流通・運輸業で参入規制強化の動き−アジアの卸小売りと物流への外資規制(7)−

(インドネシア)

ジャカルタ事務所

2014年01月23日

政府は拡大する消費市場を牽引する分野、あるいは自国産業で賄うことができる分野については、外資規制を定めたネガティブリスト(2010年大統領規定第36号)で、外資参入を禁止あるいは制限している。特に小売り分野は例外を除き、参入が認められていない。比較的制限が緩いとされている卸売業・運輸業についても、2013年から進められているネガティブリスト改定の議論の中で、業界団体が外資参入規制の強化を訴えており、今後の動向を注視する必要がある。

<経済界の要請を受け政府も規制強化へ動く>
卸売業は現行ネガティブリスト(2013年2月25日記事参照)に特段の取り決めがなく、原則として外資出資100%での進出が可能となっている。しかし、ネガティブリスト改定に当たり、インドネシア経営者協会(APINDO)事務局長のフランキー氏は地元紙に対し、「卸売業分野は特殊なノウハウや多くの資本が必要な分野でないことから、外資の参入障壁を設けるよう働き掛けを行ってきた」とコメント。その後、マヘンドラ投資調整庁(BKPM)長官が、流通(卸売業含む)分野の外資比率をこれまでの100%から33%に引き下げる、と発言している(2013年12月24日付報道)。

運輸業は事業種ごとにさまざまな規定がなされているが、そのうちコンテナ貨物輸送、一般貨物輸送、国内・国際海運業(国際海運の一部上限60%)、輸送手段を持たないフレイトフォワーダー業などの分野は、現行ネガティブリストでは外資出資比率49%まで認められている。一方、総合物流業の展開を想定した場合、フレイトフォワーダー、倉庫、トラック運送など各分野においてそれぞれ事業許可取得が求められ、煩雑になっている。なお、タクシーやバス輸送、特定の小規模設備を使った海運業への外資参入は認められていない。

フランキー氏は運輸業の外資規制について、地元紙に対して、現行ネガティブリストに明確な記載がなかった倉庫業や冷凍・冷蔵設備業を含む物流業について規制を強化し、地元企業の参入チャンスをつくるべきとし、政府に働き掛けを行っていることを明らかにしている。また、マヘンドラBKPM長官は、倉庫業の外資比率を100%から33%に引き下げるほか、冷凍倉庫業については、ジャワ・スマトラ・バリ島では上限が33%、その他地域では67%までとする方針を示している。

<小売業は小規模店への参入が禁止>
現行ネガティブリストでは、床面積が400平方メートル以上のミニマーケット、1,200平方メートル以上のスーパーマーケット、2,000平方メートル以上の百貨店には、外資参入が認められており、日系も含めた外資系小売業はこの規定に基づいて参入しているとみられる。一方、上記規模未満の小売業への外資参入は認められていない。

2013年12月に、商業相規定第70号「伝統市場、ショッピングセンター、モダンストアの整備と育成指針に関する商業相規定」が発表された。同規定は業界団体などとの調整を経て、2014年6月ごろに施行されると見込まれており、国内で展開する小売業者(地場資本も含む)に対して、近代的小売店で取り扱う商品の8割以上を国産品とすることを義務付け、同規定が施行されてから2年以内に、同基準を満たす必要があるとしている。このほか、店頭販売のための不必要な費用(リスティングフィー)の徴収を禁止し、プライベートブランドの販売は商品全体の15%にとどめ、加えて近代的小売店の直営は150店舗までに制限することなどが盛り込まれている。また、ミニマーケットに対しては、生鮮品の量り売りを禁止するほか、駅、礼拝場、病院、学校などの近くにある店舗でのアルコール飲料販売を禁止することも盛り込まれている。

このように厳しい外資規制が敷かれているが、外国ブランドが参入できていないわけではない。アパレルや飲食店、雑貨店などが立ち並び、日本の各種コンビニエンスストアも店を構えている。参入方法は各社各様ではあるものの、主として、業務/販売委託、フランチャイズなどの方法で参入している。資本参加ができないことによるトラブルを避けるため、現地パートナー会社に出向という形式を取るなど、リスクを軽減する対策が講じられている。

小売業の参入方法として有力なフランチャイズについて、商業省が2012年、規定を発表した(商業相規定第53号および68号)。内容としては、店舗に使われる棚などの設備・備品や商品において、原則として国内産品を80%以上使用するよう義務付けており、150店舗を超えた直営の小売店舗については、超えた店舗数の40%のフランチャイズ化を義務付け、残りの60%は引き続き直営にできるとした。また、フランチャイザーとフランチャイジーが保有する事業許可以外の商品を全販売品目数の10%以内に限定した。例えば飲食業の事業許可を取得している場合、飲食業に直接関連しないものの販売品目数は10%までと制限されたことになる。

規定の施行当初は、さらなる外資参入の障壁になるのではと懸念されたが、商業省はジェトロに対し、(1)大企業のみならず中小企業にもフランチャイズ権を持てる仕組みをつくること、(2)国内産品使用を促すことが本規定の目的であり、外資参入の障壁を高めるものではないとし、仮に専門的な商材を取り扱う小売店や日本食レストランなどにおいて、インドネシア産品80%使用が困難な場合はケースバイケースで判断するので事前に相談してほしい、とコメントしている。なお、詳細な運用規定は発表されておらず、国内産品の使用義務などに関しての算出方法などについての取り決めもされていない。

このほか、小売店を出店する地域の地方条例により、出店が禁止されている場合もあり、注意が必要だ。例えばジャカルタ特別州では、伝統的市場の保護に関連した近接地への出店制限、ミニマーケットでの商品販売価格の制限(ともに2002年ジャカルタ特別州知事令第2号)など、その他小売店の営業許可取得に際して各種地方条例がある。ジャカルタ特別州観光局は、2012年フランチャイズ規定に関連し、事業許可に即した事業展開がなされているか各種コンビニエンスストア店舗を再確認したところ、外資系小売業のジャカルタ内106店舗のうち営業許可の要件を満たしているのは46店舗で、残りは要件を満たさない、あるいは事業許可がなかったと発表した。加えて、中央ジャカルタのブディクムリアーン通りの店舗については、建設許可の不備などの理由により、ジャカルタ特別州建設計画監督局が営業停止処分を発動し、強制的に閉鎖したとしている。

<外資の投資額に関する制限も規定>
このように、ネガティブリストのほか、国内法、地方条例などによる数々の参入障壁があるが、さらに投資調整庁長官規程2013年第5号「投資許認可・非許認可の指針と手順に関する規定」(仮訳)(原文)で、外資系企業が投資するに当たっての資本金の規定が定められた〔第22条(3)〕。規定内容は、外資系企業が投資をする場合、(1)土地建物を除く投資額の合計が100億ルピア(約8,600万円、1ルピア=約0.0086円)あるいはそのドル相当額以上、(2)引当資本と払込資本は同額であり、25億ルピアあるいはそのドル相当額以上。また、株式保有率は株式の額面に基づいて計算することとされている。本規定は、卸売業、運輸業、小売業に関わりなく全分野の外資企業が参入する際に課される規定だが、本規定により、中小規模の投資でのインドネシア参入は困難で、大きな参入障壁となっている。マヘンドラBKPM長官はジェトロとの会談の中で、「現行のさまざまな外資規制は製造業を想定してつくられたものが多く、そのままではサービス分野の外資系企業にはそぐわない内容があることを理解している」とコメントしている。

(春田麻里沙)

(インドネシア)

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