無効調査及び侵害の検討

侵害の証拠を権利者から受け取れば、対象特許を無効にできるかどうか調査を行うとともに侵害の証拠を基に本当に侵害であるかどうか検討します。交渉では、相手側の権利無効に対する主張とこちら側の非侵害に対する主張を同時に展開する必要があります。少しでもこちらに有利な材料があれば、交渉ではそれらの主張をすることが良いでしょう。

交渉の進展

相手側の対象特許を無効にできる強力な別の特許等を探すことができた場合は、強力な交渉カードになります。例えば、相手側の対象特許を無効にしないことを条件により有利にライセンス交渉をすることもできるでしょう。実施料の大幅な減額やライセンスフリーも狙うことができます。敢えて対象特許を無効にしないのは、自社以外の他の競合企業に対して実施料が課せられれば、自社製品の原価競争力が上がるためです。

また、自ら保有する特許が、対抗する特許又は相手方が必要な特許となる場合は、お互いの特許を使用できるようクロスライセンスをすることもできます。権利者が製品を生産するメーカーであれば、多くの場合、クロスライセンスを望みます。もし、権利者の特許について実施契約を締結後、その実施権者が、自ら保有する特許権利を逆に権利者に対して行使した場合、権利者は、すでに自分の特許については、実施契約が締結されているので、これに対応する特許がないためです。このように有力な特許があれば交渉を有利に進められますが、ない場合は実施料の支払いに加えて、対象特許を買い取ることも検討してみなければなりません。

このように相手側との交渉は、対象特許が無効かどうか、および侵害に該当するかどうか、そして、実施料の策定や支払いについての交渉に分かれますが、これらの交渉は並行して進めることが良いでしょう。

回避設計

実施料の支払いが避けられない場合、交渉でその実施料を減額させるよう努力しなければなりませんが、同時に対象特許を回避する設計で、将来の実施料の支払いを避けることができる方法を探し出し、契約締結時には、市場の変化や回避設計の可能性に応じて、契約期間を定めることも必要です。

法的対応

事業の中断や法的対応は、最後の手段として決定します。交渉を通じて無効および非侵害の可能性について、より正確な予測が可能となります。また、こちら側が容認できない要求に相手側が拘ったり、訴訟での勝利に確信を持つようであれば、法的応に出ます。そのような法的手段としては、まず前述の無効審判請求をします。

まとめ

このように、侵害警告状は受け取った場合、適切な返答から交渉を進めるべきです。特許の有効性、および侵害事実の両方を証明する責任は、特許権者にありますので、具体的な侵害の証拠と対象となる特許請求の範囲を要求し、特許侵害および無効かどうかを検討した後、それに応じて適切に対応していきます。また、侵害と判断された場合には、対抗する特許の買い取りを検討したり、特許権利が無効である可能性を主張して実施料の減額を狙います。また、これと同時に、将来の侵害回避策を講ずることが必要といえるでしょう。

今月の解説者

特許法人NAM&NAM 弁理士 李 浩俊(電子部)2008 年 ソウル大学校材料工学部卒。2007 年弁理士試験(第44 期)合格。2008 年より特許事務所にて勤務。2011 年より現職。大韓弁理士会員
(監修:日本貿易振興機構=ジェトロ=ソウル事務所副所長 笹野秀生)

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本記事はジェトロが執筆あるいは監修し、The Daily NNA【韓国版】に掲載されたもので、株式会社エヌ・エヌ・エーより掲載許諾をとっています。

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