知的財産に関する情報(The Daily NNA【韓国版】より)営業秘密流出に対処せよ!

2014年09月30日

The Daily NNA【韓国版】掲載(File No.73)
日本貿易振興機構(ジェトロ)ソウル事務所 副所長 笹野 秀生(特許庁出向者)

近年、営業秘密流出事件が新聞紙面をしばしば賑わせている。営業秘密は本質的に「情報」であることから、今日のデジタル社会では持ち出しが極めて容易であり、いったん流出すると第3者や第3国に流出するなど、被害が拡大する恐れも生じる。今回は、営業秘密流出の現状と対策について見てみたい。

営業秘密と認めてもらえない?

2014年6月ソウル高等裁判所は、サムスン電子の半導体の核心技術が海外に流出したとされた事件において、起訴された18名全員に無罪を言い渡しました。その理由は、当該核心技術の情報は、論文やインターネットなどで既に公開されている情報であり、当該内容を相当な努力を重ねて秘密として管理しているという点を認めるだけの客観的な資料がなく、営業秘密に該当するとは見なし難いと判断されたためです。

営業秘密とはなんでしょうか?顧客名簿や新製品の設計情報などが思い浮かぶと思いますが、営業秘密の要件(非公知性、経済的有用性、および秘密管理性の3要件)は「不正競争防止及び営業秘密保護に関する法律(以下「不競法」という。)」で定義されています。この定義を満足しない情報は、いくら重要な情報であっても、いざ訴訟になった際には営業秘密として認められません。

韓国における営業秘密流出の発生状況

韓国における技術流出犯罪に対する起訴件数を以下に示しますが、処理件数を見ると技術流出事件自体は増加傾向にあることがわかります。ただし、前記のように裁判における営業秘密の認定が厳しいことを反映してか、起訴率は減少傾向となっており、起訴件数自体は横ばいとなっています。

営業秘密管理に対する対策

営業秘密流出を防止し、いざ流出した際にも権利が十全に保護されるようにするためには、特に前記3要件の一つである「秘密管理」をしっかりと行うことが必要になります。そのためには、例えば次のような点が重要です。

  • 秘密保持の義務付け
  • 営業秘密であることの明確化
  • 機密情報へのアクセス制限
  • 秘密保持証拠の確保

特に、秘密保持を社員(退職者含む)や契約先等に義務付ける際には、包括的な誓約書・契約のみで済ますのではなく、秘密保持対象である営業秘密を明確にするということが予防及び事後対処の双方の点で重要です。

営業秘密の存在証明(秘密保持証拠の確保)

権利内容が公報で明確になっている特許権等の場合と異なり、営業秘密については訴訟においていつからその情報を秘密として管理していたかを立証する必要があります。韓国特許庁は、営業秘密等の存在時点と原本の真正性を公的に証明する「営業秘密原本証明サービス」を、その傘下機関である韓国特許情報院の営業秘密保護センターを通じて2010年10月18日から提供しています。この原本証明サービスは、対象となる情報から一意に生成される電子指紋(ハッシュコード)に対して、タイムスタンプを発給し、その時点における当該情報の存在を証明するものです。よって、当該情報そのものは寄託する必要がなく、情報漏洩の可能性は生じません。このサ-ビスを利用したとしても、前記3要件の充足性を立証する必要があることに変わりはありませんが、訴訟における営業秘密の存在に関する立証負担については大幅に軽減されます。

おわりに

2014年1月には改正不競法の施行により、前記原本証明サービスの明文化や刑事罰の強化(罰金額の引き上げ)が行われるなど、韓国における営業秘密保護制度は継続的に整備されています。しかし、韓国企業における営業秘密保護意識は決して高いとは言えない状況であり、営業秘密流出のリスクは常に存在しています。企業は経済的価値のある情報、特に技術情報について、営業秘密として秘匿する手段と、公開の代償として特許権や意匠権等を取得することにより保護する手段とを、最適に組み合わせて対処することも必要と思われます。

今月の解説者

日本貿易振興機構(ジェトロ)ソウル事務所 副所長 笹野 秀生(特許庁出向者)
95年特許庁入庁。99年に審査官昇任後、情報システム室、審判部審判官、(財)工業所有権協力センター研究員、調整課品質監理室長を経て、2014年6月より現職。

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本記事はジェトロが執筆あるいは監修し、The Daily NNA【韓国版】に掲載されたもので、株式会社エヌ・エヌ・エーより掲載許諾をとっています。

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