知的財産に関する情報(The Daily NNA【韓国版】より)技術流出の防止強化策として、不正競争防止法の改正案が成立

2024年03月13日

The Daily NNA【韓国版】掲載(File No.186)
ジェトロ・ソウル 副所長 大塚 裕一(特許庁出向者)

2024年1月25日に、「不正競争防止および営業秘密保護に関する法律(以下、「不正競争防止法」)」の改正案が、国会で成立しました。韓国企業が有する世界的に高度な技術が、海外へと流出する事件が相次いでおり、これを防止するための策として、今回の改正案が期待されています。

1.改正案の背景

半導体技術のように、韓国企業が世界的にも優位な高度技術を保有している現状において、これらの技術が海外企業へと流出する事件が発生しています。例えば、韓国企業に勤める技術に詳しい重要人物を、海外企業がヘッドハンティングの形で、有利な待遇で転職を勧め、人材ごと技術の引き抜きを行う行為などが発生しています。この場合、従前の法律においても刑事処罰が科されますが、その罰金は十分な額ではなく、より強い罰則が求められていました。また、発明者の許諾なく、勝手に他者がアイデアを奪取してビジネスを展開する場合、特許庁に通報しても、是正勧告を出すにとどまり、それ以上の処罰が無いことも問題となっていました。技術流出を意図的に図るその手法も、多様化・高度化しつつあり、抜本的な制度の見直しが必要となり、今回の法改正は政府と与野党の協力により、進められました。

2.法人による営業秘密侵害行為の現状

韓国特許庁の発表によると、過去数年間での不正競争防止法に違反した犯罪は、下記表のとおりとなっており、400件ないし500件の高い水準で推移していることがわかります。高度な技術の流出は、たとえ1件であっても甚大な被害となることを考えると、この現状を打破する必要性・緊急性は非常に高いものとなっています。さらに、法人の割合が比較的高いことも特徴です。

不正競争防止法に違反する犯罪
2017 2018 2019 2020 2021
検挙件数(件) 401 540 487 592 387
検挙された法人数(社) 136 163 204 215 113

3.主要内容

今回の法改正は、A 犯罪行為に対する抑制および処罰強化、B 不法行為に対する行政的救済手段の強化、および、C 保護における法律の抜け穴解消の3つを柱としたものとなっています。

  1. 犯罪行為に対する抑制・処罰強化
    当該項目の主たる内容は以下のとおりです。
    「懲罰的損害賠償の強化」として、代表的な技術奪取行為である営業秘密侵害およびアイデア奪取に対し損害賠償の限度を3倍から5倍に引き上げる内容、「法人に対する罰金刑の強化」として、不正競争行為または営業秘密侵害罪に対する法人の罰金刑を行為者の最大3倍に引き上げ、法人による組織的な犯罪行為を抑制する内容、「営業秘密侵害品の製造設備等の没収に関する規定の新設」として、不正競争行為または営業秘密侵害品のみならず、製造設備まで完全に没収することで侵害物品の流通等による二次被害を事前に防止する内容となります。
  2. 不法行為に対する行政的救済手段の強化
    当該項目の主たる内容は以下のとおりです。
    「不正競争行為に関する行政調査時の是正命令、罰金賦課」として、特許庁が行政調査の遂行後、不正競争行為者に対し是正勧告のみならず、是正命令および罰金賦課ができるよう見直す内容、「裁判所へ行政調査記録の送付手続きに関する規制の見直し」として、被害者が不正競争行為等の損害賠償訴訟において特許庁が遂行した行政調査記録を円滑に活用できるよう、営業秘密が含まれた行政調査記録も裁判所に提出できるように関連規定を見直す内容、「行政調査記録の閲覧、コピーに関する規制の新設」として、所定の行政調査記録を当事者が必要に応じて活用できるよう、特許庁長等に対し閲覧、コピーを要求できる規定を新設する内容となります。
  3. 保護における法律の抜け穴解消
    当該項目の主たる内容は以下のとおりです。
    「営業秘密の毀損、滅失、変更行為に関する規定」として、現行の不正競争防止法では処罰ができなかったハッキング等による営業秘密の毀損、滅失、変更の行為まで処罰できるよう定める内容、「相当量蓄積されたデータの保護範囲の拡大」として、秘密管理性の有無にかかわらず、相当量蓄積されたデータを全て保護するようデータの保護範囲を拡大する内容となります。

4.まとめ

今回の法改正により従前に比して非常に強力な保護機能となりました。今後どの程度影響力が発揮されるのか注視したいと思います。


今月の解説者

日本貿易振興機構(ジェトロ)ソウル事務所
副所長 大塚 裕一(日本国特許庁知財アタッシェ)
2002年日本国特許庁入庁後、特許審査官・審判官として審査・審判実務や管理職業務に従事。また特許庁 総務課・調整課・審判課での課長補佐、英国ケンブリッジ大学 客員研究員、(国)山口大学大学院技術経営研究科准教授、(独)INPIT 知財人材部長等を経て現職。

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本記事はジェトロが執筆あるいは監修し、The Daily NNA【韓国版】に掲載されたもので、株式会社エヌ・エヌ・エーより掲載許諾をとっています。

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